大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(156) 中沢啓治 2 「黒い雨にうたれて」

2012年も偉大な漫画家が何人も亡くなってしまいましたが…最後の最後、先日12月19日に中沢啓治先生の訃報が届いてしまいました。
恐れていた事が…中沢先生は原爆問題に対する伝道師としても最重要人物だったわけですし、やっぱりネームが出来ていると伝えられていた「はだしのゲン 第二部 東京編」も完成出来ませんでしたか。

今夜はその訃報を聞いた当日に、真っ先に読み直した短編集「黒い雨にうたれて」(一光社刊)です。
NAKAZAWA-black-rain1.jpg

後に描く代表作「はだしのゲン」同様、自身の原子爆弾被爆体験を元にして魂で描いたメッセージ色の強すぎる短編集で、収録されている7編は1968年から1971年までに描かれた作品が執筆順に収録されています。

まずは表題作「黒い雨にうたれて」
1968年の漫画パンチ(芳文社刊)で掲載された作品で、原爆を描く事を避けていた中沢啓治先生が母親の死後、考えに考えた上で覚悟を決めて取り組んだ記念碑的な短編。実際にこれ以降はそれまで描いていた少年向けアクション物よりはるかに多くの分量を、戦争や原爆の問題などを扱った作品に向ける事となります。描くはしたものの、内容がヤバいために大手の出版社に断られた本作の原稿を発表する場を与え、その後も継続的に中沢作品を載せて続けた漫画パンチ編集部にも感謝しましょう。

主人公は(じん)という外人専門の殺し屋。悪徳外人をぶっ殺し、日本で我が物顔に振舞う米兵や物見遊山で広島に来ている観光客をぶん殴る…
家族をアメリカに殺され、自身も重大な後遺症を残された中沢啓治先生は、彼の姿を正に神(かみ)として描いていたのではないでしょうか。
そんな神は少年時代に広島で被爆しており、原爆症でもうすぐ死ぬ運命の身でした。そんな彼の復讐劇も終わる日が来ましたが、その彼の意思と角膜が平和ちゃんという盲目の少女に託される…

この後も漫画パンチ掲載の『黒いシリーズ』とも呼ぶべき作品が続きます。
横須賀の夜の街を舞台に、家族を殺され自身も原爆症に侵された復讐を娼婦になって米兵に梅毒を移しまくる事で果たそうとする近藤百合子を描いた「黒い川の流れに」(1968年)、原爆投下を受けて生き地獄の中から生き残った教師と生徒が23年後の再会を果たす「黒い沈黙の果てに」(1968年)、同じく原爆投下された広島の生き地獄から生き残った兄妹、妹の友子は顔面半分ケロイドで醜くされながらパン助として生きる決意をする「黒い鳩の群れに」(1969年)。

残る3作品は、何と少年ジャンプ(集英社刊)で掲載された原爆漫画。そうそう、未だに驚かれる事が多いのですが、あの「はだしのゲン」も少年ジャンプでスタートしたのですからね。
まず「ある日突然に」(1970年)ですが、これで今度は原爆二世にも現れる影響を知らしめました。主人公の山田弘はけんかの天才ながら心優しい少年でしたが、父が被爆したため息子に白血病という影響が出てくる…そんな話。
少年ジャンプ編集長はこの下書きを見た段階で泣き、週刊誌の読み切り作品というのに80ページもの分量にして描いてくれと頼んだと言います。また、発表後は原爆投下を受けた広島の地獄もしっかりと描かれている事でジャンプ読者は凄いショックを受けたそうです。
続く「何かが起きる」(1970年)は、日本一のラーメン屋を目指す加東六助というドジながら底抜けにいい奴が、やはり原爆二世ゆえに白血病にかかる話で、「赤とんぼの歌」(1971年)はトランペット奏者の夢破れた上原昇がチンドン屋のおじさん・宇部と出会うのですが、彼は戦時中若い命を戦場に駆り立てる軍歌の演奏を拒んで非国民とされた音楽家であり、被爆して白血病。そして、赤とんぼの歌にある悲しい思い出が詰まっているのでした…

悪い事をしたわけでもない非戦闘員を大虐殺し、それでも生き残った人々が不安の中からやっと生まれた希望をも打ち砕く。原爆が原因とする病魔は一生消えず、その後遺症は子孫にまで続く…
我々被爆国の人間が絶対に忘れてはならない事が、ここに描いてありますね。日本人が受けたこの体験を次世代へ語り継ぐ、つまり中沢作品を読み続ける事が著者の望みでしょう。重苦しい内容ながら、漫画として物凄く魅力の有るこの絵、そして泣ける話ばかりなので泣き好きの日本人にはエンターテイメント作品としても最高だと思います。
「世界の中心で、愛をさけぶ」(セカチュー)だとか「余命1ヶ月の花嫁」なんてのが流行った時にはバカにしていて、その安易な泣きや難病オンパレード具合に辟易していた私ですが、考えてみれば中沢啓治作品も難病モノと言えるし、私はボロボロ泣きながら読んでしまうのだから…今更ながらちょっとセカチュー読んで泣いた人の気持ちが分かりました。

こちらは2005年に、たまたま書店を覗いてたら復刻されていた新書版の「黒い雨にうたれて」(東京漫画社刊)。
NAKAZAWA-black-rain2.jpgNAKAZAWA-black-rain3.jpg

収録内容がかなり違っていて、読んだ事の無い作品も収録されていたのですぐさま購入した私ですが、まず「黒い雨にうたれて」「黒い川の流れに」「黒い沈黙の果てに」「黒い鳩の群れに」までは順番も同じに収録されています。時代が時代なので『めくら』『気違い』『かたわ』といったセリフは修正されていますが。
それから「黒い蠅の叫びに」(1970年)、「われら永遠に」(1971年)、「黒い土の叫びに」(1972年)、「黒い糸」(1973年)の4作品が追加収録されており、どれも泣けて泣けて仕方ない、そして広島の同胞達が抱える悔しさや、日本人全体としての怨念みたいなものも湧き上がってくるのですが、こちらはまだ現行されている本なので、とにかく読んで欲しい!
とにかくテーマは一貫しているので、どれも名作「はだしのゲン」の原点とも連作とも言える作品ばかりです。


おまえたちは口ではたいそう立派なことぬかして
腹の中はさげすんだ どす黒い腹わたをしていやがるのだ………
第二次大戦中ドイツのナチがユダヤ人を大量虐殺し 人道上許せないとぬかしやがって
その裏でてめえたちヤンキーはナチ以上の大量虐殺をやっているのだ………
この広島と長崎でな
原爆の実験材料に無抵抗の何十万人という人間を殺しやがった
ナチ以上の残虐な人殺し野郎 てめえらの偽善者ぶった面で広島を同情されてたまるか



スポンサーサイト
  1. 2012/12/31(月) 23:59:59|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<旅行・紀行・街(130) 新潟県魚沼市 8 | ホーム | 劇画(155) 畑中純 3 「1970年代記 「まんだら屋の良太」誕生まで」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://mangabruce.blog107.fc2.com/tb.php/1141-75163012
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する