大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(150) 上村一夫 24 「サチコの幸」

上村一夫作品から、「サチコの幸」(双葉社刊)。
KAMIMURA-sachiko-no-sachi1-2.jpg
初出は漫画アクションで1975年から翌年まで、単行本はアクションコミックスで全5巻です。全ての巻に美しいカラー口絵が付いているのも嬉しい。

様々な形で男女の性を描き続けてきた上村一夫先生が、そのものズバリ…性を売る職業の娼婦を主人公にした作品。
舞台はスタート時点で昭和25年(1950年)。戦後数年が経って、まだ日本がGHQによる占領政策を実施されていた時代です。
主人公のサチコは満州で汚いソ連軍の侵攻を受けて両親と死別し、幼い身で一人内地に辿り着けば親戚も空襲でやられており、焼け跡で変態の米兵に襲われて…
助けてくれた上野の浮浪児と行動を共にする事になるのですが、離れ離れになって後に新宿二丁目の赤線にて、ショート500円・泊まり2000円でお客の相手をする娼婦(パンパン)になるのです。

特筆すべきはサチコの顔。従来の上村一夫作品における主人公顔…つまり修羅雪姫みたいなつり目の女ではなく、垂れ目気味で目が大きい!(サブキャラで修羅雪姫顔も出ます)
私は作品自体の出来の良さも相成ってこのサチコというキャラに愛着が深いのですが、蔑まされる事の多い娼婦という職業も、ここではどんな汚れた男の欲望をも包み込んで受け入れてくれる聖母というか天使というか…そんな風にしか見えませんね。性格も明るいし。
そんなサチコの強烈な人生を、ほとんど1話完結の短編による連作で進めていくのです。第一話目「サチコ」から赤線で働く同僚の冬子が死んでしまいますが、彼女はヒロポン中毒になりながらもヒロポン買うお金が無く、玉ネギを摺った汁を打っていたそうです。そうすればヒロポンに近い感じになるのだそうで、まぁ死にますが…こんな感じで、当時の情勢や風俗を見れるのに加えて豆知識も詰まっています。

故郷を持たないサチコが、同僚で一番の親友であるヨシコに頼まれて山形県の田舎へ帰省するのについて行く話「ふるさと」「遠くにありて想うもの」は深い…どんな事情があるにせよ、閉鎖された村で娼婦だなんてバレたらどうなるか。田舎の人間の優しさと併せて『とてつもない冷たさ』が描かれているのですね。同じような雪国の田舎で育った私は、ソレをもっと専門的に描写する傑作の誕生を切望します。田舎の人間は素朴で暖かいとか勘違いしている人間が未だに多い事に危惧を覚えているので。

KAMIMURA-sachiko-no-sachi3-4.jpg

「サチコの幸」はどの話も傑作ばかりなのでどれかを紹介するのが難しいのですが、馬並みのモノを持っているために一度も本物の性交をした事が無い男の悲しみとサチコの対応を描いた「巨大なる男」だとか、まだ日本人に馴染みのなかった牛肉を食べに行く話「牛肉と民主主義」も凄かった。ラストの1ページが首を切って吊り下げられた猫の死体と、地面に転がる猫の生首5個ですからね。この肉を牛肉と称して出していた、というオチなのですがコメディタッチの作品なのに猫の死体がリアルで、今ならまずどこかの団体から抗議が来る事でしょう。

続いてサチコが働くお店の女将で守銭奴の志水文子の息子・武彦が登場します。こいつがサチコに惚れてこの後も出てくる男となるのですが、それらのどさくさに紛れて大変な時に、何とあの親友のヨシコが日系アメリカ人二世を名乗る客に首を刺されて殺されてしまいました!
それから泣き続け、神さまについてだとか様々な事を考え…そして笑顔を取り戻したサチコ。

そういえばサチコにとって生きる術でもある売春が禁止されるかもという雲行きが『嫌な予感』として出てきます。作品の舞台から数年後の昭和31年(1956年)には売春防止法がされ、その後赤線が廃止される事になるのは皆さんご存知の通りですが…
現在でも売春産業が盛んな韓国では近年でも、取り締まりされそうになるとあちらの赤線地域で働く女性達によるデモがが行われていますね。レイプ事件があまりにも多いあの国で実際に赤線が廃止されたら、心配の種が増える気もします。
日本ではその辺、赤線廃止以降どうなったのでしょうか。時代や国によって犯罪であるかないか分かれる『売春』についての是非を語るのは、まぁそこまで「サチコの幸」の重要テーマではないので止しておきますが。

KAMIMURA-sachiko-no-sachi5.jpg

4巻の最後の方で出てきた広沢という客が本気でサチコを好きになり、重大な転機が訪れました。
娼婦と客として体のつながりから始まった二人でしたが、本気で恋愛を始め、広沢からサチコへのプロポーズに発展するのです!時を同じくして武彦からも手紙でプロポーズされますが、広沢との生活を選択したサチコ。結婚したら、一人の男としか肉体関係を持てなくなるのですね…
住み慣れた新宿二丁目の赤線を出たサチコは精神が不安定になり、客を取らなくてもよくなったのに突然の主婦業の方に不安を覚えて騒動がありますが、どうにか克服しました。

おっと、ここで二人の住居となる広沢家の表札を見てみると、『広沢幸雄 サチコ』とあります。そうですか広沢さんの下の名前は幸雄でしたか。え!?幸雄…幸…するとタイトルの「サチコの幸」というのは、そういう意味だったんですね!?
夫になった広沢の事は戦時中はラバウルで二等兵だったとかしか聞いておらず、ようやく判明した職業は闇屋でした。でも広沢自身は本当は悪い奴だった、とかのオチもなく底抜けに優しくてサチコを幸せに出来る良い人間だったんですよ。その人生の最後まで…そう、やっぱり悲劇的な最後を迎えてしまいます。

他の有名な上村一夫作品群のように人間の欲望や業などを禍々しく描く部分は少なく、娼婦を扱いながらむしろユーモラスな側面を強調したされていたのですが、ラストは悲劇が用意されているのでした。
うーん、凄い傑作です。毎度どの話も面白いので、このテーマでもこれだけ長い作品になった事は納得出来るのですが、40年近くも前に描かれた作品がこんなに面白い事は本当に驚異的。
話だけをザッと紹介してみましたが、もちろんいつも通り絵のレベルも現在の漫画家の誰よりも凄まじく、上村一夫作品を読むと劇画はこの時から全く進歩していない事が判明してしまいます。というより、この1970年代が劇画が一番面白かった時だったのでしょう。

実はこの作品は武田一成監督で1976年に実写映画化もしていたのですが、今年になってまさかのDVD化もされました!しかも原作のサチコがジャケになってますよ(ビデオ版は違ってました)。この絵は4巻カラー口絵のやつですね。
KAMIMURA-sachiko-no-sachi-dvd.jpg
何と上村一夫先生ご本人もちょい役ながら出演しているし、映画の方も要チェックでしょう!


私の幸せは その日から失われた……か
あたしはこんなふうに思いながら生きたくはないな
他人と比べるから自分は不幸だ なんて思い込んじゃうのよ
比べなければ大丈夫!
「幸せ」ってどんなものか よくは分からないけど
とにかく「幸せ」にならなくっちゃ
「幸せ」に……



スポンサーサイト
  1. 2012/10/14(日) 23:23:08|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<上村一夫原画展「ブルーな女たち PART.2」、阿久悠記念館 | ホーム | 劇画(149) 上村一夫 23 鈴木則文 2 「黄金街」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://mangabruce.blog107.fc2.com/tb.php/1124-97df61bc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する