大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

トキワ荘(24) 石森章太郎 15 「アガルタ」

今夜の石森章太郎作品は、サンコミックス「アガルタ」(朝日ソノラマ刊)です。
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これは週刊少女コミック(小学館刊)にて1974年から「星の伝説アガルタ」のタイトルで連載された作品で、単行本発売時に「アガルタ」と改題した全1巻。

悲しい物語を背景に、UFOや超能力や伝説等の不思議を追求し、しかもラブストーリーになっている傑作です。
まず、石森章太郎先生が西武池袋線桜台駅近くの喫茶店"ラタン"で、押しかけファンで円盤キチガイの少女橘レミとUFO談義をしていると…

あ、いきなり中断しますがこのラタンという店は実在して、写真も載っています。
ここには石森章太郎先生の専用席があって、毎日のようにマンガのネームを入れていたとしてファンに知られるお店です。
そして、以前紹介した「奇人クラブ」所蔵の「吸血」と同じようにいきなり石森先生ご本人が登場していますが、かなり「吸血」と共通する部分が多い作品です。他にも先生本人が出てくる作品はいくつもありますが…
そして石森先生の自宅や仕事場の詳細な描写も、ファンにはたまりません!

…話を戻して、二人が話しているその場に、石森SFのファンだという若い男がSF漫画「アガルタ」を持ち込みしてアシスタント志望して訪ねてきました。このタイトルは後に分かる重要な意味があります。
彼の名は黒木シュンで、故郷は秋田県鹿角市…十和田湖近くの小さな村だと言います。
アシスタントに採用されたシュンは暗い影を持った男ですが、オキャンなレミとすぐに仲良くなりました。
それからレミに円盤についての講釈を受けたりしますが、レミが飼う犬のペロはシュンにひどく攻撃的。シュンが普通の人じゃないのを見抜いているようです…

シュンの村からユリユウという姉弟が追ってきて、超能力を使ってレミの周辺に嫌がらせの超常現象を起こすようになると…これ以上迷惑をかけないようにと、シュンは石森プロから姿を消しました。
納得できないレミは石森先生からシュンの履歴書を借り、故郷の秋田県那須加村へ向かうわけです。
そう、鹿角市から来たと言ってましたが、実は履歴書を見ると鹿角市には高校があっただけで、本当の出身地の名は…何と那須加村(ナスカ)村!

そこで出会ったサングラスの男(実は三つ目がある)にR・E・ディクホフが描いた「アガルタ」の話をされますが…後にシュンが語る所によると、作品タイトルにもなっている「アガルタ」というのはラマ教の預言書で、アトランチスの地価城砦の名でもあるのだとか。

村人達に追われ、レミは助けてくれたシュンと共にウロコだらけの体をしたご先祖様達が住む地下の道を逃げると、何とユリがシュン達を助けるために出てきて死に、さらに逃げる二人でしたが…
ここでシュンがずっと隠していた秘密を語り、やっと全ての謎が解けます。
それは聖書のアダムとイブの話が真実で、知恵のリンゴを食べさせた、ヘビに似た彼らこそがシュンの先祖にして遠い昔に宇宙の彼方から飛来してきた者。
早く彼らに高度な文明を持ってもらい自分達も故郷へ帰りたいとの想いからした、この行為が"銀河連邦進化管理局"に目を付けられ、この正義の旗を振りかざした破壊者(デストロイヤー)によってアトランチスは破壊され、それから云々…と、壮大な物語が語られました。

そしてユウはあっという間に消され、最後まで超能力で抵抗したシュンの
『…オレはただ…オレはただ 自由がほしかっただけだ
…東京へ出て好きな仕事のできる ほんのささやかな幸福が!!』

という訴えも虚しく、消されました。

普通の地球人なので命は助かったレミでしたが、あまりにも悲痛な失恋…
そして空いた机を見て、悲しい運命にどうにも抗えなかった、あまりに切ない人生を生きたシュンを思い出す石森章太郎先生でした。


…行きましょう! いっしょに!! …石森先生もいってたわ
やりたいことを途中でほうりだすなんて…若い者はなっとらんって!!
…シュンをそんなふうにみられたくないわ…約束したじゃないー
ステキなまんが家になるって…!!



