大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

手塚治虫(14) 「ブルンガ1世」

続いて手塚治虫作品で、今夜は「ブルンガ1世」(大都社刊)です。
TEZUKA-burunga1.jpg
1968年から一年ほど冒険王(秋田書店刊)にて連載された作品で、スターコミックスで全2巻。

後に同じ大都社から、こちらの厚い版が全1巻で再発しました。
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大都社から出ている手塚治虫作品は特にいいモノが多いのです。

当初は手塚先生が放送されるテレビアニメを意識して描いた作品ながらその企画が中止になり、漫画の神様も恐らくは人生で一番人気が低迷していた時代で虫プロも倒産したし、スランプの時に描いた作品。
そして作者自身も失敗作と認めていたのですが、私の中では意外と好きな作品でして、マイナーな部類ながらテーマも良いしスケールもでかい!

ある春の宵に平凡な少年・ジロを訪れた汚いじいさん。彼は20億年くらい前に神様と地上にいろんな生き物を作ったそうで、その名も…悪魔。
じいさんの姿をした悪魔が新しい生物を作ったのですが、わけあってそれをジロに受け渡します。
その生物がどんな姿と能力を得るかは飼い主が最初に願う事で決まるのですが、偶然出会った片桐太郎という…アメリカでイエロー・マイスの異名を取る銀行ギャングだった男と共に願います。
それから二人の願いが合わさった姿で誕生した生物こそが作品タイトルのブルンガ

姿は女の子向きの可愛い子犬のようなのですが、すぐにその姿は変身して巨大化・凶暴化する事も分かります。
しかもその強さは、米軍基地を襲って暴れに暴れて破壊しまくれるほどでした。
ただ世界にたった一匹の生物ですので、いくら可愛い姿に戻ってもどこにも仲間はいない。どんな動物にも仲間外れにされて、
『おまえはこの世でたった一匹 ほんとうにひとりぼっちの動物なんだね…』
と同情して遊んであげる、心優しいジロでした。

ちなみにこのブルンガの可愛いバージョンである姿は、後に描かれる「ユニコ」の主人公であるユニコーンの子供や、アニメ「青いブリンク」の雷獣・ブリンクにもかなり似ていますので、手塚治虫先生もそれなりに愛着を持っていた…と、思いたい所ですね。

さてブルンガをジロに託して去った悪魔ですが、彼は実はもう一匹同じ種族を作っていまして、その名もブルンゴ
ブルンガとつがいになる唯一のメスで、そちらは大悪党であるガノモス(顔はいつもの手塚流スターシステムでいう所のロック)を飼い主にして姿と能力を願わせたものだから、後に本物の悪魔のようになってブルンガと対立します。
ガノモスもイエロー・マイスと因縁浅からぬ仲で、二人の対立も描かれていきます。

この作品のタイトルは「ブルンガ1世」…すると当然、ブルンゴとの間に出来たブルンガ2世も登場してくるのですが、その誕生の仕方は妊娠中の母体であるブルンゴの体を棒でどつきまわし、そのため苦しみと憎しみと絶望の中で生まれた卵は残忍な幼虫に育ち…
愛らしい姿にもなる両親のブルンガとブルンゴと違い、ブルンガ2世は血も涙も無い悪魔でした。

それもクライマックスではブルンゴが増やした醜い畸形の妖怪みたいなブルンガ一族5千匹が人間界に攻め入ってくるのです!!
それを彼らの同属、親であるブルンガが、優しさを持って自分を生んでくれた友達のジロのために一匹で立ち向かい…
ブルンガの圧倒的な強さは自分の子供達5千匹に続いて、結局は悪の心(人間から見てですが)に染まった妻のブルンゴも倒しますが、迎えるのは自分も力尽きて種族根絶やしになって死ぬ悲劇。ジロとも涙のお別れです。

