大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(130) 山川惣治 1 「ノックアウトQ」

今回はここでは異色作家になりますが、1908年福島県郡山市生まれの絵物語作家・山川惣治先生です。

何しろ漫画家ではないのですが…絵物語というのは、簡単に言えば少年向け小説にかなり多くの挿絵が入った物、とでもなりますか。絵本よりは文章メインで、現代の漫画のようなセリフの吹出しは無く、絵と文が分離している物です。もちろん普通は絵と文共に同じ作家が担当しておりまして、絵物語作家は画家兼小説家みたいなものでしょうか。
このジャンルの始祖にして第一人者こそが、戦前から紙芝居作家として活躍していた山川惣治先生。代表作の「少年王者」「少年ケニヤ」あたりなら思い浮かぶ方も多いでしょう。
漫画の神様・手塚治虫先生や、アニメの神様・宮崎駿先生も絵物語作品を残しているし、川崎のぼる先生の名作「荒野の少年イサム」は山川惣治先生の「荒野の少年」が原作。
漫☆画太郎先生の「珍遊記2~夢の印税生活編~」の萬々さまによれば、『バカヤローッ!!!絵があってセリフがある!!!どーみたってこれは漫画じゃねーか!!!』となるのだから山川惣治作品も漫画であり、その萬々さまが描いてた妖怪図鑑とは違ってストーリー物で楽しい。
少なくとも漫画の原型とは言えますが…当時の作家的な地位で考えれば『漫画家』なんて言われたら恥ずかしいものだったかもしれません。

1950年代初頭には「少年ケニヤ」で大ヒットを飛ばして映画化・テレビドラマ化されたのを始め、何と石川球太先生による漫画化もされているしで、大ブームを巻き起こした山川惣治先生ですが、絵物語の衰退により財産まで失って筆を置き(後に新作を描きますが)、その後は横浜市で"ドルフィン"というレストランを経営していたそうです。するとその店が荒井由実に歌われて有名になったりもしたらしいですが…1992年没。
私個人は少年時代に観た大林宣彦監督によるアニメ映画化作品(声が原田知世&高柳良一の「時をかける少女」コンビ!)で少年ケニヤに出会って好きになり、角川文庫で上梓された絵物語も読んだ事があります。こちらは映画の「シナリオ 少年ケニヤ」
YAMAKAWA-syounen-keniya.jpg

しかし今回紹介するのは、「ノックアウトQ」(学童社刊)。
YAMAKAWA-knockout-Q.jpg

私がこの作品の存在を知ったのは随分昔、梶原一騎絡みです。
尊敬する梶原一騎先生が感化院の"誠明学園"に入れられていた少年時代に読んで感動し、その読書体験が「あしたのジョー」を生んだのだと自著「劇画一代」(毎日新聞社刊)で告白しているのです。曰く『この大傑作なかりせば、私が後年「あしたのジョー」を生む日もなかったろう』…と。また、斎藤貴男氏(ゴルゴの作者ではありません)が梶原一騎先生の軌跡を辿った名作ノンフィクション「夕やけを見ていた男」(新潮社刊)では『「ノックアウトQ」は、その後生み出されるすべての梶原作品の原点となる。』とまで書かれていました。

また学生時代に梶原一騎のペンネームを初めて使用して少年画報へ入選を果たした懸賞小説「勝利のかげに」「ノックアウトQ」を下敷きにしたと思われるボクシング作品であり、漫画原作者としてのデビュー作にして名作「チャンピオン太」(作画担当は吉田竜夫)では主人公・大東太が使う必殺技の名前として『ノックアウトQ』が登場するのを見ても、それほどまでに山川惣治作品「ノックアウトQ」を愛していたのだとうかがえます。
そんなわけで現在でも梶原一騎ファンにはよく知られている「ノックアウトQ」ですが、何しろとっくに絶版になっている古い本です。当然現在では激レア化していて見つけるのに苦労しましたが、梶原先生も↑の画像と同じ昭和27年発行の本を読んでいたはず…そう思うとまた、感慨深いですね。

初出は1949年から1951年の漫画少年
物語を追ってみると、舞台は関東大震災後の復興を目指す東京で、"唐沢写真製版所"で徒弟奉公の奉公人として勤める少年・戸村久五郎矢野川章治(スタート時は共に16歳)を主人公にしています。
彼らの日常生活を描写しつつ、同じ町のあきかん屋の職工に悪質な悪戯をされてケンカになった時、唐沢の少年達から特に体が大きく力持の久五郎が拳でこらしめる所があります。この時に初めて強い事が判明した久五郎こそ、後の『ノックアウトQ』でした。
町内の相撲大会でも圧倒的な力を見せて馬入川といった仲間も増え、章治を助けるために不良の集団と大立ち回りで次々やっつけもしました。全身が運動神経のかたまりのような久五郎…強い!

