大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(189) 土屋ガロン 4 和泉晴紀 4 「ワルキューレ」

今夜は土屋ガロン作、 和泉晴紀画の作品「ワルキューレ」 (エンターブレイン刊)です。
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初出は月刊コミックビームの2014年3月号から2015年3月号で、単行本は全1巻。
作の土屋ガロン先生とは…いくつかのペンネームを使い分けている方ですが、あの狩撫麻礼先生の別名ですね。
画の方は久住昌之先生とのコンビ・泉昌之で作画を担当している漫画家の泉晴紀先生で、ここでは和泉晴紀と1文字増やしたペンネームで描いています。
つまり、前に紹介しているダークマスター&泉晴紀名義の短編集「オトナの漫画」と全く同じコンビです。

2016年も最後の日になりましたので今年に出た単行本で何か良いの無いかなと探したのですが、今年も色々と買った中でも完結した作品に絞るとこれというのが見つからない!
(いや、作元健司原作・津覇圭一漫画の「終末の天気」とか思いついた作品はあるんですけどね)
で、昨年の刊行ですがこの「ワルキューレ」を選んだ次第です。この物語展開にセリフ回し...全く衰えない狩撫麻礼節に微笑ましくなりながら引き込まれ、ラストのメチャクチャさに唖然としたので...
ひばり書房とかが描き下ろしで単行本を量産していた時代はとうに去り、近年の読者はクソ真面目になって物語の統合性がないと許さない所があるじゃないですか。そんな中でこれが商業誌に連載されて単行本化も許されたという事を喜ぶ意味でも、お薦めしたい。

当初の主人公はヒロシ。平凡な、いやバイトを3日でクビになったりしているし非モテ系、かなりダメな部類の青年です。
それが突然チンピラ風の二人組に公園で声をかけられるのですが...ああ、その時に彼らを遠巻きに見ながらヒソヒソと話しているママさん連中に対してチンピラの一言、『チッ 産みたがりの女どもが』ってのがいいですな。
ともかく彼らに声をかけられたヒロシですが、内容は超一流スタッフを集めて製作される大作映画での主演俳優としてのスカウトでした!その日から毎日、何もしてないのに日給10万円が報酬として振り込まれるようになり…と、狐につままれたような話でワクワクする取っ掛かり。

何故彼が、そして何故映画か!?といった背景の話は徐々に分かってきますが、中学時代にヒロシの同級生だった整形美人のSM女王・レイが、睾丸に五寸釘を打ってあげた見返りにマネーと権力を持て余した『アドレナリン・ジャンキー』の超フィクサーである須崎戊生(ボス)を動かしていたのです。
他に精神分析医の免許を剥奪されて現在はVIP専門の"アングラ医院"でボスのカウンセリングをしている女医・倉木多恵
家が貧乏で小学生の時から売春させられていたレイに映画…いや世界、人間を教えた恩人として黒幕的な存在になった老人・桧垣俊輔
こういった人物が交錯し、狩撫麻礼哲学が繰り広げられていくのです。

映画はボスの『無意識』を作者として製作され、「ホドロフスキーのDUNE」(Jodorowsky's Dune)みたいにその意にかなう最強の戦士(スタッフ)を集めていき…
完成したのが「黙示 あるいは不死鳥」。これはカンヌ映画祭特別招待作品となりますが、それがどんな話で上映後には何が起きるのか!?
あとタイトルの『ワルキューレ』は、やはりワーグナーの「ニーベルングの指環」で有名なあの楽曲ですが、それがどのように飛び出すのか、それも見所です。

はい、2016年最後の投稿でした。今年は他にやるべき事があって忙しくてブログの更新は少なくなりましたが、また来年はこちらにも熱を傾けて更新していこうかと考えていますので、よろしくお願いいたします。それでは、よいお年を!


