大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

楳図かずお(14) 「おろち」

楳図かずお作品より、「おろち」(秋田書店刊)。
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初出は1969年から翌年までの週刊少年サンデー(小学館刊)で、単行本は全6巻。

それまではヘビとかクモとか、他の異形の怪物に襲われるとかで怖がらせていた楳図かずお先生でしたが、ここから心理的な恐怖を中心テーマにし始めた分岐点とも言える重要作品。
いや、前にも楳図先生は今で言う『サイコ・スリラー』の作り手としてパイオニアであると書いた通り、これ以前からその要素はあったのですけどね。

全9話を1話完結で描かれる連作になっていて、その全編に渡って登場する美少女・おろちというのがタイトルにもなっている通り主人公ではあるのですが、あくまで狂言回しだけの役割。楳図作品において、スーパーヒロインが描かれる事など無いのです。ちょうど時期的に平行して描かれた名作「イアラ」における土麻呂と、不老不死である事も含めて似た設定ですね。
手首に包帯を巻いた右手から人差し指を向ける事で、サイコキネシス(念動力)やテレパス(精神感応)などの能力を発揮します。とはいえそれぞれ話での本当の主人公は、おろちに『見つめられる』人々。ただ、見ているうちに我慢できなくなってその人物の人生の岐路に手を下してしまう事も多々ありますが。

早速個々の話を見てみると、まず「姉妹」
おろちがお手伝いさんとして入り込んだ龍神家には、エミルミという美人姉妹が住んでいた…しかし彼女達は18歳になるのを異常に恐れていて、それはその誕生日を迎えると醜くなる血筋だから、という事。醜くなり始めは額や手にポツンとホクロのようなものが出来て、それが全身に移って崩れていくという、「洗礼」などでもおなじみの設定。
龍神家のこの変化は、ロシアの娘が18歳頃までとても可愛らしいのにムクムク太って醜くなるのと似ている、というのですが…ロシア人に失礼な物言いです(笑)
ともかく1話目はその設定を使って美しさに執着する女の恐ろしい心理を描いているのですが、「おろち」全編に共通するどんでん返しも素晴らしい傑作でした。
余談ですがこの姉妹の名前が、エミとルミというのが辛酸なめ子先生姉妹の名前と一緒だそうです。

次は「ステージ」
傑作揃いの「おろち」の中でも、初めて読んだ時から個人的に1、2番目くらいに強烈な印象を残している愛する作品です。父親をひき逃げされて失った3歳児の佑一が犯人をハッキリ目撃しており、それはTVでおなじみの『おはようのおにいたん』でしたが、幼い佑一の証言は信用されず嘘つき呼ばわりされ蔑まれて成長する事になります。一方で無罪となったおはようのおにいたんへ、佑一は入念に長い年月をかけたある方法で復讐する…シリーズ中でも異色な、いい話として閉じられるラストも良い。

次は「カギ」
その名も『うそつき』とあだ名される幼児・ひろゆきは、悪質な嘘を繰り返し周りの人々に多大な迷惑をかけるガキだったが…たまたま隣の恵美ちゃんが母親に殺されている現場を目撃します。しかし、オオカミ少年の話の例のように『うそつき』の言う事など誰も信じず、隣の両親に命を狙われて一人で逃げ惑う。

次は「ふるさと」
中瀬村という故郷を捨て、不幸に巻き込まれてヤクザにまで落ちぶれた正一が、脳に鉄片が入る重傷を負った時に田舎を思い、帰りたいというその思いが起こす出来事。ついに帰ったその故郷では…こ…これは…あからさまに名作SF映画「未知空間の恐怖 光る眼」をパクった世界が展開されます!
私はまず単純に楳図先生の絵を見るのが好きなのであり、どんなネタでも一コマ一コマ全てを愛しているので、パクリであってもつまらないオチであってもいいんですけどね。

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次は「骨」
東北の子吉村で生まれた千恵の不幸な半生で、結婚してようやく得た幸せもつかの間、夫を亡くしてしまいます。異常に悲しむ千恵のために、おろちがある方法で再び夫に会わせてやろうとしますが…それが恐ろしい結果を招いてしまいました!
スプラッター色の強さや悲観的なラストが印象的な、単行本一冊丸々使った長編です(他に5,6巻の「戦闘」「血」もそうですが)。

