大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

手塚治虫(10) 「七色いんこ」 2

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前回に続いて手塚治虫先生の「七色いんこ」です。

手塚先生は芝居・演劇が大好きなのに、長いキャリアの中で芝居を直接描いた作品がほとんどありませんでした。
そこで自身が芝居を好きだからこそこうした漫画を描いているんだ、ということをわかって貰うために始めたのが「七色いんこ」なのだそうです。

前回のラストで引用した手塚先生の言葉で言われる、"スター・システム"
手塚漫画ではヒゲオヤジランプハム・エッグ…漫画のキャラが役者として使われているじゃないですか。
ある作品では主役級なのに、他の漫画ではチョイ役だったりもするし、もちろん死んでもまた別の作品ではちゃんと出てくる。
そんな風に、監督が俳優を使うのと同じ使い方でキャラクターを出す所なんかは芝居好きの手塚先生だから思いついた事で、自分の漫画の方式のルーツとして「七色いんこ」を描いたとも語られていました。

細かなストーリー紹介はしませんが、随所に芝居好きで豊富な知識も持つ手塚先生ならではのメッセージやアドバイスもこめられていますよ。

「電話」という話で、七色いんこが女優志望の女の子を諭す時は、
『おれは王様からコジキまで 女もこどもも年寄りも どんなまねでもできる!!
だが…それだけじゃ 役者とは言えねえ!! インコやオウムといっしょだ』

と語り、自分は人まねだけでプロにはなれないダメな役者だと言うのです。
正体を隠すために天才役者でありながら泥棒をしているのかと思いきや、本当にプロの役者にはなれないのか、七色いんこ…

「恋わずらいのなおし方」では、七色いんこが天草モズクというスケ番に対してストレートに舞台に対する愛情を語るのですが、
『舞台はまるで異次元の世界の浜辺なのだ!!
ここへ立つと自分は異次元の世界の別の人間になりすませる
そして…別の人生をくりひろげ まるで催眠術にかかったように
客席の暗やみや 天井や奈落が 自分の思う世界に見えてくるんだ!』

と、やはり芝居がかってていいですね。

ちなみにこの回では、作品のヒロインでもある女刑事・千里万里子の胸ポケットにボタンが付いてまして、これがあれですよ。ほら…ち、乳首にしか見えないわけですよ。
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正面からはこう↓
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ね?そうですよね?
他のほぼ全部の回ではこんな乳首…じゃなくてボタンはついてないし、どういう狙いがあったのか手塚先生に聞きたかったなぁ。
千里様は他の初登場の時からお乳をさらしてますが、それよりこっちの方が興奮するぞと、遊んでみたのでしょうか。

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手塚先生がどれだけ天才かという事は、今更私が語る事でもないのですが、この「七色いんこ」だけ読んでも後輩漫画家のパロディーが随所で出てくる所は特筆すべきでしょう。
自分は神様だ何だと言われてるのに、後輩のネタやキャラを使っても常に新しい物を取り入れようという姿勢を持ってるわけですからね。

「ピーター・パン」では、手塚版「ドラえもん」のカット(これはレア!)が出てくるし、「三文オペラ」では吾妻ひでお先生のキャラが普通に主要人物として使われていて、その名は吾島しでおです(笑)
他でどおくまん先生の絵とか、珍しいのも出てきますよ。


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さて最終巻の7巻です。

この巻だけは短い二話の後、他をほとんどを使った長編「終幕」で〆になります。
そしてこれが傑作!!
私程度でも今まで読んできた手塚作品は100を軽く超えてますが、その中でもこの「七色いんこ」の最終回で受けた印象はトップクラスの強烈さです。

もちろん、今まで「七色いんこ」を読んできた積み重ねがあってこそ、この最終話で感動するわけで、最終話だけが優れてるわけじゃないのですが、とにかくあまりにもいい。
こんなカタルシスを得るために私は漫画を読んでるのだとも言えます。

