大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

藤子不二雄(73) 「宙犬トッピ」「きゃぷてんボン」

藤子不二雄作品から犬モノを三作品連続紹介する事にしまして、今夜は「宙犬トッピ」(中央公論社刊)です。この藤子不二雄ランド(FFランド)版のコミックスでは、「きゃぷてんボン」も併録した全1巻。
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二人の藤子不二雄のうち今でいう藤子・F・不二雄先生側の作品で、表題作の「宙犬トッピ」は1984年に別冊コロコロコミック(小学館刊)で連載されました。
犬モノと言っても主人公は"宇宙の犬"、つまり宙犬で、名前はトッピ。表紙を見て分かるように何かモジャモジャしたヤツで、犬と言われてもピンとこない風貌でもありますが。
文明がはるかに進んだ星でも、親が犬を飼う事を許してくれない家庭の事情とかは同じと見えて、ある宇宙人の少年が『かなり原始的』な星・地球までトッピを捨てに来て、トッピはこの地球で卓見コー作という少年と出会う…この出会いのシーンが良いですね。一人と一匹の目が合い、お互いに感じあうのですね。
あとは、はいこれも平凡な町の日常の中に非日常的な存在が、の定番SF生活ギャグ漫画です。

やはり登場人物は「ドラえもん」と全く同じ編成なのでそれぞれを見て行くと本作におけるドラえもん=トッピ、のび太=コー作、しずか=青山みどり(1話目ではカスミとなっていますが...ヒロインの名前を間違えないで欲しい!)、ジャイアン=カバ口、スネ夫=ネズミ。性格も同じようなものですが、彼らは中学生の設定なので多くの藤子F作品より多少高年齢を意識して物語を作っている部分も見受けられます。

トッピは言葉を話せるし、尻尾を掴ませてイメージを伝える能力があります。さらに故郷の星の科学が発展していて理科知識が凄く、いわばひみつ道具みたいな物の作り方をコー作に示唆してくれるのです。地球の食べ物だとドッグフードは嫌いですが、マツタケとタケノコが好物。卓見家は裕福ではないのでさすがにマツタケを食べる描写はありませんが、山盛りのタケノコを出してもらって嬉しそうに尻尾振りながらガツガツと食べるトッピの姿は可愛すぎます!
キャラクターが一番離れているのはコー作で、のび太と違って天才タイプ。最初から設計も自分でやって作ったラジコン機を飛ばしたりしていたし、トッピとの出会い以降はその知識に習って凄い道具を作っていくのです。となるとまぁ、秀才の主人公は藤子作品では少ないとはいえ「キテレツ大百科」という前例が思い出されますね。しかも容姿まで木手英一に似ているので、今度はそこで悩んだのでしょうか…
別冊コロコロコミックでこの前に連載していた「宙ポコ」は結局ドラえもんになってしまい連載もたった3回で終了した事を「ココ」で書いたばかりでしたが、次回作の「宙犬トッピ」はキテレツになってしまい全6話(つまり半年)で終わってしまいました。いずれも面白い作品ではあったのですが、既に同内容で有名な傑作を描いている事が逆に足かせとなったのです。
それでも嬉しいのは、最終回をちゃんと完結編として描いてくれている事。トッピを地球に捨てた宇宙人の少年が、迎えに来るのです。今はコー作がいるのに、トッピは一度は捨てた飼い主の所に戻るのか...!?

同時収録された「きゃぷてんボン」も藤子F先生側の作品で、1976年のてれびくん(小学館刊)で連載された作品。掲載誌で分かる通り、こちらはぐっと低年齢の読者を対象としています。「宙犬トッピ」との共通点はヒロインの名前が同じで、みどりちゃんである事。
幼児でも楽しめる内容ながら、今おじさんになった自分が読んでもクスクス笑えるヒーロー物のギャグ漫画である事が凄い。さすがのセンスを楽しめるし、あと絵がひたすら可愛いです。
主人公の少年・きゃぷてんボンは子供ながらにしっかり物で、逆に全然しっかりしてない、というか白痴としか思えない性格の父・丸山博士を助けて大活躍します。そう、幼い子供が親、大人を助ける物語。でも子供に助けられてばかりいる丸山博士は発明家で、きゃぷてんボンがかぶる夢あふれるヘルメットも丸山博士の発明なんですよね。
藤子F作品でヒロインのヌードシーンが挿入される事は珍しくありませんが、本作におけるボンのガールフレンド・みどりちゃんもけっこう脱いでくれます。『ゆうれい船のなぞをとけ!!』でボン+丸山博士と海に行った時は屋外で2人と一緒にパッパと裸になって水着に着替えるし、『怪獣のすむ山』では同じくボン+丸山博士と風呂の前で裸になって並び、一緒にお風呂にも入っています。恐らく小学校低学年の設定なので、いいのですが。
最終話の『千面相V.S.きゃぷてんボン』では、そうですあの「パーマン」で主人公達のライバルだった千面相が出てくるんですよ。となるとパーマン好きにとってもおさえておきたいスピンオフ作品の1つでしょう。話はもちろん、きゃぷてんボンが勝利して千面相は捕まり、全5話が終了しました。


