大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

旅行・紀行・街(102) 中華人民共和国香港 1 アベニュー・オブ・スターズ(星光大道)

いよいよ行ってきましたよ、幼少時代からの夢の都へ。
それは中華人民共和国香港特別行政区…つまり香港(Hong Kong)

私にとって香港とは幼少時代から愛し続けた映画を作り続けた所であり、それらの舞台となった土地である事が重要。
特にブルース・リー(李小龍、BRUCE LEE)は、私の世界一の…何でしょう、一言では言えませんが、崇拝の対象である事は確かです。
なので人生の目的など持たずに惰性で生きるクズな私でも『香港のブルース・リー縁の地めぐりをする』、というのは重要な念願の一つではありまして、それがいよいよ実現出来たのですよ。
ちなみに私、ブルース・リーは別格としても他のカンフー映画のスター達も愛していて、ジミー・ウォング、ジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウ、マイケル・ホイ(他、ホイ4兄弟)、リー・リンチェイ(ジェット・リー)、ドニー・イェン、チャウ・シンチー…彼らほど好きな俳優はハリウッド映画界ではいないと言えるほどです。
あくまでカンフー映画好きなので、例えばそれ以降の90年代初期から活躍している世代は香港の四大天王(アンディ・ラウ、ジャッキー・チュン、レオン・ライ、アーロン・クオック)の映画すらほとんど観ていないのですが。

そんなわけで私にとって大事な大事な香港旅行でしたが、最初である今回は、
星光大道(アベニュー・オブ・スターズ-Avenue of Stars)
だけに絞ってアップしようと思います。
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まずアベニュー・オブ・スターズとは何か。
簡単に言えばアメリカ合衆国カリフォルニア州のハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム(Hollywood Walk of Fame)を丸パクリした散歩道で、つまり地面に映画界における偉人の手形のプレートを並べているのですが、その香港版はやはり香港映画の俳優(ジェット・リーは中国本土の人ですが)や監督などに絞られているので、香港映画好きには格別興奮モノ。
さらに本家より圧倒的に優れている部分は、何でしょう。規模はアメリカに比べるとなるかに小さいし…

でも場所が香港で最も賑やかな尖沙咀(チムサアチョイ)先端にある尖沙咀海濱長廊で、香港島を挟んで有名な夜景が見える綺麗なビクトリア湾沿いの散歩道で、
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毎日20時になると、音楽と光の放射によるショーが始まります。その名もシンフォニー・オブ・ライツ。
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それだけではパンチが弱いですか?アメリカの方がいいですか?

ならばこれはどうだ!
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そう、ブルース・リーの銅像がここにあるのです!!

アベニュー・オブ・スターズ自体が2004年に出来上がった比較的新しい観光名所でもありますが、ブルース・リーの銅像は2005年の年末近くに建立され、今ではこれが香港の顔ですね。
ボスニア・ヘルツェゴビナの田舎町でも民族を越えた平和のシンボルとしてブルース・リーの銅像が建てられた事は記憶に新しいですが、あれは壊されてしまった今、ますますここにこの像が建っていることの価値があります。

いろんな角度から観てみましょう。
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あれ、ブルース・リーの身長は171cmであると言われているはず…等身大より、ちょっと大きいように見受けられます。

足元のプレートには『世紀之星李小龍』とあります。
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ちなみに私、宿泊先のホテルの窓からギリギリ見える…かな?というくらいの距離で、徒歩数分だったために毎日拝みに行きましたよ。
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いつも人だかりが出来ていて、様々な世代が一様にポーズを取って記念撮影しています。
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本当に誰もが写真撮っているので、例えば若い女子までもブルース・リーのファンなのがさすが香港だなと感心の一言を漏らしたら、横にいた連れが『え?本気で言ってるの?こいつらがファンのわけないじゃん。かろうじて存在は知っていてもリー映画は観た事も無いだろうよ』と突っ込まれました。
え、でも嬉しそうに写真撮ってるのに…?

