大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(128) 松本零士 3 「男おいどん」

おいどんのように『明日のために今日も寝る!』と寝て過ごしていたら、何か更新やら他の全てがどうでもよくなりかけて時間が空きましたが…やっと気を取り直しました。
そう、今夜も松本零士作品、そして漫画史に存在する『貧乏漫画』というジャンル全体内で最も有名な、「男おいどん」(講談社刊)です。
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週刊少年マガジンで1971年から1973年まで連載された作品で、単行本は全9巻。まだSF漫画で売れる以前の作品であり、松本零士先生にとって最初のヒット作でもあります。

前回紹介した「元祖大四畳半大物語」は同時期に連載していた、ほぼ同設定・同登場人物の兄弟作品と言えます。マガジン連載のためあれをより少年向けにして性描写は排除していますが、こちらも負けずに面白いですよ~。
舞台は同じ東京都文京区本郷三丁目で、こちらの主人公は『下宿館』の四畳半に住む大山昇太です。この名では1970年の「聖サルマタ伝」が最初で、1971年の「下宿荘偉人伝」は主人公が小倉南といいますが、これも前身作品と言えるでしょう。
彼の一人称はタイトルになっている通り『おいどん』で、九州出身の無芸大食人畜無害、近眼メガネでガニ股のチビ。財産は第二話目からずっと、愛用する押し入れいっぱいのサルマタのみ。不潔故にインキンタムシを患い、洗濯しないサルマタの山からはサルマタケというキノコがニョキニョキ生えてきて…貧乏なのでそれも食用にします。

『なに見ちょれ いつかおいどんだって タテだかヨコだかわからんような
 ものすごかビフテキ 日ごと夜ごとに食うてみしたるど』


ここでも毎回1話完結の短編で、同じような日常描写を繰り返す連作方式で進みます。
中学校を卒業して上京しているので大山昇太の登場時は16歳くらいですが、工場でアルバイトしながら通ってた夜間高校の"高校学園"は職場をクビになると同時に生活のため退学してしまい、いつか学校に戻る希望を持ちながらも日々の生活に追われて叶わず、将来への軌道を見失ったまま周りからどんどん取り残されて20歳を越えて行きます。
バカにされ、自尊心は傷付けられ、それでもただ生き続ける若者の暗く悲惨な青春…といえばその通りなのですが、それを松本零士先生はギャグ漫画タッチで描いていくのです。どんなに温かい人情味持たせて明るく描かれても、トラウマを刺激されて辛すぎる話もありますが。
クニを出る時にかあちゃんがお守りを縫い付けてくれた学生服と学帽を、押入れのサルマタ山の奥にかけて"守り神"にしているあたり、けなげですね。

『いまみたいなみじめなことになるとは 思わなんだばってん・・・
 おいどん おまえをかぶってたころたてたちかいはわすれんとど
 おいどん死んでもクニへ帰らん志をたてて家を出て ダメでしたとどのツラさげて帰れるか
 死んでもがんばってこそ 男ばい』


四畳半で、辛い目にあった大山昇太の話を聞いてくれるのはトリさんだけ。
初期の下宿館住人で昇太にも親切にしてくれた美女・浅野さんが譲ってくれた、というより置いてった鳥ですが、人間の言葉を忠実に再現して騒ぎ立てる。
"非常食"扱いだったトリさんも、昇太が『トリよ、おいどんは負けんのど!』と毎度のように言う名シーン無しに「男おいどん」は語れない事を思えば、作品において重要なキャラでもありますね。
他に作中一貫して昇太を気にかけてくれるのは、まず下宿館のバーサン。「元祖大四畳半大物語」ではいた夫(ジーサン)はここでは死別していて、バーサンも孤独をかかえています。それと紅楽園という中華料理店のオヤジで、彼も昇太の命綱みたいな人情家。
当然読者も大山昇太の味方ですが、実際に目の前にいたら嫌われるのだろうな…だって彼はほとんど風呂には入らず歯磨きもしないため、アカだらけで物凄く臭いのです。