かんたんに作れるよ
トリネンコにヘロハリとベッソンとバフをまぜ
加熱したものにベケンヤをぬればいいんだよ



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  1. 2017/04/25(火) 23:59:55|
  2. 藤子不二雄
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藤子不二雄(72) 「ビリ犬」

今夜は藤子不二雄作品から、「ビリ犬」(中央公論社刊)です。
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二人の藤子不二雄のうち、今でいう藤子不二雄A先生側の作品。
初出は1969年のぼくら(講談社刊)ですが、ずっと後…約20年も経ってから藤子不二雄ブームの1988年にアニメ化されました。それに合わせて20年越しの続編も月刊コロコロコミック(小学館刊)で連載され、そちらは「ビリ犬なんでも商会」と改題されています。
この藤子不二雄ランド(FFランド)版のコミックスでは、その両方を合わせて全1巻。藤子A先生も時代によって絵柄の変化が目立つ方なので、それぞれの特徴が絵で現れているのもファンとしては興味深い所ですね。

これも内容は藤子作品で非常に多い、平凡な主人公の少年が住む平凡な町に非日常的な存在が紛れ込んでくる、定番のSF生活ギャグ漫画。
大の犬好きで有名な藤子A先生は作品の中によく犬を出しますが、本作は犬を主人公にして他の犬たちも描きまくった作品なので、そこにも注目しましょう。そう、ここでの『非日常的な存在』はビリケンという犬で...いや、正確には風貌は犬そっくりですが人間の言葉をしゃべり長い耳ではばたいて空も飛べる"ケン族"というやつなんですけどね。
藤子A作品でちゃんとリアルな犬マンガは「ココ」で紹介した「タカモリが走る」が挙げられるでしょうが、それはちょうどこのFFランドの巻末新作漫画として連載されていたので、この本でも巻末に第35話目が載っています。つまり犬マンガ続きで、犬好きには特に嬉しい1冊となりました!

さて「ビリ犬」
大空を飛んでやってきたビリケン、冒頭の登場シーンは4ページ目最後のコマまでセリフ無しで続くのですが、可愛くて可笑しくて、いきなり最高です。
そんなビリケンが人間の町・花火ヶ丘に降り立ち、友達はみんな犬を飼っているのに団地暮らしで犬が飼えず悔しい思いをしていた少年・雨森タツオの家で居候するのです。タツオの弟のテツオも凄い犬好きなので、既に2人を幸せにしていますね。
すぐにビリケンと同じケン族の仲間でメガネの秀才ガリケンもやって来て、やはり雨森家で居候して巻き起こる楽しい珍騒動が描かれます。
ダンのブルドッグ・ダブ、ヨーコのコッカスパニエール・ミミ、犬種は分かりませんがマメオの大型犬・ドカ、ホネヒコのマロ等、犬は全部可愛いですね。

「ビリ犬」の方は人間と犬の立場が逆転しているシュールで怖い街に迷い込む『犬の村』で幕を閉じ...
続編の「ビリ犬なんでも商会」。こちらはケン族と敵対する"ニャン族"というライバルが登場します。名前の通り今度は猫に似た風貌で、同じく空を飛べる種族ですね。そこの大使であるドン・ニャーンもケン族の邪魔をするために花火ヶ丘まで来たのです。