確かに、こんな子供がブルース・リーを知っているとは考えにくいし、おっきな仏像とか怪獣とかあったら記念撮影するのと同じ感覚でしょうか。
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いろんな時間のブルース・リー像。
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さてアベニュー・オブ・スターズは、香港芸術館から新世界中心までの440mの長さがあり、けっこうな数のスター達が手形やサインのプレートを残しています。
私のように香港映画マニアではなく一部ジャンルしか観てない者でも知っている、有名な方々のを少しだけ載せておきましょう。

まずブルース・リー像の足元にあるのは…何故かウォン・カーウァイ(王家衛)監督!
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常に記念撮影の人々でいっぱいの場所ですので、これが間違いなく一番多く人に踏まれているプレート。

この位置にウォン・カーウァイって、一瞬ふざけてるのかと思っちゃいましたが、ブルース・リー像の方が後からここにお邪魔したのかな。
でも去年辺りに届いたウォン・カーウァイの新作情報には仰天しましたが、ブルース・リーに詠春拳を教えた師匠であるイップ・マン(葉問)を撮るって話でしたよね。しかも主演がトニー・レオンとコン・リーで!
これが完成したら、ウォン・カーウァイも大手を振ってブルース・リー関連監督と名乗れるのでしょうが、製作は進んでいるのでしょうか…
楽しみなんですよ。日本でも公開されたウィルソン・イップ監督、ドニー・イェン主演で既に名作の呼び声高き「イップ・マン 序章」「イップ・マン 葉問」とは違う切り口で作られるでしょうし。

思い起こせばウォン・カーウァイ監督…日本で人気全盛だった「恋する惑星」「天使の涙」などの時代にちょうど私は高校生で、一人で映画館にも行って一本一本を興味深く観ていましたので、思い入れ深き監督ではあります。
その香港映画らしからぬオシャレな作風にショックと感銘も受けたものですが、考えてみたら上記作品はその当時以来2度と観直してないし、映像は覚えてるけど話の内容なんてほとんど覚えてません。それに当時はオシャレ気取りと思われるのが嫌でウォン・カーウァイ好きだなんて口が裂けても言えないと思ってましたね…
いやウォン・カーウァイ映画はただオシャレなだけじゃないとも思うのですが、やはり私が香港映画に求める物は、勧善懲悪のスカッとするアクション物なのだと再認識しました。カンフー映画と比べる対象とするのもおかしいし、どちらも面白いのですが、ただの好みの問題で。
結局、一番好きな作品は監督デビュー作でオシャレ度薄い香港ノワールの「いますぐ抱きしめたい」でしたが、イップ・マン映画には今まで一番の期待をしています。

アンディ・ラウ(劉徳華)。上記の「いますぐ抱きしめたい」主演者ですが、他に数々の名作に出ています。
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チョウ・ユンファ(周潤發)。今やビッグなハリウッド俳優ですが、出世作「男たちの挽歌」のイメージが根強いです。
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↑この二人が1982年に共演していた幻のドラマ「カンフーレジェンド 蘇乞児外伝」の日本版がDVD化した時は飛びつきました。「燃えよドラゴン」でハン役を演じたシー・キエンも出てますよ。
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マギー・チャン(張曼玉)。同じく「いますぐ抱きしめたい」の女優…というより、圧倒的にジャッキー・チェン作品での活躍が有名。私もやはり「ポリス・ストーリー」(1~3作目)のメイだという認識が強いですが、彼女目当てで「マギー・チャンのドッカン爆弾娘」などいくつかのビデオを買ったものでした。映画の出来云々は抜きにしてマギー・チャンそのものを見たいなら、チョウ・ユンファと共演(二人のベッド・シーン有り!)の「マギー・チャンの ストーリー・ローズ」あたりがお薦めです。
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ジミー・ウォング(王羽)。「片腕ドラゴン」「片腕カンフー対空とぶギロチン」の2作品によってカルト映画ファンで知らない人は無いほど有名…
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チャウ・シンチー(周星馳)。ここで明記されてる英語名のStephen Chowは日本では定着してませんね。日本で一般的には「少林サッカー」以降ようやくスターになったわけですが、自身がブルース・リーの熱狂的ファンでもあってリー映画のリメイク「新精武門」を撮ってたり等で、ブルース・リーファンの間では知られる存在でした。
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個人的に現在の香港映画で一番、毎度の新作を楽しみにしている監督・俳優でもありますし、↑のブルース・リー銅像建立の費用も全て負担したという話です。

