大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(131) ジョージ秋山 2 「アシュラ」

悪を行えば死んで地獄 善を行えば極楽へ行けるという
そんなことは迷信だ 生きているうちが地獄だ


今夜はジョージ秋山先生の「アシュラ」(朝日ソノラマ刊)。
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読む者にトラウマを植え付け続けてきたジョージ秋山作品の中でも、特に問題作として有名ですね。
連載雑誌は1970年から翌年まで週刊少年マガジン(講談社刊)で、最初の単行本は1972年に立風書房より全2巻で上梓されたのですが、私が持ってる画像のは1977年に出たサンコミックス版で全3巻です。

絶頂期と言えるこの同時期に代表作「デロリンマン」「銭ゲバ」を描いており、「アシュラ」終了頃にはあの「告白」を描き上げて引退宣言の後に放浪の旅に出たわけですね。そのどれもメジャー誌を舞台にして、次々とセンセーショナルな名作を生んでいたのです。

さて、「アシュラ」の内容を語る前に。
第1話から強烈なカニバリズム描写があったために、有害図書に指定する地域も出てマガジンの回収騒ぎが起こった事があまりにも有名ですね。それは当然ながらまだ作品の本質も分かってないのに、ただ気持ち悪い作品だから害だと決め付ける、いつもの大衆が起こすヒステリーじみた行為だと思いますが。
ちゃんと読めば分かるのですが、人間の意識が持つ善と悪とは、人と獣の違いとは何か、生まれ育った環境が何をもたらすか…等を痛烈に問いかける高尚な内容を持っている傑作が「アシュラ」なのだから!
これが文学だと、例えば「罪と罰」のように有難がるくせに、まったくもう…なんて偉そうな事を書いても、私なんかは単純に人間が残酷に殺されたり食われたりする描写があればあるほど喜ぶタイプなので、こういう奴を許せない方は世の中たくさんいらっしゃるものです。

では物語を追ってみましょう。
まずはページを開くと、いきなり見開きページで女が赤ん坊の尻にかじりついている絵!それから疫病が蔓延し死体が転がっている死の描写が長々と続き…冒頭より早くもただ事ではない作品の予感を感じさせます。
どうやら作品舞台は中世で「羅生門」の時代といいましょうか…
続いて登場した狂女。この女・藤乃は妊娠しており、動物的本能で生きるために人間の死体を…いや時に生きてる人間も殺して人肉を食らってこの時代を生きのびていました。ついに子を生むとその子を育て始めるのですが、食物はもう死体一つ手に入らなくなり、飢餓の極限まで追い詰められた時!
これが最後の食料か…自分が生んだ赤ん坊を火の中に放り込み焼いて食べようとしますが、この時起こった奇跡のような自然現象によって赤ん坊は生き残り、その子こそが本編の主人公・アシュラなのです。

重たく凄惨なアシュラ誕生の物語でスタートした今作は、この後いかにアシュラが生き抜いていくかも描かれますが、まずちょっと大きくなった彼は化物じみた風貌と生きるために素早い動き・鋭い牙を身につけます。
途中で何とか人間性を失わずに飢饉を乗り切ろうと頑張る愛に満ちた家族が登場しますが、アシュラがそこの息子を殺して喰い、残りも生きるために家族でさえも喰い合う凄惨な状況になっていきます。
どんなに愛だの夢だの友情だのと語ってたって、人間なんて食物が無くなるだけで地獄になるのです。実際に我々もここまでの『飢え』という事実の前には、人間らしくとか言ってられないだろうし信頼などもすぐに失われるでしょう。

暗い世界で物語は続きますが、この作品でアシュラに『救い』みたいな物があるとすれば、まずはある日に雨の中で偶然出会った乞食法師の存在でしょう。自分が人間である事も知らないような状態のアシュラに「南無阿弥陀仏」を教え、初めて一応は人らしい生活をさせるのです。

続いてアシュラは"散所"という世間から見捨てられた土地で、最低の生活ながら中に入って働かされる事で集団のコミュニケーションも少しだけ覚え、実の父であると判明する散所太夫と出会います。
散所太夫は土地の権力者ですが、アシュラの母が妊娠したら『新しい生命をつくる それは人間として罪なことじゃ』と言って捨てた男でした。彼の中で息子・アシュラに対する親心は生まれるのか?

