大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

楳図かずお(36) 「アゲイン」

今夜は楳図かずお作品より、「アゲイン」(秋田書店刊)。
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1971年から翌年まで週刊少年サンデー(小学館刊)で連載された作品で、単行本はサンデーコミックスで全6巻。

今作は主人公・沢田元太郎、65歳の物悲しい人生回想から物語はスタートします。
若い時から大工の仕事に打ち込んで、やがてはタツと結婚して息子の英一が生まれ、体が弱かった英一のために必死に働いて…
彼も社会人になると貴世子と結婚して長女の美香と長男のまことという孫も生まれる。
そんなある時の仕事中にハリから転落しますが、完治して喜び勇んで向かった職場の噂話で自分が足手まとい扱いにされている事を知ると同時に『とつぜん老人になっている自分に気がついた』、と。
それから家にいるようになり、家族に邪魔者扱いされて次々可哀想な目に遭うのです。

おっと、上記の沢田家のメンバーで気付く事があるでしょうか。そう、これはそのまま楳図かずお先生の代表作「まことちゃん」の家族構成。ついでに猫のメチャもちゃんといますが、つまり「まことちゃん」は、この「アゲイン」から派生したスピンオフ作品!
楳図作品中最長の作品でもある「まことちゃん」の記念すべき第一作目は「アゲイン」連載中の1971年に番外編として読み切りで掲載されたし、同作は「アゲイン」の6巻に収録されています。

そんなわけで後に漫画界の大スターになる幼稚園児のまことちゃん…その祖父・沢田元太郎が、
『なんのために生きてきたのじゃ………
 ひたすら年をとって なにがあったというのじゃ…………
 もう一度若いころにかえりたい!!もう一度!!』

そう願い、息子夫妻が『はやく死んでしまえばいいのに!!』とまで言ってる陰口を聞いてさらに『若くなりたい!!』と涙を流します。ああ、重い話です。
そんな時、風邪を治すため町の薬局"だるま堂"の娘でブス子と呼ばれるオールドミス・美寿子が調合した、妙薬『アゲイン』を偶然に飲んだ後から、ようやくこの作品が明るいギャグ漫画へと変貌していきます。

一夜が明け、まことが元太郎を起こしに行くと布団には見た事のない若者がいるのでした。もちろんそれは若き日の姿に戻った元太郎であり、アゲインとは若返り薬だったのです。
沢田家はそれから大騒動!かつての力を取り戻し、走り回る元太郎を見て『わーっ でた!! きちがい!!』とか言って逃げ回り…全編通して続く事になる、勢いに満ちたドタバタのスタートです。

与えられた時間を一秒たりとも無駄には出来ないと、地元の"夕陽ヶ丘高等学校"へ勝手に通い始めました。
当然ながら早速騒動を巻き起こした元太郎、先生も『いまのはきちがいです きちがいのことはもう忘れるのだ!!』と見なかったふりをするのですが、そのうちにフクスケこと沢田ゆたかを一方的に親友にし、佐藤平作校長に生徒証も作らせて本物の生徒として無理矢理受け入れさせるのです。

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元太郎が取り戻した体力と気力を存分に使って暴れ回る様は、読者として見ている分には相当面白いのですが…その迷惑さは凄い。
教師も生徒も腫れ物に触るように扱いますが元太郎の暴走で授業はとんでもない事態に発展し、『きちがいが ついにくるったーっ!!』などと言って逃げ惑い、ついにはあのドドドド走りも全校生徒を巻き込んでいく。昔流行った、どたばた喜劇ってやつですね。
もちろん幼稚園児とはいえ白痴すぎるまことちゃんも、『あいあいあい~~』とか言いながら元太郎の後について大活躍。ざんぎり頭なのは後に自身が主役になる作品でも同じですが、顔はちょっと違います。お馴染み聖秀幼稚園のクラスメイト、ピョン子やモン太もこの作品の時点で出てくるから嬉しい。

私も含め最初から「まことちゃん」を知ってる私くらいの世代は楳図かずお先生のレベル高いセンスで笑わされれば良いだけですが、しかしこの当時のサンデー読者は驚いたでしょうね。恐怖漫画家として知られていた人が、ここまで豹変した内容を描くのだから…時期的にも人間心理の怖さを描いた名作「おろち」の直後ですからね。
ただ少女向けの方ではずっと前に「ロマンスの薬」(ロマンスの薬あげます)など描いてるから、皆知っていて素直に受け入れてたのかな?

