大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(161) 中沢啓治 7 「はだしのゲン自伝」

中沢啓治の漫画作品をいくつか続けて紹介してきた当ブログですが、今回は活字モノから「はだしのゲン自伝」(教育史料出版会刊)。
NAKAZAWA-hadashino-gen-jiden.jpg

これは中沢啓治先生本人を語る上で間違いなく最重要作品と言えるでしょう。
自伝漫画として短編「おれは見た」、そしてあの「はだしのゲン」がるわけですが、漫画は脚色も加えているあくまでもエンターテイメント作品でしたから。

この「はだしのゲン自伝」は中沢啓治先生自身の生い立ちや家族構成から本当の姿を知る事が出来るのでファンとしては嬉しい一冊ですが、どうしても気になったり驚いたりするのは「はだしのゲン」との比較。
まず家族構成は事実通りで、父親、妊娠中の母親、長男、長女、次男、ときて三男が中沢啓治先生で、四男がいます。後に原爆で殺される者が誰かも同じだし…
父親が思想犯として特高警察に捕まったり、非国民の子だからと泥棒の濡れ衣を着せられた長女(この娘だけ名前が英子と、漫画と全く同じ)が教師達に素っ裸にされて調べられた事なんかも!あんな酷い部分までが事実そのままだったのです。
ツルツルの丸坊主頭になった女の子や、怒りが湧き上がる汚いABCCの奴らの話、他の様々なエピソードも実際に見てきた事を基にして描いている事も改めて分かります。

また、『二度と戦争と原爆はゆるさない人間になるため、人間の元素という意味で、主人公を「元」と名づけた』のだそうです。

飢餓の日々から、いよいよピカドンが投下されて、読んでいて気持ち悪くなるほど生々しい大量虐殺の風景描写が始まります。お化けの行進に、敗戦で豹変した日本人同士の醜い争い、それらも事細かに語られていくのです。
当然思想は左傾化している著者ですので文章でも天皇批判は繰り返されますが、東京オリンピック時に外国人記者が書いたという小さな記事、
『貴賓席で世界の三大虐殺人、天皇裕仁、ヒロヒトラーが臆面もなく世界の選手に向かって満足そうに手を振っているとは何事だ!その姿を感涙して喜ぶ日本人は、なんとバカな国民だ!』
なんて無知が招いたトンデモ文を受けて『まったく、そのとおりだ』と同感している中沢啓治先生…(汗)。さらに『糞たれ天公』呼ばわりしている所もあります。

さて、手塚治虫先生の「新宝島」に出会った中沢先生がいかに手塚作品を愛したか、それから看板描きをしながら絵の修行をし、上京して漫画家のアシスタントへ。広島で被爆している事で差別され、そして…
と、この本では14年かけて「はだしのゲン」を描き終える所までが語られるのですが、出版が難しかった内容ながらも少年ジャンプ編集長の長野規氏などいくつかの重要な出会いがあって、ゲンは単行本の形で世に出たのですね。これが単行本化されていなければ、原爆がどれほどのものか未だにリアルには知られてなかったかもしれないし、すると核兵器の残酷さも舐められていたかもしれません。

メチャクチャ面白い名作「はだしのゲン」はほとんど実録みたいな作品である事が分かったと思いますが、気になる実際の体験と漫画での差異部分。
これもけっこうあって、細かい所では優しい朝鮮人の朴さんは実在して名前もそのままですが、その家族の存在も明らかにされます。よく遊んだチュン・チュナという同世代の子だとか、奥さんやおじいさんもいたようですね。
原爆が投下された時の中沢啓治先生(=ゲン)の歳も微妙に違うし、漫画には出てこなかった叔父さんや叔母さんの存在もあります。
8月6日の原爆投下直後に逃げ惑いながら、ショックで産気付いた母が地獄の真ん中で赤子を出産したのは何と事実ですが、取り出したのは中沢先生でなく自然に出たようです。あ、この赤子の名前も・友子も実際と同じなんですね。ご存知の通りこの後、少し生きて死ぬ事になりますが。

あと原爆で潰された家の下敷きになって焼き殺された父、姉、弟の死に際に立ち会ったのは母だけだし、その母は実際は意外と長生きしてるし。
ゲンは丸々ツルツルのハゲ頭になりましたが、実際は後頭部の首筋がヤケドしてはげただけだったり、長兄は母が倒れた時に面倒を見るのを嫌がって『兄弟は他人のはじまり』という言葉を実感したり。漫画ではお互いを思いやる仲の良い兄弟だったので、これはちょっとショック。
あとは近藤隆太が、というか原爆孤児仲間達は存在しないのか全然出てきませんね。
そんなこんなで「はだしのゲン」で描かれなかった部分を補完して読める、歴史的資料も高くて貴重な本でした。

同じく活字本で私が初めて読んだのはこちら、岩波ブックレットNO.7の薄い本で「はだしのゲンはピカドンを忘れない」だったのですが、
NAKAZAWA-hadashino-gen-will-never-forget-picadon.jpg
他にも数種類の自伝・手記が出ています。
それらも読んできましたが内容は重複するので、どれか一冊を選ぶならやはり分量も多く挿絵が描き下ろしである今回の「はだしのゲン自伝」が良いかもしれませんね。


私は、この江波の町で、人間の正体を見た。日本人の正体を見た。
「民主主義」「愛」「平和」「正義」「弱い人を助け合いましょう」「めぐまれない人に愛の手を……」、なんと空虚で空々しい言葉と標語であろうか。人間がそんなに綺麗なことを言える動物か。日本人は、弱い者に対しては容赦なく威張り、いじめ抜く本性をもっている事を知った。一皮捲れば醜い本性を現し、襲いかかってくるのだ。とくに戦争という状況が人間の醜さに油を注ぎ、一気に燃え上がって広がるのである。その意味で、人間を獣以下に落とし入れる戦争を起こした奴らを、私は許せないと思う。



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  1. 2013/02/02(土) 23:11:07|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

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