アシュラは生の意味は分からずとも、とにかくそんな時代と環境の中でも懸命に生きます。
そのためには他人を殺してでも何でも…とにかく生への執着が強く、斬られて崖から落ちて手足が折れて凄まじい姿になった時も、這って泥水を飲み草を食べて生き延びました。
そして出会ったのが、二人目の『救い』の人物・若狭という少女です。彼女はアシュラに言葉を教え、多分人の心や恋も教えた事になるのですが、後に飢餓によって死にかけた時にアシュラが持ってきた『人肉』を父親と奪い合いってまでケダモノのように喰らいつき、かつてケダモノだったアシュラはその姿を見たくなくて必死に止めるという立場の逆転が起こってしまいますが。

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両親の事が分かり、それを共に殺そうとしたアシュラは、再び乞食法師の手に渡ります。この頃はもう、ケダモノとして本能のまま人を殺して喰ってた時と違い、人間的感情を得てしまったばかりに悩む事も覚えて涙したり…心が痛くて苦しめられもするのです。

全篇殺人やカニバリズム描写だらけの「アシュラ」は"死"で溢れているからこそ、頭の悪い私のような読者にも"生"を考えさせるテーマが見えてきます。
"人間"を問う乞食法師VSアシュラの問答があり、乞食法師は自ら片手を失ってまで人の道を説くのですが、アシュラはその直後に幸せな家族を意味も無く皆殺しにしてみせます。今度は獣が空腹を満たすためでなく、ついに得た人間の心が何かを満たすために…

アシュラと違って満たされてる家族殺しを繰り返したため、追われて山狩りされている時に散所の子供達が飯をくれてお互いに涙を流す名シーンがあるのですが、これで本当に仲間になったのでしょう。アシュラはあとでその恩返しのつもりか、子供達をろくに食わせずこき使ってた小頭を殺して食料を奪い、都へ向かう道中に彼らも引き連れて行く事となるのです。
そこでまた地獄のような光景もあるのですが…子供達だけでさわぐ様はユーモラスな部分もあり、暗い作品世界の中で清涼剤と言える部分かもしれません。最後にまた現れた、狂った母親との衝撃の再会を経て、最後は『生まれてこないほうが良かったのに』とつぶやいて終わります。

どこかで「アシュラ」が紹介される際には必ず出てくるのが『うまれてこなければよかったギャア』と泣き叫ぶ有名なシーンですが、この作品中で何度も何度も出るアシュラの台詞であり、テーマでもあります。
それが2008年になってスタジオジブリのアニメ映画「崖の上のポニョ」で宮崎駿監督は『生まれてきてよかった。』というキャッチコピーを与えて「アシュラ」への返答としたのは記憶に新しいですね。(関係ないか…)

マガジンの連載は打ち切りという形で、暗いまま救いのないラストを迎えた「アシュラ」ですが、実はこの後発表の場を週刊少年ジャンプ(集英社刊)に移して、それもマガジンでの連載終了から10年も経った1981年に読み切りで完結編が描かれています。その話は単行本に載らないもんだから、そのジャンプ(1981年26号)の値段が古本市場で高騰していたのですが、『ジョージ秋山捨てがたき選集 第2巻』として…
2009年に「銭ゲバの娘プーコ/アシュラ 完結編」(青林工藝舎刊)が突如出版されました!
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何と「銭ゲバ」「アシュラ」の関連作品を一冊に収録ですよ。

メインとしている「銭ゲバの娘プーコ」「銭ゲバ」の正式な続編で、カップリングの「アシュラ 完結編」と共に初単行本化です。
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(素敵な裏ジャケ)

ついに誰でも読めるようになった「アシュラ 完結編」(掲載時はタイトル同じ「アシュラ」)は、都から戻ってきたアシュラが描かれます。
都でのエピソードは丸々カットで…でもアシュラは結局何も変わらなかったというのか、やはり幸せな一家を惨殺して食料を奪っています。他に乞食法師、若狭、七郎、散所太夫らの後日譚も描かれるのが嬉しいのですが、やはりページ数が少ない中で一気に進むのが勿体無い。
ラストは何と、アシュラが頭を丸めて仏道修行へと旅立つのです。これがジョージ秋山先生がどうしても描き加えたかったラストか…本編とは描いた時代背景が大きく変わってますので、本編より明るくなって救いを持たせていますね。良いシーンもあるものの、時が経ち過ぎてテンション落ちている感じもして、マガジン版で完結としていた方が良かったと思います。まぁ描いたものは仕方ない。