それと居候で雨森家の家系を苦しめているビリケンとガリケンが"ビリ犬なんでも商会"という会社を設立し、社長となって自活を図ろうとするのが続編ストーリーの柱。
『宝の箱の中身は…!?』という話では何と百万円で宝箱を守る仕事を請け負うのですが、仕事を終えて見せてもらった宝箱の中身は手塚治虫先生の「新宝島」初版本でした。
依頼主の猿王金造は、
『わしは少年の頃 この本をよんで大感激したんじゃ! だから今でもこの本を見ると純真な少年の頃にもどれるのじゃ!』
と言って目をキラキラさせて、ここでも藤子A先生は手塚治虫リスペクトの念を出してくるのですね。

面白い作品だったのですが、残念なのは特に完結編を描かれる事もなく、話数は少ないながら20年モノの作品が突然連載終了した事ですかね。ええ、最終回も普通の日常エピソードでした。でも藤子不二雄A先生は存命なのだから、またいつか続編も描かれるかもしれません。その時を楽しみに待ちましょう。


ワーン!あいつはいったい犬か?人か?
頭がおかしくなったわ~



  1. 2017/04/22(土) 23:00:21|
  2. 藤子不二雄
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藤子不二雄(71) 「ミラ・クル・1」「宙ポコ」

今夜は藤子不二雄作品から、「ミラ・クル・1」(中央公論社刊)です。この藤子不二雄ランド(FFランド)版のコミックスでは、「宙ポコ」も併録した全1巻。
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当時は二人の藤子不二雄
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そのうち今でいう藤子・F・不二雄先生側の作品で、まず「ミラ・クル・1」はあのコロコロコミック(小学館刊)が月刊化する時の第1号記念作品として登場しており、つまり『月刊コロコロコミック』の創刊号である1979年4月号から連載されたのですね。しかし全5話で連載終了してしまいました。知名度が低いのは、話数が少なくててんとう虫コミックスで単行本化していない事が原因でしょう。
連載終了した理由も決して人気不足ではなく、コロコロといえばの「ドラえもん」の方が初映画化される直前ですので、大長編の執筆などで忙しくなって中断したようですね。ドラ映画が失敗していれば連載再開もありえたかもしれませんが、ご存知の通り大ヒットしてシリーズ化されたため、「ミラ・クル・1」の続きが描かれる事は無かった...内容は「ドラえもん」と比べてもさほど遜色のないものだっただけに、惜しまれる作品です。

どこにでもある町の平凡な少年を主人公にして、ガキ大将なんかがいる日常の中に非日常的な存在が紛れ込み、発生する騒動を描いた藤子Fマンガのド定番パターンでストーリーは進みます。
普通の少年である主人公は未来。『みらい』と読みます。
そして肝心の、本作における異世界の住人は…UFO。そう、宇宙船なんです。えっ、ドラちゃんみたいなマスコットキャラじゃなくてUFOって!?あまりにも前衛的すぎるのではないかと思いますね。でもご安心ください、このUFOは主人公宅の地下深くにめり込んでいて動けないため、未来の愛犬であるワンの脳とつないで肉体を借ります。だから犬の姿が本作のマスコットキャラで、可愛いんです。もちろんしゃべるし、色々と教えてくれます。
このUFOは10万光年離れたミラクル星で作られた物で、意思を持ちしゃべったりも出来る最新型。とはいえ、地球に不時着したのは834年前の事ですが、それでも現在の地球よりはるかに進んだ科学力を持っていたのですね。ワンの姿を借りたこのUFOにストロンググローブ、ジャンピングブーツ、オキシタイというミラクル星のアクセサリーを借りますが、簡単に言うとこれがパーマン・セットみたいなもので、人体強化してスーパーマンになれた未来。UFOは他にも天才バンド、ほんやくマイク等、進んだ科学技術からなるアイテムを提供してくれる所が、ドラえもんとかぶります。
誘拐された友達の少女・栗島くるみを救った事から彼女も仲間に入れる事となり、未来・くるみ・ワン…ちょっとだけ略して3体でタイトルの『ミラ・クル・1』となり、遊んだり事件を解決したりするのです。

ちなみに本作の設定は1973年から翌年まで描かれていた「パジャママン」と設定がそっくりで、私は2010年に藤子・F・不二雄大全集で単行本化された際にようやく読めた時にその事実を知って驚いたものです。つまり「ミラ・クル・1」は、「パジャママン」のリメイク作品と言えるのでしょう。