人間に渡して新生物の性質を決めさせた悪魔の狙いは、神様も文句が言えないように人間自身が作ったモノで世の中をメチャクチャにする事にありました。
そうするとジロ少年の優しさで生まれたブルンガによって世界を救い、悪魔の計画を失敗させたわけです。
しかし悪魔自身は生きてまた『何回でも化物を作っていつかこの地上を悪魔の世界にしたる』とか言って去るアンハッピーエンド。
ラストだけではなくジロと同じく人間ではもう1人の主役とも言えるイエロー・マイスの復讐劇等、やはりこの時代の手塚治虫先生の暗さゆえ、ヒーロー物みたいなSF作品でも能天気に問題解決してハッピーみたいな内容は許されなかったのでしょう。
そういう所に見える怒りや負の感情表現などが現れた作品こそ、漫画の神様も全然品行方正なだけの人では無いと分かるし、私にとってはそのまま作品の面白さだとも思えるのです。


泣くなっ ジロッ
どんなくるしいことがあっても
おれはけっして泣かなかったぞ
いつも未来を信じてがんばった
おまえも男だろう べぞをかくなっ



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  1. 2009/10/30(金) 23:30:58|
  2. 手塚治虫
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手塚治虫(13) 「ミクロイドS」

今夜は手塚治虫先生の「ミクロイドS」(秋田書店刊)です。
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週刊少年チャンピオン誌上で1973年に連載された作品で、単行本は全3巻。

大好きな手塚治虫作品の中でも特に思い入れもあり、私のとっておきのお薦め作品の一つです。
かつてテレビアニメ化もされたのですが、意外なほど知名度が低くて悲しいのですが。そうそう、あのアニメ化は漫画と同時進行の企画だったようで、主要キャラクターは同じながらストーリーはあまりにも違います。
さらに手塚治虫先生が「ミクロイド」というタイトルで進めていたら、アニメのスポンサーの意向で"Z"の文字を付け加え、チャンピオンで連載開始時は「ミクロイドZ」で開始されたのですが…すぐにスポンサーが時計のSEIKOになったために"S"を使って「ミクロイドS」に変更したという、トホホな話もあります。
まぁZでもSでもストーリー上では関係ない事なのですが、内容はとにかく文句なしに面白いです。


アリゾナ砂漠を歩く主人公達の3人組が超巨大なコヨーテに襲われるのですが、実は自分たちの方がミクロイドというミクロサイズ…つまりは非常に小さい縮小人間だったというオープニングでまずワクワクしますが、彼らはアリが進化して知能も能力も人間よりはるかに優れてるギドロンという種族の奴隷という立場から逃げ出し、追われているのです。

3人のリーダーはヤンマで、父・クロロクの命により人間社会へギドロンの存在と陰謀を知らせ、共に戦うという目的を持っています。
連れのアゲハという美女は兄・ジガーの婚約者で、ジガーというのは父に同じ命を受けながらもギドロンの側へ付いて敵に回り、最後まで敵として戦う事になる奴。アゲハも実はギドロンのスパイだったと分かるのですが、ヤンマの正しい心に打たれて本当の味方になります。
3人目の連れであるマメゾウはギドロンに殺されかけていた所をヤンマに救われた子供。

彼らミクロイドは昆虫サイズですが、昆虫の特性を生かしてパワーアップさせた戦闘能力も持ち、背には羽を持って空を飛び、頭から長い角を出して敵を切る…戦い方もカッコいいです。
さらにミクロイドの先祖は人間。大昔にギドロンが人間の赤ん坊をたくさんさらってきて何百年もの間に交配や実験を繰り返して縮小化して奴隷とした歴史を持つ、つまりは昆虫と人間の間の生物なのです。
ヤンマ、アゲハ、マメゾウの3人はついに人間の生活圏まで辿り着いてギドロンの存在についての警告を与えますが、誰にも信じられない上に見世物になれそうになって逃げて、辿り着いたのが我らが日本。飛行機に潜りこんで日本に着くなり、
『ひどいにおいのする所だぜ まるで毒ガスだ』
『こんな所にも人間が住んでいるのね』