さて次はいよいよ…ジャッキー・チェン(成龍)。この方だけは何の説明もいりませんね。私にとっても、彼が日本での人気絶頂期に少年時代を過ごした世代でもあるため、レコードや写真集なども買ったし、ずっとアイドルでした。
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他に香港が誇る偉大な俳優はジェット・リー、サモ・ハン・キンポー等、監督もジョン・ウーやツイ・ハークだとか、まだまだありました。余談ながらツイ・ハーク作品は彼がトレードマークのワイヤーアクションを取り入れる以前の初期作、「ミッドナイト・エンジェル 暴力の掟」を観た時にそのアナーキーなヤバさでぶっ飛んだものでした。
その他、私が知ってるくらい有名な人だけでもけっこうな数だったし、香港映画マニアとか現地の人などで全員知ってる方ならもっと楽しいでしょうね。
これだけ見てもお分かりのように、まだ生きてるのに手形やサインが入ってない方が他にもけっこういました。

続いてブルース・リーと深い関わりを持った二人も紹介しましょう。
ロー・ウェイ(羅維)監督!この方の名を見つけた時は何故か不思議な感じがしましたが、この数の映画関係者がいるのだから当たり前か。私は彼の作品を通算して100回以上観ているわけだ…その98%くらいは「ドラゴン危機一発」「ドラゴン怒りの鉄拳」 ですけどね。
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そして、レイモンド・チョウ(鄒文懐)!ゴールデン・ハーベスト設立者であり、同社製作ブルース・リー映画のプロデュースをした香港映画の生き字引。彼をなくしてはジャッキー・チェンやホイ4兄弟だってスターになっていなかったかも。
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そしてそして!ブルース・リーが…
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他にも映画関連の物がまだまだあるアベニュー・オブ・スターズを見て行くと、
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映画のスタッフまで銅像化し、
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金像賞(香港のアカデミー賞)受賞者に贈られるブロンズ像。
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映画の撮影道具といえばこれ、カチンコ。
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あとは香港映画の歴史を説明した赤いボードが並んでいて、日本語でも解説文が付いてました。
売店も2軒あってブルース・リーやジャッキー・チェンのグッズも少しだけありました。
何かよく分からないけどカッコいいオブジェに、
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その向こうに見えるのは、時計塔(時計台)。
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ちなみに香港映画で時計台といえば「プロジェクトA」であり、全ジャッキー・チェン映画でも最も有名なスタントが時計台落下シーンでしょう。もちろんこの時計台とは関係ありませんが…あの時計台は撮影所内に作られたセットだったそうで、もう実物を見る事は出来ません。

アベニュー・オブ・スターズは有名な観光地ですが、地元民らしきオヤジ達が普通にくつろいでいたり吊りしてたり、早朝には集まって太極拳やってたりもする、地域密着型の散歩コースでもありました。
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今回はここだけに絞ってみましたが、またそのうち私の香港旅行から他の部分も紹介しようと思います。

それでは・・・さよなら、さよなら、さよなら。
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  1. 2011/06/30(木) 23:11:48|
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SF漫画 (12) 松本零士 4 「ヤマビコ13号 銀河鉄道の夜」

今夜の松本零士作品は、短編集「ヤマビコ13号 銀河鉄道の夜」(奇想天外社刊)。
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私は昔に集めていた松本零士先生のSF作品をほとんど売り払ってしまった事があるのですが、いくつかは手放せなかった…これもその一つで、当時の私のバイブルであり売るわけもない「男おいどん」の横に大事に保存していたのです。
というのも大山昇太がそのまま出てきて、「男おいどん」とリンクする作品があるのです。似て非なるキャラを使ったスターシステムではなく大山昇太そのものが出るスピンオフ物なので、おいどんファンはこちらもおさえておいた方が良いのではないでしょうか。
ちなみに短編集である本作のタイトルは「ヤマビコ13号 銀河鉄道の夜」となっていますが、「ヤマビコ13号」「銀河鉄道の夜」はそれぞれ別作品。

