大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(127) 松本零士 2 「元祖大四畳半大物語」

今夜は松本零士先生の「元祖大四畳半大物語」(朝日ソノラマ刊)です。
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単行本は、画像のサンコミックス版で全6巻。

SF漫画界一の大御所と言って間違いない松本零士先生ですが、最初のヒットは四畳半の部屋での生活を描いた貧乏漫画「男おいどん」であり、私もSF漫画以上に貧乏漫画のファンです。
さらに別冊漫画アクション(双葉社刊)で1970年から1974年までの長期に渡って「大四畳半シリーズ」として連載され、単行本化の際に「元祖大四畳半大物語」と改題された本作は、同設定の「男おいどん」以前の開始にして終了後も続いていた作品。
しかしこの二作品。ほぼ同設定・同登場人物の話だし毎回同じ事の繰り返しのマンネリ作品(もちろんそれが良い)だし、どちらも同時期に描いていたのだから、松本先生の変態ぶりが分かります。
ちなみに「元祖大四畳半大物語」はタイトルに『元祖』が付くので貧乏(四畳半)漫画のルーツと思われるでしょうが、実はさらに前に「恐竜圏」や"マシンナー・シリーズ"中の「海底の大四畳半」といった短編がありました。

さて「元祖大四畳半大物語」の主人公は足立太。九州出身で、連載開始当初は19歳で貧弱なノッポのメガネ男。そのうち松本零士先生の画風の変化に伴って、頭がでかい蟹股のチビ…つまり「男おいどん」の大山昇太と同じ風貌になっていきますね。
九州から就職のため上京したら会社が潰れて夜逃げしていたためいきなり無職となり、そこから文京区本郷三丁目のボロアパート『第三下宿荘』を舞台に、大四畳半サバイバル生活が始まるのですね。何しろ第一話目の終わりで財産は11円、涙のうちに東京生活の一日目が終わるのです。
一応大学進学を目指していたはずですが、バイトをしても続かないどころか失敗して弁償させられたりで常に金が無く、とにかく貧乏との勝負をやかましく続けます。

無芸大食人畜無害でサルマタ愛好家でインキンタムシで…とまぁ、有名な風貌のみならず性格も何もかも大山昇太とそっくり同じなので、知ってる人が圧倒的に多いあちらを思い出してもらえばいいです。
ここではサルマタの山からキノコのサルマタケは生えてこなかったり、多少小道具の違いはあるのですが、特に大きな所では足立太はセックスを何度も経験している事ですね。そりゃ若い一人暮らしの男の生活です…この点で性欲自体をほとんど描かない「男おいどん」と違って青年誌連載の利点がありました。
1話完結の短編が連作で続くのですが、それぞれの話の扉絵に大抵セクシーなショットが描かれているのも素晴らしい。

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同じ第三下宿荘の向かい部屋にはジュン子(ジュン)とそのヒモでジュリーというヤクザがいるのですが、このジュンを作者は理想の女性として描いていて…というより後半はほとんど聖母のよう。優しく美しくて、足立太の筆下ろしをしてくれたし、度々やらせてくれたり抜いてくれたりするのです。これは羨ましすぎます…貧乏で不細工でも、そんな事が起こるなら幸せですね。
しかも足立太は孤独のようでいて、何故か度々他の女性ともセックスしてるし!ほとんどいつも女性から迫られて一度きりの事で結局は孤独を感じたりしていますが…やはりできないより良い。クニから太を頼ってきた姪(といっても同い年くらい)の由紀ちゃんとまでしちゃってます。

今作のヒロインであるジュンの事は話が進むにつれて段々と分かってきますが、東京へ家出してきたばかりの頃にヤクザ(ジュリーの組)に眠らされたまま強姦されて写真を撮られたとか、現在は暴力バー"ボルドー"のキャッチガールとして働きながら、何度もジュリーの借金を帳消しにする条件で中年と売春させられている…といった事が分かってきます。
しかしそんな悲惨な部分を物ともしない器の大きさ、エッチに関しては天才的な才能がある…だから理想の女性ですよ。最初はショートカットだった髪が、途中からいつもの松本零士ヒロインらしく腰まで届く長さに伸びていますね。
足立太に対してはあくまで同情心というか、聖母の大らかさでたまにエッチな事をしてあげてますが、愛するジュリーとはいつもいつもセックスしていて、古い集合住宅では声も漏れています。
それなのにいつもいつも、足立太は二人がしている最中に扉を開けて覗いてしまい、ジュリーに殴られて…というのはお約束。飽きもせず毎回毎回!