  1. 2008/10/08(水) 23:12:52|
  2. トキワ荘
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トキワ荘(23) 石森章太郎 14 「009ノ1」

今夜の石森章太郎作品は、サンコミックス「009ノ1」(朝日ソノラマ刊)です。
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漫画アクション(双葉社刊)にて1967年から連載された作品で、単行本は全5巻。

テレビアニメ化もされた有名作品で、しかもなかなか傑作なわりには知名度が低い作品ですが、私は石森章太郎先生の特徴を現す大切な作品だと思ってますよ。

まずタイトルが「009ノ1」となると読み方から難しいかもしれませんが、これで"ゼロゼロナイン・ワン"と読みます。
最も、石ノ森章太郎と改名してダメになってからでしょうか、"ゼロゼロクノイチ"という読み方にしている単行本もあるようですが。
もちろん「サイボーグ009」と女忍者の"くの一"を混ぜて作られたタイトルに間違いないので、それでもいいですけどね。

掲載が1967年…というと青年向けマンガ雑誌の創刊が相次いだ時代であり、正にこれが石森章太郎先生初の青年向け漫画と言えるのですが、代表作にしてライフワークである「サイボーグ009」の番外編的な所もあり、そしてアダルト版です。

それまでは、あの少年漫画のお手本のような作風だった石森章太郎先生が子供向け漫画で作ってきた作風を捨ててセックス&バイオレンスに目覚める様を見たいなら、この「009ノ1」を読みましょう。

舞台は未来の設定なのですが、描かれたのがアメリカVSソ連の二大強国冷戦時代に執筆されているので、設定はそのまま…
国名をウエスト・ブロックイースト・ブロックというように単純化させています。
そのウエスト・ブロックから、主人公の秘密諜報機関員009ノ1がイースト・ブロックを相手に活躍する物語。

基本的に1話完結形式で進むのですが、これが青年誌に進出したにふさわしい実験続きで、セリフ無しのモノローグだけで話が終わるシュールな作風もあったり…石森章太郎先生はかなり楽しんでいるようにも見えます。
前半はまだまだ少年マンガ的だったのに、後半は劇画タッチに開眼してそれぞれの話の表紙絵はリアルで芸術的だし、内容自体も単なるスパイ物に収まらない主人公の心の傷なんかを繊細に描くようになりました。

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主人公の009ノ1ことミレーヌ・ホフマンは、サイボーグ化したスパイ。
1965年生まれで21歳の設定ですが、当時からしたら近未来である1986年あたりを描いていたわけですよね…その後、そんなに進化していなくてすみません!
(この設定は後の再発時にさすがに変えたのかな?)
ちなみに009ノ1の血液型はAB型。私と同じです。

これも石森漫画の特徴ではありますが、女性サイボーグは当然のようにおっぱいからビーム…ならぬ、弾丸を発射します。
この…女性には立派な乳首があるからそこから弾が出るはずだっていう発想が素晴らしいと思います。
とにかく胸にマシンガンが仕込まれているわけですが、他に足の骨に跳躍力をアップする特殊なバネを埋め込み、体のあらゆる部位に特殊道具を付けられてシークレット・ウーメンとして組織の命令を実行して行くのです。

物凄くセクシーなその体を使うのは女スパイの常でありますが、
『時間まで軽くプレイSEXの お相手をしてあげましょうか……?』
なんて言ったり、とにかく体の全てをいろんな意味で武器にしているキャラクターです。

彼女が所属するウエスト・ブロック00機関のボスがハゲ頭に陥没した眼(これ、サングラス?)の光る頭(ヘッドライト)。
彼の下す指令は絶対だと遂行していくのですが、1話完結形式だと作者がいろいろ手を変え品を変えやるから面白い。
タイムマシンで紀元前二百万年前に行ったり、恐竜を呼んでみたり、偏執狂(パラノイア)のイルカ達の世界で戦ったり、背中のコブを笑った女達に復讐するせむし、合成人間、未来から送られてきたイースト・ブロックの人間(ここで未来にいたるも争い続けていると分かる…)、火星の菌に乗っ取られた死体、それこそありとあらゆる敵と関わり、戦う009ノ1=ミレーヌ。