まずは1971年の希望の友(潮出版社刊)で掲載された、「銀河鉄道の夜」
タイトルの通りく宮沢賢治の童話作品を題材にしていて『原作』とクレジットもされているのですが、普通のコミカライズ作品ではなく、「銀河鉄道の夜」読者の登場人物が出る、という使われ方。
同作品から影響を受けて代表作「銀河鉄道999」をモノにした松本零士先生が、それ以前に銀河鉄道の夜を描いていた…これは当然重要すぎる意味を持つ作品でしょう。
内容も宮沢賢治への想いを込めて、ジョバンニを思わす星を見るのと空想が好きで寂しい少年が主人公。彼が大人になるその瞬間を、ファンタジー交えて描いた切ない胸キュン物の傑作!
最初の数ページは青いカラーページで描き、効果的に美しさを増しています。

続いてはこの短編集で一番古い、1969年のプレイコミック(秋田書店刊)が初出の「ネアンデルタール」
太古の昔に実在したが絶滅した…我々とは別系統の人類であるネアンデルタール人を題材に使い、原始ではなく近未来を舞台にした、ラストにどんでん返し有りのSF作品。
ネアンデルタール人の女がメーテル的な美しさなのですが、まだ松本零士先生が人気漫画家になる前の初期絵柄なのが貴重であり、この時に描いてた女性も良いのです。

次の「大魔女王第3紀」は1974年の週刊プレイボーイに掲載した作品で、お得意の四畳半ネタに、SF…というか奇想モノを交えた短編。
主人公は何も無い四畳半に住んでいる本船年郎(トチロー)で、押入れの中に突如ヤラレタという裸の美女が現れる!文字通り妄想物語。

同じ週刊プレイボーイで1977年に掲載された「大サルマタケ博物史」は、いよいよ大山昇太らしき奴が登場!
謎の茸・サルマタケが日本中で繁殖しまくって生物滅亡の危機にさらされた時、ある大学教授がその発生源を突き詰めると…そこは"あの男"が住む四畳半の押入れにあるパンツの山だった!
国中が大パニックに陥るレベルの荒唐無稽なサルマタケの山は、「男おいどん」では描けなかった世界です。密集するサルマタケが大迫力で、サルマタの怪人が酷い目に遭う事も無いので素直に笑えるギャグ漫画です。

最後は1971年の少年マガジン(講談社刊)に掲載された表題作の一つ「ヤマビコ13号」
舞台は高度な文明を持つ未来。しかし四畳半に住む男、出ました大山昇太が主人公です!
「大サルマタケ博物史」で出てきた同じ風貌の男は、名乗ってないので絶対に大山昇太であるとは言えません。松本零士先生はキャラ使いにスターシステムを用いる漫画家ですからね。
しかしこの「ヤマビコ13号」に出てくるチビでガニ股で丸眼鏡のこいつは、間違いなく大山昇太。
まぁ時代設定が違うので「男おいどん」のパラレルワールドと見れば良いのでしょうが、同じように美女にうまくだまし使われて支配庁に潜入し、ヤマビコ13号という機械を破壊する…
ブラックユーモアと風刺の効いた優れた短編でした。

そんなわけで「ヤマビコ13号 銀河鉄道の夜」…なかなかレベルの高い短編が並んでいます。


今夜がお別れかもしれないわね
もうすぐその望遠鏡が水に流れるわ
そのとき…あなたは、おとなになる…
夢ばかり追っかけないで あなたの経験で物ごとを考えるおとなになる
わたしはそれが とてもうれしいわ……



  1. 2011/06/26(日) 23:14:39|
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劇画(128) 松本零士 3 「男おいどん」

