大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(148) ビッグ錠 2 「人生交換」

今夜はビッグ錠先生のオリジナル作品(原作無し)から、「人生交換」(集英社刊)。
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プレイボーイCOMICSの『傑作MANGA THEATREシリーズ』から3巻目として出ていた短編集で、ちなみにずっと前に紹介した永井豪先生の「ビバ!女子プロレス」は同シリーズの2巻目でした。

さて「人生交換」は6編を収録した短編集で、まず最初に出てくる表題作が良い!
表紙をめくると、最初のセリフがタクシー会社のオジサンによる『やれやれ ちかれたびーっ』なのが古くて受けますが、主人公はその同僚、しがないタクシー運転手の夢野五郎
表向きは何も趣味も無く常に質素な貧乏生活をしているのですが、実は給料日だけ、おめかしして一流の劇場で一流の音楽や芝居を観て、思い切り金を使いながら一流のレストランで食事をして一流のホテルで泊まる、要は月に一日だけタクシー運転手では出来ない上流階級の生活を味わうのが道楽だったのです。うーん、泣かせますねー。
そんなある日、自分と容姿がソックリな大富豪の一人息子・衣笠幸之介と出会ったため、その生活を交換してみる事になったのです!ボンボンの幸之介は幸之介で、大企業の跡取りという身やが不自由であり、周りに群がってくる人達が嫌でしょうがなかったのですね。
それからお互いが満足出来る夢の生活が始まり…ラストのオチまで、なかなか見事。
そもそも私、こういった『入れ替わりモノ』と言いますか、それが大好きなんですよね。こんな現実の自分を忘れて過去も捨てて、血のにじむ努力も無くいきなり最強の男に、大金持ちに、等々素敵な事になるわけですから、夢があると思います。
現に数多くの漫画家が同じようなネタを描いてますよね!例えば高田まさお原作・ヒロナカヤスシ漫画の「真田一平 命がけ!!」とか、他にもたくさんありますね。

他に、大阪の漫才師でウルトラ万太千太というコンビの苦悩、舞台裏を描いた「笑わせ屋」
立派な息子(…男根の方です)を持つ大野浩が、ブルーフィルムの世界に入っていく様を描いたギャグ漫画「ブルースター物語」。これはポール・トーマス・アンダーソン監督映画「ブギーナイツ」(Boogie Nights)の先駆けでしょうか!?
これはジャンルにこだわらないサービス精神豊富な短編集なので、次はシリアスなサスペンスの傑作「ゆがんだ対角線」
モテないのに志賀高原へのスキー旅行が当たった野呂真の不幸をコミカルに描いた「白銀はなげくよ」
そして、来ました料理モノ!『うめえっ!』とかオーバーリアクションで叫ぶ人の顔一つにも、やはりビッグ錠先生の本領は料理漫画である事が現れています、「ふぐ」

以上の作品が収録された短編集「人生交換」でした。
いくつかの有名作品に比べてトンデモ具合が少ないので地味な印象かもしれませんが、どれもしっかり話が面白くて突っ込み所も用意してあり、忘れ去られている現状が悔しい所です。ビッグ錠作品…もっと読んでみませんか!?


ひとりの人間が一生に味わえる生活は
その収入によって決まってしまうのだろうか…………………
一生安サラリーマンは 安サラリーマンの生活しか味わえないのだろうか……?
だめだ!!それじゃあだめなんだ!!
それじゃあ あまりにもみじめじゃないか!!



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  1. 2012/09/30(日) 23:59:29|
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劇画(147) 牛次郎 1 ビッグ錠 1 「釘師サブやん」

今夜は牛次郎原作、ビッグ錠まんが(作画)の「釘師サブやん」(講談社刊)。
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牛次郎先生は1940年生まれの東京都出身、何と僧侶でもある他に様々な事をやっていた才人。もちろん劇画原作者としての才能も凄く、ビッグ錠先生と組んだ作品以外では「プラレス3四郎」(神矢みのる作画)が有名でしょう。
ビッグ錠先生の方は1939年生まれの大阪府出身で、貸本漫画出身者。若くしてデビューしておきながら、この方も漫画家を休業してデザイン事務所を設立したりしていますが、原作者無しで描いた作品の代表作は「ドクロ坊主」「一本包丁満太郎」辺りでしょうか。本名の佃竜二名義でも描いていました。
そんな二人がコンビを組んだ作品といえば「包丁人味平」「スーパーくいしん坊」といったトンデモ料理漫画の傑作が思い出されるでしょうが、最初に組んだのが今回紹介する「釘師サブやん」で、何とパチンコ漫画!
あの「あしたのジョー」で盛り上がっていた週刊少年マガジンにて1971年から連載開始された作品で、単行本は全8巻です。

主人公のサブやんこと茜三郎はパチンコの釘師。パチンコ台の釘をハンマーとゲージ棒で調整する仕事の青年ですね。そんな地味で単純な仕事…と、この作品を読んだ事が無い方なら思うかもしれません。ただし読めば分かる、釘師の奥の深さと職人的技術!
そんな若くして凄腕の釘師であるサブやんの前に、全国からパチプロやゴト師の集団が現れ、彼らと戦いながらサブやんは成長し、日本一の釘師を目指していく…といった話で、パチンコを題材としながらも、これはバトル漫画ですね。好敵手に勝つため常軌を逸した特訓をし、必殺技や厳しい師匠が出てきたり、まるっきり当時の定番だったスポ根モノでもあります。

まずサブやんは赤ん坊の時に両親がおたくふくかぜで死亡したため(!)、大阪にてバァちゃんの手で厳しく育てられますが、そのバァちゃんとも14歳の時に死に別れて天涯孤独の身。そしてブサイク…そう、昔の漫画は主人公がイケメンばかりじゃなかった。
上京して釘師の神様と言われた根岸佐助に師事して修行を終えた後、渋谷の平凡なパチンコ屋"第一ホール"にて住み込みで働く釘師となるのですが、その前に現れた最初にして最大のライバルが着流し姿の美玉一心
彼は一匹狼の親指渡世で知られる流れ者のパチプロで、サブやんがしっかり釘を締め付けた台からたった一発・2円のパチンコ玉で当ててしまう!それも『秘打・正村』や『忍球 玉バサミ』などというとんでもない技で…
サブやんの方も何週間も苦しんだ末に、ついに『玉ぶぶき』を完成させて準備完了。パチンコ店の表に「釘師見参」の貼り紙をして金札勝負に挑む!