マルクスもニーチェもフロイトも予言できなかった世界………
歴史のある時点から《資本主義》が人間の《病理》を追い越してしまったのだわ



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  1. 2016/12/31(土) 23:00:25|
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劇画(188) H・P・ラブクラフト 3 宮崎陽介 1 「邪神伝説 クトゥルフの呼び声」

H・P・ラブクラフトのコミカライズ作品続きで、今夜は宮崎陽介先生の「邪神伝説 クトゥルフの呼び声」(PHP研究所刊)。
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本作は帯に『恐怖神話の原点小説が ついに漫画化!!』とあります。
あの水木しげる先生が貸本漫画時代から「地底の足音」はラヴクラフト小説にしてクトゥルフ神話作品の一つである「ダンウィッチの怪」を漫画化しているし(他にも水木しげる作品にはラヴクラフトの小説をベースにした物語が散見されます)、映画にアニメにゲームに音楽と飽きるほど元ネタとして使われているクトゥルフ神話に対して、この本が出た2009年に何を今さら言うのかといった感じでしたが、これはこの出版社では初めての事というほどの意味で良いでしょうか。

で、この出版社というのが松下幸之助が創設したことで知られるPHP研究所。何故か近年クトゥルフ神話の本とかラブクラフト物をたくさん出してましたね。
この後も宮崎陽介先生は「戦慄のクトゥルフ神話 狂気の山脈」「クトゥルフの血族 ダンウィッチの怪」「クトゥルフ神話の宇宙怪物 闇にささやく者」…等々と描いていきますし、他の漫画家も含めるとPHP研究所のクトゥルフ神話シリーズは乱発気味になり、私が見ただけでも10冊くらい出てたかな。まぁ、それだけ売れているのでしょう。ラブクラフト物がそのように巷に溢れているのはファンとして嬉しくもあります。もうちょっと質が高ければ文句ないのですが…

そう、表紙だけ見て購入したこの本ですが、あまりにも漫画ページが下手、お粗末すぎる。画力だけでなく漫画に関する全ての力量が未熟すぎるのに、よりによって傑作小説であり漫画にするには難易度の高い「クトゥルフの呼び声」に挑戦しちゃっているのですね。
元々が異形の者が登場する小説でラヴクラフトもまさか漫画になる事など想定していないし、読者は各自が想像している物もあるのだから絵で視覚化されてしまうとギャップがあるのはしょうがないのですが、これではあまりにも…名作が泣いていますよ。いや、まだ経験と技量の浅い作者を攻める気もないのですが、この仕事をオファーしたのは誰だ!
でも宮崎陽介先生はまだクトゥルフ神話を描き続けていて画力もマシになってきているし、今後も長きに渡ってラヴクラフト漫画家として活躍していける人を長い目で見て採用したのかもしれません。

ただし本作にも良い所はあって、ひどい漫画の合間に活字ページでラブクラフトの解説ぺージがたくさんある事。
前書きから巻中、後書きと長々文章を書いているのはクトゥルフ神話研究家の森瀬繚氏で、ラヴクラフトの代名詞とも言える生誕地・アメリカのプロヴィデンスまで訪ねて取材を行っているそうだし、とにかく分かり易いラヴクラフト入門と言えます。ラヴクラフトが生きてた当時の状況から、彼が何故オリジナルの神々を創造し始めたのかのルーツ、クトゥルフ神話とは何か、どのような作品を書いて世界に(もちろん我らが日本を含む)どう影響を与えたのかまで詳しく解説してくれています。
宣伝文は『ついに漫画化』でしたが、本作は活字ページがかなり多く、しかもそちらで何とか価値が保たれたという…そんな本でした。


ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん!


  1. 2015/12/24(木) 23:00:29|
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劇画(187) H・P・ラブクラフト 2 田邊剛 1 「アウトサイダー 」

H・P・ラブクラフトのコミカライズ作品で続けますが、今夜は田邊剛先生の「アウトサイダー 」(エンターブレイン刊)。
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田邊剛先生は1975年生まれで、2003年にアフターヌーンの四季賞を受賞した「砂吉」でデビューの実力者。
本作はラヴクラフトが1921年に書いた小説「アウトサイダー」(The Outsider)を漫画にしたのを表題作にした2007年の作品集ですが、これが田邊剛先生にとって初の単行本。ラヴクラフトも、商業刊行物としては初めて上梓した作品集がこの「アウトサイダー」(The Outsider)を表題作にした『The Outsider and others』でした。ラヴクラフトの場合は生前に名声を得る事は無かったので、本人の死後に『クトゥルフ神話』の立役者であるオーガスト・ダーレスが"アーカムハウス"というラヴクラフトが創造した架空の都市にちなんだ名称の出版社まで立ち上げて出版したものですけどね。