その「終幕」だけは詳しく紹介してみましょう。

まず、千里万里子が七色いんこの隠れ家を見つけた所から話は始まり、留守中に忍び込んだ千里は七色いんこの日記…いや、追想録を発見します。

ずっと謎に包まれていた七色いんこ(本名・鍬潟陽介)の過去は、最初の記憶が三歳か四歳で病院の先生のくせを真似て看護婦達を喜ばせていた事。
その後すぐに母が亡くなり、父は嘘の涙を流す…
父の言うとおりにお金だけを大事にする少年時代は、皆に嫌われながらも元は外人が住んでた空き家で化粧…いや変装をして別人になりきって楽しんでいた。

その生活も無理矢理付けられた家庭教師に壊され、悲しくなると"いんこ"に話しかけて気を慰めていたわけです。
『いんこは自分の声を持っていないのに
なぜああ 物まねがうまいんだろう
いんこになりたいなあ

なんて思っていた少年は、家庭教師によって飼いいんこのサンドイッチを食わされ、その敵を討ち…

学校で新聞記者の娘・朝霞モモ子と出会います。
二人は恋に落ちますが、七色いんこの父・鍬潟隆介は汚い財界の大物。そしてモモ子の父親はそれを暴くために奔走する記者と、「ロミオとジュリエット」並に報われるはずのない二人。
しかもモモ子の一家ががけでトビ(鳥)に襲われて転落、両親は死亡してモモ子も意識不明の重態になるという、最悪の結果になりました。

その後無理矢理海外留学させられた七色いんこは、すぐに逃げ出してこじきのような生活を始めて…
あわや野垂れ死にとい所で助けてくれたのがピエロのトミー
ここで重要なのは、トミーが被っているカツラ。これが、後の七色いんこがいつも被っていておなじみの物であり、その後彼から貰うのだという事が分かりますね。

このトミーが演じる芸は、七色いんこが初めて観る本物の才能。ことに物まねは神業だったと言います!
彼から厳しい指導を受けた七色いんこも一人前の芸人と認められてきて…

ここで、今までその才能に見合わない場末でしか演技してこなかったトミーが、シカゴで一番の大劇場・バーミンガム劇場での仕事を受けました。
その真意は、無理矢理ベトナム戦争に生かされて人殺しになったトミーの命がけの復讐があり、実際に武器商人を告発すると同時に自分もあの戦争の始末屋(第二次大戦で言うナチス残党狩りのようなもの)に殺されてしまいました。

最後までかっこよく、
『ときによって芝居は武器になるんだ
小説家がペンで悪事をあばくように
役者はステージの上で戦うんだということをおぼえとけ』

の言葉を残してあの世へ去ったトミー。

七色いんこは、
『あのピエロのカツラをかむり トミーのマスクをして……
いつの日か日本へもどり…
わたしの父 鍬潟隆介の悪事をあばいてやる!
それがわたしの人生なんだ!!』

と決意しました。

なるほど…こういういきさつがあったのか。
他にもこの最終話では素早い変身の秘密も明かされ、最後にまた朝霞モモ子の事を記して終わっています。

モモ子を愛し、探し続けた七色いんこは、あの事故で生き残ったモモ子が記憶を無くして性格も変わり、三年遅れで入った高校で巨大なスケ番グループのボスの座に付いている所までたどり着きます。もちろん会いに行きました。
今の彼女は、鳥を見るとゾ〜っとなってアレルギーが起こる…
もう正体は分かりましたね。そう、千里万里子ですよ!