文字で書いてもわけわからない部分が多々ありますねが、まぁいいでしょう。とにかく行われる事になった釘師のヒノキ舞台と言える金札勝負、美玉一心だけを念頭に置いて勝負するつもりだったサブやんですが、日本全国から名だたるパチプロが挑戦してきてしまいますが、兄弟弟子・角和大禄立会いの元で次々と戦っていく…
各都道府県から代表的なパチプロが来ているので、第一ホールの同僚である陳太(福島出身)と出目松(鳥取出身)は甲子園のように自分の出身地の者を応援してしまいます(笑)おっと私の出身地・新潟からは万才秀なる者ですが、ハゲの黒縁メガネで勝負に登場すらして来ず、ガックシ。
持ち玉50個の金札勝負、お互いが仁義を切ってから開始するのも、時代かかっていていいですね。北海道の無法虎、静岡の寝ぼけ松(熱海から来てるからこのネーミング…)、九州小倉から伊達の金八、四国高松からトランシーバーの健、次々と強豪を倒していくサブやんの台『玉ぶぶき』は、ついに美玉一心と対決。一心の『秘打・正村 昇り龍』には苦しめられますが、何とかサブやんの勝利!
しかし、この勝負はある理由から美玉一心が敵に塩を送っただけの事でした。

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パチプロとの戦いばかりに気を取られていたサブやんの前に現れた次なる強敵は、イカサマでパチンコを打つゴト師の中でも最強の男で"神竜組"の首領・やらずの竜!黒服に黒シルクハット、そして眼帯の殺し屋スタイルでカッコいい彼は、イカサマしても誰にもそれが分からないからその通り名・やらずの竜と呼ばれています。
弟分である七ひきの竜の他、ゴト師の子分が二千人いると彼は何千軒というパチンコ店を潰した実績があり、その大規模で想像外の仕掛けでサブやんと第一ホールを潰しにかかりました…
七ひきの竜達は『神竜 白糸がえし』『金蛇の術』『天龍釘流し』『死打釘殺し』といった恐ろしい荒技が次々と出してくるし、さらに物語スタート時から第一ホールで働いていて、アイドル的な存在だった女子社員の左千子までが忍び竜と呼ばれる神竜組のスパイでした!
さらにさらに、神竜組が持つ"地獄のゴト師秘密研究所"なんて凄い施設も出てくる!そうです、「タイガーマスク」における悪役レスラー養成機関"虎の穴"みたいなのが、パチンコ漫画でも登場するのです。秘密の地下組織といった存在は七十年代漫画の定番であり、有無を言わせずワクワクするもの。
彼らの見せる大掛かりな計画性、そしてパチンコを題材としている漫画というのは、約30年後に福本伸行先生が「賭博破戒録カイジ」で人食いパチンコ・沼を描くまで無かったんじゃないですかね。

そしてこの勝負は、主人公であるはずのサブやんが完膚なきまでにやられて幕を閉じるのです。
店も文字通り破壊され、たった一つの生き甲斐であるパチンコを失くしたサブやんは失踪して自殺まで考えます。自分の勘違いから命は失わずにすんだものの、釘師にとって大事なハンマーを握る右手をつぶされて、精神的にもトラウマを植え付けられたサブやんは、果たして立ち直れるのか!?

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死にかけている所を酒飲みの大道商人・ガブ六の辰に拾われたサブやんは、北海道の札幌まで流れた所で年に一度の全日本競指市(通称・穴市)というパチプロのスカウト市のに出くわし、最大のライバルである美玉一心と再会しました。
それからハンマーを捨てたはずが機関銃のマサなるパチプロと戦う事になり、血まみれになりながら心の中の黒いかたまり(トラウマ)を吹き飛ばして師匠譲りの『カスミ開き』で勝負を挑む!
対するマサは『機関銃 釘殺し』という技を持つ。5年の修行の末にその技を開眼したマサを見ていた元同僚は、『気ちげえだ!まるで気ちげえだぜ あいつは!』とその執念に呆れているほど。

さて穴市勝負ルールという事で三番勝負を戦うのですが…派手な技だけでなく心理戦も含んだ二人の攻防を見ていると、パチンコでこんなに白熱するバトルが描ける事に驚きを禁じえません!
勝負は三番目に持ち越され、サブやんが『玉おきのハンマー』という禁断の技に手を出したため、さらに右手から血を噴出させながら調整したパチンコ台を封印して、決戦の場をパチンコの本場名古屋で着ける事になりました。

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そして名古屋の地で嵐が起こる・・・
天涯孤独と思っていたサブやんの祖父、そして現在(連載当時)のパチンコのスタンダードな釘配列を完成させた伝説の釘師・茜正村との出会い。正村流釘術奥義書、またの名を盤球極意伝と呼ばれる全三巻からなる巻物の登場。
機関銃のマサとの勝負は勝ったと思われましたが、『玉おきのハンマー』のある理由でノーコンテストのようになり、その上サブやんは今日限り釘師をやめるように勧告を受け、釘師としての道を断たれました。
愚庵和尚の助けでパチンコ寺と呼ばれる玉林寺で拾われて、精神修行に励むサブやん。この寺のご本尊は"盤球仁王"なる釘師のハンマーを持つ像だし、寺の庭は俯瞰で見るとパチンコ台のようになっている!!

全国のパチプロの間で有名な釘師となっているサブやんの元には挑戦状が毎日届きますが、特に五寸釘の小鈴とは決着を付けなくてはならぬはめになり、修行中の身というのに飛び出すのでした…
それからパチプロ賭博の裏場勝負に手を出すのでした。この裏場というのが謎に包まれた地下の勝負組織で、負けた釘師は指を詰める掟。
この小鈴の『鈴地獄』を破る大勝負の最中、何とやらずの竜も登場して…
…勝負を終えたサブやんの次なる本拠地へ、訪ねて来たのは美玉一心。それからハイテンションのまま感動の大団円を迎えるのです。


さてこの「釘師サブやん」の時代の…つまり作中登場するパチンコ台は、全て指でレバーをはじいて玉を打つ物。玉はカウンターで女性店員から買って台に運んでいるし。
美玉一心のような親指渡世の人は、現在のようにデジパチ時代には絶滅しているでしょう。ハンドルさばきについてだとか勉強になる部分も少しだけあるのですが、さすがに今では失われた知識・技術でしょう。なくなってみるとやりたくなるもので、これを読むとこの時代のパチンコ台を打ちたくてしょうがなくなるのです。やれっこない神技はともかく、早撃ちとかなら練習してやってみたいじゃないですか!
そこまでお金のかかる遊びでもなかったし、国民に愛されたレジャーだったんですよね。少なくとも作中では『娯楽の王様はパチンコ』のように言われていますが、それは当時本当にそうだったのでしょうかだかでしょうか。
大人になって現実を知ると、パチンコ業界自体が警察や検察と癒着し、依存症の問題もあるのに政治家は利権があるから放置、北朝鮮の資金源になり…と、暗いイメージしかないので今では少年向け作品としてパチンコを描くのは難しいかもしれません。ただ」、こういった変わった題材を使ったバトル漫画はグッときますね。貴方はどんな物を知っていますか。


ええなサブ!
信じるのは自分の目と耳 それから舌・・・・
ともかく自分だけや
世の中誘惑が多い それに負けるのは
自分の目がないからや 自分で信じたこと
それに一心不乱 ぶつかっていったらええんや



  1. 2012/09/29(土) 23:59:17|
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劇画(146) タカ 1 「ブルーカラー・ブルース」

今夜はタカ先生の「ブルーカラー・ブルース」(宙出版刊)です。
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世にサラリーマン漫画は数多くあれども、それはいわゆるホワイトカラー、つまり事務や営業職などのスーツ着てる側だけの物ばかりだと思います。例えば「釣りバカ日誌」「総務部総務課山口六平太」、島耕作シリーズとか。
それが今作はブルーカラー、工事現場で働く労働者を描いている作品である事で、まず快挙だと思います。いや、私が個人的にこの主人公と同じような仕事を"青い作業着"着てしているからというだけでしょうが、"共感"し続けられるのです。それは大抵どこも恵まれない職場環境にある職業柄、気分が沈む種類の共感なのですが…

漫画の読者層って、決してホワイトカラーの方が多いという事もないと思うのですが、まぁ出版社や描き手はブルーカラーなんてヤンキー漫画とかバトル漫画でも与えておけば大丈夫、という事でしょうか。
『職人』という部分で近い所で、一番メジャーな題材は料理モノでしょうか。調理師だとあれだけ多くの作品が毎週描かれているというのに、例えば電気工事士の日常だとか、左官屋の職に対する情熱、配管工の恋愛、溶接工の冒険…出版社はそんな内容の作品には全く興味が無い、もしくは商売になるわけがないと判断されているのでしょうね。

