大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

手塚治虫(38) 「カノン」

手塚治虫作品より、「カノン」(大都社刊)。
TEZUKA-canon.jpg

これも例によって大都社の本なので、大人向け手塚治虫劇画を楽しめる一冊。1972年から1974年までに描かれた作品6編を収録した短編集で、この単行本は1989年に上梓されました。

「カノン」は、1974年に漫画アクション(双葉社刊)で掲載された作品。
タイトルのカノンは主人公・加納の少年時代のあだ名で、彼は30年ぶりのクラス会のためもう廃校になっている"西ノ沢小学校"へ向かいます。そこではまず年老いたかつての校長先生が出迎えてくれますが、他は来るはずのない!カノン以外の全員があの戦争で死んだのだから…しかし同級生達、初恋の相手である憧れの西田先生が30年前の姿のままで出てくるのでした。
国際法も関係無しに、女子供をわざわざ狙い撃ちしているアメリカ軍の鬼の所業が描かれますが、彼らはここでカノン以外を肉片にして殺した上に町を焼き払い、さらに都市は違えど原爆をやはり比戦闘民に向けて投下するわけですが、戦争漫画じゃないのでそこまで細かく描いてはいません。
手塚先生自身の戦争経験を元にして描いている反戦漫画でもあるとは思いますが、主眼はそこではなくカノンの思い出です。愛する人々が次々と目の前で殺されていく悪夢の思い出を淡々と、こんな残酷な世界もノスタルジックに…泣けます。

ちなみにこの単行本は表紙にカノンのとぼけた顔が使われているので内容が想像出来ないかもしれませんが、ほとんどが暗い結末を迎える重苦しい劇画ばかり。もちろんハッピーエンドでない事に作者が意図した狙いやメッセージがあり、私は10代半ばから後半にこれらの作品を熱心に読んでいたので個人的な思い入れは尽きません。

「ペーター・キュルテンの記録」は、1973年に漫画サンデー(実業之日本社刊)で掲載された作品。
チャールズ・マンソン、エド・ゲイン、ジェフェリー・ダーマー、ジョン・ウェイン・ゲイシー…等々、アメリカ合衆国にはそこらのアカデミー賞俳優なんかよりはるかに有名な殺人者達がゴロゴロいますが、ドイツ人で有名なの連続殺人犯といえば『デュッセルドルフの吸血鬼』こと、ペーター・キュルテンでしょう。彼の他にも同じくフリッツ・ラング監督の映画「M」の着想元となったフリッツ・ハールマン、ゲオルグ・カール・グロスマン等も有名ですが、知名度ではやはりキュルテン。
そのペーター・キュルテンのデュッセルドルフにおける凶行を描いたノンフィクションが本作で、妻を愛し熱心な労働組合員としても働いていたはずの彼の裏の顔は裁判の場で暴かれますが、近親相姦の家庭で育ち獣姦を覚えて12歳で初の殺人、それからさらに…彼の壮絶な生き方は劇画の題材にふさわしいとも言えますが、あえてこれを手塚治虫先生が描いた事には、どんな意味があるのでしょうか。
少女を殺し屍姦までしといて、社会への復讐だのブルジョア階級とか支配階級、法律への抵抗だとか、不幸な者の代表として社会に制裁を加えている、という彼の真意は!?

「イエロー・ダスト」は、1972年にヤングコミック(少年画報社刊)で掲載された作品。
沖縄の瑞慶覧キャンプでアメリカ人児童を人質にして倉庫に立てこもったのは、ベトナムへ軍労務者として行った経験を持つ日本人3人。ベトナムの地獄を見て本能がおかしくなっている彼らは児童をも平気で殺していますが、食いつないでいる倉庫の食料の中には、厭戦気分になった兵隊を戦場に狩り出すために使用されていた十二号食が含まれていた…
これには人間の脳を一時的に狂わせて闘争心をむき出しにする麻薬が含まれていたのですが、その結果は!?サスペンス的な要素を押し出しながら、これも遠まわしに反戦を訴えている作品なのだと思います。

「悪魔の開幕」は、1973年に増刊ヤングコミック(少年画報社刊)で掲載された作品。
戒厳令が敷かれた日本の中で、レジスタンス活動をする電気技師の岡重明は活動をするきっかけとなった思想家に丹波首相の暗殺を依頼され、練りに練った計画で実行に移すのですが、その裏にはさらに黒い陰謀が渦巻いていた…
政治スリラー物の名作。

「ラインの館にて」は、1972年に女性自身(光文社刊)で掲載された作品。
商社の海外出張員である夫にヨーロッパまで連れて来てもらった妻は、デュッセルドルフで夫の浮気現場を目撃し、さらに車にはねられてしまいます。どん底に生きる妻をライン川沿いの古城に一人で住むラトウッズ夫人が助けてくれるのですが、その裏にはある陰謀が…しっかり掲載誌の読者層に合わせたサスペンスになっています。

「鉄の旋律」は、1974年に増刊ヤングコミックで掲載された作品。これがこの単行本の半分ほどの分量を使っている中篇で、大傑作ですね。
壇タクヤは、妹の亜理沙と親友でありイタリアンマフィア・アルバーニ家の御曹司・エディの結婚を認めたために、ファミリーの一員となってしまいました。
その際に三つの掟を誓わされるのですが、それは
『一族の中であらそいを起こさぬこと』『一族を裏切らぬこと』『一族の行動にさからわず指令に従うこと』
という内容。しかしタクヤはニューヨークで殺人事件を目撃し、善意からFBIに通報したら…それが兄弟ファミリーの仕業だったという事で、掟破りとみなされてリンチされ、さらに両腕を付け根から切られてしまいました。
タクヤは両腕を失くしながらも、助けないどころかリンチに加わったエディへの復讐に燃え、超心理学のマッキントッシュ先生の元で長く苦しい訓練を受けると、ついに念力を物にして思うままに動かせる義手を得るのでした。
これからが復讐の始まりですが、この義手は睡眠時などにも深層心理で勝手に動いてタクヤの考える以上の復讐、殺人をしてしまう。そんな設定を加えて物語に深みを加えています。そして、クライマックスへ…

ファミリーの描き方はフランシス・フォード・コッポラ監督の映画「ゴッドファーザー」の影響を受けていると思いますが、それをタイトルにも使った反戦漫画の短編「ゴッドファーザーの息子」とはあまりにも違うシリアスなサスペンス作品に仕上がりました。
当時の超能力、ユリ・ゲラーブームやオーラ(霊の光)についても言及されています。


ああしたのは おれの意思じゃない おれの一族の鉄のおきてなんだ
おれは ほんとは弱い人間だ おれたちひとりひとりは みんな弱い人間なんだ
だからこそ一族の結束が固いんだ おきてを犯したら許されないんだ



スポンサーサイト
  1. 2013/04/16(火) 23:00:00|
  2. 手塚治虫
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<手塚治虫(39) 「一輝まんだら」 | ホーム | 手塚治虫(37) 「鳥人大系」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://mangabruce.blog107.fc2.com/tb.php/1186-8a4e61c2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する