大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

楳図かずお(20) 「のろいの館」

楳図かずお作品より、「のろいの館」(秋田書店刊)です。
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出ました楳図かずお先生の生んだ大スター、赤んぼう少女・タマミ

初出は1967年の少女フレンド(講談社刊)で、連載時のタイトルは「赤んぼう少女」サンデーコミックスにて単行本化する際に「のろいの館」と改題されてしまったのですが、これは失敗だったのではないでしょうか。「のろいの館」と言われてもピンとこない人もいるかもしれませんが、少しでも楳図作品を好きな方なら名前も姿もインパクトの強い『タマミ』を知らないなんて事はないでしょう。
筋肉少女帯の名曲「マタンゴ」のモチーフとしても一部使われており、歌詞に登場するのも嬉しい所です。

冒頭、ボロボロの服を着て登場する主人公の少女(被害者側)・葉子は今まで孤児院に入れられたりひどい家にもらわれてお手伝いさんとしてこき使われたりしていたようですが、実は南条家というお金持ちの娘だった事が分かって引き取られ、生活は一変して豪邸で夢のような生活をする事になりました。
しかしそこには悪魔のような姉、タマミが幽閉されていた!このタマミは赤んぼうサイズのまま大きくならないフリークスながら、葉子と同じ12歳のようです。後で12年前に産院で間違って取り違えられた事など、出生の秘密も明らかになっていきますよ。

ともかくこのタマミ。赤んぼうのふりして実は歩ける上に鋭い歯や悪魔の右腕を持っているし、悪知恵を働かせて葉子を苛め抜くのです。それは拷問のレベルまで…
葉子の味方であり家長の父までやられた南条家はタマミに乗っ取られ、ばあやの田舎である野原(楳図先生の育った奈良県五條市でしょう、バス停に『十津川ー五条』の文字が見えます)に逃げるも、ある方法で執拗に追跡してきたタマミ。
ここでばあやの孫で二枚目の高也が登場し、葉子の味方になるのですが…何とタマミが高也に惚れたために嫉妬深さも加わった葉子イジメに展開します。
それからまた怖い展開が続いた後、とうとうタマミは自滅するように死んで、その直前に改心までするハッピーエンド(母親は最後まで気が違ってますが)。

…というのはやはり葉子を主人公としてタマミを怪物のように見た場合の話であって、タマミ側に感情移入して読むと全然違った悲劇になります。実際そう読ませるようなつくりにもなっているのですが、醜く生まれたばかりに父親からは凄まじいまでに憎まれ、一人で綺麗な服を着てお化粧してみても美しくなれずに泣き、高也に好かれようとおしろいを塗ってみたら逆に気味悪がられる。
突然現れた美しくて性格も良い、しかも正統な南条家の人間である葉子は、果たして無垢な被害者なのか。
『足と手を短くして わたしと同じ姿にしてやるわ そうしたらわたしの苦しみがわかるわ
 おまえはわたしがいじめてばかりいたと思っていただろうけど ほんとうはおまえがわたしをいじめていたのよ』

というセリフが全てを表していますが、タマミが葉子を追い出そうとするのもむしろ人間の女の子らしい行為であり、タマミを想えば楳図作品有数の悲哀に満ちた物語と読めるのです。

そのように楳図かずお先生の驚くほど秀逸な心理描写は悪役側にまで配慮され、また例によって細部まで緻密な絵柄とキャラクター力が合わさり、50年近い年月(!)を経ても全く色あせない、とてつもない傑作になったのです。タマミは右手と牙は化け物じみているものの醜いだけの人間だし、つまり「のろいの館」って実はモンスターの類は全く登場しない心理的恐怖漫画なんですよね。
翌年には「蛇娘と白髪魔」としてリメイクされ、全く違う姿のタマミが出てきます。

余談ですが、夢枕獏の「餓狼伝」…あれの板垣恵介版コミカライズで、丹波文七がFAWのレスラー三人(麻田亮、犬飼五郎、須黒康介)に襲われる場面。倒れた体の顔面に乗せられたピザをムシャっと喰って復活してくるじゃないですか。あれはタマミが入り込んだぬいぐるみを食い破って出てくる所のオマージュだと思います。ちょっと現実離れしたシーンなのに、絵面がそっくりなんですよ。

タマミというキャラでこれほどのインパクトを残した「のろいの館」ですが、実は単行本1冊にも満たないページ数の作品でありまして、このサンデーコミックスでは「怪談」が併録されています。
これは1966年の少女フレンド誌上にて、『楳図かずおの怪談』と題して掲載された「悪夢」「鬼ばば」「とりつかれた男」「人食い雪」の全4話からなる連作短編をまとめた作品。バラエティに富んだ怪談話に仕上がっていて、こちらも傑作です。


ふん 高也ったらわたしのことを
きっとこんな姿を見たらきらいになるにきまってるわ
くやしい!葉子のやつ もっとひどいめにあわせてやるわ



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  1. 2012/06/10(日) 23:59:59|
  2. 楳図かずお
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

BRUCE様

頑張って次々に更新なさってますね。毎回面白く♪月日が経つのも夢の中~な私です。なかなかコメントできなくて申し訳なく思います。他の読者の方々もきっと同じ思いですよ。楳図かずおさん、名作多いですね。たまみの悔し涙を理解できる年齢になりました。
  1. 2012/06/13(水) 21:09:55 |
  2. URL |
  3. 秀和 #-
  4. [ 編集]

有難いお言葉・・・

>秀和さま

お久しぶりです。
毎回見に来て頂いているようで、ありがとうございます!
私はもう少し、読者がいる事を理解して慎重な文章を書かなくては…他人が描いた作品を紹介するだけのブログなので、気楽なんですけどね。
  1. 2012/06/15(金) 12:14:44 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

購入しました

赤んぼ少女、買いました。
「のろいの館」というタイトルの作品と「赤んぼ少女」が同じ作品だと、今回、購入して初めて知りました。
子供の頃、お金がなかったので「のろいの館」を買うことができなかったのですが、大人になってようやく手にすることができました。
一気に読んでしまいました。
  1. 2014/01/12(日) 20:25:43 |
  2. URL |
  3. ひでまろ #-
  4. [ 編集]

コメントありがとうございます。

>ひでまろさま

好きな作品を好きなだけ『大人買い』出来る、大人になって良かったですよね。
子供の頃からの念願がかなって、おめでとうございます。
「赤んぼ少女」=「のろいの館」は傑作なので、楽しめた事と思います。
  1. 2014/01/15(水) 10:13:03 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

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Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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