この「009ノ1」で一番の長編となっている「古城よりの招待」だけ特筆しておきますと、この時はウエスト・ブロックとイースト・ブロックの両方が順番に殺されていって、招待者で城主のリヴェンジによる両方への復讐が成されていくのですが…
その009ノ1側であるウエスト・ブロックの味方に、「サイボーグ009」における002、名前もジェットとそのままの奴がいて、歳こそ取っているものの、そのジェットがギロチンにかけられて首斬られるのは…ジェットファンである私には辛かった!
すぐ後に城主のリヴェンジも目的を遂げて自殺する、やりきれない話でしたしね。

あとは009ノ1=ミレーヌには同じセクションの同僚で、コードネームに009-(2〜12)を持つ姉妹達もいて、つまりミレーヌ含めて12人いるといつ設定もありました。
こういうのは、いくらでも代わりがいるようで私としては不満も残りますが、組織としては必要な事でしょう。
ちなみに全員同じ顔なのですが、これは整形してミレーヌに合わせているのでしょうか?

後半になってやっと分かってくるミレーヌの出生の秘密…
実は両親がウエストブロックとイーストブロックの戦闘に巻き込まれ死亡していたのですが、たまたまウエストブロックの兵士に拾われた為にウエストブロックで育っただけのミレーヌなのです。
その時に生き別れた弟のポールは逆側、イースト・ブロックで凄腕スパイとして活躍している事が分かり…
罪滅ぼしなのか戦略なのか、弟にも身を任せる(つまり近親相姦)シーンを経て弟は自殺、ミレーヌ自身も心の傷を負うという暗い話もありました。

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とにかく最終話「昨日の暦」でいろんな謎が解けると同時に、またさらなる謎を生んで終わる「009ノ1」という、悲しい物語。
過去を思い出し、孤児収容施設から連れてこられた孤児だと明かし…

かつては例えば母親が見ている前で息子を撃ち殺す残忍性を見せたりもしていたミレーヌでしたが、最後の指令では赤ちゃんが出来て幸せになろうとしている男女を殺す事が出来ず、その裏切り行為の原因を組織によってコンピューターで調べられ、結局はまた今後も組織に使われていくどうにもならないミレーヌを描き・・・終わり。
『……この傷み この傷だらけの身体…!!
でも…こんなものは 局の医務室に駆けこめば……
たちまちあとかたもなく消してくれる
でも 傷だらけの心やその痛みは……
誰も癒しては れないのだ 誰も!!』

というのがミレーヌがしてきた事に対する最後の所感なわけですが、そうですよね、こんなのどっちが正義もクソもない、当たり前の事に思い当たったのでしょう。
そしてこれは、石森サイボーグ戦士が必ず通る道です、頑張れミレーヌ!!

洒落て小粋な会話なんかも多くて臭いくらいで、初の青年向け漫画だからか大人のセンスを意識しすぎた感もある「009ノ1」ですが、この1話1話に簡単には言い尽くせない魅力が含んでいて、まぁ大して深い内容でもないのでしょうが、石森コレクターの私にもトップクラスの愛着を持てる作品でした。


超能力を持ったミュータントに生まれてきたのは あの子たちの罪じゃない
も もしかしたら神の思召しかもしれないのだ!
新しい時代のための新しい人類……
それなのに わたしたちは「遺伝変種絶滅法」を持っている
あの子たちは これから何処へ……!?



  1. 2008/10/07(火) 23:00:43|
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トキワ荘(22) 石森章太郎 13 「時の狩人」

今夜の石森章太郎作品は、サンコミックス「時の狩人」(朝日ソノラマ刊)です。
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先月紹介した「ワイルドキャット」と同じくプレイコミック(秋田書店刊)にて、1970年から半年弱連載されていた作品で、単行本は全1巻。
簡単に言えばタイムパトロール物のSFですが、これは普通じゃないです。

主要登場人物が生きてる時代設定は、多分2157年以降。
実際には何年か分かりませんが、説明文で引用される様々な書物のうち、一番新しい発行年のが2157年なので。
その時代では、ヘルメットみたいなかぶり物のセクサー(SEXER)という機械によって性的快楽を味わえるようになっていて、現在のセックスのような男女が裸で絡み合う、汚い肉の情交は"道徳法"で禁じられて無くなっています。