おいどんのように『明日のために今日も寝る!』と寝て過ごしていたら、何か更新やら他の全てがどうでもよくなりかけて時間が空きましたが…やっと気を取り直しました。
そう、今夜も松本零士作品、そして漫画史に存在する『貧乏漫画』というジャンル全体内で最も有名な、「男おいどん」(講談社刊)です。
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週刊少年マガジンで1971年から1973年まで連載された作品で、単行本は全9巻。まだSF漫画で売れる以前の作品であり、松本零士先生にとって最初のヒット作でもあります。

前回紹介した「元祖大四畳半大物語」は同時期に連載していた、ほぼ同設定・同登場人物の兄弟作品と言えます。マガジン連載のためあれをより少年向けにして性描写は排除していますが、こちらも負けずに面白いですよ~。
舞台は同じ東京都文京区本郷三丁目で、こちらの主人公は『下宿館』の四畳半に住む大山昇太です。この名では1970年の「聖サルマタ伝」が最初で、1971年の「下宿荘偉人伝」は主人公が小倉南といいますが、これも前身作品と言えるでしょう。
彼の一人称はタイトルになっている通り『おいどん』で、九州出身の無芸大食人畜無害、近眼メガネでガニ股のチビ。財産は第二話目からずっと、愛用する押し入れいっぱいのサルマタのみ。不潔故にインキンタムシを患い、洗濯しないサルマタの山からはサルマタケというキノコがニョキニョキ生えてきて…貧乏なのでそれも食用にします。

『なに見ちょれ いつかおいどんだって タテだかヨコだかわからんような
 ものすごかビフテキ 日ごと夜ごとに食うてみしたるど』


ここでも毎回1話完結の短編で、同じような日常描写を繰り返す連作方式で進みます。
中学校を卒業して上京しているので大山昇太の登場時は16歳くらいですが、工場でアルバイトしながら通ってた夜間高校の"高校学園"は職場をクビになると同時に生活のため退学してしまい、いつか学校に戻る希望を持ちながらも日々の生活に追われて叶わず、将来への軌道を見失ったまま周りからどんどん取り残されて20歳を越えて行きます。
バカにされ、自尊心は傷付けられ、それでもただ生き続ける若者の暗く悲惨な青春…といえばその通りなのですが、それを松本零士先生はギャグ漫画タッチで描いていくのです。どんなに温かい人情味持たせて明るく描かれても、トラウマを刺激されて辛すぎる話もありますが。
クニを出る時にかあちゃんがお守りを縫い付けてくれた学生服と学帽を、押入れのサルマタ山の奥にかけて"守り神"にしているあたり、けなげですね。

『いまみたいなみじめなことになるとは 思わなんだばってん・・・
 おいどん おまえをかぶってたころたてたちかいはわすれんとど
 おいどん死んでもクニへ帰らん志をたてて家を出て ダメでしたとどのツラさげて帰れるか
 死んでもがんばってこそ 男ばい』


四畳半で、辛い目にあった大山昇太の話を聞いてくれるのはトリさんだけ。
初期の下宿館住人で昇太にも親切にしてくれた美女・浅野さんが譲ってくれた、というより置いてった鳥ですが、人間の言葉を忠実に再現して騒ぎ立てる。
"非常食"扱いだったトリさんも、昇太が『トリよ、おいどんは負けんのど!』と毎度のように言う名シーン無しに「男おいどん」は語れない事を思えば、作品において重要なキャラでもありますね。
他に作中一貫して昇太を気にかけてくれるのは、まず下宿館のバーサン。「元祖大四畳半大物語」ではいた夫(ジーサン)はここでは死別していて、バーサンも孤独をかかえています。それと紅楽園という中華料理店のオヤジで、彼も昇太の命綱みたいな人情家。
当然読者も大山昇太の味方ですが、実際に目の前にいたら嫌われるのだろうな…だって彼はほとんど風呂には入らず歯磨きもしないため、アカだらけで物凄く臭いのです。

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1話完結ながら一応はストーリー進行や時間の経過もあり、下宿館の住人はどんどん入れ替わるし、実は大山昇太の周りにはほとんどいつも美しい女性が…いるのですが、好きになっては必ずこっぴどくふられます。
つまり「男おいどん」には多数のヒロインが登場するものの、その全てが結局は昇太のみじめさを強調するだけの存在。さてここで印象的な人物だけでも紹介しようか…と思いついて、すぐに止めました。考えてみたら容姿は他の松本零士ヒロインと同じように似通ってるし、実は性格も。優しいふりして昇太を舞い上がらせ、結局はこっぴどく手のひら返して二枚目の方に行くのですからね。