そんな久五郎が章治と共に馬入川に誘われて、東駒方に出来た『拳闘』なるものを教える"江東拳闘クラブ道場"に入門する事になるのです。
そこで素晴らしい拳闘の素質に目覚めた久五郎は、"TC拳闘協会"より来た日本の拳闘界における偉大な英雄・フェザー級の東洋チャンプの荻野貞次と高弟の佐藤東行にスカウトされて、ついには職業拳闘家になる決意をします。この時代の事なので悩みに悩みますが、
『拳闘家なんか、ごろつきのやる商売だと思われているのに、ぼくが製版所をやめて拳闘家になったら、故郷の父兄や兄弟はなんと思うだろう。唐沢先生はゆるしてくださるかしら。しかし自分が拳闘をしているときは、血が自由にかけめぐる。すきだ、おもしろい。』
というわけで、ついに許しを得て唐沢写真製版所を去った久五郎。

一方の章治はいつも久五郎に助けられてばかりでしたが、ついに自分自身の持つ絵の才能が開花し出して、一流新聞の漫画募集に応募して見事に当選しました。
他の新聞社の漫画懸賞でも何度も入選していましたが、しかし世の風俗が乱れつつある時代で新聞の漫画も品の悪い物が多くなっており、ついに嫌気が指して漫画をやめる決意をする…

久五郎は日本人の拳闘選手一行としては初めてとなるアメリカ遠征に参加し、他の日本人選手がアメリカ人に力及ばず倒されていく中、見事ノックアウト勝ちで日本人の名誉を守り続けます。
そしてついたリング名が、ノックアウトQ!しかしブラックとの闘いで初の敗戦を経験します。
他の日本人選手一行は帰国していきましたが、久五郎は出会ったかつての名トレーナー・デッド老人に才能を見込まれてアメリカに残る事となりました。
そこで1926年の大事件、日本を始め世界中で有名だったジャック・デンプシーがジェン・タニー(ジーン・タニー)に敗れた歴史的な大試合を13万人の観客と共に目の当たりにします。
それからアメリカでも、いよいよ今までの田舎から中央の都へと進出して、マジソン・スコアガーデンでブラックへの雪辱も果たして栄光を掴んでいく…

ここでまた一方の章治ですが、さびれていく唐沢写真製版所の中で苦悩し、しかも唐沢の娘で優しかった女学生の良子が肺結核のため死亡します!
逆境の中、唐沢での仕事の責任を全うしつつ絵の勉強を続け、後に紙芝居作家へ、そして32歳で少年倶楽部の編集長に認められて絵物語の画家になりました。
・・・おわり。

何も知らずに読むと、最後の1ページでやっと準主役の章治が山川惣治先生自身であり、これは自伝的作品である事が判明します。
では久五郎ですが、やはりこちらも実在したプロボクサーで、本当に山川惣治先生の親友だった木村久五郎がモデル。作中の活躍もそのまま実話であり、木村久のリングネームからノックアウトQの異名で呼ばれていたのも事実です!
共に徒弟奉公として製販所で働いていたこの二人が全く別の世界で大成功を収めた事は驚きに値しますね。作中では二人の友情も熱く描写されています。
久五郎をスカウトした荻野貞次と佐藤東行もそれぞれ、荻野貞行と佐藤東洋という実在の人物であり、出てくるアメリカのボクサーやデッド老人との交流に至るまでも実話のようです。
となるとイマイチ「あしたのジョー」との共通点が見つからなかった今作は、「空手バカ一代」などの実録+物語での梶原作品へ影響与えているのかもしれませんね。

最後になりますが、ノックアウトQのモデル・木村久五郎(矢吹丈と同じバンタム級)は日本人初の世界ベストテン入りしたランカーになり、引退後も拳闘のトレーナーを務めていましたが、20代の若さで心臓マヒにて急死したそうです。


ノックアウトQ!がんばれ!ぼくもがんばる!
ぼくはこのごろになって、自分の絵の天分をのばしてみようと決心した。
これがあたえられた天分にたいする義務なのだ!
世間にたいして、ほんとうに役にたつ人間になるんだ。



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  1. 2011/08/07(日) 23:37:02|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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