かつてトビに襲われて両親を失った験から、記憶は無くなっていても鳥を見るとジンマシンが出て、さらに肉体が萎縮してあの時の大きさに縮んでしまうのだとか。
体が子供サイズに縮むだなんてギャグ漫画みたいなおかしな設定も、全てがここで必然だったと分かるようにもなっていたわけです。

『これ……あたしじゃないの!!
あたしのことを書いてるんだ
モモ子っていうのは………』
そしてこう↓
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読者はそれまでずっと、役者泥棒・七色いんこと、彼を追う女刑事・千里万里子を中心にした、ミステリー&アクション色の強い作品かと思って読んでいるんですよ。
それが最終回にして、物凄く強烈なラブストーリーだったと分かるのですね。

男谷マモルという心理学者が千里の見合い相手としてたまに登場していたのですが、彼が実は七色いんこの変装だったと分かると同時に、七色いんこが最初からいかに千里を見守ってきたかという事も分かります。
千里の初登場よりずっと前から彼女の事を想っていたのです。

七色いんこ(鍬潟陽介)=男谷マモル。
千里万里子=朝霞モモ子。

かつての事故現場で二人っきりになり、何もかも思い出した千里と、カツラを取って素顔をさらした七色いんこは、ついにこう↓なって…感動。
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そういえば、第1話で千里が
『あいつと顔合わせた時 急にガーンとショックがきて 心臓がすっごくドーキしたけど
なんだろう あのショック』

って言ってるんですよね。普通の読者は覚えてないだろうけど、そういう意味だったんですね。

それから二人で千里の両親の仇を討つため、七色いんこの父・鍬潟隆介へ最後の戦いを挑みます。
それは鍬潟隆介の悪事を暴く一人芝居を開演する事。
今まで代役専門だった七色いんこが、初めて自分が真の主役として演じる事になり、今まで稼いだという五十億円を全部ぶちまけての大勝負です。

敵である鍬潟隆介が最後に出来る事といえば、劇場に火事でもおこすか、殺し屋を使って七色いんこを消すことぐらい。
撃たれたら『撃ったやつをきっと逮捕してくれ』と千里に言い残した七色いんこは、命をかけた名演技のために舞台へ向かい…

完。
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これが名作「七色いんこ」でした。

大の映画ファンである私ですが、演劇にも特別いい感情があるのは「七色いんこ」の影響です。
実際にしばらく、好きな俳優が出てる演劇を中心に劇場へも足を運んでました。
でも残念ながら「七色いんこ」ほどハマるには至らなかったのですけど。

演劇は筋も理解できないような演目を平気でやって、しかも理解できないのは観客が悪いとでも言うような風潮を感じましてね(単純に真にいい芝居には出会ってないからかも)。
実際にやった人達に会ってみると、ウチらは造る側の人間だからどうとかほざいてるアマチュアだったりでね。
ださい実験とかひねくりとか、私にはいらないんだよ!!
ドラマとかカラオケとか好きな人種と逆の意味でくだらない、レベルの低い気取り…っていや、こんな所で今それを憤ってもしょうがない(笑)
だいたい入場料が高い時点で、生活水準低い私には向かないのかな。

ちなみに、作品を読まなきゃ全く意味が分からないこの題名「七色いんこ」ですが、手塚先生曰く『たまたま家でインコを飼っていたので「七色いんこ」ってつけたんですがね、ただそれだけのことです』だそうです…

今夜の最後は「じゃじゃ馬ならし」の回で、生まれながらの名優である動物が主題に使われ、芝居について考えさせられた時のセリフでお別れです。


芝居ってのはね 刑事さん…相手に生きる元気をあたえるためにあるんだぜ




  1. 2007/08/01(水) 23:50:53|
  2. 手塚治虫
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手塚治虫(9) 「七色いんこ」 1

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今夜は手塚治虫先生の「七色いんこ」

連載が1981年〜1982年と、手塚作品としては後期に位置する時代の傑作です。
掲載誌は週刊少年チャンピオンで、オリジナルの単行本はチャンピオンコミックス版(秋田書店刊)で全7巻。

同じくチャンピオンで連載された作品の「ブラックジャック」「ドン・ドラキュラ」「ミッドナイト」等と同じく一話完結の連作短編形式で進むのですが、この「七色いんこ」は特に傑作だと、個人的には思います。

