大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(139) 土田世紀 1 「俺節」

今夜はいよいよ土田世紀先生。

1969年生まれで秋田県出身の土田先生は、17歳時に有名漫画賞を受賞し、その1980年代後半から精力的に活動している方。「永ちゃん」「タックルBEAT」「編集王」「俺のマイボール」「競馬狂走伝ありゃ馬こりゃ馬」「同じ月を見ている」「ギラギラ」「雲出づるところ」…等々、多くの代表作を持ち映画化・テレビドラマ化された作品もありますね。絵柄は時代によっても違いがありますが、能條純一系だったり池上遼一系だったりするバリバリの劇画。
感動物語や男気をスマートにではなく、ダサ格好良く正直に描く作風がたまらず、ほぼ全作品読んできてますが…私が1作品だけ紹介するとするならば、演歌漫画「俺節」(小学館刊)。
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1991年から1993年までビッグコミックスピリッツにて連載されていた作品で、単行本は全9巻。

しかし演歌漫画って…音楽を題材に使った漫画はバンド物のロック漫画などがいくらでもありますが、演歌となると他に知りません。そしてこの「俺節」は、タイトルの題字を北島三郎が書いているのです。つまり、実際の演歌界からのお墨付き!
青森県北津軽郡にて祖母と二人で住む高校生の主人公・海鹿耕治(コージ)は、気弱でアガリ症だが歌は上手いというだけの男。
それが初めて勇気を振り絞って好きな女に告白した…いや、しようとしたら重度にどもってしまい笑われ、卒業を待たずに上京。故郷でバカにされながら生きてきたコージですが、津軽弁もそのままに東京という新天地で演歌歌手を目指す!そこで出会う人や歌、そして自分で切り開く未来などを描いた作品です。
作中で歌われるのは、実在の歌。その歌詞が歌手名と共に登場しまくるので、JASRACへの支払いが大変な作品でもあるのではないでしょうか。でも、この時代だからかJASRACの承諾番号は入っていませんね。

2話目から東京生活が始まるコージは到着の上野駅でまず、人々が急いでガーッと階段を駆け上がってくる様(東京では日常の光景)を見て驚き、『なにかあったんだスか?』なんて聞いて突き飛ばされ、まだ『火事でもあったんだべか?』と狐につつまれたような顔してます…好きなシーンです。
それから演歌の世界で一番の大御所歌手であり、憧れの北野波平(顔は北島三郎)の元へ弟子入りしに行きますが相手にされるわけもなく、しかしここで同じく追い出された沖縄出身の南風原太郎(オキナワ)というギタリストと出会い、今後相棒として共に行動する事になります。彼に連れられて住居も"みれん横丁"というドヤ街に決まりました。

そしてテレサというフィリピンから来た不法就労者…つまりジャパゆきさんと出会い、彼女が本作のヒロインとなるのですが、正直この設定は驚きますよね。後に同誌で新井英樹先生がフィリピン人妻を描いた傑作「愛しのアイリーン」を描く事になりますが、それよりずっと前の事です。
そして当時のフィリピン人に対する容赦ない仕打ちがちゃんと描かれており、テレサはストリップ劇場で『本番生板』を強要されているのです。当然彼女らを商品として扱うヤクザがバックに付いてるわけですが、コージは自分の歌の初めての客であるテレサを命かけて脱走させます。
それから人生の節々にあるという『"男"をかけたパツイチ』てなわけで『オマンチョ』して…要は童貞を捨て夢の同棲生活が始まる、と。

コージのオキナワ、テレサに続く重要な出会いは、流しの演歌師・大野。そうそう、コージは演歌歌手を目指す身であした、それでまず大野に弟子入りして流しで演歌修行を始めるのです。
ただ、そこは土田世紀作品なので…何度もリアルで残忍な暴力の世界にも巻き込まれます。流しをやる上ではヤクザとの関わりが出来てしまうのですが、同じ津軽出身者と意気投合して鉄砲玉に行くのを止めようとしたり、地方周りで地元の暴走族ともめた時はボコボコにやられたコージが総長につかみかかり、殴るのか!?と思いきや、何と小便漏らしながら五木ひろしの「暖簾」を歌い始めました!この場面でこれ、凄いシーンです。