帯を見ればお分かりの通り、あの松本大洋先生が絶賛している田邊剛先生の作品集。
トップの「アウトサイダー」は原作をほとんどいじらず正攻法で忠実に漫画化していますが、画力が高く画風もストーリーと合っているので、違和感なく読者を作品に引き込んで読ませます。本当、今まで読んできたラヴクラフトのコミカライズ作品で、これが一番上手いかもしれません。
田邊剛先生はホラー物を描きたいと思って色々な恐怖小説を読んでいたらたまたま出会ったのがラヴクラフトだったそうですが、その後は特別に思い入れてもいるのでしょう。この画力がさらに発展して、後に難易度が高いラヴクラフトが創造したオリジナルの神々が登場する作品にも挑戦していく事になります。それらも昨年から今年にかけて発売された単行本「魔犬 ラヴクラフト傑作集」「異世界の色彩 ラヴクラフト傑作集」で読む事が出来ますよ。もちろん凄い傑作!

続いても小説原作モノで、ロシア文学が続きます。
アントン・チェーホフの「中二階のある家」、そしてマクシム・ゴーリキー「二十六人の男と一人の少女」ですね。古典的な純文学、それも社会主義リアリズム作家の作品なんかは漫画にするには娯楽性の部分で厳しいかとお思いでしょうが、これが全く退屈させずに読めて面白く、しかも原作の思想を損なわずに上手く漫画にしていると思います。デビュー直後と言える時期に描いた作品でこれだから、いやー凄い漫画家です。

そして後半はオリジナル作品で、『呪画』の連作シリーズ5編。
それぞれ「呪画」「續呪画」「呪画之参」「呪画之四」「呪画之伍」とタイトルが付いていて、人が人を喰い、生首が転がる1話目の表紙がいきなりヤバい。
江戸時代中期の日本を舞台にした時代劇ホラー漫画で、主人公の幻象義梵は僧にして絵師。墨が溢れる巨大な筆で呪画を書くと、その中に取り憑いた魔を封じ込めて人を救う話。この名前からして、同じく江戸時代の僧で絵師の仙厓義梵がモデルなんですかね。絵のスタンスや作風はあまりにもかけ離れていますが。

凄い絵の上手さと個性を持つこの漫画家・田邊剛先生。オリジナル作品も描けるのに、後にまたH・P・ラブクラフト作品を描いてくれている事に喜びを感じ、感謝の念でいっぱいです。


おれはどうして ここへ戻ってきたのか…
この場所を あれほど嫌悪していたのに…
だが…ここより他に おれは何処へ行けばいいというのだ?



  1. 2015/12/20(日) 23:00:31|
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劇画(186) H・P・ラブクラフト 1 松本千秋 1 岡本蘭子 1 「ラヴクラフトの幻想怪奇館」

今夜は松本千秋岡本蘭子画による「ラヴクラフトの幻想怪奇館」(大陸書房刊)。
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ホラー漫画雑誌のホラーハウスにて、H・P・ラブクラフト(ハワード・フィリップス・ラヴクラフト、Howard Phillips Lovecraft)の短編小説を原作としたコミカライズ漫画が1989年から翌年まで掲載されたのですが、それらを集めてホラーハウスコミックスより全1巻で出たものです。
当時はラヴクラフト作品がコミカライズされる事は珍しかったのではないでしょうか。二人の漫画家が順に描いているのですが、収録作品は…
「レッドフックの恐怖」(松本千秋)
「魔犬」(岡本蘭子)
「エーリッヒ・ツァンの音楽」(松本千秋)
「死体安置所にて」(岡本蘭子)
「アウトサイダー」(松本千秋)
「宇宙からの色」(岡本蘭子)
と、なっています。

この時に原作として使われた本は、創元推理文庫の「ラヴクラフト全集」(東京創元社刊)。
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日本でラブクラフトの本といえばまず一番目に入るのが、全7巻で出たこの全集文庫版ですね。よって大西尹明、宇野利泰、大瀧啓裕、各氏の訳を基にしています。