しかし彫刻家のシローは、その行為を夢見るようになり、しかもモデルになってくれたレダという美人もそんな夢を見ていたという。
そして二人は"その行為"を楽しみまくり…そう、四十八手とまではいきませんが見開きページで絡みまくって、
『ア……あ こ こんなに……こんなにも……
"夢"でない 肌を触れ合う情交(セックス)が素晴らしいものだなんて………
あ あたしは知らなかった!』
『こ これが本当なんだ!
これが真実の人間らしい生き方なんだ』

とか言って感激しています。

しかし、レダは人妻でした。
シローは、レダが夫のガイとセクサーかぶってしている現場に入り込み、ナイフを夫に突き刺してレダを連れて逃げます!
しかも夫の職業は時間局員(タイムパトロール)であるため、彼のT・T・B(タイムトラベルベルト)を盗み、100万年前の彼方に逃げ込んだのです!!

そして刃先が急所を外れていたので助かったガイは、いろんな時代を逃げまくるシローとレダを追い、二人は各時代でその時代の人に化けて逃げ続ける…というお話。
妻を取られたガイはハゲのおっさんなのですが、こちらの方が時間局員で正義、追う側の主人公!?
いくら何でも、このハゲを正義側にしなくてもいいのに!!
時をかける少女・・・ならぬ、時をかけるおっさんです。
まぁ「時の狩人」は、明らかに大人向け作品ですからね。

シローとレダの時間を超えた逃亡先は、原人のいる過去から戦国時代、江戸時代、大東亜戦争、現在、そして未来まで行き、公害で生まれたミュータント達にまぎれたりもしています。
そう、あの時代を反映して公害病ネタが多いのですが、ちょうど連載中に三島由紀夫が自決したので、この時も「三島由紀夫の死」というタイトルで一話丸々使ってます。
その回がまた実験的というか、あのハラキリに関して寄せられた総理や作家、新聞に主婦までの文章を集めて活字だらけにし、そのバックでシローとレダが逃げ、ガイが追う…シュールなモノでした。

ガイはたまたま何処かの"時"から逃げ出した奴を殺したりもしましたが、肝心のシローとレダには最終話の「第四氷河期」まで逃げられ続けました。
流れ続けた時代の最後は、恐らくは人類滅亡の時で幕を閉じる…
シローとレダも、さすがにここまではガイも追ってこないと初めてのんびり暮らせたのですが、ここへきてついに!ガイは二人を撃ち殺しました。

自分の妻を奪って逃げたシロー、そして裏切った妻のレダをついに殺したわけですが、
『……お前たちを何度見逃してやろうと思ったか…
だが……これが"時"の掟なのだ』

と涙を流し、あくまで私情ではなく仕事、掟のためだったようです。
しかしその後すぐ、ガイはこの氷河期にシローが仲良くなった老人に撃ち殺されるのです!
最終コマで崩れ、滅んでいく街の描写・・・終わり。

全体に流れる暗いムード、殺伐とした雰囲気が好きな作品でした。

…狩人(ハンター)さ 獣の……
"時"は移るが……人の精神は……
いつまでも獣のままでな……!



  1. 2008/10/06(月) 23:25:34|
  2. トキワ荘
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月刊漫画ガロ(54) 田中憲 1 「妖怪人間ベム」

今夜紹介する作品は、田中憲先生の「妖怪人間ベム」(講談社刊)です。
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おっと、どうせほとんどの人が「妖怪人間ベム」といえば、あの『早く人間になりたい!』のテレビアニメを思い出すでしょう。
あれは私も少年時代に再放送で観る事が出来て、アニメ作品としては私のNO.1じゃないかってくらい好きだったのですが、主人公達が人でも怪物でもない異形の生物…つまり妖怪人間!
まだ小学校低学年の時に胸をときめかせたアニメでしたが、考えてみたらあの当時から私は異形の者を愛していて、日野日出志マニアになる要素があったという事ですかね。
それか逆に、アニメの「妖怪人間ベム」によってそういう精神を学んだのかもしれません。