その後も様々な理由から殴り殴られ、暴力沙汰は付いて回るこの「俺節」
ある事件からテレサは祖国に強制送還され、失意のコージの前に登場するのは羽田清次。東京生まれでオシャレ、ロックバンド"ショート・ホープス"のボーカルやってモテモテだった彼が、コージの流しで歌う姿に触発されて演歌歌手に転身し、賞金100万円の『輝け!納涼演歌合戦ドカーン』で雌雄を決する事になるのです。
それがきっかえで演歌界の仕掛け人・戌亥辰巳に目を付けられたコージはレコードデビューの話を持ちかけられるますが、相棒のオキナワは暴力の世界に落ちていく…

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ヤクザが絡んだ麻薬の取り引き、殺し合いの世界まで足を突っ込んだオキナワを連れ戻したコージ。
運命の激動はまだまだ続きますが…コージは戌亥の事務所で、オキナワは北野波平の元で羽田清次と共にレコードデビューを果たすのです。
もちろんどちらも平坦な道ではなく、コージはくだらないバラエティ番組に身売りされてカエルの被り物してのテレビデビューになりましたが、おおっ、この『輝け!!第4回歌ってよかともスッチョネッチョ』には友部正人やジェームス・ブラウンも出ている!

それから一度はコージと組む事になった寺泊行代、コージのマネージャーになった唐名新政、担当ディレクターの浜田山翔(もちろん浜田省吾にクリソツ)、作詞家の防府下松(長渕剛にクリソツ)、作曲家今賀政美、同級生の赤崎みどり、そしてコージ自身の…一つ一つが骨太で感動的な人間模様・生き様が描かれるのですが、もう傑作エピソードが多すぎて最高です。

今まで作中で演歌の名曲を歌い続けてきたコージですが、北野波平の協力もあっていよいよオリジナル曲…そして作品タイトルにもつながる「俺の俺節」(後に小林ひさしの「俺節」)でデビューする事となり、みれん横丁を出て中央線・西荻窪のワンルーム風呂付きへ引っ越しました。
そのお披露目は"神保大学"の学園祭ライブで、ライバルである羽田清次の前座という屈辱的な場で、観客の誰にも望まれない第一声になりましたが。

このステージの前に防府下松が言った、
『演歌ってのァ 断絶の歌なんだよ……故郷と都会、男と女、過去と未来……なんぼ叫んでも届かない絶望の深さ、空しさなんだよ……ただ耐えるしかない孤独の歌さ……
カラオケなんかで気安くマイク振り回すガキに、演歌がわかるもんか………』

というセリフを私は大事にしていて、演歌の懐を見た気になっています。

当然大学が舞台となるこの学園祭では、朝霧峰代(マユ)という写真部の娘との出逢いがありました。二人は共に悲しい部分で共有して意気投合し、マユはコージの『ファン第一号』を自称し(本当はその前にテレサがいますが)、本気でコージを好きになるのでした。
ショートカットの可愛い娘に愛されて、遠くフィリピンに彼女を持っているコージはどうするのか…

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いよいよ最終巻になる9巻の冒頭、コージはマユと富士山を観に行く、というこの作品では珍しいデートのような行為をするのですが、その時にマユが言うセリフはこう。
『コージ君て、可哀相……言っちゃなんだけどサ……マイナーなイメージの演歌の世界に早くから入って……
 同い年のアタシ達 若者がするような遊びは、なにひとつ出来ず……いつ花が開くかわからない歌の為に、東奔西走し……
 お客さんには心ない野次や 下手すりゃ物まで投げられて……』

云々と続くのですが、これは分かりにくいけど「あしたのジョー」でジョーと紀子が唯一のデートをする、あのシーンのパロディでしょうか(「ココ」参照)。ちなみにこの巻の後半で、コージとオキナワが殴り合ってあのクロスカウンター開眼シーンを再現する場面もあります。
ついでなのでさらに書くと、同じ梶原一騎先生の名作「空手バカ一代」における大山倍達のあからさまなパロディもあって『演歌に先手なし!!しかし、正義の演歌に先手あり!!』なんて言ってる場面もありました。

で、フィリピンからテレサの来日!しかもこの一年の空白期間に彼女は…まぁ色々あり、失意のコージは長谷川きよしの「黒の舟唄」(オリジナル歌手は野坂昭如ですが)を頭でリピートしながら歩いて辿り着いたのは、マユが住む高円寺。
私にとってはお馴染みの土地なのですが、マユ曰く『フォーク野郎がうるさくってさァ……』という高円寺。コージが着いた時は路上で三上寛の「関係」を歌っている奴がいるのだから、素晴らしい土地じゃないですか。
この二人があれで…そしてテレサとはどうなるのか…それはラストまでの持ち越しですが、何か進んでは下がって、という繰り返しで挫折続きに見えた歌手活動の方は初のソロ・リサイタルを故郷の青森県北津軽郡で行う事が決定し、感動の大団円へ進みます。