そのわりにこの作品の、一般的な知名度は少し低いですね。
主人公の素顔もほとんど出ない作品だからか、モチーフに使われる演劇の世界が少年には馴染みにくかったか…

そう。毎回実在する演劇や小説からヒントを得て、それを使った話になっていまして、サブタイトルもほとんどオリジナルタイトルをそのままに使われています。

「ハムレット」「ゴドーを待ちながら」「ピーター・パン」「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」「シラノ・ド・ベルジュラック」「南総里見八犬伝」「三文オペラ」「サロメ」・・・・それに手塚治虫先生が生涯で三度も漫画化した「ファウスト」

こんな誰でも名前くらいは知ってる超有名作品から、もっとマニア向けの作品まで、全47話の中にふんだんに使われていますよ!
もちろん元ネタ知らなくても面白く読めるようになってますので安心してください。

私も大のオススメである「七色いんこ」を、これから読む方に言いたいのが、これはちゃんとチャンピオンコミックス版で読んでもらいたいという事。
何故なら、チャンピオンコミックスだと各話の扉をめくる前の2ページを使って、モチーフに使われた演目についてのあらすじと解説が付いているのです!!
この部分を書いてるのは辻真先氏。これで一般にはなじみが薄い舞台演劇の初歩知識も得ることができるのです。

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さて、「七色いんこ」の登場人物から追ってみましょうか。

主人公の名前は鍬潟陽介、またの名を七色いんこ
天才役者で、観客は彼のセリフに酔って名曲を聞くように聞きほれてしまうほどの実力なのに、代役専門で舞台役者を請け負い、しかもギャラを貰わない!
しかし彼が舞台に立つ時は、目星をつけた金持ち客から幕間に金品を盗む。
依頼者からは、ギャラを貰わないかわりに劇場での盗みを黙認させるのです。

その変装能力は老若男女誰にでも成りすまし(もちろん声帯模写も完璧)、"新宿区私書箱5826432"に速達で手紙を郵送すると出演依頼をする事ができます。
…こんな「ゴルゴ13」か何かのような設定は第1話限りで、ほとんど自分から仕事を見つけに行ってる印象ですが。

普段は、おかっぱのカツラとサングラス(というよりアイマスク?)で正体隠して生活してますが、追われる身だから素顔は見せない事を第1話から明かしてます。

他の主要キャラとしては、まず千里万里子
大泥棒・七色いんこを追う女刑事で、射撃や空手等の達人で強い上に、すぐ怒って手を出す怖い人なのですが…鳥を見るとジンマシンが出て体中が痒くなり、さらに、体が子供サイズに縮んでしまうのです。ファッションも素敵。

七色いんこの相棒とも言えるのが、犬のタマサブロー
もちろん普通の犬ではなく、演劇界の元重鎮に芸を仕込まれたせいで、演技力も頭の良さも抜群。まつ毛が長くて流し目が得意です。

そして鍬潟隆介
財政界と裏社会の大物で、七色いんこの父にして仇。

彼らと、先に挙げたように実在する演劇が上手く絡んで、犯罪、アクション、ドラマ、ドタバタギャグなんかが展開されていくわけです。
それもシリアスで重い話の、その次の回はギャグに終始してたりと、「七色いんこ」のテーマの幅広さを見せてくれますね。

それでは今回は、手塚治虫先生自身が読者に向けて語ったメッセージ(単行本のカバーより)を紹介して、いかに「七色いんこ」に対して愛着が強かったかなんかも考えて終わり。続きは次回にしましょう。


ぼくは小学校のときから、学芸会でお芝居をするのが好きでした。大学でも演劇サークルにはいり、関西民衆劇場という劇団にいたこともあります。いまでも歌舞伎から新劇、ミュージカルまで、なんでもみにいきます。
その芝居好きが、ぼくの漫画のレギュラースターの演技を生み出すもとになっているのです。この漫画を読んだ人が、ひとつでも原作の劇をみたり、読んだりしてみたいと思うこと、それがぼくのねがいなのです。





  1. 2007/07/24(火) 23:28:45|
  2. 手塚治虫
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手塚治虫(8) 「きりひと讃歌」