彼らは醜い顔はともかく、主人公達が三本指なんですね。それが現在は再放送されず、カルト化している理由でしょうか。
もちろん、差別の意図じゃなくても現在では差別用語になっているセリフもたくさんあるでしょうし…
第四話目はタイトルが「せむし男の人魂」で、その通りにせむしな男が精神異常者でもあり、ベラに倒されるのです。

このアニメ版に関しては私も子供の頃の記憶でしかなく、しかも当時はコンプリート意識もないので観てない回も多いでしょうし、そもそも記憶が薄れています。
しかし、最終回が衝撃的だったので覚えてますが…
醜い姿をしていながらも人間より美しい心を持ち、そして人間を守ってきた主人公達は、最後まで報われず最終回で人間に焼き殺されるのですよ!!
いや、もしかしたら助かっていたのかもしれないと思わせてはいましたが…衣服だけ残して姿を消す謎の多いラストでした。

今や放送されないアニメーションより、名曲な主題歌の方が有名でしょう。
♪闇に隠れて生きる〜俺達妖怪人間なのさ〜
人に姿を見せられぬ〜獣の様なこの体〜♪
というあれですが、わりと近年に大槻ケンヂ氏も電車(ってバンド)の2nd アルバムでカバーをしてました。
一般的には嘉門達夫氏によるパロディ曲「業界人間ベム」の方が、より有名ですかね。

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そんな「妖怪人間ベム」ですが、実は漫画版が存在するのです。
だからこそここでアップしているのですが、しかも今回のジャンルを見て下さい。
その漫画版を描いた田中憲先生というのが、何とガロ出身なんですよ!!

1965年に投稿作品がガロに掲載されたのを機に漫画家になる事を決意して、それからは3年後に講談社漫画賞佳作入選から、週刊少年マガジンでプロデビューの「御犬様地獄」連載開始という肩書きなので、まぁ多少強引ではあるのですが…一度でも載ってしまったらガロ出身の烙印を押しちゃっていいでしょう。
この田中憲先生は、現在も田丸ようすけとペンネームを変えて、しかも青年向け漫画家に転身して活躍されているというから、嬉しいではないですか。
最近の作品は全然知りませんが…絵が上手く、当時は期待の新人として扱われていたようです。

この漫画版「妖怪人間ベム」は、月刊漫画誌として人気を誇ったぼくらの別冊ふろくとして1968年〜1969年にかけて全9話が掲載されたのですが、何と初めて復刻して全1巻の単行本となったのが2002年。
それまでの年月を伝説の名作として語り継がれていたのですから、アニメ以上のカルト作品と言えるでしょう。
それも、これは単なるアニメ作品のコミカライズではなく、アニメとほぼ同時期に、むしろ放送に先駆けて掲載したメディアミックス戦略だったのです。
基本設定の資料しかないままに想像で描くから、アニメと全く違う作品になる危険性が高いのも面白い…この手で作家性が強すぎたのが永井豪先生の「デビルマン」でしょうか。

では、とにかく物語を追ってみましょう。

まず主人公達は、リーダー格で大人の男性姿のベム、大人の女性姿で鞭を使うのも性格もサドっぽいベラ、そして子供の姿そのままに好奇心が強く、事件に巻き込まれがちなベロ
ベム、ベラ、ベロですね。
普段は人間に近い姿をしていますが戦闘時は変身し…いやこちらが本来の姿ですが、三本指で指先には鋭い鉤爪を持つ爬虫類系の醜い姿になると、様々な超能力を使えるのです。

一話目でベロは誘拐事件から救い出した少年と仲良くなり、友達の誓いをします。
しかし誘拐犯人から彼を助けるために、人間姿の二倍の力が出せる妖怪人間姿に変身して戦ったため、ベロも怖がられてしまう…いきなり悲しい話。
それだけ不遇なキャラクターを全面に押し出した物語なんですよ。

次に、アニメ版では描かれる事のなかった妖怪人間達の『誕生の秘密』が分かります。
ベム、ベラ、ベロの三人がスタンレー博士の研究所を訪ねると、ちょうど博士は"ゴーレム一味"に新しい妖怪人間を作れと脅迫されているようで、困り果てていました。
このスタンレー博士とは、先の対戦中にドイツ軍の命令を受けてマンストール博士と共に兵器として使える新しい生命の開発をしていた人で、マンストール博士亡き後も秘密を守って生き続けていたようです。

ついに生まれた妖怪人間達は、人間より醜い姿をしていながら、優れた超能力と正しい心がある人造生物。
大人の男女と子供という妖怪人間達なので無理もありませんが、ベム、ベラ、ベロは夫婦とその子供だとよく間違えられますね。
実際は、培養液の中でアミノ酸核細胞分裂して、最初からその姿で生まれた生物。
ただ、博士達の技術があるのに、妖怪人間の姿を醜くした必然性は分からないのですが…その方が、差別される側に立った方が人の心が分かるから、という配慮でしょうか?