手を変え品を変えて騒動が起こるにしても、結局は同じ結末を迎える似たような話で続く日常物の連作短編が、いつも面白い上に共感しちゃうのは、弱者側である男の人間観・メッセージ色が強いからでしょうか。
ジュンとジュリーの他にも、世話を焼いてくれる大家のオバさんとその夫、次々と出てくるオカマのまさみ、底力夫婦、それに足立太と一回だけ関係を結んだ女達…彼らとドタバタ繰り広げた後で、最終ページには作者のナレーションが入るのがお決まりパターンです。

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いつも何をしても報われない足立太ですが、彼が住む第三下宿荘の四畳半自体、侵入者に首吊り自殺されたり前の住人が強盗だったり等、かなり悪い風を呼んでいる部屋。しかしどんなに貧乏で醜男だったりで屈辱を受けても決して暗くならないのは、今に見ていろいつか大物になるぞ、という志と周囲の期待もあるからでしょう。
だから最後は成功する…まで行かなくとも、せめて希望を見せて欲しかったのですが、最終回も『明日のために今日も寝て その今日のために明日も寝るのだ』と豪快に寝ているコマがラスト。

若いから、まだ無限の可能性を秘めた希望がある、といった描かれ方をしていた足立太の将来は読者の判断・想像に委ねる形ですが、とバタバタ暴れては寝てばかりの無為な毎日を送っている足立太は、結局大物にはならないのでしょうね…
松本零士先生が実際に本郷で下宿していた事実があるために、この「元祖大四畳半大物語」や他の四畳半モノを本人の自伝的作品だと見る方もいるようですが、漫画家修行という明確な目的を持って邁進していた松本先生の生活がこれに近いものであったはずがないかとも思います。
ただ私も含めた足立太側、どうにもならないダメ人間側の気持ちを、実際にそっち側にいる人々以上に表現した傑作なのです。当時いくらでもいた四畳半生活者は、天才の鋭い眼で観察されていたのでしょうか。

貧乏な方が工夫が生まれるし、生活も楽しいかもしれない…そんな希望を持たせる四畳半モノは、若者には特に読んでおいてもらいたい。
実際に私は上京した折には、今作の連載から30年以上経ってなおフロなしアパートを探して生活しましたし、多少みじめな思いをしても『おいどんはリアル足立太だ~』なんて笑う事も出来ました。

単行本の最終巻となる6巻には、「西部長屋人別帖」「大サムライ伝」という大四畳半とは関係ない短編も併録されていて、どちらも西部劇。
前者は「ガンフロンティア」トチローを主人公にした作品で、後者もトチローと同キャラに見えますが名前はイヨ。こちらも他作品に出ているキャラでしょうか?
松本零士先生は複数の作品に同じキャラを使うスター・システムを用いている方なので、私のように全作品を網羅していない浅い読者には辛いのが、他作品と内容もクロスオーバーしていた場合ですね。
ただ、どちらも独立した短編として楽しめますよ。西部劇の世界に外見とギャップのある強さを持つ日本人らしき奴が飛び込んで、差別主義の白人どもに目にもの見せるなんて、嬉しいじゃないですか。

最後に、今回の「元祖大四畳半大物語」は同タイトルで1980年に実写映画化もしていて、その監督が「嗚呼!!花の応援団」も映画化した曽根中生、そして松本零士先生本人も、クレジットされています!
キャストもマーちゃんを関根勤、底力をガッツ石松が演じている辺りは気になるのですが、肝心のジュリー&ジュンを前川清と篠ひろ子ってのが怖くて、未だに観てません。ちなみに足立太は山口洋司…知らん!