『背が高くて美男子は人類の敵ばい』

ただただ若いから未来があると信じ、弱いけど気持ちのパワーだけは豊富な昇太ですが、かつて夢を持って同じ部屋に住んでたがどうにもならなかった女が泥棒になって現れたりすると、辛い結末を暗示されてるような気がします。
近所で『サルマタの怪人』として有名になり、高校を中断しているので浪人にもなれないまま、人並みの楽しい思い出も作るような事もせずに、人からは惰眠を貪っているようにしか見えない昇太の心中は、実は落伍者となる恐怖と不安で狂わんばかりにおののいている…

若かりし頃に「男おいどん」を読んでた私は単純に共感したりしてましたが、大人になって読むと大山昇太自身の固い頭がこそ、苦しみを生んでいるのだとも思えますね。
学校を出た人間でないと将来が消えてしまうとか、大物=大金持ちとか…そんなステレオタイプな考えにとらわれているから方向転換も気楽な生き方も考えられないわけです。簡単に楽な道を選ばない分だけ将来成功するんだと信じられるのは、未熟なだけでしょう。私自身も思い当たるし、実はないが大志だけは抱いてる、ボンクラな若者にありがちな心情ですが。

下宿館ではたま~にラッキーな事もあり、珍しく風呂に入ろうとしたら先に美女が入っていて裸を見ちゃったり、女子が集まって買い込んだ水着の試着会やってる場面に出くわしたり…「めぞん一刻」的な部分もありました。死んじゃった人もいるけど、義理でキスしてくれた人もいたし、昇太よ、私の青春時代よりはずっとマシだぞ!

タイトルにある通り『男』であろうとする昇太ですが、いつも通り…最後まで仕事をクビ、女に振られ、誤解から悪者にされ、など繰り返しては隣の下宿に住む浪人のサルマタがたきと争い…という作中ずっと流れるパターンを続けながらも、以前通っていた高校学園に戻ろうとする回もありました。それは休学期間が長すぎたために再入学が叶わなかったのですが…物語も終わりへ向かい、ついに復学を果たすのです。

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これが問題の最終9巻ですが、「元祖大四畳半大物語」には無かった復学後の姿を読者は驚き、そして嬉しく思ったのではないでしょうか。
とはいえ学校に行きさえずれば全て好転し、未来が開けるなどと考えるなら妄想でしかありません。貧乏な大山昇太が、他の親にお金出して貰ってる同級生らと付き合おうとすれば惨めな結果が待っているのです。

物語のラスト近くなって下宿館では昇太以外が全員出て行ってしまい、まぁこれは前も何度かあった事ですが、この時ばかりは昇太の様子も変で…大事な守り神やトリさんやサルマタ他いろんな事を残したまま、姿を消すのです。
これはどういう意味なのか。あれだけ夢だけは持っていた昇太が、お世話になった人への挨拶も無いまま、本当に志半ばで逃げるような事があるのだろうか!?

その謎は最後の1話で…と思いきや、これがファンには有名な最終話。
いきなり未来の話になり、子孫の大山降太という奴を描いたSFになるのです!
この話自体もヒジョーに素晴らしい上に、密度のギッシリ詰まった全9巻の最後を飾る物だと思うと感慨深いので、是非とも読んでみて下さいね。


ここは おいどんの四畳半
おいどんが青春の夢と希望と涙といっしょにいるところ
トリさんもいる パンツもある サルマタケもはえている
守り神もだまって見おろしている
そうだ ここは おいどんの四畳半・・・・



  1. 2011/06/22(水) 23:55:18|
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劇画(127) 松本零士 2 「元祖大四畳半大物語」

今夜は松本零士先生の「元祖大四畳半大物語」(朝日ソノラマ刊)です。
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単行本は、画像のサンコミックス版で全6巻。