彼らは撃たれても死なない不死身の体に復元能力も持っていますが、脳を破壊されたら生き返れないのようです。
銀のステッキを持ったタキシードの紳士であるベムは力が強く、ローブに赤いマントを身に着けたベラはムチと鉄を引き裂く爪を持ち稲妻を吐くし、首から下が赤い全身タイツの可愛いベロは実は走るのが一番速い。

妖怪人間を悪事に利用しようとしたゴーレム一味は倒し、不気味さでは作中一番の"恐怖の人くい女"、幽霊船の亡霊達…
1話完結で各地を旅しながら、妖怪や悪霊等を退治していく形式で進むのですが、ある時出てきたベムの命と超能力を狙う博士は、犬の姿から鉄球の変身して凄い力を持つロボットの"デストロ"、妖怪人間の超能力を吸い取る首なし一つ目の"電人"といった強敵をぶつけてきて…2話の出演で出番も多いというのに、名前は一度も出ませんでした。

私が特に好きな「雪の怪物キンキラ」の回では、何とベロが転校生として小学校に入ります。
そう、ベロは今までずっと人間社会への憧れを強く持っていて、つまり子供なら小学校に入って、夢の友達なんかもできるかもしれない。
そんなベロを不憫に思ったのでしょう、実際に行かせてあげるベムとベラの心使いに感謝したいですね。しかもベロが心配で学校の屋根の上から覗いてる二人です。

雪深い農村が舞台なのも私のノスタルジーを呼び起こしますが…
最初の国語の時間に、先生が『みんなは おとなになったら どんな人になりたいかな?』という質問した時、ベロは『はやく人間になりたーい』と答えます!
これはアニメのオープニング主題歌で毎回叫ばれる有名セリフなので、それを受けて田中憲先生が使ったのでしょうけど、この3人の合言葉のように思われているセリフは実際にはアニメで1度だけしか使われていない、とも聞いた事があります。
しかしそんなに強くて正しい心も持っているのに、外見は良くても中身が醜い奴ばかり、しかも無力な人間なんかになろうとしなくていいのに…

この話では糸ちゃんというヒロイン女子が登場して、『だんぜんベロくんのおよめさんになる』とか言ってくれるのです。
ベロはかつてないほど喜んで、花を摘んで糸ちゃん思い出したり…
しかし、やはりここでも!!
冬になると山からおりてきて子供をさらうバケモノ、"キンキラ"(その姿は河童!)から糸ちゃんを守るために、ついには変身して助けます。
『糸ちゃん とうとうみてしまったね……
これがおいらの ほんとうの すがたなんだ さようなら……』

と、自ら去って後で泣くベロ。そして学校の窓からベロに摘んでもらった花を眺め、ベロを思い出す糸ちゃんでした。

最後のエピソードは2話使っていて、ここで初めてベム、ベラ、ベロ以外の妖怪人間が登場します。
翼を持ったこいつは、A国が仲の悪いC国を破壊するために生んだ生物。彼の体には水素爆弾が取り付けてあってC国を滅ぼすつもりでいるのですが、C国はC国で捕まえて逆に利用しようと企む。
ここでもやはり、一番醜いのは悪い人間の心!!
ベム達は助けようとしますが、その妖怪人間は自分にそんな仕打ちをした人間達の迷惑にならないよう、宇宙基地からロケットを乗っ取って宇宙の果てへ死にに生きました…いつも描かれるのは、異形の者の悲しい愛!