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久々に手塚治虫先生を読みましょう。


今回は、取っておきの「きりひと讃歌」です。
1968年からビッグコミックにて連載されたこの名作は、ダーク手塚ワールドの代表作品にして、私の好きな手塚作品 BEST 3に名を連ねます。
絵のタッチは劇画調で、きわめてシリアス…というか暗い社会派作品ですね。


今回画像に使った単行本は大都社版で全二巻。
同じ大都社で全三巻バージョンもありますが、もちろん私は両方持ってますよ。
他にレアな虫コミ版だとか、文庫、コンビニコミック等で何種類もありますが、簡単に読めますので是非未読の方は読んでみてください。


主人公である青年の医師・小山内桐人はM大学医学部で、謎の奇病"モンモウ病"(※)の研究をしているのですが、同大学の主任教授であり、師と仰ぐ竜ヶ浦医師の黒い陰謀によって犬神沢村に飛ばされ、自らが"モンモウ病"にかかってしまい…
いろいろあって、最後には主任教授の陰謀と"モンモウ病"の正体も暴く話です。


※モンモウ病とは
発症すると人間の体が犬のように変形していき、最後は呼吸困難で死ぬという病気です。
ただ死ぬのではなく、犬の様な風貌になるのがこの病気の恐ろしい所で、死ぬまでの間ずっと周囲からの差別や侮蔑に遭い、見世物にされたり…とにかく虐げられるわけです。


ストーリー開始直後に、小山内の学友である占部医師が小山内の婚約者である吉永いずみを強姦してしまいますし、「鉄腕アトム」が手塚先生の代表作だと思ってる読者にはきつい展開が予想されます。


ちなみにこの占部は、後に出てくるモンモウ病患者である南アフリカの修道女、ヘレン・フリーズをも強姦して孕ませます。
再びいずみを犯しもしますし、その後一応は改心しますが、精神を病んでトラックに突っ込んで死ぬという…酷いキャラですね〜。


おっと、それより主人公の小山内桐人です。
彼は竜ヶ浦医師の陰謀で、四国は徳島県のモンモウ病が蔓延する犬神沢村へ送られ、そこででモンモウ病に感染し、これから彼の受難が描かれ続けるのです。
なるほど小山内桐人、"きりひと"という名前がキリストをもじっていたのですね。


犬神岳であてがわれたたづという女とやむを得ず夫婦になり、しかし唯一の味方になってくれた彼女も暴漢に殺されました。
その後は犬のような容貌のため化け物扱いされて殺されかけ、大富豪の万大人にさらわれて台湾まで拉致されて見世物として使われますが、人間テンプラ(どんなのかは作品を読んでね)の芸を持つ女・麗花と一緒に台北で逃げるのです。
しかし麗花は狂人じみた色情狂の異常性欲者で、かつてこびと、くも男、ゴム人間といったフリークス達を手篭めにして殺していて、小山内で12人目だと言う…


何とかその状況から抜けたら、次は高砂族の村で悪魔と思われて捕まり、台湾に足止めです。
そこでは医者としての手腕を見せたのに犬顔のせいで殺されかけますが、命からがら空港へ脱出…
と思ったら次はアラブゲリラに襲われて頓挫。
もう、邪魔や危機が次から次へと襲い来る不幸の連続なわけですが、何とか生き延びます。


たどり着いた街まで付いてきていた麗花も、ここでテンプラ芸の失敗によって黒焦げになって死にました。
それからも小山内は犬の顔で生き続けます。
砂漠の近くのある村では、医者の"犬の先生(ドッグ・ドック)"として必要とまでされますが、医者の専門書で竜ヶ浦医師の陰謀を知り、復讐のために日本へ帰りました。


まずはたづのひき合わせか、墓参りに訪れた犬神沢村近くの地で、偶然たづの仇である男に出会って墓に詫びさせました。
女性にして同じモンモウ病に苦しむヘレン・フリーズとも一度きりの邂逅。