おいどんの相手は全世界の女すべてなんど
みな可能性があるんど なくことがあるか!!
みちょれこの!



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  1. 2011/06/02(木) 23:55:48|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

そういえばありましたねえこのマンガ。
懐かしいです。
あまり読んでないですけど。ラーメン屋とかでは読んでました。
貧乏マンガは好きなんですけど、松本零士が描く女性が気持ち悪くて苦手なんですよね。ヤマトに出て来る女性も気持ち悪いです。松本零士は女にモテないキモオタなので、女の魅力を知らないんだろうなあと思ってました。
そして、氏のマンガを読むような人は道程の中学生なんかが多くて、そういう人達には、リアルないい女より、女性経験の乏しい男が妄想する女性像のほうがウケるんだろうなあなんて考えてました。
ついこないだまで東京の安下宿で貧乏暮らしをしてたんですけど、そういう暮らしをしようと思ったのは貧乏マンガの影響があったのかも知れませんね。
  1. 2011/06/03(金) 05:00:42 |
  2. URL |
  3. 赤蝮銀次郎 #-
  4. [ 編集]

キモオタ…

>赤蝮銀次郎さま

おお、すると当時の別冊漫画アクションを読めていたのですね。
初の青年漫画誌でもある漫画アクションは多くのヒット作を出しているので古本でも目にするのですが、この「大四畳半シリーズ」が連載されていた『別冊』の方は全然見た事ないのですよ。きっと単行本化されていない、知られざる名作も多いのだと思います。当時は単行本化される物の方が少なかったと思いますので…リアルタイム読者が羨ましいのです。

まぁそんな事はいいとして、そんなに松本零士ヒロインが苦手ですか。確かにこの作品に描かれているジュンのような、理想の女性(男に取っての、都合良い妄想の産物…)などはこの世のどこにも存在しないのでしょうね。
いや私もその『女にモテないキモオタ』の部類でして、実際に20代後半まで彼女も出来なかったくらいですから…普通にいつかどこかで理想の女性と出会うと夢見ていたかもしれません(苦笑)

>リアルないい女より、女性経験の乏しい男が妄想する女性像のほうがウケるんだろうなあなんて考えてました。

それはもう、仰る通りでしょう。漫画、もっと言えばアニメ全般に言える事だと思いますが。生活の苦労を知って、金持ちかどうかで男を選んで楽しようと考える女なんて、二次元作品で見たくないでしょうから…

世に数ある貧乏漫画でも、松本零士作品は悲惨な現状も罪なく笑って見れるように描いてますからね。
こういう生活をしている人もいる事を知ってもらえれば、皆がお金や見栄だとか栄養だ鮮度だってのも含めて細かい事を気にしなくなって住み易くなるかもしれません。
  1. 2011/06/03(金) 16:06:42 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

赤蝮さんは奥さんの牧美也子さんをご存知ないな
「悪女聖書」を書き上げ
初代リカちゃん人形のデザインもこなした方なのに
(手塚治虫氏いわく美女やそうな 初期は松本美女をも手伝って描いてたとか)

 コメント返しありがとうございます
これからも遊ばせてもらいます
ではまた。
  1. 2013/06/09(日) 02:52:47 |
  2. URL |
  3. ヤマモト #-
  4. [ 編集]

コメントありがとうございます。

>ヤマモトさま

おお、こんな所にもコメントを!
色々見てもらって、ありがとうございます。

赤蝮さんは毒舌、かつ『松本零士が描く女性』をそのまま受け取るほど純粋な方みたいですね。あれはある種の象徴というか、わざとそういう描き方をしているだけなのですが、上記のコメントのような捉え方しちゃうのですから…

牧美也子先生は梶原一騎原作の「恋人岬」も描いているので数作持っていますが、確かにリカちゃんの仕事は特筆すべき部分ですね!
  1. 2013/06/09(日) 06:21:38 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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