次は「秀才」
幸せな家庭に生まれたは、1歳の誕生日を迎えた時に強盗に入られて首を切りつけられ、本人と周りの人間の人生の歯車が狂っていく…
家庭内では『教育』という名の親によるイジメ、これが嫌な話ではあるのですが、そこにはもう一段深い理由がありました。そして優自身が知る、身を引き裂かれるような衝撃の事実!ビックリするどんでん返しのネタに加えて、家族とは何かを問いかける名作。

次は「眼」
盲目の少女・恵子が、自宅に侵入された上での殺人事件に立ち会ってしまいますが、犯人は『めくらか…………』と一言だけ残して立ち去りました。盲目であるから見逃してもらえたわけですが、これもある事情から改めて命を狙われる事になります。
サスペンスフルな盛り上げ方が素晴らしくてうなってしまいますが、これは名作サスペンス映画「暗くなるまで待って」に似てませんか!化学工場の公害問題を絡め、その会社から恩恵を受けている町ぐるみの犯罪というスケールにして決着を着けています。

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次は「戦闘」
中学生のの父は学校の教師で、異常なまでに人に親切な聖人君子。その尊敬する父の事で、ある障害者が訪ねてきます。初めは『うちのおとうさんにかぎって変なことがあるはずがない やっぱりあの片手片足の男は気ちがいなのだ』と自分の中で決着を付ける正でしたが、次の出会いで父は戦時中にガタルカナル島で人肉を食っている、という衝撃の事実を告げられて、深く悩みます。
多感な時期の正はその後に身を持って人間の醜さを知り、また悩みますが、そんな中で父と子二人で雪山へ登山する事になる…概念的思考を通じて人間とは何かを問いかける、深い作品でした。

最後に「血」
門前家という名家に生まれた姉妹である姉・一草と妹・理沙。姉ばかりが優秀で妹は蔑まれて成長した事から二人の人生に起こる事件を記録しつつ『人間』の本性を見つめる作品で、さすがにラストを飾るにふさわしい大作でした。
この最終話にきてようやくおろちの秘密が少しずつ明らかにされますが、しかしあの不思議な能力や、不老不死の謎などはまるで解き明かされる事なく終了してしまいました。もちろん、狂言回しであるおろちのそれは作品の主題でなく、むしろ謎にしておきたかったのでしょう。おろちは今までも見ている者の人生に介入していく場面が見られましたが、この話では何と自らが当事者と一体化して虐待されたり…大変な目に遭っています。
一草と理沙に関しては幼少時代から晩年までを描写されるのですが、これは…今度は名作恐怖映画「何がジェーンに起ったか?」に似ている描写がありますよ!「洗礼」でもこの映画から取ったシーンがありましたし、楳図かずお先生のリスペクト映画なのでしょうね。
先ほども「未知空間の恐怖 光る眼」「暗くなるまで待って」に似ている部分を大きい事を指摘しましたが、「何がジェーンに起ったか?」は特に私が観てきた映画の中で未だにトップクラスの好きな作品。そういった作品だからすぐに元ネタを分かりましたが、もしかしたら多忙を極めたこの時の楳図先生、他にも映画ネタを使っているのかもしれませんね。

2008年に鶴田法男監督の手で実写版映画「おろち」が公開されましたが、
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あれは最初の「姉妹」と、この「血」の2編をかけ合わせたストーリーにしていました。

絵のレベルも凄まじいまでに迫力ある時期の作品だし、心の深淵を描いた物語の何という完成度の高さでしょう。実はこれが多忙すぎて描きながら展開を考えていたらしいのですが…まぁ楳図かずお先生は天才ですからね。おろち自身のカッコよさ(オシャレだし!)も忘れてはいけません。
お得意の"楳図描き文字"、つまり文字から血が滴っていたり、亀裂があったり虫みたいだったり…等々、この作品が教科書と言ってもいいくらい様々なパターンを楽しめるのも重要でしょう。
私の中で『これから楳図かずお漫画を読んでみたいんだけど…』という人がいたらまず「おろち」を薦める、という不文律があるくらい間違いない作品です。


行きずりの人が……少女の去り行く姿を見たという
だがあなたは あなたのうしろで見守る おろちを知らない……
そしておろちの去って行ったことも知らない



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  1. 2012/05/17(木) 23:59:41|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

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