作者のタカ先生は1981年生まれで、この「ブルーカラー・ブルース」Yahoo! JAPANの『Yahoo!コミック』内、Nextcomicファーストで2009年から翌年まで連載された作品であり、第一回ネクストコミック大賞の期待賞を受賞した今作がデビュー作になるようです。
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(こちらは祝・受賞版の帯付き本)

自身の実体験を元に描いた私漫画で、主人公の松本貴仁は作者のタカ先生そのものでしょう。大学を卒業して工事現場に勤め初めて2年目の24歳、東北地方出身…最初に内定が出た会社がたまたま工事会社だったために就職しただけの彼が、電気工事施工管理(現場監督)という職種で遭う受難の数々を描いた作品。

要は過酷な労働が続く悲惨な日々と人としての悩みを描きながら、ブルーカラー中のブルーカラーである工事現場の仕事を丁寧に説明してくれて、とても勉強になる本なのです。さぁ、君もこれを読んで工事現場の現場監督や職人を目指そうじゃないか!

初めての就職先では会社員と言ってもスーツにネクタイではなく、ヘルメットに作業着、軍手に安全靴というのがユニフォームの松本は、客の要望を聞いて他の業者と打ち合わせ、職人への指示を出す。板ばさみの立場で両者から怒られながら、要領が悪い彼は自分で電気工事をして、失敗して…
うん、既に共感出来ると書きましたが、正に私もそんな感じです。専門の職人じゃないので、決められた仕事だけやればいいわけではなく、しかも浅く広く仕事する必要があるため絶対の技術・職人技を身に付けられるわけではない。
照明の安定器や絶縁抵抗器だとか、専門の小道具もちらっと出てくるのですが、私も電気工事士の免状を持っているのでもちろん分かりますよ。個人的な話で、ちょっと違う分野のボイラー技士だとか危険物なんかも取ってますが、国家資格ながらこれらガテン系の資格は決して生活の保障にならないし、まずスーツ族以上の高給を取れる事もありません。

松本は安月給の上に残業手当なんか無い会社で長時間労働して頑張り、しかも怒られるばかりでストレスを溜め、身体的にも粉塵やケガの危険が付き物で、その上工事の恩恵を受けるホワイトカラー側からは感謝される所か汚いモノ扱いで蔑まれ。もちろん同僚に女性なんかいないし、それどころかタトゥやピアス率が高い人々からの暴力や恫喝が当たり前。
そういった状況を丁寧に描かれており、短く挿入される活字のコラムによる補足も良いですね。正直絵が下手なのできつい部分もありますが、そこは実体験漫画ゆえの生々しさでカバーしています。

読者は、そんな仕事ならすぐ辞めちゃえよ、と言うでしょう。
まぁそこが見所でもあるのですが、辞めるのは逃げなのではと悩み…
結局は辞めるのですが、一難去ってまた一難。作品後半では再就職への苦難の道が描かれるのです!

クソ会社を出て全身に感激が走り、『無職すなわち無敵だ!!』とガッツポーズを決める松本ですが、
『俺を本当に活かせる場所へ行く』
『「ホワイトカラー」になって あいつら全員を見返してやる!!』
といった初志がすぐにブレ始め、体調は悪化し…単純作業のバイトで優しく可愛い女の子が声をかけてくれたと思ったら宗教的なモノへの勧誘が目的だったり、全てがさらに落ちていく。
と、まぁ何ともリアルなだけに辛い本なのですが、それでもこの後、自分自身のある気付きによってハッピーエンドへ向かって行くので救われました!

いや、私には本を置いたらまた明日早起きして会社に行かなきゃならない現実が待っているわけですが。ただ私はこの松本貴仁ほど考えすぎて悩まず、バカになって忘れる術は身につけましたね。
でも結局の所、憧れのホワイトカラーだって誰だって不満を抱えているし、望んだ通りの就職が出来ている人なんてまずいないんですよね。就職先が人生の全てを決定するくらいに思っている人が多いみたいですけど、大会社とかお役所に勤める事がそんなに素晴らしい生き方でしょうか。
だいたい仮に楽で収入がいい仕事してても、ただ食えて生命をつないでいるだけみたいな人を見ると辛くなるし…逆にニートしてても食える身分で毎日好きな映画観て漫画読んでってしてられたら、それは幸せなのだろうか?
仕事以外の時間をどう過ごすかで人生の充実具合、自身の納得度も違ってくると思いますが、仕事自体も自分の情熱を傾けられ、楽しいモノであるならばそれが一番の幸せですかね。さらに当然金持ちになって、異性にモテモテでいつでも海外旅行に行けて名誉も人脈もあって力も強くて適度に冒険が有り趣味と家庭が充実して好きな食べ物を食べ続けられたら、そうかもしれません。
あと学校教育を受けると同時に付いて回る、あの勝利者は英雄で負けた者はクズ、という基準は正しいのだろうか。それも成績だとか何とか誰かが勝手に決めた基準で。そういった勝負という基準でいうなら、今の成功者だっていつ落ちるか分からないわけですが、その人の人生のどの時点で判断すればいいのでしょうか。


何もかもがもう嫌だ
工事現場における ありとあらゆるものが 吐き気すらするほどに
朝のラジオ体操も ブレーカーも 電動工具も
ケーブルも プレハブ小屋も 不潔極まりない簡易トイレも
そして そこにいる全ての人々も



  1. 2012/09/24(月) 23:59:59|
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第一回シモキタ将棋名人戦

先日の9月17日、下北沢北口駅前の空き地で縁台将棋大会「第一回シモキタ将棋名人戦」が開催されました。

私はたまたま、高円寺の某居酒屋で貼ってあったチラシを見つけてイベントを知り…
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その夜は酔っ払ってお店で将棋について語りまくったため、お店の人が気をきかせて私のエントリーもしてくれたらしくてですね。
…え?次の日にメールが来てビックリして(私が出たいと意志表示したのかもしれませんが、覚えてません)、ちょっと待ってくださいよそんな滅相もない、私なんて現在年に2,3局とかしか指さないし20年くらい勉強もしていないゴミクズ棋士、そんな立派な大会に出れるわけないじゃないですか!てなわけで二日酔いから体調崩しまくって気弱にもなっていた所でもあり、辞退させて頂きました。
しかもこの大会に出場するには、下北沢(シモキタ)の店舗や企業などから最も将棋が強い人1人として、つまり各店の代表として選出される必要があるのですから…人の店の看板背負ってみっともない将棋は指せません。

それでも当日は休みだったので、遊びに行ってみました。
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会場が下北沢北口駅前のマーケット横"空き地"であり、『大縁台将棋大会』を名乗るのだから面白いですよね。
下北沢は将棋が盛んな土地で、ロックバーなどに入ると将棋を指している人々が多いらいしのですが、そんなの全く知りませんでしたよ。私はそれを高円寺でやっていたわけですが、今度下北沢のそういうお店も覗いてみようかな。