とか言われちゃいましたが。

日本でもヒドイ目にあって最悪のピンチの時、ついに会えた人間の理解者がマナブ小山田という男子学生で、幸運な事にマナブの父はノーベル賞も取った世界的に有名な生物学者の美土路博士なのでした。
ミクロイドに関わったせいでギドロンの追っ手に惨殺された小山田!
そして、ギドロンの主・ゼルギによって怖ろしい殺し屋を手下に与えられたジガーが、弟のヤンマを殺しにやってくる…

自分のペンネームも本名に『虫』の文字を付け加えて作ったほどの昆虫好きでもある手塚治虫先生が、昆虫と人間が破壊し続ける自然なんかもテーマに描かれたこの「ミクロイドS」
虫の攻撃もリアリティーのある怖さがあります。ハチはみんな静脈の上を刺し、カメムシは鼻の穴からもぐって窒息させて人を殺す!しかし大雨が続くと飛べないとかの弱点もあります。
ただ昆虫たちの一斉攻撃が始まると、人間の力などものの数ではなく死体が山となり、街は廃墟と化していき、つまりは人類の終末も間近に迫ってくるパニック活劇なのです。

しかも虫に対する愛情が深い手塚先生、人間社会など昆虫のまえでははるかに劣っているし、第一人間は自分の住んでいる地球をめちゃめちゃに汚して使い物にならなくしようとしているし、ギドロンや虫たちが望んでいるのは緑と澄み切った空気に包まれた自然のままの地球だと言う。
さらにパニック時の暴動などで人間の醜さも描き、どちらを応援すればいいのか分からなくなってきます。
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ギドロンが操る人虫がたっぷり入った人間そっくりのマネキンや、無法者のスケバングループが絡み、そして昆虫達の攻撃の輪の中に入っても何故か全く襲われずにいるルンペン達の謎とは?

環境破壊を繰り返す人類に対する警笛の意味もある作品ですので素直なハッピーエンドではありませんが、急展開の最終回でヤンマVSジガーの兄弟対決にはしっかり決着が着いて完結しますので、見守ってあげてください。


このチャンピオンコミックス版では3巻の巻末に短編が2編併録されていまして、まずはマネキン人形をユカリちゃんと名付けて生きた人間として愛するレーサーの奇妙な話「風穴」
そして「海の姉弟」という、「ミクロイドS」以上に人間の環境破壊を重要テーマとして扱った作品。
特に後者は悲劇のドラマとしてあまりにも傑作で、沖縄の海を舞台にオニヒトデを『宇宙人』と呼んで駆除してサンゴを守っていた姉弟の運命に涙します。

しかし手塚治虫先生の手からはホイホイと数多くの名作が生まれていますが、これが他の漫画家だったら生涯の代表作になるクラスの作品が、一体どれだけあるのでしょうか。


きみは虫の恐ろしさを知らない……
たとえ人間がどれだけ強大な文明を築こうとも……
昆虫はじっと待っている…人間を見守ってる…
そしてある日突然人間を襲う
人間はふいをつかれるんだ



  1. 2009/10/25(日) 23:50:23|
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藤子不二雄(26) 江戸川乱歩 1 「怪人二十面相」

今夜の藤子不二雄作品も"藤子不二雄ランド"から選んで…「怪人二十面相」(中央公論社刊)です。
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単行本は全2巻で、ジャケでも分かる通り藤子不二雄A先生の手によるもの。

当然あの江戸川乱歩原作の探偵小説「少年探偵団」シリーズを原作にしていて、映画やドラマにも何度もなっているので大怪盗、そして変装の天才である怪人二十面相を知らない日本人はいないでしょう。
この漫画版は1959年から1960年まで少年(光文社刊)で連載された作品で、このように初期藤子不二雄作品には原作付き作品も多く、それを読むのも楽しみなわけです。