1巻の初版は1974年ですが、それからゆっくりゆっくり刊行していき…6巻が出版されたのは1989年。よって私が集め始めた時は6巻まで出ていたものの続巻が1990年代には出ず、もう出ないのかと諦めていました。というかもう待つのも止めて諦めていた2005年に、突如全集を締めくくる7巻が発売!そのニュースは逃さず情報を得た私は当然飛びついた!
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そんなに動きが無かったシリーズでしたが、やはり7巻が出たのは待ち望んでいた読者達を喜ばせてよく売れたのでしょうか。
今度は大して時をかけず2007年には同じ創元推理文庫より、「ラヴクラフト全集 別巻」が上・下巻の全2巻で上梓されました。
何でこれが通常の全集に入らなかったかとい言えば、補作して手を加えたヴァージョンなのですね。
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イチ古本コレクターの立場としては、本当は矢野浩三郎監訳で函絵にH・R・ギーガーが使われた豪華な「定本ラヴクラフト全集」(国書刊行会刊)がお薦めなのですが、やはり文庫の方が圧倒的に手頃で普及しやすいですね。
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で、ギーガーといえばラブクラフトから強い影響を受けた画家でもありますが、PCエンジン初のRPGとしてハドソンから発売された「邪聖剣ネクロマンサー」のジャケ画に使用されていました。
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このゲームが1988年のリリースで、1977年生れの私としてはまさにドンピシャないい時期にリアルタイムで遊べたゲーム。いや、本当はもう少しお兄さん向けだったかな…当時としてはかなりグロかったし、ガキにとっては難し過ぎて皆が途中で諦めてましたからね。本当、諦めずに続けてクリアしたって人は私以外で知りませんよ。
しかもキャラクター名がクトゥルフ神話のから取られているし、作品のダークな世界観も同様にクトゥルフ神話を題材に使っていたんじゃないかな。もちろん当時はそんな事は知らず、ずっと後の10代後半時に海外怪奇小説にハマって必然的にラブクラフト作品に出会い、すぐにあの思い出のネクロマンサーはこれが元ネタだったのかと気付いた次第です。

本当にこれ以上無いくらい大好きだったゲーム「邪聖剣ネクロマンサー」、1990年代以降のようにそれまでのデータがゲームソフトにセーブ出来るなんて事は定着しておらず、毎回パスワードをメモする必要がありました。しかも敵キャラは動くし倒すと血しぶきあげるからか凄いデータ量のゲームで…長い長いパスワードでした。たまに「ドラゴンクエストII 悪霊の神々」の『ふっかつのじゅもん』が長かったと懐かしむ人がいますが、あんなもんじゃないです。ひらがなカタカナだけでなく、英字も混じってましたからね!
それがいい所もあって、実は自分ではPCエンジンを持っていなかったのにパスワードを書いたメモ片手にPCエンジンを持っている家や、安くやらせてくれるおもちゃ屋を訪ねてプレイし、長い長い時間をかけて進めていった記憶があります。

前田俊夫先生によるコミカライズ版「邪聖剣ネクロマンサー」(JICC出版局刊)だとか、
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ゲームブック版「邪聖剣ネクロマンサー イシュメリアの悪夢」(勁文社刊)も買ったし、
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…って、うわ!当時遊んでた『チェックシート』が本にはさまってた。この用紙に直接鉛筆で書き込み、消しゴム使って遊んでいたわけですね。
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当時読んでいた(遊んでいた)ゲームブックなんて全部処分してしまったけど、このネクロマンサーだけはギーガーのジャケ画が好きだったのでまだ手元に取ってあります。もちろんずっと後でギーガーの画集なども買い集めるようになったし。

おっと話をH・P・ラブクラフトに戻します。
まずラブクラフトをまだ知らない人もいるかもしれませんね。アメリカ合衆国のロードアイランド州、プロヴィデンスという街で1890年に生まれ住んだ宇宙的恐怖小説家で、時期によって色々ありますが何と言っても、オリジナルの神々や地名に魔道書などを創作してつくり上げた架空の神話体系…いわゆる『クトゥルフ神話』があまりにも有名。
現在では怪奇・幻想文学のジャンルであのエドガー・アラン・ポーと並ぶ評価を受けていると言えますが、生前は作品がパルプ・マガジンで掲載されていたのもあり、彼の真価は死後20年以上経つまで認められなかったそうです。友人で作家のオーガスト・ダーレスが体系化して展開しなければ、クトゥルフ神話も我が国で簡単に読める状況になっていなかったのでしょう。
私が怪奇小説を読み漁っていた若き日々には当然ながら避けて通れない作家であり、すぐに熱中する事が出来たのは幸運でした。もちろん友人や後年の作家達が設定を引き継いで書き続けているクトゥルフ神話も出来る限り読んできました。クトゥルフ神話の映画化作品はもちろん、自然とクトゥルフ神話に影響を受けた作品なんかにも親しんできたと思います。