続いて同時収録作品「宙ポコ」
もちろん藤子F先生側の作品で、こちらは別冊コロコロコミックの方で1983年に連載された作品。
内容は「ドラえもん」はもちろん、「ミラ・クル・1」やその他多くの作品と同様に普通の家に異世界の住人が居候する王道モノで、可愛く擬人化しているものの爬虫類系の風貌のソールス星人、宙ポコ。学校が春休みのため珍しい宇宙の田舎を見ようと旅に出て、地球へ来たのです。
本作におけるドラえもん=宙ポコならば、のび太=つとむ、しずか=マリ、ジャイアン=ガマ口、スネ夫=イナリ、と全く同じ編成、しかも宙ポコは"ひみつ道具"みたいなアイテムを出して空を飛べるようにしてくれたりする…となっては、ますますドラえもんです。
それだけドラえもんが完璧なパターンを完成させてしまったという事でしょうが、どうしても差別化が取れなかった事で作者は悩み、たったの3回で連載終了。
つとむが少年ならではの無邪気さからを利用したり自慢したりした事で、宙ポコはつとむを友だちじゃないと怒り…と、ちょっと深いテーマで語る部分もあったのですが、残念です。でも最終話となった3話目が自身の他作品「パーマン」を使った話だったし、新ネタを出せなくなっていたのでしょうか。とはいえこの話自体の出来はかなり良いし、小池さん(F先生、A先生の区別なくどこでも登場するラーメン好き!)やしずかちゃんまで出てきて嬉しいものでしたが...
次々と有名キャラを生み出していたかに見える藤子F先生でもマンネリしてしまう事に苦しんで、それぞれ工夫していたんですよね。

この単行本は藤子不二雄ランド版なので、巻頭のカラーセル画、表題作品本編が終わると解説記事、読者のひろばがあって、最後の巻末には新作連載漫画という形態じゃないですか。
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ただし巻末漫画はたまに新作じゃなくて『名作まんが』として過去作品の再録の場合がありまして、本作の場合は『藤子・F・不二雄としのだひでお』名義の「ベラボー」が収録されています。なかなか読めないレア作品なので、これは嬉しいですね~。
それはともかく、初出時は『藤子不二雄としのだひでお』名義だったはずが、この本は藤子・F・不二雄へと変えたばかりの1989年に上梓されているので、修正されていました。(1988年のほぼ1年間は藤子不二雄Ⓕ名義)
そうです、2人の漫画全集である藤子不二雄ランドは1984年から1991年までの刊行なので、コンビ解消した1987年はど真ん中のタイミングだったんですよね。それでも全集のタイトルまでは改めず、そこから何年も藤子不二雄で続けて出してくれた事には感謝したいですね。


よく わからないけど……
ぼくの身のまわりで なにかが起きてるみたいだ
なにか とてもへんてこなことが



  1. 2017/04/19(水) 23:00:20|
  2. 藤子不二雄
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藤子不二雄(70) 「夢魔子」

今夜の藤子不二雄作品も、藤子不二雄Ⓐ(安孫子素雄)先生側の作品で続けて…「夢魔子」(中央公論社刊)です。
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表題作の「夢魔子」は1970年の高三コース(学習研究社刊)が初出で、1話完結の連作方式で全5話が収録されています。
このずっと前にも、既にしたサンコミックス版の「黒ベエ」で3巻末に収録されていた作品ですが、この単行本は1990年にこのような形で日の目を見たわけです。
その理由は、「藤子不二雄Ⓐの夢魔子」のタイトルで3話だけながらアニメ化されたため。それも前回紹介した「笑ゥせぇるすまん」が話題をさらっていた時期に、同じTBSのギミア・ぶれいく内で放映されたのですね。

1970年代後半に生まれた私の世代だと、ちょうど小学生の頃に凄い数の藤子不二雄アニメが放映されていたし、FFランドも刊行されていたし…全盛期をちょうど良い時期に体験しているのですが、普通は児童向けだった藤子漫画離れしている中学生くらいになって「笑ゥせぇるすまん」がヒットして、藤子A先生は大人漫画も面白い事を知った人がほとんどだと思います。
しかし当時は今と違い、藤子A先生のブラック作品も熱心に古本屋を回って探すしか読む方法が無いような状況だったのですね。プレミアも今とは問題にならないくらい付いてたし…でもだからこそ、古本屋でうまくヴィンテージ・コミックを発掘する楽しみは多かったのですが、とにかく「笑ゥせぇるすまん」に続いて「夢魔子」、これが出て表題作の後にはブラック短編がいくつも収録されていて、それが若い世代にも読まれてウケたからその後は同じ中央公論社の愛蔵版(A5版)全三巻で「ブラックユーモア短編集」が出て、またそれを再編集した文庫版も出版されるのにつながったのだと思います。