私も幼い少年時代から江戸川乱歩の少年向け小説を読み続けていて、10代後半くらいになるとグロテスクで時に文学的な大人向け作品の方でますます心酔して読み漁った…
そんな大好きな作家であり、それを漫画化した藤子不二雄先生についてはもう、ここでは言うまでもないでしょう。
そんな大事な二人の組み合わせで出来上がった「怪人二十面相」なのだから、思い入れたっぷりな作品です。

少年読者ならばワクワクする事間違い無しのシチュエーションを持つ原作を、忠実に丁寧にコミカライズしている…といった印象で、藤子A先生の個性はさほど出ていないのですが、この時代だとこの位で上出来でしょう。
少年探偵団シリーズの第1作目から描いているので、ご存知名探偵・明智小五郎の助手である小林芳雄(小林少年)が結成された少年探偵団の団長になる所から読めるし、ポケット小僧らの団員達もしっかり登場します。

同じ少年探偵団シリーズではあるのですが、長編「怪人二十面相」に続いて「鋼鉄の魔人」「海底魔」の2話が併録されています。
さらに、1,2巻両方に「怪人二十面相クイズ」もあるので、機会があれば解いてみてください。

今回の江戸川乱歩VS藤子不二雄合作は、あくまで幼い少年向け作品。
それより共にダークな大人向け作品の名作を生んでいるのだし、当時と違って今や大人が当たり前に漫画を読む時代…
そう、今こそ「踊る一寸法師」「芋虫」「盲獣」あたりの系統の作品を、"黒い"作風の藤子不二雄A先生が描く、約50年ぶりの合作を望んでやまない私です。


そして、FFランド版といえば巻末の描き下ろし連載漫画。
この「怪人二十面相」では、まず1巻で「ウルトラB」の最終回という超重要作品が載っています。
「ウルトラB」自体はアニメ化もされているし知名度は高いと思いますが、最終回を読んでいる方は少ないでしょう。全11巻の単行本はも現在は絶版だし…
しかもあっけに取られるラストで、この件についても漫画オタクと呑んでる時なんかに語ろうとするのですが、なかなか話が通じないのは残念な所です。

続いて2巻。こちらは描き下ろし連載ではなく、特別に過去作品を載せています。
1955年…まだ若かった藤子不二雄A先生が、アンソニー・ホープの有名な冒険小説を原作に描いた「ゼンダ城の虜」です!
これも上手くまとめたコミカライズで、しかも自伝漫画「まんが道」の中でも重要な所で出てくる作品ですので、読んでおくべきでしょう。


小林くん
フィルムは取りもどすこともできるが
きみはかけばえがないんだよ

小林くん
元気を出すんだ!
正しい者はきっと勝つんだよ



  1. 2009/10/20(火) 17:22:34|
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藤子不二雄(25) 「くまんばち作戦」

今夜も藤子不二雄作品を"藤子不二雄ランド"からで…「くまんばち作戦」(中央公論社刊)です。
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表題作は1962年に週刊少年サンデー(小学館刊)で連載された少年向け飛行機アクション漫画。
主人公はくまんばちジョーと呼ばれる丈二で、相棒のマーヤと呼ばれる弟・正也と共に少年ながら『空の用心棒』の仕事をしています。
彼らが乗るのは"くまんばち号"…というくまんばちの形をした万能飛行メカで、少年のアイデアを実現させたようなユニークな機能で敵を倒します。

敵…というのがどんな組織なんだか分かりませんが、とにかく"悪者"という存在で横のつながりがあり、わずか全5話の「くまんばち作戦」の1話につき1敵機。
それがくまんばち号にやられると次の回の敵にバトンを渡す形で進行していくのです。
ちょうど既にこのブログでも紹介した「海の王子」と同系統で、舞台を海から空に移したような作品で、敵のいかにもなコスチュームが嬉しい!

