大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(152) 上村一夫 26 「一葉裏日誌」

今夜も上村一夫作品から、「一葉裏日誌」(小学館刊)。
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表題作の「一葉裏日誌」ビッグゴールドで1984年から翌年にかけて掲載された作品で、これこそが偉大なる上村一夫先生の遺作に当たります。
単行本も1986年5月発行と、死後4ヶ月ほど経ってから発売されたので帯に『最後の珠玉集』とありますね。

「一葉裏日誌」は、もちろん「たけくらべ」「にごりえ」などの小説家・樋口一葉が主人公。
一葉の顔は五千円紙幣(2004年以降のお札)で肖像を確認出来るので小説に興味の無い皆さんも知っているでしょうが、私の中ではこの作品の影響で上村一夫絵に変換されてしまいます。上村先生はこれ以前に「修羅雪姫 復活之章」でも一葉を描いてます。
ここで描かれる一葉は紙幣になるような立派な人という部分より、人間らしい、そして女らしい情念でドロドロした側面を強調して描かれていて、いつも机の元を離れない病弱の小説家。一日中家から出ない女の日常を描いても普通なら面白くならないでしょうが、何とこの作品では樋口一葉の生涯にミステリーの要素を盛り込んでいるのです。
書道を教えてる弟子の少年を通して得た情報などから殺人事件を解決してしまう一葉…この女主人公が家に居ながら机上で推理し、その鋭い洞察力をもって難事件を解決する様はアガサ・クリスティ作の推理小説に出てくるミス・マープルを思い起こさせますが、一葉は探偵でも正義の味方でもなく情で動く女。時に少年を不幸に落とし入れ、時に意図的に真の殺人犯を見過ごし、いや殺人に加担した事もありました。その時の、
『たとえ地獄に堕ちようとも、一本の筆さえあれば、閻魔大王を楽しませるぐらいの小説を書く自信を私はもっている。
御仏を喜ばせず、地獄の亡者どもが群がり読む小説こそを、私は書いてみたい』

という独白が初めて読んだ時からずっと印象に残っています。

今作は「たけくらべの頃」「花ごもりの頃」「にごりえの頃」という三篇が描かれましたが、前述の通り遺作なので24歳で短い生涯を閉じるまでの一葉を描くつもりだったのかは分かりません。もしも描くつもりだったのだとしたら…上村一夫先生が一葉の最期をどのように描くはずだったのか、興味は尽きません。
ちなみに樋口一葉は小説以外にも膨大な量の日記や雑記を残している事でも知られていますが、今作で一葉が書いているのは他人に読まれたら困る日記(裏日誌)、というわけです。

続いてこの単行本には、表題作の他に1983年の作品が二つ併録されてまして、まずビッグゴールドで掲載された「うたまる」
江戸時代の天才絵師・喜多川歌麿(うたまる)と、大版元の蔦屋重三郎。そして後の美女画モデルとして歌麿が教育する少女・おひさの物語です。

そしてビッグコミック増刊で掲載された「帯の男」。実はこれが単行本の半分以上を占める、全6話。
かつて"帯源"と呼ばれた祇園の名帯師でありながら、現在は神楽坂で帯を扱う橘源次郎…帯の男。また渋いオジサンを主人公にしたものですが、帯を扱う彼の凄腕ぶりは締められた女に
『源さんに締められると どうしてこうも気持ち良いのかしら。まるで帯に抱きしめられているような……』
と言わしめるほど。同様に解かれる時も気持ち良いらしいですが、もっと凄いのは帯をシュルシュッと蛇のように伸ばして当てた物を切断してしまう神業。
基本的に人情物語みたいな話が続きますが、花街で生きてきた男の生き様を通して花柳界の文化を垣間見る事も出来るし、味わい深い作品です。