そんな「夢魔子」ですが、主人公のミステリアスな美少女が夢魔子
こうしたヒロイン物には珍しく毎回髪型が変わっているのですが、変わらないチャームポイントが額のホクロ。彼女がちょっと変わった願望を持つ男の前に現われると、何かが起こる…
これはストーリーを紹介してもしょうがなくて、様々な漫画に親しんでいて多様な楽しみ方がある事を理解していない人が普通に読んだら、多分つまらないだけでしょう。それで何なんだと思われるような作品なのですが、これが雰囲気モノというか、妙な感覚を覚えるのですね。タイトルにもある通り、『夢』の世界みたいな。波長が合ってハマる人も一定数いると思います。

本作は単行本で全1巻ですが、4分の1の分量も無いため表題作の後に短編が10作収録されています。で、これが面白い!
このブログでは既に紹介した作品がほとんどですが、「夢魔子」と同じ1970年の作品は『ぶきみな5週間シリーズ 』からバラして「串のはいった鞭」「鎖のついた武器」「目のない舞姫」、それに「マカオの男」
1971年の「万年青」、1972年の「カタリ・カタリ」「不器用な理髪師」「内気な色事師」「無邪気な賭博師」、1973年の「暗闇から石」と、傑作揃いです。


かわいそうに………
春彦くんの夢をすてさせるってことは
彼に年をとらせてしまうことなのよ!



  1. 2016/01/31(日) 23:00:22|
  2. 藤子不二雄
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藤子不二雄(69) 「笑ゥせぇるすまん」

続いての藤子不二雄作品も、藤子不二雄Ⓐ(安孫子素雄)先生側の作品で…「笑ゥせぇるすまん」(中央公論社刊)です。
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もはや説明の必要も無い国民的漫画であり、アニメ化にあわせて1989年に上梓されたセールスマン・バッグを模したデザインの単行本、この第1巻はブーム時の事でもあり物凄く売れたはずです。当時中学1年生だった私の周りでも、どれだけ多くの同級生がこの分厚い本を持ってた事か。
このFFランドと同じ中央公論社より、中公コミック・スーリで出たオリジナル単行本は全6巻。

せぇるすまん・喪黒福造が登場するシリーズは藤子A先生の代表作ともなりましたが、初登場は1968年にビッグコミック(小学館刊)にて読み切り作品として掲載された「黒イせぇるすまん」。これは少年向けギャグ漫画ばかり描いてた藤子A先生が大人向けでブラックな作品を描くきっかけになったものであり、今読んでもこれが一番ヤバい内容だと思いますが、この作品は一部の短編集などで読めるもののコミック・スーリの単行本には未収録なんですよね。
で、その翌年・1969年から1971年まで週刊漫画サンデー(実業之日本社刊)で「黒ィせぇるすまん」と改題(微妙な変化ですが、『イ』→『ィ』となっています)して連載されたのが、この第1巻に収録されている作品群。これを1989年からのアニメ化されたのに合わせて単行本化し、その際にさらに「笑ゥせぇるすまん」と改題されました。ついでにせぇるすまんの名字の読み方も『もこく』から『もぐろ』へと変えられています。
アニメ版の好評に合わせて1989年に「笑ゥせぇるすまん」のタイトルで喪黒が初登場した時と同じビッグコミック誌上に読み切り作品を、そして連載が決まると中央公論(中央公論社刊)で1990年から1995年という長期に渡り描き続けられました。それが2巻から6巻までに収録された内容で、その全てが1話完結の連作方式で進みます。
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全身黒づくめという服装と歯が凄い不気味な顔で、ターゲットと定めた人に近づいては『ココロのスキマ・・・お埋めします』と書かれた名刺を渡す男・喪黒福造。タイトル通りせぇるすまん(セールスマン)ですが、扱う商品は人間のココロ。
ターゲットが意識の奥に隠し持つ欲望を白日のもとにさらけだしては快楽に引きずり込んだりして幸福感を与え、それからどん底に落とす。相手を指さして『ドーン!!!!』とやるお決まりのアレを、知らない人はほとんど居ないでしょう。
あのドーンは初期の頃から出ていて、『サイミン術ですか合気道ですか』と問われて『まあ そんなものです』と答えています。これは一歩を踏み出させるために、もしくは約束を破って罰を与えられる時などに喰らわせるのですが、その後に不思議な現象が起こるのがオチになっています。