SF漫画界一の大御所と言って間違いない松本零士先生ですが、最初のヒットは四畳半の部屋での生活を描いた貧乏漫画「男おいどん」であり、私もSF漫画以上に貧乏漫画のファンです。
さらに別冊漫画アクション(双葉社刊)で1970年から1974年までの長期に渡って「大四畳半シリーズ」として連載され、単行本化の際に「元祖大四畳半大物語」と改題された本作は、同設定の「男おいどん」以前の開始にして終了後も続いていた作品。
しかしこの二作品。ほぼ同設定・同登場人物の話だし毎回同じ事の繰り返しのマンネリ作品(もちろんそれが良い)だし、どちらも同時期に描いていたのだから、松本先生の変態ぶりが分かります。
ちなみに「元祖大四畳半大物語」はタイトルに『元祖』が付くので貧乏(四畳半)漫画のルーツと思われるでしょうが、実はさらに前に「恐竜圏」や"マシンナー・シリーズ"中の「海底の大四畳半」といった短編がありました。

さて「元祖大四畳半大物語」の主人公は足立太。九州出身で、連載開始当初は19歳で貧弱なノッポのメガネ男。そのうち松本零士先生の画風の変化に伴って、頭がでかい蟹股のチビ…つまり「男おいどん」の大山昇太と同じ風貌になっていきますね。
九州から就職のため上京したら会社が潰れて夜逃げしていたためいきなり無職となり、そこから文京区本郷三丁目のボロアパート『第三下宿荘』を舞台に、大四畳半サバイバル生活が始まるのですね。何しろ第一話目の終わりで財産は11円、涙のうちに東京生活の一日目が終わるのです。
一応大学進学を目指していたはずですが、バイトをしても続かないどころか失敗して弁償させられたりで常に金が無く、とにかく貧乏との勝負をやかましく続けます。

無芸大食人畜無害でサルマタ愛好家でインキンタムシで…とまぁ、有名な風貌のみならず性格も何もかも大山昇太とそっくり同じなので、知ってる人が圧倒的に多いあちらを思い出してもらえばいいです。
ここではサルマタの山からキノコのサルマタケは生えてこなかったり、多少小道具の違いはあるのですが、特に大きな所では足立太はセックスを何度も経験している事ですね。そりゃ若い一人暮らしの男の生活です…この点で性欲自体をほとんど描かない「男おいどん」と違って青年誌連載の利点がありました。
1話完結の短編が連作で続くのですが、それぞれの話の扉絵に大抵セクシーなショットが描かれているのも素晴らしい。

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同じ第三下宿荘の向かい部屋にはジュン子(ジュン)とそのヒモでジュリーというヤクザがいるのですが、このジュンを作者は理想の女性として描いていて…というより後半はほとんど聖母のよう。優しく美しくて、足立太の筆下ろしをしてくれたし、度々やらせてくれたり抜いてくれたりするのです。これは羨ましすぎます…貧乏で不細工でも、そんな事が起こるなら幸せですね。
しかも足立太は孤独のようでいて、何故か度々他の女性ともセックスしてるし!ほとんどいつも女性から迫られて一度きりの事で結局は孤独を感じたりしていますが…やはりできないより良い。クニから太を頼ってきた姪(といっても同い年くらい)の由紀ちゃんとまでしちゃってます。

今作のヒロインであるジュンの事は話が進むにつれて段々と分かってきますが、東京へ家出してきたばかりの頃にヤクザ(ジュリーの組)に眠らされたまま強姦されて写真を撮られたとか、現在は暴力バー"ボルドー"のキャッチガールとして働きながら、何度もジュリーの借金を帳消しにする条件で中年と売春させられている…といった事が分かってきます。
しかしそんな悲惨な部分を物ともしない器の大きさ、エッチに関しては天才的な才能がある…だから理想の女性ですよ。最初はショートカットだった髪が、途中からいつもの松本零士ヒロインらしく腰まで届く長さに伸びていますね。
足立太に対してはあくまで同情心というか、聖母の大らかさでたまにエッチな事をしてあげてますが、愛するジュリーとはいつもいつもセックスしていて、古い集合住宅では声も漏れています。
それなのにいつもいつも、足立太は二人がしている最中に扉を開けて覗いてしまい、ジュリーに殴られて…というのはお約束。飽きもせず毎回毎回!

