今夜も
松本零士作品より、
「ワダチ」(
講談社刊)です。

主人公の
山本轍(ワダチ)は、表紙を見てお分かりの通りまたも大山昇太みたいなキャラ。
連載も
「男おいどん」終了直後の1973年から翌年まで、同じ
週刊少年マガジンでされました。
連載時のタイトルは
「スペース開拓者 ワダチ」だったので、これだとSF路線だったのがすぐバレちゃいますが…スタート時はまた四畳半モノで、それが衝撃の変化をしていくのです。単行本は全2巻。
ワダチという名前は車が通った後に道に残る車輪の跡、あの轍(わだち)になぞらえて自分の生きてきた轍だからとオヤジが付けちゃったそうなのですが、ちょっと分かりにくいこれをタイトルにしたのが失敗だったのか…メジャー雑掲載かつ内容の傑作ぶりに比べて、知名度が低いですよね。
しかし既に紹介した
「男おいどん」や
「大四畳半大物語」、あとは
「聖凡人伝」なんかも同系列作品ですが、これらのようにほとんどストーリー無しの日常漫画と違って驚きの展開続きで世界も次々変化していくし、話も長すぎないので人にお薦めするならコレ、
「ワダチ」がベストですよ!
さて主人公の山本轍。おいどんらと同じ風貌なので当然女達には一切モテず貧乏、
"大下宿荘"の四畳半にてまたトリさんやネコ、そしてインキンタムシと暮らしている予備校生。多少設定違いはありますが、タマゴ酒が得意な大下宿荘管理人のおばさんや、バイト先の経営者のオヤジなどもそのまま
「男おいどん」のあの二人です。
お金の件などでおいどん以上に暗い展開の後、最後は落ち込んで四畳半でサルマタの山に囲まれて眠る話が最初に少しあり…
そんなワダチが屋台をひくおでん売りのバイトをしていて出会った
佐渡酒造は、後の人生を決定付ける人物でした。
練馬美術大学研究所で教授を務める佐渡酒造から頼まれたバイトを引き受けたワダチですが、その頃から身近に異変が起きてきます。周りの建造物が次々に壊されていくのですが、大下宿荘の周りが野原になり、下宿自体も半分消え、ついには完全に消滅します!
それから海岸で謎のサバイバル生活に突入するのですが、それは佐渡酒造によるあるテストでした。そしてこの、最初はイチ教授かと思われた酒造は、世界中で彼だけしか理解出来ない次元波動帯水平移動跳躍理論…まぁワープ航法なのですが、それを使って資源が枯渇してダメになった地球から全日本人を脱出させた上で、日本人以外の腐敗した人類が残る地球を破壊して滅ぼす
"カミヨ計画"のプランを実行します!
ちなみに佐渡酒造という人物は、
松本零士作品でスター・システム化しているキャラクターなので、他でも何度も目にしますが、やはりこの
「ワダチ」での彼が好き。
ここでワダチと同じく若い頃から随分人にバカにされたと告白します。顔がまずくて背が低いからと、その頭脳を持っても女性には一切モテず片っ端から振られ、国際会議でも白人に黄色いサルと呼ばれた…明るい表情の内に秘めた悲しさがたまらない。積み重ねられた劣等感がカミヨ計画を生んだわけですね。
さて瀬戸内海を埋め立てて作った都市から、新国連軍の目や攻撃などを尻目についに地球から脱出し宇宙空間に飛び出した一億の日本人達!
さらに佐渡酒造の頭の中だけで密かに計画していたカミヨ計画の締めくくりは…
『わしをサルとあざわらったやつらのいる惑星
みかけゆえにわしをバカにして去っていった美人のいる惑星
自分たちの核実験も大工場も資源の浪費もタナにあげて
地球の汚染を日本人だけのせいにしたやつらのいるのろわれた惑星
わらうがいい悪口をいうがいいバカにするがいい
おまえたちはいますぐ原子にかえるのだ
宇宙のクズとなって永遠に暗黒の空間をさまようのだ』というわけで、地球を破壊して残してきた外国人どもを全滅させる事。これも実は新たな惑星で生活を始める日本人にとってなくてはならない行為だったのですが、おびえた"カミヨ計画推進委員会"らの手によって阻止されてしまい、失敗。しかし一度は全人類の運命をこの手に握ったと満足して拳銃自殺。
この後はいよいよ舞台を新天地…地球の20倍の大きさを持ちながら、まだ一億人の日本人しかいない
"大地球"(命名・ワダチ)に移します。
そこで再現された『東京都文京区本郷二ノ三 大下宿荘』の四畳半から、未開の弱肉強食原始の森へ。ワダチはいきなり身ぐるみはがされてボロボロになりながら、ある不思議な現象もあって生き残り…
さらにスリリングな展開が待っていて、野崎雪枝と名乗る女が登場してワダチを慕ってきますが…その正体は
ヒミコといい、ある衛星船のスタッフ。しかもアンドロイドで
ハーロックの婚約者!
女には裏切られ続けてきたワダチなのでいつもの事ですが、機械であるヒミコの『心』が最後に泣かせてくれる…あまりにも悲しいお別れ。
そうそう、一応スター・システムでハーロックまで登場するのですが、
「ワダチ」におけるハーロックは何かやけに外見も気持ちも弱そうでした。
ここまでのワダチの姿から、いきなりSFになった
「男おいどん」最終話の後の世界を見れるようで、想像するファンを喜ばせていたと思うのですが、ワダチはもう物語の終了目前にある方法によって消えたあの四畳半へ帰り、そこで本当に
「男おいどん」とリンクし…実はパラレルワールドというより続編だったと分かるのは、読者サービスでしょうか。
どんな目に遭っても、雑草の強さを持つ主人公が図太い神経で生き抜く。これは松本零士作品で共通する部分ですが、どうも他の作品より不安さ溢れ滅び行く暗いムードが流れてもいます。
本作品の直前に連載していた、ジョージ秋山先生の
「ザ・ムーン」辺りからの影響を感じないでもないのですがあそこまで絶望的ではなく、世の『背が高くて美男子』絶滅しても、決してワダチは死なずに頑張るでしょう…
松本零士先生のいろんな要素が上手く融合した世紀の名作、それが
「ワダチ」でした!
サルならサルでもいい だれにも見むきもされなくてもいい
サルでないと生きていけない時代がくるのだ わしは信じていた
わしらの・・・・わしらの時代がくるのを信じていた
わかるか轍(ワダチ)よ
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- 2011/07/04(月) 23:47:06|
- SF漫画
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