本作で登場するネタや道具など、藤子不二雄Ⓐ先生が描いてきた一連のブラック・ユーモア作品とかぶるネタも多いです。「ブラック商会変奇郎」の変奇堂と店主が出てきたり、「やすらぎの館」などの短編で使った設定だけ使われるとか、おなじみの『変コレクション』が出てきたりと形は様々ですが、永井豪先生でいう「バイオレンスジャック」的な、藤子Ⓐ漫画の集大成と言えなくもないかと思います。連載中に、毒は徐々に薄まっていきますが…

喪黒に『ココロのスキマ』を見破られた人達は新手のセールスかと思って財布の心配をするのが常ですが、喪黒の行動は全て無料です。ただ、趣味のイタズラでターゲットにされていた事を思い知る事になるのですが…
そもそもイタズラにいくらでも金をかける喪黒は、金持ちなのでしょうか。競馬をやれば予想が90%以上的中するから面白くなくて馬券を買わず、馬やそれに一喜一憂する人間達を見に行くだけだったりするし、いくらでも稼ぐ事は出来るのでしょう。

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最初は親切な人を装って困っている人を助けたり潜在的な欲望を叶えてあげたりする喪黒ですが、大体は約束や条件を定めます。で、ほとんどの場合はそれが破られる事となり、そのため相手が悪い、自業自得だからと罰を与える事になるのが通例。
でもこれが、ただでさえ欲望にまみれていたり隠していても強い不満を持った人間をターゲットにしているのだから…そりゃ破るだろうって話なんですよね。手を出さなければずっと平凡な生活を送っていただろうに、一度上げておいて落とすから酷さも倍増します。
1巻のあとがきで作者は、『喪黒福造は奇怪なる人物ではあっても、けっして悪いヤツではないのです。』と言い張ってますけどね。

喪黒に家があるのなら、住んでいる土地は正確には分からないながらも東京の小田急線沿線っぽい事が分かる描写だけはありますね。
よく待ち合わせ場所にも使う行きつけの店が、"BAR 魔の巣"。最終巻まできて『ゴールデン飲食街』という飲み屋街の中にある店だと分かる描写がありました。新宿のゴールデン街がモデルか!?いや、また別の回では『駅前飲食街』という名称になってたりするし特定させるつもりもないのか。
とにかく 喪黒が連絡先として使っている店で、『ココロのスキマ・・・お埋めします』の名刺の裏にはこの店の電話番号が書いてあるほどです。呼ばれた客が先に着いてヒゲもじゃマスターに話しかけると、見ざる・言わざる・聞かざるの置物を指差されて何も教えてくれないのが有名ですが、実は一度だけ普通にしゃべった事もあります。それが『夢のあと』の回で、喪黒さんはと問われて
『きょうはまだです でもまもなくおみえになるでしょうから どうぞ』
というのが唯一のセリフ。あのミステリアスなマスターですが、しゃべってしまうといたって普通!
また、初期は"スナック 魔の巣"もしくは"SNACK 魔の巣"の屋号で、別のマスターがいる描写もありました。
喪黒は他に、ターゲットをママがやってる小さな居酒屋とか小料理屋みたいな所に案内する事もありますが、そういう時もママは喪黒を常連のように扱っているから、一人でも相当呑みに行って店の人を取り込んでいるようです。