なかなか将棋道場みたいな所って敷居が高くて入れませんが、こういう場所で見学だけさせて頂けるなら、それはもう生来の将棋好きである私、何時間でも見てられますよ…
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あれ、奥に見えるあの方は…おおっ!!あの初代竜王・島朗九段です!!
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聞けば来場者はプロ棋士からの指導対局(三面指し指導対局)を受けられるとの事で…しかも、何とタダ(商店街で使える商品券1000円分を購入する必要はありましたが)。それに申し込んでみまして、
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下北沢で"飯野将棋教室"を開いている、飯野健二七段の方へ指導対局を挑みました!
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一人で行ったので私の対局中…指している姿などは写真に収められませんでしたが、代わりに他の人に指導している飯野七段の姿。子供相手の時は丁寧に教えて上手く詰めさせてあげてましたね。
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ちなみにプロ相手の対局の場合、普通は当然のように2枚落ち(飛車・角落ち)で教えて頂くケースでしょうが、私は今まで駒落ち戦をほとんど経験しておらず、当然定跡も全く勉強してないし指し方が思い付かないと思って、生意気にも平手でお願いしました。でもって攻めも自玉の囲いも中途半端な恥ずかしい将棋を指してしまいました。
せっかくの機会だったのに緊張したのと、そもそもかなり久々に駒を触った私が何をやるかも決めてない状態でプロの前に座るなんて、ダメすぎでした。それでも飯野七段は良い所を無理矢理見つけて『駒組みが良かった』とか褒めてくれた上で指導もしてくれたのですが、あぁ恥ずかしい…あんな棋譜なんか後で見せられたりしたら自殺したくなりますよ!
花村萬月の小説「聖殺人者イグナシオ」では、主人公が最初に犯す殺人の被害者が将棋の勝ち負けにこだわりすぎるにある男だったのが原因(そこから民族差別発言が出て)でしたが、将棋は勝敗のハッキリする勝負の世界じゃないですか。でも私は勝敗にはあまりこだわらずゆるく指したい方なので、ある程度の所から強くならないのではと自己分析も出来ます。

おおっ!こちらの可愛らしい女性は!?
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何と飯野七段の娘さん、飯野愛さまです。女流棋士を目指す身らしいのですが、するとさすがですね…一般女性棋士が次々と現れて対局してました。逆に言うとやはり将棋はオヤジの世界であり、女性が相手じゃないと敷居が高いのかな。
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そしてそして…この神々しい光を帯びた方は!目にしただけで私の目から自然に涙がこぼれてきましたが…
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ついに会ってしまった、この方こそがネ申。私のような末端の末端も含め、とにかく世界中の将棋をやる人々にとっての憧れであり、絶対的な存在、つまり名人です!
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現在の名人は森内俊之名人

世間的には一番有名な棋士は、今年ついに通算タイトル戦獲得数で大山康晴十五世名人を抜いた羽生善治さまでしょう。私も羽生さまは5段時代からのファンでしたし(その時が小学高学年で私の将棋熱中時代だったのですが)、著作もほとんど読んだりしています。畠田理恵と結婚したのも、当時地味で非モテ系だった将棋をそこまでの地位に押し上げたと思いましたよ。
しかし森内名人は小学生時代からその羽生さまのライバルであり、羽生さまより先に永世名人資格を取ったし(頂点である名人位を通算5期獲得する事が必要という驚異的な事です!)、今年もその羽生さまから名人位を防衛しています。
将棋に興味ない方に何だかんだ言ってもしょうがないかもしれませんが、簡単に言うと将棋の名人ってのはまぁ…総理大臣より凄い方なんだぞ!!って事です。

おおーっ!名人の名刺交換場面に遭遇!
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というか名人の名刺、欲しい。しかし私みたいな低所得のブルーカラーの男…いや収入はともかく、要は梶原一騎(原田久仁信・画)の「一騎人生劇場 男の星座」じゃないけど、
『要するにオレが…BRUCEって男が"何者"でもないからだ』
てなわけで、何で総理大臣より偉い名人に、何もしてないしょうもない田舎者が挨拶出来ましょうか。
超リアルタイムネタで言うと、現在週刊ヤングジャンプ(集英社刊)で連載している柴田ヨクサル先生の「ハチワンダイバー」にて、今週殺気を跳ね返したりしてりたのが名人(らしき人)ですよね。あの般若の面の下は、森内俊之名人なのでしょうか!?

大会は時間の都合があるため詰みまでいかない場合があり、そこで森内名人が勝敗の判定を行っていました。自分の指した盤面…つまり人生!を名人に見てもらえるって、それ凄い事ですよね。もちろん名人の判定に誰も文句の付けようもないですし。しかし名人を動かしたこのイベントの実行委員会、凄すぎ!
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そのうちに秘密結社の某海外支部を任せている友人が遊びに来たので、ちょっと将棋を見せた後で"カフェ カナン"(cafe Canaan)へ珈琲飲みに行きました。
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そこでしばらく将棋を説明。貴方達に馴染みが深いチェスより、この日本が誇る最強の文化とも言える将棋がいかに優れているか…というとちょっとニュアンス違うのか、チェスも単純だからこその楽しみなどがあるのだろうけど、とにかく将棋の深遠さを説明したわけですね。
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彼らも私が高円寺の某バーでチャンピオンだった、という事実だけ知ってて"将棋が強い"くらいに思っていたようですが、プロと指して勝ったの?くらいに気楽に聞くわけですよ。おいおい!という話で日本将棋連盟のプロ規定の厳しさや将棋のプロってのがどれだけ凄い人なのか、とにかく理解してもらいたくて説明しました。
でもってさっき会場にいた森内永世名人というのがどれだけ凄いか…日本で常識として無条件に平伏しなくてはならない人物は唯二人、それが天皇陛下と将棋の名人なのである、というような事まで言ったと思います。

とか言ってたらたまたま、そのカフェ カナンに『第一回シモキタ将棋名人戦』ご一行様が登場!
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街を上げてのイベントとの事で、こういった店でもやってるんですよ!しかも、すぐに見物人が集まってきたりして。

これは下北沢における将棋人気は本物だと思います。今度試しに私も高円寺のカフェ店先で将棋指してみようかな?残念ながら多分、誰も興味を示さない結果に終わるでしょう。
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この勝負は準決勝であり、右の長髪の男が勝ちました。

あ、これは他のブログに載っていたのを見つけた写真ですが、我々が写っているので流用させて頂きましょう。
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こちらが決勝を争った二人。
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先ほどの長髪の男は洋食店"VARIE"(バリエ)からの推薦を受けた佐野修さんで、
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決勝戦の相手は"カフェ・バー らぶきょう"からの推薦を受けた人。
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結果は長髪の佐野修さんが優勝しまして、このトロフィーに加えて…何と森内俊之名人との対局権を授与されたのですよ!
佐野修さんは現在山梨県在住の人らしく、何をやってんだ東京人、とは思いますね。全く、その将棋私にやらせてもらえたら…一瞬で負けたと思います、はい。
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名人と対局出来るなんて、ちょっとでも将棋をかじった人間ならもうどうしようもなく羨ましい権利です。

あとこの大会は参加するだけで森内名人とのスナップ撮影のプレゼントがあったらしく、しかも第一回だけかもしれませんが参加費無料。これを周りの厚意でエントリーして頂いておきながら断ってしまった私って何なんでしょうかね。もう、桂馬にでも潰されて早く死にたい…来年行われるであろう第二回は出てみますか。
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お、大会翌日の下北沢経済新聞
『下北沢北口駅前の空き地で9月17日、縁台将棋大会「第1回シモキタ将棋名人戦」が開催された。』
という翌日の記事は「ココ」なのですが、それに私、写ってる!
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今夜の最後はコレ…勇気を振り絞って神様にお願いした、この写真になります。
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しかし何で私は将棋モノか、せめてスーツでもなく「コブラ」Tシャツなんかで行ってしまったのか…しかもタイで買ったパチモンであり、手で隠れてる部分には赤く目立つ文字で『寺沢武一』と書いてあるときてるのです。

