大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

楳図かずお(26) 「笑い仮面」

楳図かずお作品より、「笑い仮面」(朝日ソノラマ刊)です。
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朝日ソノラマから出た『シリーズこわい本』のシリーズの5、6巻目に当たります。そう、この「笑い仮面」だけシリーズ唯一の、全2巻構成の作品。

上の画像が1984年のサン・コミックス版で、1990年に同内容を装丁変えて再出版されたハロウィン少女コミック館版はこちら。
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初出は1967年の少年画報(少年画報社刊)で、少年向けSF科学作品の傑作ですね。
プロローグは昭和15年、九州の日裏村で村中の家庭で生まれた赤ちゃんが『全身真っ黒で見ただけでぞっとする本物の化けもの』になる事件が起こりました。いや日裏村のみならず全国の至る所で生まれている事も分かりますが、その赤ちゃんは生まれてすぐに走り回り、しかも人を襲うのでみんな殺されてしまいます。
"アリ人間"と名付けられた彼らが出現したのは恐ろしい現象ですが、ちゃんと意味があったのです。天文学者の式島博士は太陽黒点の11年周期説とアリ人間には密接な因果関係があると説き、あと2度目の黒点の年である22年後は『大黒点の年』となって地上のほとんどのものは一瞬にして焼きつくされると言うのです。そして黒点の年が近づくにつれアリ人間の出まれる率が高まるわけとは!?

その自説を人々に説明しようとしている途中でしたが、式島家に入り込んできた大日本帝国陸軍によって捕らえられた式島博士。軍は式島説を危険思想であるとして拷問しますが、自説を曲げない式島博士はついに…
『笑い仮面の刑』を処されるのです!
『最高の苦しみと 最高のぶじょくと 最高の恐怖の刑』であるそれは、鉄仮面を頭に被せた上で炎を当ててつぎ目を溶接してしまうというもの。仮面の下の顔は醜く焼けただれますが、その顔は二度と見る事ができない。どんな方法でも永久に外せず、一生の顔となる仮面は皮肉にも笑い顔!
さらに重罪の者を幽閉する"獄門島"(これは横溝正史小説からそのまんま頂いたネーミングですね)の監獄へ投獄されますが、その地下牢で異常生物学の南博士と出会います。偶然にもアリ人間について調べたために投獄された二人が協議し、何故黒点の年が近づくとアリ人間が生まれるかが読者にも分かるように判明しますよ。
地球が灼熱地獄となる大黒点の日から逃れるためにはアリになって地下に潜り太陽熱を避けるしかなく、危険を感じた人間の本能は突然変異で人間からアリになろうとしていると、そんな荒唐無稽な理由。
ただアリになって大黒点の日から逃れたとしても、知能も感情も持たないただのアリになってしまうのでは逆進化だし人間とは言えないという問題も抱えているので、二人は研究を重ねて…南博士の協力を得た式島博士は獄門島からの脱獄に成功し、姿を消しました。

ここまでが長い導入部でして、次の舞台は昭和36年、またも九州の日裏村。ここで気味の悪い仮面を付けて怖い怪物を飼い、恐ろしい研究をしている…と村人から恐れられているのが、笑い仮面こと式島博士。まだ人類を破滅から救うための研究を孤独に続けていたのです!
好奇心から屋敷を調べに行く少年が東京から遊びに来た五郎。彼が本編の準主役であり、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズにおける小林少年みたいな役割でしょうか、シャツにはでかく『5』と書いてあります。案内してくれた村の娘・マリ子は止めますが、
『大丈夫さ ぼくは東京で探偵ゴローと呼ばれていたんだぜ 一度首なし男という事件でかつやくしたこともあるんだ…』
なんて言ってます。そう、この五郎は「笑い仮面」以前にも楳図かずお作品に登場していたのです。それが1966年に同じ少年画報で掲載された「恐怖の首なし人間」。つまり「笑い仮面」は独立した話ながら世界は「恐怖の首なし人間」の続編。
そういえば1965年の「悪魔の手を持つ男」も顔と名前が同じ主人公ですね。あとは少年探偵だし、初期の岬一郎シリーズに似てますか。

そのゴローは屋敷のそばで人間の何倍もの大きさを持つ恐ろしいアリの化物に襲われますが、このアリこそが生まれたアリ人間を殺さずに成長させた姿。アリ人間というけど完全にアリの姿だし、しかも何でも溶かす消化液を吐き出す怪獣ですね。「笑い仮面」の前年に「ウルトラマン」を描いて少年誌進出のきっかけとした楳図先生なので、ほとんど同路線でいったのだと思われます。

最初はちょっと小難しい感じでスタートしたこの作品も、少年主人公の登場で一気に少年漫画っぽくなります。
五郎は笑い仮面が人類の味方だと分かり、村人達が次々とアリ人間になっていく中で活躍する五郎。楳図かずお先生お得意の、化け物(ここではアリ人間)に追いかられるシーンはやはり恐怖を感じますが、特に保育園児達が無邪気に追いすがり、五郎を砂場に生き埋めにしようとする辺りはヤバイ!!
ミステリーの要素も強いのでアリ人間達を操っていた意外な親玉の正体が物語の見所でしょうが、何より守るべき人類には全く理解されずに偏見で差別され、それでも最後まで我が身を犠牲にする悲しき笑い仮面…ラストの式島博士が悲しい。
ドラマ&映画の「NIGHT HEAD」等で知られる飯田譲治監督はこの作品が大好きで、映像化出来ないか考えていたそうです。


単行本「笑い仮面」の後編、つまり『シリーズこわい本』6巻目には他に3編の傑作短編が併録されています。

まず「首」は1970年のプレイコミック(秋田書店刊)で掲載されたサイコ・ホラーの名作短編。
美しいが傲慢で冷たい妻・シホ子をひき殺した男は、やがて地味で素直な直子と結婚しますが、あの事故現場からなくなっていたシホ子の首に怯えながら生活し…さぁその首はどこから出てくるのか!?