喪黒のターゲットに選ばれる男達(あ、超レアケースで女性の場合もありましたが)は、あくまで藤子A先生がその欲望を予想しやすいタイプで選ばれているからか、漫画家やイラストレーターだったり、あとサラリーマンでもゴルフとか麻雀にはまっているような奴ばっかり出てくるから、読者である私…中学1年生の頃から読んでて現在では彼らと同じおじさんになった今でも、それらの方々は遠い世界の人たちなんですよね。
しかし『マンガニア』の回は古本、それもヴィンテージ・マンガのコレクターである中念宅次(38歳)を追った話なので、同じ趣味を持つ私は感情移入し過ぎてしまいます。この人の歳にも、ちょうど今の私が追いついちゃっています。男のこういう趣味が女性には理解してもらえないとかの酒呑み話もよく分かるし、ラストのオチなんて悲し悔しい涙が出てきちゃいそう。
この回ではある漫画は古本として高い価値が付いている事を紹介し、特に高価な手塚治虫先生の漫画を集める中念氏が古本屋の目録を見て頭を悩ませたり顔なじみの店に足を運んだりする様が描かれていますが、喪黒が出してきた漫画が「足塚夢四雄/LAST UTOPIA 最後のユートピア」なる作品。これは元ネタがヴィンテージ・マンガの中でも一番有名と言える本なので分かる方も多いと思いますが、本作の作者でもある藤子不二雄先生が足塚不二雄名義で1953年に描き下ろした単行本「UTOPIA 最後の世界大戦」ですね。
ここでは『これ一作しか描かなかったので マンガ界の写楽とよばれている足塚夢四雄の幻の単行本だ!』だそうなので、その後ペンネームを変えて輝かしい成功を収める藤子先生達とは別の人として描いているのでしょうが。

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まぁ手を変え品を変えで進む短編の連作「笑ゥせぇるすまん」ですが、さすがにこれだけの話数があるとワンパターンと感じてしまうし、オチなんかすぐに読めます。ただし本作の楽しみはオチがどうなるかなんかではなくて、それは分かっているのだけど喪黒福造が出てきて、あの『ドーン!!!!』で人を地獄に突き落とすお約束を見たい、となってきます。
そうだ、何故かドーンじゃなくて両掌を相手に向けて『ウラー!』としてパワーを付けてあげる回があったのですが、あれは何だったのか。ドーンを喰らっても大して不幸にならない人もいますしね。

さらにこれだけ見てても、またアニメ化やドラマ化した作品も同様ですが、喪黒の正体は作中でほとんど明かされません。
ただしこの全6巻が完結した後も『せぇるすまんシリーズ』といった感じで定期的に喪黒は描かれており、「笑ゥせぇるすまん」連載終了の翌年である1996年に早くも漫画サンデーで「帰ッテキタせぇるすまん」を連載したのが2000年まで続いてるし、その連載終了翌年である2001年には「踊ルせぇるすまん」も描いています。で、特筆すべきはさらに後の2003年、ビッグコミックの1001号記念作品で描かれた読み切り作品ですよ。タイトルは「わが名はモグロ… 喪黒福造」として、誕生秘話を描いちゃってます!

中公コミック・スーリ各巻の背表紙は、喪黒福造の後姿。ちょっとユーモラスな感じがします。
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あとは「帰ッテキタせぇるすまん」期である1997年から翌年までカピタン(文藝春秋刊)で連載された外伝が、「喪黒福次郎の仕事」。単行本は全1巻です。
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これは今まで家族構成など一切明かされなかった喪黒福造の弟である喪黒福次郎が主人公で登場し、こちらは何と行動も兄とは逆に落ちて行く人を無償で本当に助けているという、ヒネリなく普通に善人なんですね。表紙を見て分かる通り、顔も似てないし服装も違う。
本作でもBAR 魔の巣及び見ざる・言わざる・聞かざるのマスターが登場するのですが、"MANOS"というアルファベット表記の屋号になっています。
福次郎も兄と同じように電車内でターゲットを物色したりしているし、『ドーン!!!!』ほどお決まりでもないのですが『ドダーン!』といって似たような技を使ったり…が、やはり道を踏み外しそうな人を救っちゃうので結局は何も起こらないわけで、この手の物語としては盛り上がりに欠けるかな。


ホッホッホッ
わたしはコンピューターで不幸な人の選択をしているのではありませんのです
人はだれでも不幸のタネをもっているし その尺度は客観的にははかれません
その点ではだれもが平等ということがいえます
だからわたしは無差別方式でえらんでいるわけです



  1. 2016/01/29(金) 23:59:30|
  2. 藤子不二雄
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プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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