もう一人、自分をこんな目に合わせた上に、『伝染病説』として間違った"モンモウ病"の原因を学会に発表して医師権力のトップに出ようと企む竜ヶ浦教授に会わなくてはなりません。
そこで日本医師会トップを決める会長選挙の場に乗り込み、竜ヶ浦教授の黒い陰謀をばらすのです。
さらに『風土病説』を実証までするのですが、結局竜ヶ浦教授が当選してしまいました。
しかし、自身もモンモウ病にかかるという末路でした。


ラスト小山内は、自分を頼りにし、帰りを待ちかねているあの砂漠の村へ旅立ち、元々の婚約者だったいずみも彼を追って日本を旅発ち、この「きりひと讃歌」は終わります。


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派手なサスペンスや暴力シーンもありますが、強力な人間ドラマであるこの「きりひと讃歌」
こんな風にお話だけなぞったのでは分からない、絵による上手い表現だとかも当然多くありますので、是非実際に作品を読んでみてくださいね。
暗い雰囲気にはつつまれてますが、ラストは一応希望がさしてますしね。


最後に余談ですが、この作品でモンモウ病にかかる原因が、発表当初はある物質に放射能が含まれていたのが原因という設定だったのに、そこは修正されたそうです。
放射能による奇形…これは実際に誰でも写真くらいでは目にしてるはずなのに、やはりタブーのようですね。


神!
そんなものいるものか
すくなくとも 犬になりさがった人間を
救える神なんか 存在するものか


  1. 2006/12/10(日) 23:59:01|
  2. 手塚治虫
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手塚治虫(7) 「人間ども集まれ!」 2

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はいこんばんは。
手塚治虫先生の作品「人間ども集まれ!」の続きです。


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その後、次々と量産される無性人間達。


今はゲリラ女・リラを妻とし、軍医の黒主は実験の貴重なサンプルとして太平を扱い、その手下のようにリーチ大尉は浮気相手を演じてます。


卵子提供者はそれぞれ違うのですが、全員同じ顔で生まれてますよ。
男親の遺伝因子の力が強いので、母親の方の因子はほとんど消えてしまうからとの事だけど、それにしても太平に全く似てませんね。
それでも我が子だと思ってる太平に対して、黒主らはその子たちが単なる「商品」だとわりきらせるべく働きかける。


その子ども達は、主人に絶対服従な上にいくらでも働くし、先天的に団体行動を取る性質がりまして、ちょうど働きバチが女王ために働くように、主人に服従する事で満足するのです。
さらに深層意識によってその行動は統制を受けるので、統一行動する性質もある。


おっと忘れてた。
記者の木座神明という人物がいます。
こいつは黒主と組んでいろいろ悪企みをするのですが、"太平天国"という、無性人間を量産するための独立国を作る計画を作った時に、太平とリラは未来を連れて逃げ出します。
そして、明が雇った殺し屋によってリラが殺され、未来は仇を取るように太平に命令されてから逃げ、太平は"太平天国"に連行されて、親子は離れ離れになってしまいます。


今回のヒトラーを思わせる画像を見れば、、太平はその自分の名を冠した天国で独裁者になってるかと思うかもしれませんが、まさに名ばかりの総統に就任し、自由も無く精子を提供し続けるだけですよ。


その後、巷に無性人間は全く珍しくなくなったのですが、彼らは法律上人間とは見なされず、つまり人間が殺しても罪にはならないので、いいように使われ、殺され、最後には無性人間4万人による戦争ショー、あたかも陸軍大演習のような物を見世物にと、日本政府公認で開催し、金儲けを企む黒主と明。


ここに、主人に絶対服従のはずの無性人間達の、もっと奥に潜む感情を見抜いてなかった明達のミスがありました。
ついに無性人間達は、自分たちを奴隷化する有性人間達に反乱を起こすのです!
無性人間第一号の未来をリーダーに、無性人間の特性を生かした見事な統一行動でクーデター成功。