これは気のせいかもしれませんが、森内俊之名人はコブラ世代の人…だからか私のTシャツに反応していたような感じがしました。それについて見はしたものの語らなかった事が、名人ともあろう者が漫画なんて俗物について語れない、という遠慮だけだったのだとしたらちょっと勿体無かったですね。
考えてみたらケンシロウだとか孫悟空だとか浦飯幽助だとか…筋肉バカというか戦闘バカタイプは、どれだけ戦闘能力が高くても絶対に名人に将棋で勝てはしませんよね。しかしあのコブラなら、何らかの方法で勝つかもしれない。そのイマジネーションだけが、森内俊之名人と私(のTシャツ)で一瞬だけ交わされた交流だったのかもしれません。
  1. 2012/09/22(土) 23:58:58|
  2. 映画、音楽、将棋、等
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劇画(145) 弐瓶勉 1 「アバラ(ABARA)」

今夜は弐瓶勉先生の「ABARA」(集英社刊)。
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弐瓶勉先生は1971年生まれの福島県出身で、代表作は何と言っても「BLAME!」。デビュー作でもある同作がキャラクターよりも建築物の描写を重視した、ほぼ台詞無し漫画!その独特すぎる世界を全10巻もかけて描いた事は快挙でした。
他に「NOiSE」「BIOMEGA」、現在も月刊アフタヌーン(講談社刊)にて連載中の「シドニアの騎士」などの長編作品がありますが、今回紹介するのは「アバラ(ABARA)」

これは「スティール・ボール・ラン」(荒木飛呂彦・作の『ジョジョの奇妙な冒険 Part7』)が週刊少年ジャンプからウルトラジャンプに移籍したために私も後者を手に取るようになり、その直後にウルトラジャンプで連載開始されたため(2005年から翌年まで)、掲載誌でリアルタイムに読めました。単行本は全2巻。
2巻の帯にあるように、あの諸星大二郎先生が『こんな絵を描きたいと思う絵』だとまで言って推薦しているのも凄いですね。

世間から示現体・白奇居子(シロガウナ)と呼ばれる人間を捕食する怪物が出たため、検目寮のタドホミはかつての同僚であり現在は一般人として養殖場で勤務している駆動電次の元へ向かうのでした。そして問答の末、駆動は黒奇居子(クロガウナ)化して白奇居子を退治するのですが、それがきっかけとなり、さらなる化物も登場してスケールの大きな戦闘へと発展していく…

独特な世界観を持つバイオレンスSF漫画であり、用語とか説明していくと面倒なので省きますが、物語はそんなに複雑でもなく、「BLAME!」の作者として難解なイメージのある弐瓶勉作品にしては、わりと一般向けを意識した内容ではないでしょうか。
ちゃんと強大なラスボスが現れて…謎も用意されているし、実はちゃんと少年漫画的なセオリーも持っていますしね。黒奇居子化すると背骨から紐状の物が飛び出して攻撃するのも、凄くカッコいいです。

もちろん従来通り暗い内容と黒い絵。そして台詞や詳細設定などの情報を省き、読者に想像させる部分を残した作風ではありますが、物語云々よりデザインとか絵自体を観賞するのがアーティストである弐瓶勉作品の正しい楽しみ方、でいいんですかね。
海外での評価も高くて、あのバンド・デシネの巨匠エンキ・ビラルがファンだというのだから凄い。それも『絵』を見せる作風だから言葉の壁も軽々越えてしまうのでしょう。

下巻末に収録されている「DIGIMORTAL」も本編の関連作品で、やはり未来都市を舞台にしたバイオレンスSF物。主人公であるデジモータルの圧倒的な強さにスカッとし、やはり絵の凄さに見入ってしまうのでした。


今日の授業で俺もやっと 白奇居子の標本を見ることができたよ
人類の領域を侵犯し 破壊にふける化物に まさにふさわしい容姿だった



  1. 2012/09/18(火) 23:59:15|
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劇画(144) 真鍋昌平 2 「THE END」

真鍋昌平先生の「THE END」(講談社刊)。
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真鍋作品は既に「スマグラー」を紹介しましたが、同じ月刊アフタヌーンにて2001年から翌年まで連載された作品で単行本は全4巻と、後に描いて現在も連載中の代表作「闇金ウシジマくん」の次に長いですよ。

肉体労働の現場仕事をしながら退屈な日々をダラダラ過ごしていた主人公はシバシロウ
彼が道を歩いていると、空から素っ裸で降ってきた美しい女…ルーシーと名乗る彼女と行動を共にすると、意味を見い出せなかった生活が一変し、全てが嬉しくなるのです。時に哲学的な事を語ったり、屋上で"今日"の終わりを見る詩的な時間を過ごしたり。
しかしそんな最高の時間はたった2日間だけで終わりました。ある時シロウが部屋に戻ると、アパートの住人達が惨殺されており、死体の中に立つ一人の男…そしてルーシーは姿を消していた!!

導入部はそんな感じで、地下水道で生活する地底人と会った後は、日常生活とかけ離れた冒険の日々が始まるのです。
地底人曰く、彼とシロウの他に5人の仲間がいるらしく、再び集結させる時が来たのだとか。シロウはかつて自分で望んで失くしている記憶があり、同じく記憶をなくしているかつての仲間達を集め、敵と戦わなくてはなりません。そう、時を同じくして『敵』に命を狙われ始めるのです。
主人公が現れる敵と戦いながら仲間を探し、最終決戦に挑む…概略だけ見たらロールプレイングゲームみたいなストーリーです。
普通の社会人…というよりダメな大人に、実は今と違う"本当の自分"の姿があった!というのも有りがちながら、世間に疲れた大人がいつも願う夢。

仲間達は"第一の男"、"第二の男"、という風に集めていくのですが、敵も"第一の敵"、"第二の敵"と出てきて…どちら側も個性的でいかれた奴らばかり!!
現実ばなれした内容に流れていきながらも周りを彩る登場人物や日常描写ではウシジマくんを思わせるリアルな怖さもあるし、後半は特に絵柄も現在の物に近づいてますね。あとはやっぱり、セリフがいい。

シロウが集める仲間達は全員が異常な能力(ちから)を持っており、リコリスという『悲しき思い出』を花言葉に持つ花をモチーフにした刺青をどこかに入れている…という事で、「南総里見八犬伝」っぽいですね。それぞれの名は
最初の男・地底人
第一の男・ギブス(チャパ)
第二の男・鸚鵡(オウム)
第三の男・ミスターQ
第四の男(女)・なな
第五の男・名無し

で、他に作業着の大男やアパートの住人達など、忘れている過去に関係ありそうな人物は出てきます。

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最初の男である地底人が他全員の記憶と能力を封じた張本人だったのですが、まずシロウの謎につつまれた記憶、そして特殊能力が解放されると…強すぎると思われた第一の敵・頭傷(アタマキズ)をあっさり倒してしまいました!!
蘇った過去の記憶によると、かつて彼らはどこかの国ででかい組織(政府?)に兵士として軍事利用されていたようですね。他の目的もあった事が終了間近に分かりますが…かつて彼らは雇い主から逃れるために伊豆・小笠原海溝で死んだ事にして、記憶を消して別れて生活していたのです。
ついに"昔の知人"達を集めたシロウは、地下施設で乾杯を交わす事になりました。それもつかの間、すぐに襲い来る第二の敵、第三の敵が強すぎます!!姿も能力もユニークすぎる彼らによって一気に崩れる味方の陣形。そういえば第三の敵の容姿は、アルバム「メカニカル・アニマルズ」(Mechanical Animals)カバー写真でアンドロギノス(両性具有)を演じた時のマリリン・マンソン(Marilyn Manson)そっくり!