続いて「独眼鬼」は1970年のデラックス少年サンデー(小学館刊)で掲載された時代劇ですが、やはりここでも人間の精神の恐ろしさを描くサイコ・ホラーに仕上がってます。
飛騨の石垣城と呼ばれる城を舞台に、跡継ぎ兄弟…鷹之助虎之助の確執から起こる、物凄い時間をかけた復讐の物語です。

最後の「怪獣ギョー」は1971年の少年サンデーで作者名を隠した覆面作家として2回に分けて掲載し、当てた読者は懸賞を貰える企画だったようです。でもそれ…この個性的な絵を見て楳図かずお先生だと分からない人を探す方が大変なんじゃないですか!?
ともかくこれはタイトルで分かる通り怪獣漫画。実は楳図先生、このジャンルでも多くの作品を描いているのです。

体が弱くて『怪獣』と呼ばれるいじめられっ子の青木靖男は、ある時海で一匹の醜い魚を発見します。『ギョー』と鳴くからそのままギョーと命名した魚と交流を深める事で靖男も明るい少年になっていきますが、ある事から別れてしまいました。
ちなみにこの少年時代を過ごす漁村の舞台は静岡県Y市となっているのですが、それって静岡県焼津市ですよね!
時が流れ、今は北海道で生活している靖男は大人に、それも原子工学の権威みたいな偉い先生に成長しています。そのため息子との団欒中に秘密の原子炉を使う原子力発電所の問題で呼び出され、もう爆発も目前というその時…ほとんど忘れていたギョーに助けを求めるのです。
それに答え、海からとんでもなく巨大化したギョーが現れて原子炉を破壊してくれるのです。ちなみに…ギョー東京から上陸するのですが、『怪獣は水戸を破壊させ、福島をつぶし、仙台を踏みにじり、それから青森を破壊して、北海道に上陸しようとしています!!』とTVで報道している通り、多分北海道で原子炉が爆発するより多大な被害をもたらしていますが、それについてはその後特に言及なし。魚…いや怪獣であるギョーにとって靖男を救う、という崇高な目的以外の事はどうでもいいのですね。この後また悲しい別れの後に物語の幕は閉じます。
ギョーのデザインも素晴らしく、ゴジラと違って猛スピードで走る怪獣ギョー…これは伊藤潤二先生の名作長編「ギョ」にも多大な影響を与えていると思います。


あと2年で地上のものが全部焼きつくされてしまうというのに…
人間はアリになるしか 助かる道はないというのに!!
もう少しで体質をアリのように強くすることが出来るというところだったのに………………



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  1. 2012/07/30(月) 23:59:59|
  2. 楳図かずお
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  4. | コメント:2
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コメント

素晴らしいタイミング

何気なくBRUCEさんのブログを覗いたら、私が期待していた「笑い仮面」の記事がUPされていて、「スゴ~イ」と唸りましたよ。早速ですが、月刊誌「少年画報」は、その名も「少年画報社」から出されてましたよ。「中央公論社」って、どこから出てきたのか、逆に興味ありますね(笑)。少年画報社はあの「赤胴鈴之助」の大ヒットで自社ビルを建て、「赤胴ビル」なんて、他社からはやっかみまじりに言われたそうですね?さて、以前書いた通り、この「笑い仮面」は、私の楳図ワールド、ファースト・コンタクト作品なんです。従兄がくれた「少年画報」に載っていたこの作品の笑い仮面そのものの絵のインパクトが小1の私には強烈で、とにかくもう、怖くて怖くて!思えば、絵そのものというよりも「笑いながら固まっている状態(仮面)」の心理的な怖さだったと思うのですよね。ストーリー展開はBRUCEさんのおっしゃる通り、なんだか理屈っぽくて小難しい一面がありましたね。ちょっとアテが外れた感じもありましたよね。因みに私は90年のハロウィン版のを持ってます。「少年画報」末期は「マグマ大使」「怪物くん」「キックの鬼」等TV化された作品が並び、付録も一番センスがあり、小学生に人気でした。
  1. 2012/07/31(火) 19:11:05 |
  2. URL |
  3. 秀和 #-
  4. [ 編集]

コメントありがとうございます。

>秀和さま

まず出版社記載ミスの指摘ありがとうございます。何故藤子不二雄ランドや藤子不二雄ランドや「日本の歴史」シリーズ(石ノ森章太郎)の出版社名を書いてしまったのかは…全然覚えてません。単にボーッとしてたのだと思いますが、気付かずにそのままずっと載ってたら大恥でした。

小1で「笑い仮面」は、そりゃ怖かったでしょうね。楳図作品は単純な絵の怖さや化物・怪獣等の登場に加えて心理的恐怖も入れてきますしね。
しかし少年期に少年画報がまだ発売されていただなんて、羨ましい限りです。少年キングすら間に合わなかった世代の私は、せめて今でもヤングキングのヤンキー漫画を読むのみです。
  1. 2012/07/31(火) 19:58:52 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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