大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(158) 中沢啓治 4 「ユーカリの木の下で」

だれかが死ぬということは
自分を失うことなんだ
なぜなら 自分もすべての人と
結びついているからだ
それゆえに 人を遣って
問わせることは やめよ
誰がために鐘は鳴るかと
鐘は おまえのために
鳴っているのだ

(ジョン・ダン)


今夜は中沢啓治先生の「ユーカリの木の下で」(汐文社刊)。
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アーネスト・ヘミングウェイの長編小説「誰がために鐘は鳴る」のタイトル元となったジョン・ダンの説教を引用して始まるこの作品は、1977年の週刊少年ジャンプ(集英社刊)にて連載されました。

主人公は本堂源二、42歳。母親が亡くなったため二十五年ぶりに、恐ろしくて嫌すぎる思い出(トラウマ)が焼きついている故郷の広島市に帰ってきました。彼は東京で原爆を受けた事がばれると手酷い差別を受けて苦労したため、息子の信二にも被爆した事は隠していました。
しかし、母親を火葬して遺骨を収めようとしたら白い灰だけで骨など残っていませんでした。原爆は母を戦後も苦しめ続けた上、骨まで食いつぶしていた…
このエピソードは中沢啓治先生の実体験であり、代表作「はだしのゲン」でも出てきた有名エピソードですね。とにかくこの母の姿に怒り、源二はピカドンからも生き残っていた思い出のユーカリの木の下で、今まで語らなかった少年時代の思い出を我が子に語る。

ところでこの主人公の名前に同じ『ゲン』が付く事から、もしやこの源二は「はだしのゲン」の中岡元が大人になった姿では!?と思ってしまいます。だから息子の名前もピカドンに殺された弟・進次の名を漢字だけ変えて付けたのでは、と。
現に、ユーカリの木の下で語られる源二の少年時代エピソードがこの作品の大部分を占めるのですが、その少年時代の源二が元と全く同じ顔!まぁ、中身を見ると似て非なる『ゲン』である事が分かりますが。

源二やその家族、いや被爆者全員に地獄を味あわせ続けたアメリカと原子爆弾ですが、今まで源二が何も語ってこなかったために信二は
『原子爆弾はすごい破壊力だから どんなになるのかな カッコイイなアトムの力は』
とか言ってる能天気なバカに育ってますが、自分が被爆二世だと宣告され、それから初めて聴く父親の過去は壮絶すぎるものでした・・・

あ、ちなみに私が所持する「ユーカリの木の下で」は中沢啓治先生の直筆サイン本です!
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さて、時は昭和二十年。本堂源二は国民学校五年生のガキ大将。
あるユーカリの木を物凄く大事にしており、それに悪戯したガキは徹底的に叩きのめしています。その理由は、その木をガダルカナル島で戦死したお父ちゃんが大好きだったからであり、木に空いてる穴の中に写真を入れて基地にしています。
この少年時代の源二は戦中の戦争肯定教育を頭から信じ込んでおり、14歳になり次第少年兵に志願しようと考えています。戦争を恐れて必死で止める母親に対して、何と『お母ちゃんは非国民じゃ』と言い放ち、大日本帝国と正義の皇軍、そしてそれを守る神様の天皇陛下さまを崇拝する軍国少年!

その源二が真実(あくまで中沢啓治史観=自虐史観での)に気付き、大日本帝国の教育による洗脳が解けるまでを描いた、というのが本作品なのです。
町内会の竹ヤリ訓練を指導している桶屋の尾形久造軍曹宅を訪ねると、南京攻略の時は中国兵を215人殺したとか自慢しながら大量の写真を見せるのですが、思わず嘔吐する源二と友達の大木順平
そこには正義の皇軍が女子供を虐殺し、村人から食料を奪って誇らしげにしている尾形軍曹らの姿が写っていました。さらに中国人を見つけると皆捕まえてハリガネで縛り、試し切りで首を落としていっただの、生き埋めにしただの、揚子江の岸壁に並べて何万人も射殺したとか、もっと残忍な殺し方についても嬉しそうに語った上で、忠実に『三光作戦』を実行したのだとか中国全土でもう二千万人近い中国人を殺したとか…大日本帝国軍は残虐でただ悪を成すために動いていたかのような左派系プロパガンダ話が続きます。
(もちろん、大日本帝国軍の功績だとか当時の現状で戦争を避けたらどうなったのか、そういった事は一切描かれず)

さらに順平の父・信造が必死で戦争に抵抗しているため特高警察に連れて行かれ、非道な拷問を受けた末に殺されるに到って源二も目覚めるのでした。
順平が父に習い、度々復唱していた平井鉄太郎のことば、
『言論の自由なき世は
 うばたまの
 心の闇の牢獄とぞ思う
 戦えば 必ず勝つと自惚れて
 いくさを好むバカな軍人
 我が力 かえりみもせで 
 ひたすらに
 強き言葉を民は喜ぶ』
が響いてきます。

