大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

藤子不二雄(58) 「少年時代」

続いての藤子不二雄作品は、「少年時代」(中央公論社刊)。
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初出は1978年から翌年までの週刊少年マガジン(講談社刊)で、単行本はオリジナルのKC(講談社コミックス)、それに今回画像で使った藤子不二雄ランド版でも全5巻。

二人の藤子不二雄先生のうち藤子不二雄A(我孫子素雄)側の作品で、後世の読者にも恐らくはこれがあるからA先生が高い評価をされるであろう、そんな代表作。
特に原作クレジットはありませんが、芥川賞作家である柏原兵三の長編小説「長い道」をもとにして描かれています。それに作品の主人公と同時期・同じ富山県で疎開していたA先生自身の体験などを加えて練られた「少年時代」は、他のA作品ではさほど目立たなかった叙情性が強調され、またA作品固有の怖さなども活かされて融合した奇跡の名作。

舞台は昭和19年という太平洋戦争末期。東京から富山県の漁村に縁故疎開してきた国民学校5年生の風間進一の、そこでの生活が描かれるわけですが…
進一には初めて暮らす田舎の光景は驚きの連続であり、読者には戦時中の様子が物珍しかったりもすると思います。それも面白いのですが、この作品において圧倒的な存在感を示すのは大原武こと、タケシ。彼は進一のクラスの級長で頭も良くて運動も一番の働き者ですが、その裏の姿は暴力でクラスを支配し逆らう者は徹底的に排除する独裁者でした!
結局の所、この「少年時代」というのはタケシを描いた作品であり、勉強は出来るけど体も気も弱い主人公の進一は、傍観者というか狂言回しというか、そういう役割なんだと思います。仲間外れにされる事を恐れてタケシのご機嫌を取ってしまう自分に自己嫌悪も感じながらも、彼の感情一つで振り回され、巻き込まれるだけの生活が続くのです。

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前半はとにかくいつも計算高くアメとムチを使い分けてクラスを支配するタケシの活躍…というか恐ろしさの描写が続きます。自分の強さを誇示して周りを服従させるため、ケンカでは相手が戦意を失ってもとことん打ちすえるような男ですが、これが単純に悪役ではない所が複雑なのですが、実際に人間ってそうかもしれません。はたから見て悪い奴と思える奴も本人は正しい側だと思っているのでしょうし、少年漫画みたいに正義とか悪とかって存在しないのだから…

そう、タケシは進一に村の事を親切に教えてくれたり、他の町でいたぶられている場面に単身助けに乗り込んできたり、優しくてケンカの強さが頼もしくなる時もあるのです。でも進一がタケシより勉強が出来ちゃったり、校長先生の親戚・美那子(タケシは彼女の事が好きだと思われる)と話している事を見られたりすると、クラスの子分達をつかって進一をいじめさせます。
でもまたすぐに、何かのきっかけか気まぐれかで本当の親友のようにふるまい…もうしつこくしつこく、ひたすらこの繰り返し。何度も読んで話は覚え込んでいる状態で冷静に見ると、笑っちゃうくらいです。

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国民学生ながらに繰り広げる権力闘争も見もので、田舎の日常生活をスリリングなものにしています。タケシと進一以外の同級生達それぞれの個性まできちんと描いているので、読者はそれぞれのタイプが自分のクラスでは誰に当たるかと置き換え、感情移入しているでしょう。権力者に取り入る派閥や、一匹狼、流動型、無関心型など。
絶対的な最高権力者による恐怖政治も、暴力で支配しているならそれが破れれば崩壊がやってきます。病欠していたケンスケが復学すると共にその兆しが表れるのですが、一度権力の座から失墜すると、それはどういう事になるか…
読んでいてちょっと辛い事になるのですが、終戦を迎えて一年間疎開していた富山県を去る進一はタケシとの最後の別れ。それから現在、もうおじさんになった進一が34年間ぶりに戻ってくるエンディングで物語は幕を閉じます。


ちょうどこの藤子不二雄ランド版の「少年時代」は実写映画公開予定の1990年に出版されているので、映画化の進行具合などを巻末で実況しています。
篠田正浩監督によるこの映画版は山田太一脚本で、藤子不二雄A先生も原作だけでなく『製作』として名をクレジットされていますが、その撮影現場に石ノ森章太郎先生が遊びに来て監督や藤子A先生と写真撮った貴重なショットなんかも載っていますね。これが後に日本アカデミー賞を受賞する事にもなるわけですが、帯付き本を入手してみるとこの通り、ここでもタイアップしてました。
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そして映画以上に有名になってスタンダード化しているのが、井上陽水の歌う主題歌「少年時代」でしょうか。陽水は天才でしょうし名曲が一つ生まれて良かったとも思うのですが、ただあの歌だけ聞いている方には原作もノスタルジックで良い話、例えば反発し合いながらも友情を持って成長していく少年の物語、というような想像をされるかもしれませんね。そんな部分がないとは言いませんが、実は人間の内面にある残酷性を描き、子供は純真な天使だと勘違いしている者に鉄槌を下すような、痛みを伴う作品である事を知っておいて欲しい。決して『心あたたまる感動物語』なんてクソみたいなのではなく、そうとうに屈折していて…だからこそ素晴らしい名作なのです。


どうしてだ!?タケシくん!美那子さんとは東京の話をしただけなのに!
タケシくん!ぼくが きみになにをしたというんだ1?
ぼくのたいせつな「豹(ジャガー)の眼」や「亜細亜(アジヤ)の曙」だって かしてやったじゃないか!!



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  1. 2011/12/26(月) 23:45:45|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

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