それだけではなく、これを火つけとして彼らのひどい憎しみが世界中で爆発。
全ての無性人間達が反乱を起こしました。
それから各地で無性人間の革命政府が誕生。


今度は普通の人間が奴隷になる番です。
無性人間には珍しい見世物としてセックスをさせられたりと、結局力を持つと暴君になるのはどっちも同じ…
さらには世界中の人間に去勢手術をさせます。


それに逆らって逃げ続けた、太平を含める人間達に向かって上空を飛ぶヘリから呼びかける言葉が、
人間ども集まれ! 人間ども集まれ! この草原へにげこんだ人間どもに告ぐ!
すみやかに去勢手術をうけよ! 手術はこわいものではない! 拒否する者はただちに射殺される!』
と、呼びかける。
クライマックスでようやくタイトルが叫ばれたわけです。


黒主らは処刑されますが、太平だけは未来や他の子供達に助けられて生き残り、去勢もまぬがれました。


それから助けてくれた未来に向かって言う、ラストのセリフが
『おまえたちはセックスを嫉妬してるんだ。自分たちに味わえないものをひがんでンだ』
で、ショックを受けた未来が一人、浜辺で立ち、この漫画は終わる。
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いやー、絶望的なラストですね。
何しろ太平は、残りの人生を女性がいなくなった世界で生きて行かなくてはならないのですから。


しかし!!
ここに「人間ども集まれ!」の不思議があります。
本当はこの続きが連載時にはあって、単行本化の際に結末部分がカットされいるのです。
結末部分をカットするなんて…
いや、カットされただけじゃなくて大幅に書き換えられ、正反対と言っていいラストになっているのです!


その理由については、手塚先生本人が、
『このようなつきはなすような結末にしたのは、カレル・チャペック「山椒魚戦争」のラストに感銘をうけた影響があると思っています。』
と語っているのですが、世界一忙しい漫画家だった手塚先生が単行本化の際に頻繁に原稿を描き直す事も繰り返していたのですから、完璧主義の精神に頭が下がります。


雑誌版でのラストにも触れておくと、有性人間が無性人間にも性器を付けて有性にする手術を施し、元無性人間にもセックスの喜びに目覚めさせて、両種族が和解するラストがあるのですよ。
個人的には結局全員有性人間になるってのは納得いかないから、単行本版でカットしたのは正しいと思えるのですが。


面白いストーリーで隠しながら、人間のする戦争や権力構造、それに別人種に対する残酷さなどを描いてるあたり、まさに今回は絵まで影響を受けた"大人向け漫画"の風刺部分ですね。


さらに男女の違い、全く同じ部分、性の区別の意味の無さ…そんな私には難しすぎる事も、いやこっちをこそメインで訴えたかったのかもしれません。


最後に紹介したいのが、実業之日本社から「人間ども集まれ!」"完全版"として1999年に出版されたでかい本。
こちらには2つの結末部分が同時収録されています。
比較読みしたい方には、今回私が紹介したオリジナル版よりも、こちらが良いでしょう。


私は基本的に復刻は買わない主義なのでこちらでは持ってませんが、でも有名作家や評論家達による徹底解説も収録されているので、そこは読んでみたいかな。

  1. 2006/07/02(日) 23:36:34|
  2. 手塚治虫
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手塚治虫(6) 「人間ども集まれ!」 1

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今回は手塚治虫先生が初めて大人向けに描いた長編マンガ「人間ども集まれ!」(実業之日本社刊、ホリデー新書)です。


大人向け漫画・・・現在ではもちろん多種多様な物が溢れてて、こんな区切りは必要ないのですが、この時はまだまだ漫画が大人の読む物ではなかった時代です。
それでも新聞に載るような風刺漫画、4コマ漫画は一部人気もあって、それらは"大人向け漫画"と呼ばれてました。


その代表格作家は「フクチャン」横山隆一や、「銃後のハナ子さん」杉浦幸雄らでしょうか?
手塚先生の描く子供漫画や、それに対抗して現れた劇画へまで、強い敵対心を持っていたと言われる、手塚以前の大家達ですが、最近著作がどこにも置いてないように感じますね。


