今夜は
新井英樹先生の
「SUGAR(シュガー)」(
講談社刊)です。

2001年から2004年まで
ヤングマガジンアッパーズで連載された作品で、単行本は全8巻。
あの天才漫画家…それも普通のじゃなく、ひねくれた才能の持ち主・
新井英樹先生が多分他の作品よりはエンターテイメント性を意識したボクシング漫画です。そりゃ刺激的な物になっている事は想像に難くないと思います。
もちろん凡百のボクシング漫画のように、主人公が練習頑張って少しずつ強くなり立ちふさがる強敵を次々倒していく…なんて物になるわけもありません。まず主人公の人格が変で、出てくるキャラクター個性派揃いなのも他の新井作品と同じ。
各キャラクターなどを真面目に掘り下げて考察したりはしませんが(元よりそんなのした事ないか)、この魅力的な作品をザッと紹介してみましょう。
主人公は
石川凛という、北海道の芦平(あしびら-架空の町だと思います)で生まれ育ってダンスなんかやってる金髪のチャラ男。片親の母親・
菊乃との会話から思いつきで16歳にして高校を中退し、上京して母の叔父が勤める料亭"天海"で板前になる事になる…が、そこまでがいきなりやっかいで。
芦平を出る直前のエピソードも良いのですが、まず東京に行く前に寄った札幌市。ここで凛の人生に影響を与えた父のような存在でありながら4年前に芦平を出て消息不明だった
玉置欣二、通称"火の玉欣二"と再会します。
様々な喧嘩エピソードによって芦平で伝説の男となっていた火の玉欣二…『その拳 火よりも熱く 真紅の頭髪 炎のごとしっ!!』とか叫びながら数十人相手にも立ち向かっていく男に小学生時代の凛は憧れて、もう一つ教えられた名言が
『ゆるくねえ時に 泣く奴は3流 歯・・・・喰いしばる奴は2流だ 笑え・・・・果てしなく そいつが1番だ』というもの。それで凛はいつも笑いっぱなしで、ヘラヘラしているだけの奴に思われる事になりますが。
とにかく再会した火の玉欣二が現在同棲している相手が、ニューハーフの"レイラ"こと
佐伯剛史。男だった時にはボクシングの国体フェザー級で2年連続優勝の戦歴を持つ彼女が、凛の才能を見出してボクシングを教えるのですが、その直後に凛VS火の玉欣二で決闘をする事となり…その決闘で凛の背中には『世界』が見える。とにかくそんな、天性の才能を持っている事が分かるのです。
ちなみにタイトルの
「シュガー」というのは、その昔にそれまでのボクシングを一変させたボクサー、シュガー・レイ・ロビンソンのスタイルを新聞記者が形容した
『スイート・アズ・シュガー』から来ていて、世界チャンピオンよりも凄い称号、それが『シュガー』なんだとか。

続いて、いよいよ上京した石川凛。
板前になると言って故郷を離れた凛が就職先の"天海"には嘘付いて2日遅れ、しかもその間にボクサーになるって浮かれ出してるんだから方々に迷惑をかけているわけで、また騒動があり…策略立てて苦労してどうにか改めて就職出来ました。
母親が謝りの電話を入れた時、凛について曰く『あの子のウソや いえ・・・・生き方自体病気なんです』だそうです。その母親自身も虚言癖があるのですが。
板前修業と同時に二足の草鞋で休憩時間に始めるボクシング、その練習場所はたまたま新宿区の職場と独身寮の近所にあった
"中尾ボクシングジム"。
まぁ練習といっても凛は天才なので、いきなり何でも出来ちゃうんですけどね。そして偶然入ったそのジムのオーナー・
中尾重光は日本ボクシング界が生んだかっての伝説的ボクサー。元WBCジュニアウェルター級世界チャンピオンながら、天才すぎて周り全部が凡人にしか見えないため選手の指導にやる気を見せる事は無かったのですが…そこへ現れたのが凛であると。
中尾も凛と同じく、いやそれに輪をかけて人間としては破綻した欠陥だらけのエロ人間で、これが上手く組み合わさればピッタリの選手とトレーナーになるのか!?
ジムので暴言を吐きまくる凛に、向かって行った練習生の道上光雄(ミッチー)はあっさり返り討ちにされ、中尾ジム自慢の世界ランカー新藤清正からもリングでダウンを奪う。
それから正式に中尾ジムへ入会し、アフロのボクシングマニアが経営するヘアサロン"イソベ"で髪型をロナウドみたいにされて…あとは、とにかくこの石川凛という男の圧倒的すぎるボクシングの才能を描いていきます。