頭傷の事とか、謎が少しずつ分かってくるのですが、特に気になるのがシロウが最初から最後まで求めていたルーシーの正体。謎につつまれた彼女の真実が明らかになるのか!?
そして、カッコいいクライマックスに流れ込むわけです。印象的なラストシーンまで読み終わった時、改めてタイトルを「THE END」とした意味を考えてみましょう。

真鍋昌平先生の作風は社会の裏側を描いたリアルで陰惨なモノ、というイメージが定着しているかとは思いますが、昨年出た短編集「青空のはてのはて」で明らかにした所によると(もちろん最初期から追ってた人は知ってたでしょうが)、かつては色々なジャンルを試行錯誤してようやく「闇金ウシジマくん」に至ったのですよね。
「THE END」も過渡期の一作であって、これで画力が高ければ…と惜しい気持ちになる事がしばしばありありました。この荒削りさが大事な個性ではあるのですが、おそらくは自分が画力がモノを言うこの手のアクション物を描く漫画家ではないと気付いたのでしょう。この後で個性と魅力を活かしたウシジマくんに着手する事になるのです。


"ある"のに感じ取れないもの たくさんあるでしょ
人は人が持ち得る感覚でしか 世界を測れない
私 こわい?



  1. 2012/09/13(木) 23:59:59|
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旅行・紀行・街(125) 群馬県利根郡みなかみ町 1

今回の旅は群馬県利根郡みなかみ町です。
月夜野町・水上町・新治村が合併して誕生したみなかみ町は、私の故郷である新潟県魚沼市とも隣接していて多少馴染みがあるものの、目的地としての訪問は初めてです。東京から車で2時間ほどで着くので、ゆっくり温泉で療養しようかとホテルも予約して…1泊2日にて、秘密結社員と行きました。

町へ入るなりでかい看板で『末期ガンが消えた 釈迦の霊泉』と案内があり、何かのカルト宗教でもあるのかと疑ってしまいましたが…
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さらに走っていると国道291号線沿いで通りかかったのが、異様な目立ち方をしていたお店…"民具茶屋"。飲食店のようですが、"資料民芸館"も兼ねていて『個人で集た日本一』(原文ママ)のガラクタが並べられています。
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横から。
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みなかみ町のマンホール。
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こちらは、水上駅。
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周辺にはSLを勧める旗が所々に立っていましたが、
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近くの広場にはデゴイチが安置されています!
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駅員さん顔ハメ。
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東京でも私の最寄り駅で群馬県のSLを宣伝していたし、鉄の人に人気の土地なのです。
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しかし鉄道にはあまり興味ない私にとってこの町で見たかった物は、ダム(Dam)!ここ奥利根地域だけでもダムはけっこうな数あるので、この冊子『奥利根地域ダムマップ』を参考にして…
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行けたのはまず、藤原湖の藤原ダム。
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初めて行くダムでは、ダムカードを貰いに行かなくてはなりません。
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おっと、まだダムカードを知らない方もいるみたいですね。国土交通省などが配布しているダムのトレーディングカードで、表面にダムの写真、裏面にはそのダムの情報が記載されています。しかも無料!ダムがある現地の管理所に行かないと手に入らないというのも、レア感があって良いですね。
こちらが、ゲットした藤原ダムのダムカード。
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ちなみに、私もネタでダムのTシャツ(アメリカ合衆国で一番高いオロヴィル・ダム)を着て行ったものだから、管理人にダムオタクだと思われたみたいです。

ダムカード配布箇所。これはちょっと前の資料で、現在はもっと増えています。
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続いて相俣ダムがある赤谷湖へ行き…
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相俣ダムカードもゲット!
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ダム自体も見学して、
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相俣ダム資料室へ。
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ここでは流木アートコンテストの優秀作品などを展示してました。
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そして事務所で飼っている山羊さん。
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レンタル山羊らしいのですが、草を食べるので草刈り動物としても使われいるのだとか。
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一匹は明らかに妊娠しているのだと思いますが、何たる巨乳!!
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当地で何度も見かけたポスターはコレ!
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群馬県を代表するタレントといえば彼らになるのでしょうか…中山秀征(藤岡市出身)と井森美幸(下仁田町出身)。
二人は『ぐんま大使』なる役に任命されているそうです。恐らくは「マグマ大使」とかけたネーミングですよね。二人でマグマとモルに扮してくれませんかね。他に帝王ゴアを三國連太郎(太田市出身)、人間モドキを篠原涼子(桐生市出身)…と、キャスティングしていけば、間違いなく群馬県を発信源とした「マグマ大使」ブームが巻き起こりますよ!!

さてホテルへ行きますか…まず、有名な"ホテル聚楽"。遊びきれないホテルは聚楽・・・じゅらくよ~ん♪
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あ、あのモンローのCMは全国区で知られているわけじゃないのかな。私が子供の頃(うちにTVがあった時だから幼少時代)は故郷の新潟でも繰り返しやっていて、マリリン・モンローのそっくりさんが出てきて『じゅらくよ~ん』と色っぽく言ってたんですよ。
しかも小さい頃の事だから、後でマリリン・モンローという大女優を知った時は『あ、じゅらくの人だ~』とか思ってしまいましたからね。CMに出てた人が偽者だったとは知らず…

続いて"蒼海ホテル"。廃墟ホテルを探検し、オーラを吸収。
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次がいよいよ目的地なのですが…"ひがきホテル"。ここを予約してました。
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はい、到着。
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エレベーターホールがレトロで可愛いですね。
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部屋へ…
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窓からの景色。この町は渓谷美の自然が上手く調和した温泉街なのです。
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お庭を散歩し、
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それから当然、水上温泉を楽しめる浴室へ。
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渓流風呂もあります。
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旅と自然、そして酒を愛した歌人・若山牧水の「みなかみ紀行」で有名になった水上温泉ですが(湯原温泉とも呼ばれます)、他にも太宰治、北原白秋、与謝野晶子など多くの文人に愛されたそうです。若山牧水は歌集にも「みなかみ」という作品がありますよ。

さて、ひがきホテルのもう一つの浴室には、
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露天風呂があります。
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外から丸見えですが…

川の流れを見ながらリラックスした後は、
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食事の部屋へ。
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ジャーン!
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もちろんビールを呑みながら…
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お、海の無い群馬県でもお刺身は出ますね。名物のコンニャク刺身の方がメインと言うべきか。
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キノコ類はもちろん、群馬県名物。
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他に鍋焼きうどん、
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土瓶蒸し、
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茶碗蒸し、など。
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イェーイ!
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デザート付きでした。
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満腹すぎて、あとは部屋に帰ってビール呑みながら読書のみ。東京での日々より3時間も早く眠りの世界へ。
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翌日の朝食、
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食後にコーヒーラウンジ鳳凰殿でコーヒーを飲みながら…
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蛭子能収作品を読む。
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何とこれ、私が持ってった本じゃありません。ホテルのロビーに置いてあった本なんです!いやいや本当に私の仕込みじゃないですって!
他にも永島慎二作品やつげ義春作品など、ガロ系作家の単行本が何冊もあったのですよ!!おかげで、ひがきホテルの高感度もアップしまくりでした。