ちなみに現在皆が思い浮かべる"漫画"と言うものの定義は、おそらく手塚先生登場以降に作られた物なのですが、あえて今言ったような"大人向け漫画"に挑戦したのがこれ、「人間ども集まれ!」です。


この作品は1967から週刊漫画サンデーに掲載されまして、オリジナルの単行本は全2巻。どちらも実業之日本社刊行です。
後の作品でも手塚先生が大人漫画を描く時は、やはりあの丸い絵のタッチを捨てているものの、この時は大傑作「きりひと讃歌」「アドルフに告ぐ」等とも違う、手塚先生としては非常に珍しい絵柄です。


それが他の"大人向け漫画"家からの影響でしょう。
「ギャートルズ」園山俊二なんかは有名ですかね、あの辺りのシンプルで細い描線を思い出してもらえば大丈夫ですよ。
「人間ども集まれ!」もそのままの線ですので。


掲載誌の週刊漫画サンデー自体、当時はそういったユーモア・ナンセンスものの専門誌でした。
単行本のカバーに宣伝で載ってる、ホリデー新書の他の単行本リストを見ると、
サトウサンペイ富永一朗小島功園山俊二・・・と、そっちの作家ばかり。


まだ実験段階だったので仕方ないのですが、この画線は少し読みにくく、数ページ物ならいいけど長編にはちょっと向かないですね。
だからこそ手塚先生もこの作品以降はまた線が太くなったのだと思います。その分、手塚先生のこの絵は逆に貴重と言えるでしょうか。


それでは、あらすじの紹介に行きましょう。


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主人公の名は天下太平。さえない男です。
兵役を拒否し、戦場から脱走兵として逃げている所から始まり、その時に元軍医の大伴黒主と知り合う。
が、結局二人とも軍に捕まります。


軍部には、この後もずっと続くであろう戦争に備えてクローン人間を大量に作って兵隊を量産しようという計画があって、そこで戦犯者の太平は精子を何度も吸い取られるのですが…
ボインのリーチ大尉とその過程を相手してもらって、いいですね(笑)


そして太平の精子を調べたら何と!!
彼の精子は尻尾が二つある、全世界でも始めての奇形精子だったのです。
こんな例は、人間だけじゃなく動物にだって過去にない!


軍の科学者がこの発見を探求する決意をしてるそばから、がゲリラに基地が襲われ、軍医・黒主、大尉・リーチ、捕虜だったゲリラ女・リラと逃げ出し、そのうち終戦。
その後試験管で誕生した、太平の奇形精子で受胎した子供は…
男女どちらでもない、夢の"第三の性"の持ち主でした。


ただし全くモノが違うという意味での"第三の性"ではなく、男にも女にもなれるが、しかしどちらでもないという形です。
結局幼少時から教育して、男役と女役に分けられますが、男装・女装すればすぐに入れ替われるのが便利ですね。
だからそのうち"第三"などと言わずに"無性"としか言われなくなります。
"無性人間"
この呼び名ならしっくりきます。


黒主と知り合った頃に、アリには"働きアリ"がいて、そいつらは中性だって話をしていたのです。オスとメスはセックスをしてるだけだと。
その話を聞いた太平は羨ましがってたのですね。


それが本当に人間の世界で誕生し、その無性人間第一号として生まれた未来だけが、息子(?)として太平の家で育ちます。
この未来、当然まだ無性人間が認知されていない時代に育ったわけですから、差別やいじめも受けています。


『僕を男にしてー!女でもいいよ!!どっちかはっきりさせてよ!』


と、悲痛な叫びを上げる未来は、まだ子供だったのですね。
後半は無性人間としての自我を確立して、のちに量産された無性人間達のリーダーとして活躍するのですから。
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今夜はここまで。


  1. 2006/07/01(土) 13:26:49|
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Author:BRUCE
二代目BRUCE LEE、あだ名は大悟です。


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http://mangabruce.blog107.
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名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っているブログです。

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