絵や表現方法も分かりやすい勧善懲悪の形も、今の読者には古く感じちゃって、思い入れが無いとキツイのかな~。
まだまだ藤子不二雄も大ヒット作は無いただの漫画家で、もちろん藤子不二雄A先生が「黒い」作品を描き始める前の作品でした。


さてこのFFランド版の「くまんばち作戦」には、巻末で描き下ろし連載していた「ウルトラB」の他に、5編もの併録作品があります。

4部構成の中編「水艦シュンケル号の暴動」、短編「南部戦線異常あり」「砂漠の牙」と戦争漫画が続き、雪男の謎に迫った「海抜六千米の恐怖」、わずか4ページのボクシング漫画「鉄拳の怒り」がそうなのですが…

「水艦シュンケル号の暴動」以外は全て藤子不二雄A先生がまだ20歳で、プロ漫画家を目指して藤子・F・不二雄(藤本弘)先生と共に上京してきたばかりの1954年~55年に描かれた貴重な作品でして、後に描かれる自伝漫画の名作「まんが道」でも出てくるのでファンならご存知かつ重要な作品群でしょう。
もちろん、あの伝説の漫画少年(学童社刊)で掲載された作品です。

その出来の良さに感激する部分もありながらまだ個性が無くて、でもだからこそ、これが後に数々のヒット作を生んで国民的スター漫画家になる土台なのだと涙するのです。


おにいちゃん
ぼくは冒険 大かんげいさ!
おにいちゃんの行くところなら
どこだってついていくよ



  1. 2009/10/15(木) 23:16:02|
  2. 藤子不二雄
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藤子不二雄(24) 「仮面太郎」

今夜は藤子不二雄作品より、「仮面太郎」(中央公論社刊)です。
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1969年から約1年間、少年画報(少年画報社刊)にて連載された作品で、単行本は全1巻。過去に何度か単行本化されていますが、やはり私は"藤子不二雄ランド"版が好きですね。

さあさでました 仮面の太郎
花の素顔を見せもせず 泣くもわらうもみな仮面


というわけで、主人公はいつも仮面をかぶっていて、素顔を明かさない小学生。
本名も仮面太郎というこの少年が学校に転校してくるのですが、いつも仮面のその姿を先生方も黙認していて、その理由は嘘か本当か…交通事故で顔に大ケガをしたのでいつも仮面をかぶっている、という事になっています。

藤子不二雄、それもA先生の作品には仮面のヒーローとか正体不明の主人公が何人もいますが、藤子不二雄A先生自身が仮面(お面)が大好きで思い入れもあるのだそうで、そんな仮面に関して描いた作品の中でもこの「仮面太郎」が一番、仮面に重点を置いて描いているのではないでしょうか。
毎回仮面をテーマにした短編の連作形式で進むのですが、ギャグ漫画ながら藤子A先生お得意のオカルト色もあり、話自体もちょっと深くて良い。

キャラクターも個性的ですが、まずジャイアン的な役割といえる同級生の怪井バケ太が良いです。
彼は自分のヒドイ顔を気にしていて、それは本当に呪うほどのぶさいくコンプレックス!
自分の空想の中では必ずカッコいい顔になっていて、それがまた涙を誘うし、ギャグ漫画にされても笑えない…
同じく同級生の中にはおきまりのヒロインもいて、今作では鈴野レイコ、通称モナリザという超美少女ですね。
他にエビス目先生、野次馬トリオが主な登場人物。
あ、仮面太郎の両親も出ますが、どちらも仮面をかぶっているし、家は仮面だらけでした。

劇中にカクレミノ病という、お面をかぶると自分の顔が分からなくなるためにカクレミノでも着たように何をやっても平気だと錯覚してしまう病気が出てくるのですが、これなんか本当にありそう…
仮面までいかなくても、ファッション一つで性格に影響出てしまうのが人間ですからね。

仮面太郎の本当の表情は分からないけど、君の優しい気持ちは良く分かる…
完成度の高い話が続くだけに、短い作品になった事が残念でなりません。


仮面太郎よ!
おれはしってるぜ おまえがおれの顔をひきたたせるために
わざとヘンチクリンなお面をかぶったってことを
仮面太郎よ!
おまえってウレシイ男だなあ!