そのクトゥルフ神話は複雑だし、これについて書いていくと長くなりすぎるので説明を省きますが、今回紹介の漫画版「ラヴクラフトの幻想怪奇館」
まずラヴクラフト小説を漫画化という試みをしてくれた事に感謝しておきますが、原作ファンとしては説明不足な部分が多い事に悔しさを覚えます。もちろん少ないページ数で描いているので無理もないし、絵もあまり特徴が無い少女漫画のそれで描かれていますが、でも意外と悪くない…かな。
世の中には活字が苦手で漫画好きな人が数多くいますので、それらの方々にもこうして読みやすく提供し、ラヴクラフトやクトゥルフ神話を広めていければ良いですね。

オリジナル作品は活字なのであって読んで読者が想像する事を狙って創造されているわけですが、神話の神々だの宇宙生物だのは絵にするとガッカリする可能性も高い。可視化して子供向けの怪獣みたいになったら、あの震えるような雰囲気が損なわれてしまいますからね。よってそれら異形の生物がはっきりと出る作品を避けたラインナップなのも良かったのでしょう。少女漫画絵といっても人体破壊やその他、それなりにホラーシーンはあるし。
巻末にはラヴクラフト作品の翻訳者である大瀧啓裕氏による活字ページで『ラヴクラフトの世界 異次元の恐怖にとらわれて』が収録されています。


夜に
じっとしているものは
なんにもない…

何かが
吸いとられている
何か…



  1. 2015/12/16(水) 23:59:32|
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劇画(185) 風忍 2 「バイオレンス&ピース」「ガバメントを持った少年」

風忍作品の紹介を続けます。

前回紹介した「地上最強の男 竜」はカルト漫画として金字塔を打ち立てた作品ですが、それ以上にぶっ飛んでいて破茶滅茶な世界観を持つのが実は短篇の数々。
それを楽しめるのが、私が風忍先生を知った当初に入手したこちら、奇想天外コミックスで1980年出版の「バイオレンス&ピース SF短編集」(奇想天外社刊)。
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収録作品は…
1980年の「男は度胸」
1978年の「心の内なる声を聞け!」
1978年の「宇宙へ向かってとび出せない」
1976年の「絶滅者」
1978年の「超高速の香織」
1976年の「ガバメントを持った少年」
という順になっています。

オープニングの「男は度胸」、アメリカの雑誌・HEAVY METALに載ったオールカラーの作品ですが、これがいきなり凄い傑作!
『おれはヤクザだ おれはだれにもまけない強い男だ』
で始まる本作も「地上最強の男 竜」と同様に子供が考えたような設定が目立つ本作ですが、この絵とよく分からない精神世界を絡める事でもしかして深い世界を表現しているのかと心地よく騙されるんですよね。オチまで、正に風忍作品だなぁ。
それに何と美しいサイケデリックな色使い…まぁこの部分は横尾忠則の影響が強すぎる気もしますが。

この単行本は『SF短編集』と付いているように、どの作品でも未来的なマシンや装備なんかが惜しみなく出てきますが、それらがまたカッコいいんですよね。フィリップ・K・ディックあたりのSF小説で読んだような内容・テーマの話なんかも、これを絵にして違和感無く読ませる漫画家は風忍先生の他にほとんどいないと思いますよ。

「超高速の香織」だけオリジナルでなく、後藤俊夫原作の作品。
女性科学者の香織が実験成功して作った加速剤を飲み、1秒を2698秒(45分)として体感する時間感覚になっている時に…このタイミングでF-15ジェット戦闘機が墜落して突っ込んでくる事に気付き、数秒後に激突する事が分かります。
加速剤といっても要は「サイボーグ009」の加速装置と同じだし、009以前にもSFでは出ていた物ですが、本作で面白いのは加速剤を飲んでいないまだ乳児の息子の俊一、もちろん生身の肉体である赤子を連れて脱出しなくてはならない事。
加速している時間の中でも人間が普通に歩いたりしていた初期のSFと違って、ここではどうなるかをしっかり描いています。よって加速には耐えられない赤子と加速している香織とでビルを脱出する事がサスペンスを生む!