朝の周辺散歩で、戦没者慰霊塔のある"忠霊塔公園"を見つけて参拝。
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別の所で見つけた銅像。
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みなかみ町の名物といえば温泉の他にもレジャー関係がいくつかあり、まずはラフティング・ライン川下り。
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他に、高さ42mの"諏訪峡大橋"から飛び降りるバンジージャンプが有名。車で通りかかりましたが、挑戦するのはまた次回でお願いします。

この辺はドライブしているとケルト音楽が似合いそうな山道を走る事になりますが、こんな深い森(DEEP FOREST)ばかり。
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この先に猿ヶ京へ抜ける道があり、仏岩があるそうなのですが…ちょっと普段着では入って行く気がしませんね。
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続いて"たくみの里"へ。
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道の駅なのですが、伝統工芸や群馬県名物のコンニャク作り等を体験出来る施設や資料館などがたくさん有り、その辺一帯を丸々テーマパークにしている大掛かりな作りは気に入りました。

人面木。
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教会も神社も有ります。
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ちょっと離れると、もう私の故郷と変わらない田園風景になりますが。
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ここでは蕎麦が名物という事で、蕎麦屋もたくさんありましたが…
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私が入ったのは"豊楽館"
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ここにはたくみの里内で作っているご当地グルメ、のむヨーグルトも売っていたので購入。
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あとは『野仏めぐり』をするのが流行っているようで、小学生の団体なども来てました。
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おおっ!?道路を走っていたら、たまたま見かけた"恐怖の洞窟"の看板。洞窟好きの血が騒ぎ、行ってみると…
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本日休業ですって!
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後で調べたら地下5メートル、前長50メートルというから大きくありませんが、人口洞窟(多分)なりにお化け屋敷的なアトラクションとか用意してるのかな。
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ま、私は同じ群馬県の多野郡上野村にある関東最大の洞窟"不二洞"にも行った事あるから、ここはいいでしょう。

続いては、"和風レストラン しんりん"で食事。
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てまりうどん、
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そして…わらじソースカツ丼セット。
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ここから見える、あれが谷川岳かな。
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実はみなかみ町に来たからには、遭難死者数が物凄く多い"魔の山"こと谷川岳には行ってみたかったのです。何と日本一…ではなく、世界のワースト記録としてギネス認定されているほどですからね。手塚治虫先生の名作漫画「ブラック・ジャック」でもこの山を舞台にしたエピソード『霧』で恐ろしさを描いていました。
とはいえ私はロッククライミングではなく谷川岳ロープウェイで簡単に登るのを計画だけしていたのですが、この日は天候が悪くて景色が見えないだろうし、死霊ばかりが見えそうな予感がしたので断念しました。
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でも帰省する時の通り道である、関越自動車道上の"谷川岳パーキングエリア"にはよく行きますよ。
上り線、
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下り線、
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どちらも谷川岳の湧水が引いてあって、無料で飲めるのです。

他にも日本最大の高層湿原・尾瀬をハイキングや、各種フルーツ狩りなんてさわやかな事も次回はしてみたいし、滝や渓谷、ダムもまだまだあるし、イベント関連もあるでしょう。つまり時間が全然足りなかったのですが…
最後にもう一つ、みなかみ町の温泉地を紹介しましょう。広域に渡って水上温泉郷や宝川温泉、猿ヶ京温泉など良い温泉が多数あるこの地でも、私にとって最も行かなくてはならなかった聖地がここ。
旧三国街道に面した宿場町、湯宿温泉です!
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こここそが、つげ義春先生の名作「ゲンセンカン主人」のモデルとなった温泉であり、その一点だけで聖地認定!ギョホギョホ…
つげ義春・画、正津勉・文によるコラボレーション作品「桃源行」でも、最初にこの湯宿温泉が題材にされていましたし。

やっぱり老婆しかいないのかな?いや老婆どころか人っ子一人いませんよ。
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↑の写真で左に"大滝屋旅館"の看板が見えますが、ここがつげ義春先生が泊まって混浴で「ゲンセンカン主人」の着想となるショック体験をした旅館。
寂れた宿場町ですが、それでも旅館も共同浴場も新築されていて、もう当時の面影は無いそうです。旅館の人につげ義春先生の話でも聞ければと思いましたが、多分自分達の旅館が漫画史に残る作品でモデルになっている事も知らないでしょう。
それでもこの石畳の道を歩き、あの作品のような世捨て人への憧れを強める私でした…


  1. 2012/09/09(日) 23:00:00|
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楳図かずお(35) 「半魚人」

楳図かずお作品より、「半魚人」(朝日ソノラマ刊)です。
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画像の左が1971年初版の『楳図かずお 秀作選』全3巻のうち3巻目として出たサン・コミックス版で、その右(真ん中)は1991年に同内容を装丁変えて『シリーズこわい本』の15巻目としてハロウィン少女コミック館版で再出版した物。さらに今回は1997年に出たP-KCシリーズ(講談社の廉価版復刻コミックス)の画像も載せましょう。
ちなみに『楳図かずお 秀作選』の2巻目である「女の子あつまれ!」は、その内容からハロウィン版の『シリーズこわい本』には入れられず、シリーズは今作を最終巻とする全15巻で完結となりました。

今回は3作の少年向け恐怖漫画が収録されていて、表題作「半魚人」は1965年の週刊少年マガジン(講談社刊)にて連載6回で掲載された作品。
半魚人といえば…もちろんアメリカ映画「大アマゾンの半魚人」が誰しものイメージになっていると思いますが、そこから着想は得ながらもオリジナル作品であり、楳図かずお作品らしいSF要素を盛り込んでいまして、『半魚人』の読み方も『はんぎょじん』ではなく『はんぎょにん』となっています。

主人公である式島次郎少年の兄は、ある日突然おかしくなり始めました。鋭い牙が伸び、体にはウロコ、手の形も変形してヒレが生えてきた…さらに普通の食事が取れなくなって半魚の姿で海に入っては魚を獲って生で喰らう。
目撃した次郎は襲われながらも何とか逃げ延び、二人は決別する事になりました。が、すぐに兄は現れました。友達の健一の家に入り込んで研究者である健一の父に成りすまして…健一を半魚人に改造するのです!
健一の父の研究では、世界的な温暖化によって南極と北極の氷がとけて地球は海の中に消えるそうなので、その未来に生き残るため強制的に半魚人にする、という事ですね。次郎の兄がいきなり半魚人になったのも、地球が水に沈むのを本能が敏感に感じ取ったから。後の長編「14歳」も同じ設定ですよね。
自然に半魚人になれた次郎の兄が、なれなかった健一を改造するわけですが、この手術が凄いのです。でかい水槽に入れて水中に長時間いる訓練をし、刃物で口を大きく切り裂き、続いて目・・・指・・・と、貸本時代の名作「猫面」を彷彿とさせる残虐な麻酔無し手術が続きます。健一は狂ってしまいながらも本当に半魚人2号として生ま変わるのですが、このデザインは凄すぎますね…
それから、もの悲しいラストシーンまで一気に突っ走り、海に沈んだ世界では生き残れるのだから半魚人になった方が幸せなのかもしれないと結論付けられます。ただし、博士は最初に『あと千年ほどで地球が海ばかりになるのじゃ!!』と言ってるんですよね。それって半魚人になった者も絶対生きてない時代の話ではないですか!
滅亡が先の話すぎるのと、次郎の周りの数人しか出てこないから"終末モノ"としてはスケールが小さすぎるかな。しかし、これも精神が肉体に及ぼす影響を描いたメタモルフォーゼ物であり、どこのページにも楳図かずお作品の魅力であふれている大好きな作品です。