  1. 2009/10/10(土) 23:26:36|
  2. 藤子不二雄
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劇画(101) 山上たつひこ 1 「光る風」

今夜は、山上たつひこ先生の「光る風」(朝日ソノラマ刊)です。
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1970年に週刊少年マガジン(講談社刊)にて連載された作品で、単行本はこのサンコミックス版だと全3巻。
『暗い漫画が好き』とか言う人がいるといつもお薦めしちゃうくらいで、とにかく暗く重い内容です。
今では見る影も無い誌風になっている少年マガジン読者に言っても信じてもらえないかもしれませんが、この時期の少年マガジンはガロみたいと言われるほど実験的で青年向けの内容となり、問題作も多数出てきていたのです。そして、この「光る風」は特に凄い。

ではまず、山上たつひこ先生の紹介を軽くしておくと、1947年の徳島県生まれで大阪府育ちです。
この方も貸本劇画出身であり、1965年に「秘密指令0」で漫画家デビューしているのですが、初期は貸本出版社の社員として編集をやりながら描いていたそうです。
貸本で暗くシリアスな劇画、SF漫画を描いていた山上先生は、少年マガジンというメジャーの舞台に進出してからも「2人の救世主」「鬼面帝国」という、これもファンの多いシリアス漫画を発表したのでしたが、その次に上梓したのが今回紹介する「光る風」です。

この「光る風」が少年漫画としては明らかにヤバさの限界を超えているのですが、それが連載終了すると一転してノリの軽いファンタジー漫画「旅立て!ひらりん」、そして…突如馬鹿すぎ、面白すぎの実験ギャグ連作「喜劇新思想大系」、さらにあの大ヒット作「がきデカ」と続くのですから、底が知れません。

「がきデカ」…1974年から週刊少年チャンピオン(秋田書店刊)で連載された、ハレンチでお下劣、そして汚いこの作品(褒め言葉)は、日本初の本格的ドタバタ物ギャグ漫画とまで言われて大ヒットし、後のギャグ漫画にも大きな影響を与えました。変態少年警察官・こまわり君の『死刑!』はご存知の方も多いでしょう。
「がきデカ」のヒットのせいでギャグ漫画家のように思われ、確かにそちらの才能も抜群だった山上たつひこ先生ですが、それでは何故シリアス漫画からギャグ漫画に転身したのか。そのきっかけとして「光る風」を描いた後、右翼の者に刺されて重傷を負ったという事実が一因としてあるらしいです。それだけ政治的にも問題作であり、重ねてこれが少年マガジンで連載されてたというのも驚くばかりです。
何しろ奇形や原爆やらのタブー触れた、さらに左翼イデオロギー溢れるヤバイ作品ですからね…。
ちなみに山上たつひこ先生は「ブロイラーは赤いほっぺ」(河出書房新社刊)で小説家としてもデビューし、その後漫画家を引退して山上龍彦名義で小説家に転身しています。

あの「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の作者・秋本治先生がデビュー当初使っていたペンネームの山止たつひこ名義は、この山上たつひこ先生のパロディである事は、まぁいちいち言わなくても分かりますよね。


---------------
さて「光る風」、作品の舞台はXXXX年の日本です。
年号はこんなですが、明らかに戦後数十年の…つまり現代か、当時から見てごく近い未来をイメージしていいと思います。いや、どの時代とかではなく、軍国主義がそのまま残ったか復活した、こうあったかも(なるかも)しれない戦後の現代日本だと思った方がいいですね。