私が紹介するのはここまでにしておきますが、最後に言いたいのはこの長編の全編を通して最後まで津軽弁で話すコージが愛おしい事…会社からの訛りを直せ指令も結局は『こいで吾(わ)の言葉だスお』で通したし、東京で開催された津軽時代の同窓会なんか出ちゃって標準語ペラペラになっている同級生にまで笑われていましたが、曲げない自分のカッコ良さってのも教えてもらいましたよ。

こんな漫画史上に残すべき名作がイマイチ知名度低く、しかも長らく単行本すら絶版になっていた状態が悔しくてしょうがなかったのですが、2010年にようやく「定本 俺節」(太田出版刊)という復刻が成されました。
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これには土田世紀先生へのインタビューなどあり、下巻には何と描き下ろし自伝マンガまで収録されているので、見逃す手はないでしょう。


歌にも……
歌い手にも……
それを聴く者にもドラマがある。
そいつを胸に刻んでおくんだ……
それが演歌だ。



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  1. 2012/04/21(土) 23:00:00|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:1
  4. | コメント:6
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コメント

因縁を感じます。
この記事をアップしたすぐ後の本日4月27日に土田さんが帰らぬ人となりました。
わたし編集王は読みましたがこの作品は恥ずかしながら未読でありました。
しかしながらこれから読んでみます。
演歌はあまり好きじゃなかったですがこれ読んだらきっと好きになれると思う。演歌こそ大人の男のための歌!!
あとフォーミディブルさんのサイト「美と健康のブログ「実は・・・」本当のところ」にコメント残してくださったこと嬉しく思います。
  1. 2012/04/27(金) 18:56:36 |
  2. URL |
  3. あつし #gKumvUXs
  4. [ 編集]

何という悲しい偶然…

>あつしさま

本当に…驚きました。土田世紀先生は凄く好きな漫画家でありながら、ようやくこの時にアップして…その直後に亡くなってしまいましたね。今後は、このブログに書かれると作者が逝く『死のブログ』などと呼ばれるのではないでしょうか。

「俺節」は演歌漫画ではありますが、私は演歌って凄いなぁとか思いながらも普段聴くようにはなってませんよ。そこは関係なく、この作品は楽しめると思います。元々の演歌好きならより良いのかもしれませんが。
この「俺節」もその前も、それから近年の作品に至るまでほとんど名作ばかりの土田世紀先生。現在も連載中だった作品もありますし、無念だったでしょう。そしてファンとして、残念で残念でしかたありません。
  1. 2012/04/29(日) 15:30:22 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

返信ありがとうございます。
さて話は変わりますがこれから私は大変忙しくなりますので当分の間ここに来ることはなくなります。
夢をレールに乗せて走り出すためにやらなければならないことが山ほどあるのです。
BRUCE様きたるべき時が来るまでごきげんよう、さようなら。
  1. 2012/05/03(木) 10:27:00 |
  2. URL |
  3. あつし #wa5wuvhY
  4. [ 編集]

また会える日を・・・

>あつしさま

フォーミディブルさんのサイトでもコメントされていたので、しばらくwebから姿を消す事は存じてました。律儀に挨拶してくださって、本当にありがとうございます。
次にあつしさまを見るのは、政治の世界で大物になった姿でしょうか!?しかしその時、私にあれがあつしさまだ、と気付けるのだろうか…
夢を持って走っている人は素敵ですね。期待してますよ!!
  1. 2012/05/03(木) 11:05:17 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

エロと暴力的な漫画のどこが悪い

エロと暴力的な漫画でも、社会的かつ、それにより社会問題を批判したりする漫画なら問題ないのでは?
私の尊敬している音楽家はそういう音楽を作ってアメリカやキリスト教を批判しているし。
私からすれば子供にポルノを読ませるより聖書を読ませるほうが危険だと思うよ。
  1. 2012/08/12(日) 10:09:50 |
  2. URL |
  3. 元・S #-
  4. [ 編集]

悪くないと思います

>元・Sさま

人間として種の保存・継続の意味でも重要なエロ、すぐ隣にある暴力、これらに蓋をして隠して無かった事のようにふるまうのは私も好きでなく、仰るとおり問題ないのと思います。私、それらに対して批判した事ありましたっけ…?

『子供に聖書を読ませるほうが危険』、これは面白い意見だと思います。
書き込みありがとうございました。
  1. 2012/08/12(日) 12:01:49 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

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プロフィール

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Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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