続いては「半魚人」の翌年である1966年に、同じ週刊少年マガジンで連載7回で掲載された「ひびわれ人間」。『楳図かずおのフランケン』というサブタイトルも付いていますが、そのままフランケンシュタインの怪物モノです。
ボリス・カーロフが怪物を演じた1931年の映画「フランケンシュタイン」が元ネタですが、これは以前にも「恐怖人間」(原題「恐怖人間 残虐の一夜」)で描いた自作のリメイクでしょうか。少年誌向けに残酷描写は抑えられ、分かりやすい復讐物語にもなっています。
生命の謎に挑戦する灰田博士と助手の三太少年は、死体の体をつなぎ合わせて作った体に死んだばかりの幼児・森影良彦の脳を移植してついに人造人間(ひびわれ人間)を誕生させました。
良彦の母親は、醜い化物の姿で現れた我が子を復讐の道具として利用するが…という話。良彦の顔が初登場のコマと次のページのとでまるで違っているので、明らかに後で加筆修正しているかと思われます。いつか初出時のマガジンを確認したい所です。

最後は1966年の少年画報(少年画報社刊)にて掲載された「恐怖の首なし人間」
同じ少年画報で翌年に掲載された「笑い仮面」を紹介した時に触れましたが、主人公の少年が同じ五郎(探偵ゴロー)で、もちろん着ているシャツにはでっかく『5』と書いてあります。
いきなり家でワニオン(ワニとライオンをくっつけた怪物)に襲われてケガをした五郎は、藻呂尾博士というマッドサイエンティストが研究所をかまえる島に連れて行かれて、人工的に作られた奇形の動物達を目撃する事になります。しかも自分の体を藻呂尾博士の息子であるとしおに使うため狙われている事が分かり、逃げ出そうとする…
ちなみにタイトルにある"首なし人間"というのは藻呂尾博士の事で、彼は自分の体までも実験材料にして、首を胴体と離す事に成功していたのです。ラスト近くで五郎を追い、両手を上げて迫って来る首なし人間の姿は怖がればいいのか、笑えばいいのか。

最後の「恐怖の首なし人間」はもちろんH・G・ウェルズの小説「モロー博士の島」が元ネタになっており、とするとこの本に収録されている三作は「大アマゾンの半魚人」「フランケンシュタイン」「獣人島」と、それぞれ往年のアメリカで作られた怪奇映画に関わる物ばかり。
それに描かれたのが同時期であり少年向け作品なので、統一されていて良いですね。同じ『シリーズこわい本』でも、絵柄が内容がバラバラすぎる短編集になっている巻もありましたから。


ゆうべはとんでもないところを見たな…
殺してしまうつもりだったが とてもできなかった……
おれたちはこれでおわかれだ
そうさ おれはだんだんさかなになっていくのだ



  1. 2012/09/06(木) 23:58:27|
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楳図かずお(34) 「うろこの顔」

楳図かずお作品より、「うろこの顔」(朝日ソノラマ刊)です。
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画像の左は1970年初版のサン・コミックス版で『楳図かずお 秀作選』全3巻のうち1巻目として出た物、右は1991年に同内容を装丁変えて『シリーズこわい本』の14巻目としてハロウィン少女コミック館版で再発された物になります。

楳図かずお先生の数ある"ヘビ女もの"の中でも代表格かつ、特にそのグロテスクさでトップの呼び声高いのがこれ、「うろこの顔」。初出は1968年の少女フレンド(講談社刊)で14回に渡って連載され、単行本一冊使った長編です。だいたいの楳図マニア達に最盛期とされる1960年代後半の作品なので、素晴らしく緻密な描写を堪能出来ますよ。

楳図先生ご本人が"漫画家の楳図かずお"として登場する作品ですが、今作では何故か出てきても後姿ばかりで顔は出ません。代わりに活躍するのは楳図先生の妹・楳図魔子
漫画家の代名詞のようになっているベレー帽を決してかぶらなかった楳図先生ですが、この魔子は常にベレー帽をかぶってますね。もちろん全体的に素晴らしくオシャレなファッションセンス、お顔も可愛らしい。(サンコミ版の表紙参照)
多分実際には妹はいない楳図先生なので、これは理想の妹として創作したのでしょうか!?魔子という名前は私の大好きな女優・緑魔子と同じですが、そこから来てますかね?
そんな魔子は"魔子の恐怖ノート"と書いてある、スケッチブック大のでっかいノートを小脇に抱えて行動しています。『奇怪な話を集めるのが仕事』とありますが、どうやら職業は記者なのかな。

冒頭でその魔子が、楳図かずお先生の元に届いた読者からの手紙を勝手に開封すると…でかいうろこが封入されており、震える字で書かれたその手紙の内容に興味を持った事から調査に行くのが全ての始まり。
封筒の表面に書かれている楳図先生の住所がしっかり見えているのですが、ファンなら気になる所でしょうからここでも書いておくと『東京都豊島区堀之内六一林荘 楳図かずお先生』となってます。
魔子は手紙の主である沼田陽子のいる山梨県へ行くわけですが、あとは陽子やその家族に近づきながらも物語の中心としては動かない、ちょうど「おろち」のような狂言回しの役割ですね。

メインの物語ですが、まず陽子の姉・久留美が中学生の時に脳性小児マヒにかかって両手足が動かせない『生き人形』になってしまい、凄く仲良しだった妹に対して同じように手足が動かなくなるよう呪いをかける…やはり一筋縄ではいかない人間の裏側的な心理を描きつつ、あるヘビの呪いを加えています。
久留美は手足が動かないからヘビのように這いずって移動するしかなく、あとは口で何かをするのですけどね、随所でとてつもなく怖い顔を見せてくれます!
おっと、脳性小児マヒになったというこの設定は、ハロウィン版の方では『原因はわかりません』に変えられていますね。他にもやはり、『きちがい』というセリフは『狂ってる』とか『こわい人』とかに変えられているし、今作でも再発版とでセリフの修正箇所が目立ちます。

それから蛇女となった久留美は陽子に虐待し続けるパターン通りの展開なのですが、わりとあっさり久留美は死んでしまい、しかもヒロインである陽子まで蛇女となる上に、死んだ姉の死体に細工して罪をなすりつけようとするなどのショッキングな裏切りに驚きます。
しかし久留美を灰にする事にたえられなかったとかって、地下で死体を水槽に入れて(ホルマリン漬けなのか!?)安置するお父さんもけっこう狂ってますな…

その後も見所満載で、後に犬木加奈子先生がそのままパクっていた美少女の顔面ズル剥け、しかもその下から『うろこの顔』が!なんてシーンや、他にもインパクト強いショックシーンの連続です。
もちろん全ての元凶となる黒幕が判明するストーリー自体も面白く、何度読んでも凄い凄いと唸りながら入り込んでしまう名作でした。
最後は楳図魔子が窓から手を振っている微笑ましい一コマで幕を閉じるのですが、この魔子ちゃんの出演作品をもっと増やして欲しかった…


きれいな血を吸わないと………うろこが出てくるのよ
おねえさんは恐ろしい人よ 死んでもまだ私を苦しめようとしているのよ
おねえさんの死体がないのよ 魔子さん こわい
ヘビになりたくないっ
だんだん自分が自分でなくなってくる!



  1. 2012/09/02(日) 23:59:59|
  2. 楳図かずお
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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