大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(123) 谷口ジロー 8 「父の暦」

今夜は谷口ジロー作品より、「父の暦」(小学館刊)です。
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初出は1994年で、掲載誌はやはりビッグコミック。12話編成の全1巻です。

実はこれこそが、私の個人的に「犬を飼う」にも勝る、というより今まで出会った全漫画の中でも一番泣ける作品かもしれません。目頭が潤んでくるなんて物ではなく、大粒の涙がボロボロとこぼれてくるのです。酔っている時にばかり、故郷を思い出して本棚から引っ張り出してきては読み直すからでしょうか。

谷口ジロー先生自身の故郷である鳥取県鳥取市を舞台にして、故郷の思い出や原体験を交えつつ創作したエッセイ風の物語だし、絵の上手さもあってものすごくリアル。谷口先生はこの後にも鳥取を舞台とした名作を描くのですが、故郷を舞台としたのはデビューから20年以上経っているこの時が初めてでした。もちろんセリフは忠実な方言も使います。

主人公の『私』こと山下陽一は、タムという犬を飼っていて東京でデザインの仕事をしています。つまり「犬を飼う」の主人公である『私』と同一視出来る、谷口ジロー先生本人を色濃く反映した人物。
彼の元へ、故郷の鳥取市で"山下理髪店"を営んでいた父のが亡くなったと連絡が入り、渋々ながら14,5年ぶりに帰省した陽一。もう始まっていた通夜の席で、父に関する人々の思い出などを聞き、遠い過去を振り返る…

1952年の鳥取大火で被災した少年時代、それがきっかけとなって両親の離婚にまで発展して深く傷つき、記憶の底に沈めていた思い出を親戚達の話で補完し、自分の持っていた認識を改めながら物語は進んでいきます。
その構成がもう見事すぎて文学的でもあり、また少年の日の思いや郷愁も分かりすぎるほど分かります!
現在東京で飼っている「犬を飼う」にも登場のタムは1コマしか登場しませんが、鳥取の少年時代のチロとコロという2匹の可愛い犬も脇役ながら出てくるので、「犬を飼う」ファンにもお薦めできます。私が飼っていた犬もコロといいましたが、陽一と同じく親との深い溝を持って故郷を出て、置いてきた犬はそのうちに死んでしまったのだから、個人的にここは思い出して辛すぎる部分ですが。

陽一は記憶を辿り、初めて知る真実や父の優しさに触れると、幼い頃から抱えていた父へのわだかまりが死後初めて消え、一方的に和解する事となるのです。
今まで故郷を避け、高校卒業して上京したのを幸いに大学時代に一度、そして姉の結婚の時と自分が結婚した挨拶の時だけしか帰らず、家族に淋しい思いをさせていた事はもう、いくら悔やんでも取り返しが付かない…
本編の様々なエピソードについて、またラストシーンについても書きたい事はあるのですが、そこは書かずに残しておくので、こんな文章ではなくどうかご自身の眼で作品を読んでみて下さい。

1冊のほとんどが通夜の席での語りとその時の話で思い出す過去の回想シーンだけという、こんな地味な設定で丁寧に丁寧に主人公…自分の心理を描いていく、谷口ジロー先生だから描けた大人向けの良書でした。


おまえはいつも お父の気持ちから逃げよう逃げようしとったんでないか?
そりゃあ清子の事があったけ、そんなうらみもおまえの中にあったんや思う。
けど、あれは仕方のないこっちゃ。あれもみんな家族の事を思うての事だけえ。
おまえがおらんようになってから、コロの面倒をみたのは誰やと思う。
お父だで。それはなんでかわかるか?
おまえがいつ帰って来ても喜ぶように、ちゃあんとコロを可愛がってやっとったんだで。
おまえの捨てた犬をな。



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  1. 2011/05/12(木) 00:10:05|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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