若返ってからの大暴れで、嫌われていた老人時代よりさらに敵を多く作る元太郎。
沢田家の家族からは色々な手段で追い出しを図られますが、美香の陰謀でミス小学校の女子4人によって元太郎を悩殺して骨抜きにする計画の時は、65歳の元太郎にガキのお色気は通じず全員裸にひん剥かれます!
ここはギャグ調で描かれていますが、美しい楳図ガールズのオールヌード…それもまだ幼い娘ってのが、元太郎には通じなかったものの現在では変態とも言えないほどポピュラーな性癖となった、ロリコンの男達を喜ばせそうです。ミス小学校女子4人+美香が裸で走り回る、このシーンだけを目当てに「アゲイン」の4巻を買っている者もいるのではないでしょうか。

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家族に続いてもう一つの主戦場・夕陽ヶ丘高等学校ですが、ここは特殊な事に女子が武道や陸上などのスポーツ部を牛耳り、男子は裁縫部やら料理部やらの文科系しかやれない気弱な奴らばかり…
元太郎は孤立無援の中で女子達と対立するのですが、女子のボスが何と!元太郎がタツと結婚する前に好きだった初恋の人・天宮有紀の孫で、顔はソックリの同姓同名。ミス夕陽ヶ丘高校かつ勉強の成績は一位で全スポーツ部のキャプテン、そして勝気な性格の女でした。

強敵・有紀と様々な競技で対決。白熱の、そして大笑いの展開になるのですが、一応シリアス部分もあって、男たちを奮い立たせての最終決戦を前にして元太郎は若返り薬・アゲインの効果がきれてくる!!
剣道の勝負で女子と決着をつけようとする矢先に、敵前逃亡と思われるタイミングでアゲインを取りに家に戻った元太郎ですが、薬は残り少ない!これを分析して量産するために取っておくべきか、先に行かせたフクスケら男子生徒を助けべくすぐに飲むべきか…ヒーローが取るべき道はもちろん決まってます。
『じゃがわしゃ飲むんじゃ!! いま飲まなければいかんのじゃ!!
 フクスケたちが男になるかならんかのときじゃい!!』

と一息に飲み干すと、駆けつけて他の男子が負け続けた分も一人で取り戻し、ラスボスの有紀と闘い。
途中で剣道のお面の中の顔は既に以前の元太郎、つまりおじいちゃんに戻ってしまいますが、それでも勝利出来るのか!?

痛快ながらも物悲しく、あれだけ暴れた元太郎がいかに受け入れられていたかを描くラストが素晴らしい。
ギャグ漫画の陰に隠して描かれていた"老人問題"は何も解決されていないと見るむきもあると思いますが、一度は若返って望みを叶えた元太郎が、最後に夕焼けの美しさに見入って終わるシーン。これは問題解決の一つの方法かとも思います。何事もそうですが、満足するしないとかは、自分の"心の中"にしかない事なのですから…
「アゲイン」執筆時まだ30代の半ばだった楳図かずお先生がここまで深い事を描いているのは、いつもながら感服しますが、いわゆる生老病死は我々全員が味わう事であり向き合っていかなければならない事。さて私は、そして貴方はどのように立ち向かいますか!?

ちなみにこの「アゲイン」最終巻の6巻では、前述の通り「まことちゃん」の一作目が収録されてまして、これは祖父の元太郎が若い状態で登場しているから貴重だと言えますが、楽しい"夕日ヶ丘幼稚園"の運動会の一日が描かれています。
そしてもう1話「アハハのハ」という、同じサンデーで1972年に掲載された短編も収録されています。これがまた、まことちゃんに輪をかけた悪がき、しかも可愛くないゴン太が主人公の作品です。

私のブログでは今まで恐怖漫画ばかりを中心に紹介してきました楳図かずお作品ですが、もうちょっとこの天才の裏の部分、ギャグ漫画も紹介していくとしますか。


み みんないまごろどうしているじゃろ!! 戦っとるじゃろか!?
フクスケ みんながんばれーっ!! わしゃいまにかけつけるぞっ!!



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  1. 2012/11/30(金) 23:59:59|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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