凄い…これもあれも、全部凄い。
とはいえこれらは誰もに薦められるわけではなく、かなり読者を選ぶでしょう。私自身も本作に出会ったのが確か10代後半とかで、もうガロとか読んでたし変わった作品にも慣れていた時期なので感銘を受けましたが、それ以前の普通の少年漫画しか読んでなかった時期なら全然ワケ分からない漫画というだけの評価で投げていたかもしれません。

そしてQJマンガ選書より1997年出版の「ガバメント(軍用拳銃)を持った少年 自薦短編集」(太田出版刊)。
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初期はサブカルチャー雑誌だったQuick Japan(クイック・ジャパン)ではカルト漫画を再評価する事に多大な貢献をしていましたが、その一環でこの単行本が出たのです。
収録内容は「バイオレンス&ピース」ともかなりかぶり、「男は度胸」「宇宙へ向かってとび出せない」「絶滅者」「ガバメントを持った少年」「超高速の香織」と、6編中5編までが再録されています。1編だけ風忍先生から『自薦』されず外れた「心の内なる声を聞け!」の立場はどうなるのですか、しかもあんなに名作なのに!

ともかく単行本「ガバメントを持った少年」は収録作品数がより多いし、サイズも大きい。上記の作品の他には、
1981年の「HEART AND STEEL」
1984年の「花鳥風月」
1986年の「愛染転生」
1984年の「霊体人間」
と、先の単行本が上梓されて以降の1980年代作品がいくつか読めるのですね。

こちらでは「男は度胸」に続いてもう1編、やはりアメリカの雑誌・EPICに載ったオールカラーの作品「HEART AND STEEL」が続きます。
え、え?え~~!!これは…
はい、やはり風忍作品は漫画というより美術作品、どちらかというとバンド・デシネのように楽しむのが良いのだと思わせてくれます。

他の80年代作品を読んでも、あんな軽薄短小化の時代にあっても既に特殊な作品世界を完成させている風忍先生は惑わされる事無く、変わらず独自の感性で異様なモノを描いているのが分かって嬉しい。オカルト色は若干強まったか!?
とにかく金が儲かりそうな普通の漫画を描こうかなんて気持ちは、これっぽっちも持ってなさそうですもんね。
漫画の定跡を破りまくっているので普通の漫画読者が付いて行きにくいでしょうが、でもこの作品の難解さ、人によってどうとでも解釈される部分。これは上手くいけば1990年にもてはやされた、というか勝手に深読みとか考察しまくって社会現象にまでなった「新世紀エヴァンゲリオン」のように扱われた可能性もあったかも…いや、ないか。

この単行本では巻末解説で増子真二、宇田川岳夫、石井聰互、米沢嘉博と初期Quick Japan読者には嬉しい面々が参加しています。
特に石井聰亙(現・石井岳龍)監督は私も風忍先生に出会うよりずっと前から大好きだった映画監督ですが、実は音楽活動も行っていてボーカルとして『石井聰亙&バチラス・アーミー・プロジェクト』というバンドを率いていました。で、あのサイバーパンク映画「アジアの逆襲」では音楽も担当して同名アルバムもリリースしたのですが、そのジャケを描いているのが風忍先生ですよ。
Bacillus-army-project.jpg

あと、1990年代の半ばに角川ホラー文庫より出ていた『ホラーコミック傑作選』のHOLYシリーズ。
あの第2集はやけにマニアックな作品が集められていて、風忍先生の1986年から翌年までに描いて単行本未収録だった作品が「死霊の涙」「神秘鏡」「殺人鬼には死を」「エンゼルの瞳」と、4編も収録されていて嬉しかったのが思い起こされます。まぁ、大方の読者は一人だけわけわからない漫画を描いていると思っただけかもしれませんが…その中の一部、不特定少数でもこういったカルト漫画に目覚めてくれたら嬉しいですよね。


その時 ぼくの 潜在意識 を通して その言葉 が突然 口から とび出し て来た それは ……

進化だ!



  1. 2015/12/10(木) 23:00:00|
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プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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