「アシュラ」のスピンオフ作品は他にもあり、こちらはマガジンで本編を連載していた時期・1971年1月に朝日ジャーナル(朝日新聞社刊)に掲載された2ページ漫画「アシュラ外伝」です。
GEORGE-ashra-spin-off2.jpgGEORGE-ashra-spin-off1.jpg
そんなレア漫画がまた、「銭ゲバの娘プーコ/アシュラ 完結編」の表紙カバーを外すと本の本体に載っています。何というサービス精神!
↑にも載せてみましたが、このサイズだと字が細かくて読めませんね。まぁ公害問題を絡めて描いてますが、アシュラが出てくる必然性も全く無い作品です。

こちらは1988年に日本文芸社から復刻された単行本、上中下の全3巻。
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サイズが大きい(A5版)事もあって買い直した物でサンコミ版と同編集ですが、上巻の最初にオマケ的なオープニングページがあるのが嬉しいかな。
しかしこれらは…今現在出ている幻冬舎文庫版も含めて、実は後半の40ページほどがカットされているのです。そのカット部分で「銭ゲバ」の蒲郡風太郎に似た蟇王丸という、アシュラのライバルが登場しているのに…しかも加筆して左目に眼帯している…

まぁその部分も、1993年にぱる出版から出版されたハードカバー版で読めるようになりました。これでようやく、初出に近い状態の「アシュラ」が読めました。
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『人肉を二十四時間地中にうめておくとくさみが抜けて食べやすくなる』『腐ってる人の肉はよく焼かないとダメ』等、実生活で役に立つ豆知識も得られるので、興味のある方は是非実践してみたらいいと思います。
人肉を喰わなくてはならないほどの極限状態を舞台にしているので、そういったタブー的な部分ばかりが目立って語られる本作ですが、こんなにも真摯に生を肯定し、メッセージを投げかけてモラルを問う作品は珍しい…真の名作だと思います。


阿修羅とは迷いの世界のひとつじゃ
いかり なげき 苦しみ きずつけられ 苦悩する人間とでもいうのかな・・・・
戦っても戦ってもやぶれる やぶれるたびにきずつき また戦う
絶望的と思いながらも かなしくむなしい抵抗をくりかえす
一生死ぬまでくりかえす あわれであわれであわれで いたいたしい
それでも生きていかねばならぬのが人
阿修羅は おまえだけじゃあないのだぞ うん



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  1. 2011/08/26(金) 23:42:16|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

乞食法師とアシュラのやり取りに感動しました!

アシュラって完結してたんですね~。知りませんでした。

ラストを仏教的世界観で閉める、というのは、以前読んだ「ラブリンモンロー」を思い出します。そのときはもっとジョージ秋山的救い理論を提示して欲しかったかな~と多少残念に感じたりもしました。仏教用語そのままだったのでちょっと借り物くさいな~と思ったので。

とはいえ、チョイスされるテーマの重さとブッ叩きつけてくるような描写の凄まじさはつくづく、この作者さんはいったい普段どうなってるのか?と余計なことを危ぶんでしまうほどの衝撃を受けてしまいました。以下のくだりとか…(うろ覚えですが)。

「食べられるのは、お前だけ」
ギャーーーーー!
生まれてこなければよかったのに…

それにしても、表紙のアシュラは意外にかわいらしいですね!なんだかんだで救われたのなら、よかったです!
  1. 2012/10/06(土) 18:26:44 |
  2. URL |
  3. 通りすがり #-
  4. [ 編集]

乞食法師は偉かった・・・

>通りすがりさま

そうそう。何しろ10年も経って、しかも掲載誌と別の所で描かれた短編なので、完結編については知らない方が多いのですよ。

私もジョージ秋山先生の頭のヤバさは気になってましたし、常人とかけ離れたそれが魅力的だったわけですが、確かに仏教的な話になってくると先人を超える理論とか思想とかまでは出てきてはいないのですかね。もっとも狙いは仏陀を超える、というよりは仏陀の教えを伝える、といった所だったのでしょう。
先人はジョージ秋山先生みたいな破壊力のある漫画を描けなかったでしょうし、まぁどちらも偉大だという事で。

そうですね、単行本の表紙だけ見るとかわいらしいアシュラが使われているので、普通の少年漫画だと思ってたまたま読み、騙される読者もいるかもしれませんね。
  1. 2012/10/07(日) 19:55:24 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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