一応この漫画版では、アニメ版よりはハッピーエンドに近くて、助かった人たちが手をふってくれます。
『みにくいすがたの おれたちだが……人間達もやっとわかってくれたんだね
ねえベム いままでおいら 人間になりたい人間になりたいと思ってたけど……
姿はみにくい妖怪人間のままでも おこないやこころでは りっぱな人間なんじゃないだろうか!
たしかにそうだ! すがたかたちだけ人間にならなくてもいいんだね
ただしくりっぱな妖怪人間として これからも人間のためにたたかっていこう!』
と、納得して去っていく三人の姿で、作品は終了しました。

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余談として、「月刊少年ガンガン」(スクウェア・エニックス刊)にも、1993年から二年弱、津島直人先生によって「妖怪人間ベムRETURNS」というのも描かれていました。
その出来がどうだったとかは時間が無いので省略しますが、ビックリするのは何といっても、ベム、ベラ、ベロが五本指になっている事でしょう!
その確認の意味だけでも、「妖怪人間ベムRETURNS」の方も是非読んでいただきたいですね。


……この中でいきづいている……きこえるかね いのちのいぶきが!
やがてあらわれてくる 生物のすがたを そうぞうでいるかねゴーレム はっはっははは
それはすがたこそみにくいが 正しいこころをもった……
正義のためにしかはたらかない りっぱな生命なのだ



  1. 2008/10/05(日) 23:37:03|
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梶原一騎(47) 中城健 5 「四角いジャングル」 5

梶原一騎原作、中城健作画の「四角いジャングル」(講談社刊)紹介も、四回目の今夜が最後です。
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もはや主題が新日本プロレス代表のアントニオ猪木VS極真空手代表のウイリー・ウィリアムスが実現するのか、そしてそのルールは?という所に絞られ、周りでも賑やかな騒動が起こりながら進んでいきます。


ウイリーは"黒崎流・新格闘術"藤原敏男と共に、岩手県の七時雨山(ななしぐれやま)で山ごもり特訓をするのですが、猪木と戦う事によって愛する極真空手を破門になるため、こうしみじみ語ります。
『あとは名誉も金もいらない プロに転向なんてことは絶対ない
アメリカに帰ってスクール・バスの運転手にもどり ひっそりくらすよ』

…実際にこの「四角いジャングル」連載終了以降も、正道空手の佐竹雅昭と対戦したり、リングスに参戦して前田日明と戦ったりもしましたが、現在は本当に引退してバスの運転手をしているようです。

猪木の方も力道山の門下にジャイアント馬場とほぼ同期で入門したものの、貧しい移民の子と差別され殴られながら、真の最強のレスラーを目指して努力した過去を振り返ります。
そして何と、ウイリーとの一戦を前に猪木もカラテの新流派を作るのですが…
その名も"寛水流"(かんすいりゅう)!
『寛は猪木寛至の名からとり 水は名古屋のカラテ道場主で わたしに協力してくださる水谷先生にちなんでです』
との事。

ところで、「四角いジャングル」後半ではウイリーが主役という事もあり、かなり多く極真空手の猛者達が登場します。
これが当然「空手バカ一代」にも出ていた人々ですから、「空バカ」終了後の続編としても読めるのがファンには嬉しい。
"ケンカ十段"の異名で呼ばれ、主人公の大山倍達館長と人気を二分した芦原英幸がウイリーを茶化すか無視してあしらい続けてショックを与え、その本心を知って感激し…
そうそう、おなじみ『それもしかするとカラテ?』のセリフも出てきますよ!

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猪木は他の強敵も倒し、あとは異種格闘技戦の最終試合としてウイリー・ウィリアムス戦を残すのみになったのですが、ここで雑誌に載った極真の座談会がきっかけで、ますます新日本プロレスと極真空手、団体同士の対立が興奮気味になり、代表十五名ずつ出してルール無用のデスマッチにてどちらかが潰れるまでの全面戦争、なんて話も飛び出します!
もちろんそれは実現せずに和解したのですが、極真空手の裏の顔…正式の大会のルールなどには収まらない影の怪物達がいるとかって、漫画みたいな話になってきて、面白くなっておりました。

ドキュメンタリー色が強まってから存在する意味がほとんど無くなった赤星潮は…
やはり『この赤星潮はミスター・ウイリーの通訳だけ・・・・ ちょっとさびしいな』などとぼやいてます。