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1話完結ながら一応はストーリー進行や時間の経過もあり、下宿館の住人はどんどん入れ替わるし、実は大山昇太の周りにはほとんどいつも美しい女性が…いるのですが、好きになっては必ずこっぴどくふられます。
つまり「男おいどん」には多数のヒロインが登場するものの、その全てが結局は昇太のみじめさを強調するだけの存在。さてここで印象的な人物だけでも紹介しようか…と思いついて、すぐに止めました。考えてみたら容姿は他の松本零士ヒロインと同じように似通ってるし、実は性格も。優しいふりして昇太を舞い上がらせ、結局はこっぴどく手のひら返して二枚目の方に行くのですからね。

『背が高くて美男子は人類の敵ばい』

ただただ若いから未来があると信じ、弱いけど気持ちのパワーだけは豊富な昇太ですが、かつて夢を持って同じ部屋に住んでたがどうにもならなかった女が泥棒になって現れたりすると、辛い結末を暗示されてるような気がします。
近所で『サルマタの怪人』として有名になり、高校を中断しているので浪人にもなれないまま、人並みの楽しい思い出も作るような事もせずに、人からは惰眠を貪っているようにしか見えない昇太の心中は、実は落伍者となる恐怖と不安で狂わんばかりにおののいている…

若かりし頃に「男おいどん」を読んでた私は単純に共感したりしてましたが、大人になって読むと大山昇太自身の固い頭がこそ、苦しみを生んでいるのだとも思えますね。
学校を出た人間でないと将来が消えてしまうとか、大物=大金持ちとか…そんなステレオタイプな考えにとらわれているから方向転換も気楽な生き方も考えられないわけです。簡単に楽な道を選ばない分だけ将来成功するんだと信じられるのは、未熟なだけでしょう。私自身も思い当たるし、実はないが大志だけは抱いてる、ボンクラな若者にありがちな心情ですが。

下宿館ではたま~にラッキーな事もあり、珍しく風呂に入ろうとしたら先に美女が入っていて裸を見ちゃったり、女子が集まって買い込んだ水着の試着会やってる場面に出くわしたり…「めぞん一刻」的な部分もありました。死んじゃった人もいるけど、義理でキスしてくれた人もいたし、昇太よ、私の青春時代よりはずっとマシだぞ!

タイトルにある通り『男』であろうとする昇太ですが、いつも通り…最後まで仕事をクビ、女に振られ、誤解から悪者にされ、など繰り返しては隣の下宿に住む浪人のサルマタがたきと争い…という作中ずっと流れるパターンを続けながらも、以前通っていた高校学園に戻ろうとする回もありました。それは休学期間が長すぎたために再入学が叶わなかったのですが…物語も終わりへ向かい、ついに復学を果たすのです。

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これが問題の最終9巻ですが、「元祖大四畳半大物語」には無かった復学後の姿を読者は驚き、そして嬉しく思ったのではないでしょうか。
とはいえ学校に行きさえずれば全て好転し、未来が開けるなどと考えるなら妄想でしかありません。貧乏な大山昇太が、他の親にお金出して貰ってる同級生らと付き合おうとすれば惨めな結果が待っているのです。

物語のラスト近くなって下宿館では昇太以外が全員出て行ってしまい、まぁこれは前も何度かあった事ですが、この時ばかりは昇太の様子も変で…大事な守り神やトリさんやサルマタ他いろんな事を残したまま、姿を消すのです。
これはどういう意味なのか。あれだけ夢だけは持っていた昇太が、お世話になった人への挨拶も無いまま、本当に志半ばで逃げるような事があるのだろうか!?

その謎は最後の1話で…と思いきや、これがファンには有名な最終話。
いきなり未来の話になり、子孫の大山降太という奴を描いたSFになるのです!
この話自体もヒジョーに素晴らしい上に、密度のギッシリ詰まった全9巻の最後を飾る物だと思うと感慨深いので、是非とも読んでみて下さいね。


ここは おいどんの四畳半
おいどんが青春の夢と希望と涙といっしょにいるところ
トリさんもいる パンツもある サルマタケもはえている
守り神もだまって見おろしている
そうだ ここは おいどんの四畳半・・・・



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  1. 2011/06/22(水) 23:55:18|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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