そしてラスト数ページ、8月6日に広島市へ原子爆弾が投下されて突如出現したこの世の地獄!!源二は
『うわー 広島中の人間が みんなお化けになっとるのー』
と驚いて地獄の中を走るのですが、皮膚がズル剥けて全身にガラスが突き刺さった人達の行進…「はだしのゲン」で見た事の無い人はいないでしょう、あの恐ろしい光景が描かれるのです。
最後の1ページで現在(1977年)のユーカリの木の下に戻り、大人になった源二は息子の信二に戦争の本当の姿を伝え、しっかり日本の姿を見つめて戦争を喜ぶ奴らと戦っていくよう諭すのでした。おわり。

まぁ、何と言いますか…たまに「はだしのゲン」を左翼漫画だといって嫌う人がいますが、この「ユーカリの木の下で」での左向き具合はそんなもんじゃないですよ。
戦時中は誤った教育で一方向の考えしか認めなかったように描きながら、中沢啓治先生はその逆側の考え方・歴史認識しか認めません。
どの作品でも一貫して武器を持つ事を批判する姿勢がありますよね。私も戦争を憎み平和を愛す者ですが、その平和を守るために現状では確実に武力が必要ですよね。だまされて武器を捨てたりして他国に侵略されたら、それこそ原爆投下以上にとんでもない目に遭うのではないでしょうか。むろんその兵器を利用して間違った道に進む危険性を恐れるのは分かりますが。

私は中沢啓治漫画を幼少時代から愛している者。中沢啓治先生自身の体験による敗戦の深い傷を活かしたリアリティは凄いし、どのコマもとにかく絵が好きだし、メッセージ色が強すぎる真面目なストーリーの中にもユーモアを交えたエンターテイメント作品に仕上げる手法も素晴らしいと思います。
ただ「ユーカリの木の下で」ほど左側からだけ都合よく見た目線で描いた作品は、大人の読者なら自分で判断すればいいと思いますが、子供に見せて自国への誇りを失わせ反日思想に目覚めさせるのはどうかとも思います。当時の少年ジャンプ(掲載誌)読者は当然少年達だけだったので…はっきり言って左翼洗脳の書とも取れるこの作品を読んで、逆に憂国の私ですよ。
もちろんどんな漫画を読むかは自由だし、どうやってもイデオロギーなき作品だとか完全に中立的、みたいな作品を作るのは不可能だろうから難しい問題ですが。

こちらは、中沢啓治 平和マンガ作品集版の「ユーカリの木の下で」(ほるぷ出版刊)。
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『ほるぷ版中沢啓治平和マンガ作品集』の第11巻として上梓された版ですが、この表紙は汐文社版と同じ絵を使いながら別の部分を収めており、主人公(源二)の右背後にもう一人仲間が居た事がハッキリ分かりますが、逆に下部は切れているので勝吉(「はだしのゲン」の進次似)が下に居る奴の顔面に向かって放屁してる部分がカットされており、残念。
こちらは表題作である「ユーカリの木の下で」の他に、短編「チエと段平」も収録されています。

最後に一つ、「ユーカリの木の下で」では「はだしのゲン」と同じように戦時中の朝鮮人も扱われていて、ここではクラスメイトの金田次郎という存在。
それはいいのですが、どちらの作品でも出てくる"囃し歌"で子供の頃からずっとその意味を気になっていた
『朝鮮 朝鮮 ぱかにするな おなじめしくって ぬくいクソだす 日本人ととこちがう クツの先がちょっとちがう』
という歌詞。朝鮮人をからかう歌なのは理解出来ますが、その意味が全然分かりません…


人間がもっている素直な感情を表現できることは いちばん大切なことなんよ
いまの世の中は 戦争をするために人の心まで がんじがらめに押さえつけられて
ほんとうにいやな おそろしいことなんだよ
お母ちゃんは おまえだけは戦争する機械になってほしくないんよ



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  1. 2013/01/18(金) 23:59:59|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

あの…

8986d0qu
あの…
私、すごい人見知りなんです…
だから、こういうサイト使わないと、男の人と知り合えなくて…
こんな女じゃ、興味湧きませんよね…すみません…
http://t4A35501.m5wt.mobi/t4A35501/
  1. 2013/01/27(日) 07:21:54 |
  2. URL |
  3. みほ #zKe5Zt7c
  4. [ 編集]

初めまして。
「ユーカリの木の下で」で検索してきました。
この作品、リアルタイムで読んでました。
当時はどう思っていたのか思い出せませんが、描かれている大虐殺が事実なのかは、はなはだ疑問です。
2百万人殺すのは、日本軍だけでは無理があると思います。それこそ原爆投下を何回もやらなければ。
あと虐殺した市民の首をはねてビラミッドにして、その前で宴会したなど農耕民族で菜食の民族のやることではないでしょう。
これって首狩り族、もしくは肉食の民族のやること。
それに日本人の国民性から言って、こんな残酷話を子供に自慢気に言うものかと。

私は左翼でも右翼でもありません。
かといって非武装を唱える平和バカでもありません。
もし、日本に自衛隊や米軍基地が無ければ、とっくにソ連や北朝鮮に侵略されていたことでしょう。
若い女、少女たちは犯され、男どもは奴隷同然に扱われ、日本民族は根絶やしにされていたかもしれません。
  1. 2017/03/23(木) 00:26:48 |
  2. URL |
  3. わい #WCSj23LI
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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