さて、こちらは1996年に再発された小学館文庫版。
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この版の特筆すべきは、上村一夫先生の実娘・上村汀さまによるエッセイ「父のこと」が収録されている事!
私は発売当時に買っていますが、この時はインターネットも無く上村先生の私生活なんてほとんど知らなかったので、ちゃんと子孫を残していた事に安心したものです。エッセイの内容も当然ファンには興味深い、貴重なエピソードが満載ですね。
汀さまの育て方を通じて上村先生の考えを想像したりも出来るし、成長した汀さまが父の作品を分かるようになり、『男と女を描く父など見たくもありませんでした』という部分も思春期ならば当然の事でリアリティを感じます。上村一夫作品はただの男女のセックスだけではなく、近親相姦や獣姦に殺人やら、タブーだらけの内容ですからね…子供なら親が少年ジャンプとかにバトル漫画でも描いてる漫画家の方が自慢出来たでしょう。
でもそのままで行かずに、父の作品の凄さを理解してくれるようになって本当に良かった。汀さまが上村一夫作品復刻活動をしていなかったら、現在の出版業界ではほとんど絶版状態のままだったかもしれませんよ。加えて毎年原画展などの企画もして頂けて、本当にファンからしたら女神さまですね。
あと、ここで書かれている7ページのエッセイによると汀さまは美大出身。その受験勉強期に父と関わったエピソードも素晴らしいのでそれは小学館文庫を読んでもらうとして、上村一夫先生の血を引く汀さま自身の活動が気になりますよね!どんな絵・デザインを描かれているのでしょうか…
現在汀さまが書いているブログ(上村一夫の作品復刻奮闘記)のタイトルは上村裏日誌。当然今回紹介した「一葉裏日誌」を受けての事でしょうから、この遺作への思い入れも推して知るべし、でしょう。


辛さを薄めてくれるから……
ちょいとした躓きから狂ってしまった人生を酒という水で薄めているのさ
避けて通れた躓きだったかもしれないけれど、あえて躓く男もいるものなのよ。



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  1. 2012/10/28(日) 23:59:59|
  2. 劇画
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  4. | コメント:2
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コメント

私、上村一夫さんの「悪の華」をリアルタイムで6歳か7歳ごろに読んでましたよ。

家がアパートを経営していたので、学生が多くてゴミ捨て場や焼却炉によく突っ込んでありました。
あんな漫画を読んでいた人たちも考えてみればもう還暦ぐらいになるんですね・・・。

生け花の先生とか弟子とかと聞くとこの漫画が浮かんできて、あそこに花を挿して「妖花だ!」と言ったりするんだろうと長らく思い込んでいました。

あと何も食べなくても男の人の精液で死にかけた女の人が蘇る・・・のは嘘、だと後年知りました。
11月にまんだらけから復刻版が出ましたね。
プレイコミックだったかな。

あの当時汚い漫画や変な漫画が一杯ある中で(そりゃそうですよね。そういうマンガ本だったんだから。)
上村作品は随一垢抜けた印象を持っていましたが、
感想を語り合える人も無く孤独な子供時代でした。

  1. 2012/12/06(木) 13:13:20 |
  2. URL |
  3. おポンチグリーン #-
  4. [ 編集]

悪の華

>おポンチグリーンさま

6、7歳頃で「悪の華」を読んでいたって、相当ヤバイですね!
なるほどそういう環境だったため読めたのですか…そんな幼少時代に、上村一夫作品の感想を語り合う人がいないのは当然だとしか思えませんが!
まぁ、今の子は同好の士にインターネットで出会って語り合ったりしているのかもしれませんね。

そういえば私もたまに、当時は主に少年ジャンプですがゴミ捨て場に探しに行ってました。今はその場所もありませんが。

「悪の華」というタイトルは私の場合ボードレールどころかBuck-Tickのアルバム(及び曲目)で少年時代に出会ってしまいましたが、肝心の上村一夫作品は漫画エロトピア連載ですね。
1975年の作品なので、確かに…現在還暦でお祝いされているお爺ちゃんが、20代の頃はあの名作に熱中されていた可能性は充分にあると思います!
おポンチグリーンさまが挙げてくれたエピソードを始め、変ネタの宝庫ですよね。
まんだらけからの復刻版、買いましたよ。
  1. 2012/12/07(金) 07:36:59 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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