手を変え品を変えて騒動が起こるにしても、結局は同じ結末を迎える似たような話で続く日常物の連作短編が、いつも面白い上に共感しちゃうのは、弱者側である男の人間観・メッセージ色が強いからでしょうか。
ジュンとジュリーの他にも、世話を焼いてくれる大家のオバさんとその夫、次々と出てくるオカマのまさみ、底力夫婦、それに足立太と一回だけ関係を結んだ女達…彼らとドタバタ繰り広げた後で、最終ページには作者のナレーションが入るのがお決まりパターンです。

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いつも何をしても報われない足立太ですが、彼が住む第三下宿荘の四畳半自体、侵入者に首吊り自殺されたり前の住人が強盗だったり等、かなり悪い風を呼んでいる部屋。しかしどんなに貧乏で醜男だったりで屈辱を受けても決して暗くならないのは、今に見ていろいつか大物になるぞ、という志と周囲の期待もあるからでしょう。
だから最後は成功する…まで行かなくとも、せめて希望を見せて欲しかったのですが、最終回も『明日のために今日も寝て その今日のために明日も寝るのだ』と豪快に寝ているコマがラスト。

若いから、まだ無限の可能性を秘めた希望がある、といった描かれ方をしていた足立太の将来は読者の判断・想像に委ねる形ですが、とバタバタ暴れては寝てばかりの無為な毎日を送っている足立太は、結局大物にはならないのでしょうね…
松本零士先生が実際に本郷で下宿していた事実があるために、この「元祖大四畳半大物語」や他の四畳半モノを本人の自伝的作品だと見る方もいるようですが、漫画家修行という明確な目的を持って邁進していた松本先生の生活がこれに近いものであったはずがないかとも思います。
ただ私も含めた足立太側、どうにもならないダメ人間側の気持ちを、実際にそっち側にいる人々以上に表現した傑作なのです。当時いくらでもいた四畳半生活者は、天才の鋭い眼で観察されていたのでしょうか。

貧乏な方が工夫が生まれるし、生活も楽しいかもしれない…そんな希望を持たせる四畳半モノは、若者には特に読んでおいてもらいたい。
実際に私は上京した折には、今作の連載から30年以上経ってなおフロなしアパートを探して生活しましたし、多少みじめな思いをしても『おいどんはリアル足立太だ~』なんて笑う事も出来ました。

単行本の最終巻となる6巻には、「西部長屋人別帖」「大サムライ伝」という大四畳半とは関係ない短編も併録されていて、どちらも西部劇。
前者は「ガンフロンティア」トチローを主人公にした作品で、後者もトチローと同キャラに見えますが名前はイヨ。こちらも他作品に出ているキャラでしょうか?
松本零士先生は複数の作品に同じキャラを使うスター・システムを用いている方なので、私のように全作品を網羅していない浅い読者には辛いのが、他作品と内容もクロスオーバーしていた場合ですね。
ただ、どちらも独立した短編として楽しめますよ。西部劇の世界に外見とギャップのある強さを持つ日本人らしき奴が飛び込んで、差別主義の白人どもに目にもの見せるなんて、嬉しいじゃないですか。

最後に、今回の「元祖大四畳半大物語」は同タイトルで1980年に実写映画化もしていて、その監督が「嗚呼!!花の応援団」も映画化した曽根中生、そして松本零士先生本人も、クレジットされています!
キャストもマーちゃんを関根勤、底力をガッツ石松が演じている辺りは気になるのですが、肝心のジュリー&ジュンを前川清と篠ひろ子ってのが怖くて、未だに観てません。ちなみに足立太は山口洋司…知らん!


おいどんの相手は全世界の女すべてなんど
みな可能性があるんど なくことがあるか!!
みちょれこの!



  1. 2011/06/02(木) 23:55:48|
  2. 劇画
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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