冒頭。大杉という高校教師が生徒三人を連れて一般人の上陸が禁止されている出島に上陸し、ここで行われている醜い奇形の人(フリークス)達のお祭"異形祭"を目撃しますが…ただ踊っているだけなのにすさまじい光景です。
彼らはその名も"藻池村事件"という、かつて流行した謎の奇病の被害者。政府が建設したその人工の出島に、大量発生した奇病患者・奇形児ら藻池村出身者は強制移住させられているのです。
いきなり大きな陰謀を匂わせますが、この藻池村事件を軸に物語は展開していきます。

主人公はここで特務警察に見つかって服役した大杉の生徒で、しかし連れていかれた生徒ではない…六高寺弦
父の甚三郎が元陸将、兄の光高は国防隊の幹部候補生というエリート軍人の家系に生まれ育ちながら、凝り固まった愛国心やその境遇が我慢出来ずに家を出て、権力に立ち向かっていく。
それもそんなにカッコいいものではなく、巨大な力に翻弄されてひどい状況に追い込まれていくだけだから恐ろしい話です。

学生ながら自立して"旭出版"で働くことになりますが、そこの社長・古谷信吉が実は藻池村の出身者という秘密と奇形の一人娘を持ち、藻池村事件の真相を暴くために地下活動をしている事が判明。
その手伝いをしたいと申し出た弦は、ますます国家権力に対する憎しみを深めて活動し、憲兵隊に逮捕されて拷問の末に死体以外は釈放しない収容所へ入れられますが…ついに便所の排泄口から糞尿が詰まった25メートルのパイプを泳いで脱走。

革命を狙う出島のフリークス軍団、汚いアメリカ軍の陰謀と一部の日本国軍人のクーデター…それぞれの人生が絶望と共に描かれますが、弦たちも破滅に突き進んで行きます。
過剰に残虐な殺人シーンもありますが、何と言っても衝撃的なのは弦の兄・光高。国防隊の一員として出征した彼は、負傷により早い帰国をしたのです。そしてその姿は手足の無いダルマ状態!

惨めな姿になった光高は性格も歪んでしまい、六高寺のお手伝いで弦を慕う
『そんなに・・・・いやらしいか きたならしいか このからだが!
そうだ おまえはいつもおれを見るたびに思っているのだ
「ヌルヌルとしてまるで・・・・イモムシのようだ」
「ダルマだ グロテスクな生きたダルマだ」と!
はははは そうだな・・・・な 雪・・・・ムリもない・・・・そうだ おれはダルマだものな!
はははは ダルマだ ダルマだ
いやらしい はき気がするよなァ ムリもないさ
おまえが目をそむけるのも ムリはないよなァ』

などと言い、しかもその体で雪に襲い掛かり、その凄まじい描写の後に絶望して池に身を投げるのです。

さらにさらに!光高の負傷の原因はアメリカ軍が開発した細菌爆弾であり、大事な自国の兵士には運ばせず光高が扱って事故を起こしたその爆弾こそは、どうやら藻池村事件と同じく彼らが極秘に開発した物で…
父・甚三郎もアメリカ側の勝手な言い分を聞いているうちに、ついに自分と同じく息子も国家を愛するように教育してきた事への間違いに気付くと、アメリカ陸軍病院の代表であるスタッカーの頭上へ日本刀を振り下ろす!
こんな事をしては当然、六高寺家も破滅です。ただしアメリカ軍に捕まるより妻の文江を斬り、自身も切腹して家に火を付けた甚三郎は、文江と光高と共に焼死体を晒し者にされました。

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残った弦は、絶望的な状況の中でついに雪と結ばれるのですが、政府に追われる二人にさらに巨大地震が襲い掛かり、雪も最後は無残すぎる姿に…