ここまで引っ張ってきたアントニオ猪木VSウイリー・ウィリアムス対決は1980年(昭和55年)の2月27日。
その前日、調印式の席上にて一番もめたルールについての最終決定が発表されます。
結果、ウイリーがボクシングのヘビー級なみの8オンスのグラブをはめ、代わりに猪木の寝技は5秒すぎたらブレークするという、お互いの必殺技を公平に三分の二ずつにして生命の危機を防止する特殊ルールとなりました。
この条件で3分15ラウンド、勝敗はKOか棄権のみで決まり、プロレス式フォールなし、判定もなし…以上。

劇画「四角いジャングル」のメインにしてクライマックスであるこの勝負の模様を簡単に説明すると、まず一度は第2ラウンドにして両者リングアウトで試合終了、つまり引き分けとなります!
何たる世紀の対決かと、暴動になりそうな所を立会人である梶原一騎先生の権限で、試合を続行させるのです。

ここで観客から『いいぞーッ 梶原一騎!!』の声がかかるのはご愛嬌。

二人は第4ラウンドまで熱戦を繰り広げますが、リングサイドに陣取った新日本プロレスと極真空手の両陣営もあまりに熱く、何と"極真の猛虎"こと添野義二にいたっては、ハサミでウイリーのグラブのヒモを切断してしまい、素手でやってやれと言ってます!!
しかし…既に重傷を負っている両者に対しドクターストップ。
こういう結末に終わりました。

これにより「四角いジャングル」の連載も終了。
ラストはちゃんと赤星潮が出てきて、黒崎健時に『赤星潮もそろそろ男になれい』等と言われて終わるのです。
メキシコでプロレス&ボクシングを又にかけて闘い、あのプロレス王ミル・マスカラスと引き分けにまで持ち込んだ人物が…この最初の主人公が、実在する日本人選手達とからむようになって不都合からどれだけ弱くなったか、というのも「四角いジャングル」の見ものでしたね。


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作品はこれで終わりましたが、後日譚も軽くしておきましょう。

アントニオ猪木に関しては、日本人ならどんなにプロレスを知らない人でも知ってる大スター(現在そんな選手はいませんね)なのでその後の説明はしませんが、この闘いのプロモート等によって梶原一騎先生との関係が親密になり、その後すぐに新日本プロレスのリングに梶原原作キャラであるタイガーマスクが登場します。
(またこれが原因の一つとなって二人は決裂するのですが…)

ウイリー・ウィリアムスの方は、この猪木戦によって大山倍達館長に破門されますが、後に破門を解かれて極真会館に復帰し、世界大会にも出場します。
さらに1997年、何とこの時から17年も経ってからアントニオ猪木と再戦したのです!
もはやロートルの二人、この試合は決め技を相手に決めれば決着というルールで行われ、結果は猪木がコブラツイストを決めて勝利しました。
そして、既に書いたように現在はバスの運転手。

また話を戻して「四角いジャングル」で描かれた猪木VSウイリー戦ですが、これは後に八百長だったと梶原一騎先生自身が著作で暴露。
それも当事者意外にはほとんど知らされなかったトップシークレットってやつで、両陣営があんなに熱くなってたのは本気だったのです。
全ては梶原一騎先生の掌の上で踊らされていたというか…

劇画「四角いジャングル」も、自分がプロモートする試合を盛り上げるために使っていたわけだし、「格闘技世界一 四角いジャングル」「激突!格闘技 四角いジャングル」「格闘技オリンピック 四角いジャングル」等の劇場公開映画まで作っています。
この作品でスターにのし上げたベニー・ユキーデのレコードも出し…
数ある名作漫画を生み出してきた梶原一騎先生ですが、この「四角いジャングル」一つだけを見ても、この時代に漫画界の枠に収まらず、劇画、格闘技興行、映画、音楽というメディアミックスを完成させているのだから大物すぎますね。

まだまだここから派生した各ジャンルのいろんな出来事があるのですが、今夜はここまで。


世紀の対決は終わったが・・・・
四角いジャングル・・・・リングは・・・・
あくことなく 血をもとめ
あらたな男の血のロマンをつづろうとしている



  1. 2008/10/04(土) 23:32:11|
  2. 梶原一騎
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