大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(124) 谷口ジロー 9 「遥かな町へ」

今夜は谷口ジロー作品より、「遥かな町へ」(小学館刊)です。
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初出は1998年のビッグコミック掲載誌で、単行本は上下巻の全2巻です。

地味すぎる話を中心に描いてたこの時期の谷口ジロー先生が、何とタイムスリップをテーマに描いた作品。
とはいえそこは谷口先生…主人公の中原博史は48歳で普通の中年サラリーマンです。それがそのままどこかの時代に行くのじゃあんまりですが、それまでの経験や記憶をそのままに体が若返り、自分の14歳時代にタイムスリップするのです。
これでその後は経験した未来についての知識を生かして世界を股にかける活躍をする!とかだと、後に今泉伸二先生によって描かれたケン・グリムウッド原作の「リプレイJ」になってしまいますが、同じような設定でも谷口先生が描くとこうも大人しいかと、微笑ましいですね。故郷の鳥取県を舞台にしている事もあって、ファンタジー風味ながらリアルで哀愁深い人間ドラマに仕上がっています。

はいそんなわけで…物語の冒頭でくたびれたサラリーマンの中原が、出張帰りに何故か故郷へ行く列車に乗っていて、気が付くと"源善寺"で母の墓参りをしていた。すると謎の地震が起こり、揺れが収まると14歳の自分の体に入れ替わっているのです。
タイムスリップ時の象徴的なアイテムとしてアゲハチョウが使われているこの重要なシーン、体の入れ替わりという内容的にも大林宣彦監督の名作映画「転校生」を思わせます。次の大林作品「時をかける少女」ならぬ「時をかける中年」でもあります。

14歳の中学生に戻った中原は、失われたはずの故郷の町並み、そして…失踪した父、ずっと後に死んだ母、昔の姿の祖母や妹など、もう絶対に会えなかったはずの者達を目にして涙を流します。
それから昔のように家族と眠って目覚めても、やはり夢じゃない本当に14歳の生活が戻ってきました。『もう一度14歳を生きてみよう』と覚悟も決めた中原は、勉強にスポーツに友達付き合いと、その新鮮さを楽しみながら味わうのですが、やっぱり中身が違うものだから微妙に過去と流れが変わってくる。
英語が出来たり、まだアントニオ猪木が世に出る前だというのにコブラツイストをクラスの奴とのケンカで使えたり、ほとんど話した事なかったクラス一の美人・長瀬智子に好かれたり…と、このスケールの小ささ。せいぜい少女漫画並なのが、逆にリアルなんですよね。
私も…というより誰でも、中身はいろいろ経験したこのままで『人生を遡って途中からやり直す』という事を夢見ると思いますが、戻った所でこんな所でしょう。

物語「遥かな町へ」の主軸となるのは、家庭円満だったというのに14歳の時に失踪して以後会っていない父。その父が家を出る前にタイムスリップした事から、出て行く日付けまで分かる父を引き止めようとする部分。
うん、ここはタイムスリップ物らしいですが、果たして中原は歴史(イチ家族の小さな)を変えられるのか…
この作品の凄いのは、家族のためには絶対に失踪を止めるべきだった父の気持ちが、中身が48歳の中原には理解出来てしまう所。難しい人の気持ち・内面を漫画で表現する名手にかかっては、読者も共感の涙を流すわけです。
これが14歳時代の中原では父の気持ちが分からなかったであろう事と同じように、私も例えば10代で読んでたら良さが半分も分からなかったかもしれません。やっぱり大人の漫画だ…
元々の14歳時代では知らなかった真実を、二度目の14歳時に祖母に聞いたりしていろいろと知る中原は、もう14歳の生活を思い出して馴染んでいるはずなのに、最後まで鳥取でも標準語で押し通す事の意味を考えてみましょう。

他にも印象深い場面などはいくつかあり、妹の京子が新しい靴を買ってもらって喜ぶエピソードでは可愛いくて微笑むだけじゃなくあの時の気持ちを忘れた大人になっている自分を思い出させてくれるし、ヒロインの長瀬智子と、父の知り合いで悲劇の女性・大沢民子の美しさ・愛らしさに目を見張る事になります。
物語を締めくくるラストの余韻まで素晴らしく、同じ『父モノ』『鳥取モノ』でもあり前に紹介した「父の暦」の次に読んで欲しい名作ですが、よりによってこんな日本人的な作品が海外で高い評価をされ、実写映画化(2010年)までされるのだから、世の中分からないものです。


ゆったりと流れる雲は、手が届きそうな感じさえする。
空は不思議だ………時間を越えてずっとそこに存在している。
永遠というのは この空の事を言うのかもしれない………
きっと誰も大人になんかなれないのだろう……
人は気持ちの奥深いところに 子供のままの自分を持ちつづけている………
この空のように……



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  1. 2011/05/16(月) 23:23:33|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

こういう漫画って、今ではもうネットで読めるんですか?
  1. 2011/05/17(火) 23:43:51 |
  2. URL |
  3. 赤蝮銀次郎 #-
  4. [ 編集]

ネットで漫画

>赤蝮銀次郎さま

あ、お久しぶりです。赤蝮さまは現在海外在住でしたっけ?そうだとしたら…遠くから来て頂いてありがとうございます。
しかしすみません。私はネットで漫画そのものを読む習慣が全くありませんので、その質問の答えは分かりません…
そういえば近年携帯電話で漫画読んでる方など見受けますが、あれって本での読書しか知らない私のような者にも違和感無く楽しめるものなんですかね。
  1. 2011/05/19(木) 22:45:26 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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