実際の歴史も絡めながらリアリティある進行で進み、権力への恐怖と共に人間の弱さや汚さを描いた「光る風」
公害問題、安保闘争、ベトナム戦争…連載当時に起きていた歴史の負の部分を汲み上げて、権力への憎しみと恐怖を描き、しかも何の解決もないのが最後まで辛い。
弱く小さい反対分子は人間臭くて、強い体制側は冷徹。というのはこの時代では映画や小説などでも定番の描写なのですが、「光る風」でも体制に仕える人間はロボットのように描かれていたりするあたりで左翼イデオロギーも鼻につきます。もちろんわざと嫌な後味を残して深い印象を残す目的もあったと思うし、私の胸を壮絶に打つモノもありました。

そんなわけで主人公の六高寺弦はあくまで無力で、時代や圧政に立ち向かいながらも巨大な力にかなうわけもなく、ヒーローでないどころか被害者なままで終わる…悲しい話。
最後の方を読めば、悲運の男女の愛を描いた作品ともいえるのですが、あまりにも急展開すぎました。

おそらくは打ち切り命令が下ったのでしょう。終盤は全てを急いで終わらせてしまい、いくつかの伏線だったはずの物が出てこないままだったりもします。
もちろんこの形が、その時代に出来た完成系と判断して差し支えないのでしょうが、最初の構想ではどのような形になるはずだったのか、いろいろ想像してしまいます。

3巻に併録されているのは、同じシリアス物で戦争にも関わる暗い、しかし少し詩的な傑作「回転」
そしてここまで重苦しい話が続いて辛い読者のために、ギャグ漫画を描く時の作風な「カマガサキ2013年」という小松左京原作作品も収録されています。

漫画史上の問題作である「光る風」は、いろんな形で何度か再発されていますが、こちらは『山上たつひこ選集』版。
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全20巻で双葉社より刊行された選集のうち、11,12巻が「光る風」なのです。
こちらは上記の「回転」の他に、「鵺・秩父地幽党始末期」「国境ブルース」「故郷は緑なりき」というシリアス漫画の傑作が集められていて、山上たつひこ先生の才能を知るのにもってこいでしょう。
しかもこの選集シリーズは、各巻の巻頭に書下ろし自伝エッセイである「大阪弁の犬」が連載されていて、ファンには貴重な話を知る事が出来、しかもこれでしか読めない(単行本化されていない)のです!
ただ残念な事に、山上たつひこ先生が小説家へ転向したきっかけとして「光る風」連載時に編集者の手で勝手にセリフを書き換えられたからだと言われているのに…この選集でも、恐らくは出版社の自主規制によっていくつかのセリフを書き換えられています。

「光る風」。私のブログのカテゴリーではどこに入れようかを少し迷ったのですが(何しろSFであり、ホラーでもあり…)、結局無難に劇画扱いとさせてもらいました。
思想や信条的には私の考えが作者と同感とは言えないのですが、確実に考えさせられる事にはなります。きちんとエンターテイメント性もある名作だし、多くの日本人には能天気な漫画を置いて、たまにはこんな作品も読んで欲しいものです。


おまえらは みんなくるってるんだ!
おまえも!おまえも!おまえも!ばかだ!気ちがいだよ!
なにがばんざいだ!お祝いだ!お国のためだ!
うれしそうな顔しやがって なにがばんざいだよ!
おれたちの時代はあやまちを ゆるされないんだ!
なぜなら これとまったくおなじあやまちを
すでに過去にわれわれの おやじやおじいさんが おかしているからだ!
前例がありながら それとおなじあやまちをくりかえすなんて 人間のすることじゃない!
それともきさまら けものかよ!? 人間じゃないっていうのかよ!? ええ!? どうなんだ!?
おまえら・・・・くっくっ・・・・みんな・・・・どうしようもない やつばかりだな くく・・・・
死ね!死ね!おまえらみんな死んじまえ!
おまえらは ひどいめにあわなきゃ わからないんだよ!



  1. 2009/10/05(月) 23:56:18|
  2. 劇画
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プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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