さて次は、プロテストを受ける事になる石川凛…その受ける事になるまでのいきさつなども面白いのですが、ここは文章で説明してもしょうがないですね。
とにかく凛の度を越した生意気さはとどまる事を知らず、同門の先輩である新藤が東洋のベルトを取っても
『ボクシングで判定見たいって奴いるのかよ?金返せって話だろ』と言い放ち、現役の世界チャンピオン・
加治源太郎にもケンカ売ってその親衛隊含めてのイザコザあり…
天海の先輩でインターネット、そしてインリンとソニンのオタクである
谷を言いくるめて戸籍抄本と保険証の偽造をさせ、16歳なのに受けたプロテスト会場。
ここで初めて凛の才能を白日の下に晒す事になります。さんざん大口叩いて、でも実際本当にトンデモナイ天才なのだからカッコいい。今まで努力を続けてきた凡人など、ふざけた凛に一瞬で否応無く叩き潰される。
「SUGAR(シュガー)」にはいろんな面白い要素がありますが、本題は何といってもこの凛が開眼するボクシングの才能。ちょっと普通じゃない漫画の才能を持った、新井英樹先生自身をボクシングに置き換えて描いているような気もします。
とにかくキャリア1ヶ月未満で、日本プロテスト史上最大の衝撃を残してプロボクサーになった石川凛。
それとこの作品で出てくるもう一人の天才が所属ジムの会長である中尾。凛は彼に対してバカ尾などと呼んでいたのですが、彼の現役ピーク時のビデオを観て本気で尊敬し、ボクシングを教えてもらい始める…欠陥人格の天才二人が本気で手を組み、最強コンビが誕生したわけです!
そうそう、新宿のスタジオアルタ(STUDIO ALTA)前で凛が変な宗教の女に声をかけられるシーンがあるのですが、その女がちょっと
「あしたのジョー」の白木葉子に似てて、凛は
『駅前には元・世界一の男がオレを待ってるんだ』と言って去るのです。
これは間違いなく、ジョーが『リングには世界一の男ホセ・メンドーサがおれをまっているんだ』と葉子を振り切ってリングに向かう、あのラストの戦い前エピソードのパロディ!ちょっと嬉しいです。

プロテストから派手すぎて、相手ジムが試合を避けるためにデビュー戦の探しに難航している中尾ジム、そして凛ですが、他ジムへ出かけての出稽古…というよりモノが違うのでジム荒らしにしかならなのですが、とにかくスパーリングを重ねます。
そしてついに決まったボクサー達の聖地、後楽園でのプロ第1戦。相手の
根本雄之介はこれまた個性的、というか気持ち悪い男なのですが、まぁ当然天才・石川凛の圧勝と思われたこの試合で…ある事が起きて何と世界最短記録を更新する1ラウンド4秒KO負け!!
野蛮なだけのようで実は繊細だった凛は、あの笑顔が消えかけて…
試される凛の精神的な面。天才だのって騒がれていてた人間がいきなりでかく辛い記録を残して記憶も無い有様、会長は凛の存在自体を無かった事にしているし、ここから復活出来るのか!?
いろいろあって結局ボクシングを続けている凛に、次の対戦相手が見つかります。それが高校アマ7冠の
桑名まことで、今回は凛の方がかませ犬にされる見立ての組み合わせ。
一応天才同士みたいな組み合わせながらその段は違い、本物の天才はやはり凛なのですが、先の試合の影響でメンタル面で回復しておらず、かつて体験した事のない謎の不調(恐怖?)に見舞われています。
1Rはほとんど意識が定まらぬまま逃げ続けて観衆(読者)をハラハラさせますが、結局の所バケモンぶりを見せ付ける事になるのです。
これが
「SUGAR(シュガー)」最後の試合にもなるので、プロでわずか2試合しかやらないまま完結しちゃいます。掲載誌のアッパーズが休刊したからなのですが、まぁ今作は主にプロボクサーとして開眼するまで描くのが主で良いんだと思います。ちゃんと続編である
「RIN」が
週刊ヤングマガジン(後に
別冊ヤングマガジンへ移行)にて2005年から連載されました。
そこでWBCスーパーフェザー級世界王者を奪取した後の凛、そして今回全然書いてなかったけど凛の幼馴染で作品のヒロイン・
相馬千代との恋の行方も描かれるので、必読でしょう。
他の作品のように重くも暗くも無いからか、新井英樹ファンでは
「SUGAR(シュガー)」を推す人に会った事がありませんが、痛快さを求めるならこれが一番。とにかく面白いです。
ちくしょ
自分が揺るぎないものになるとこ考えると こうまで胸が甘くなるか!?
アメリカ 南米 オセアニアの連中 アジア アフリカ ヨーロッパな輩の
オレを追う努力の空しさを 世界に見せつけちゃうのオレ!!
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- 2011/08/03(水) 23:30:26|
- 劇画
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