大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(170) 平田弘史 10 「薩摩義士伝」

平田弘史作品より、「薩摩義士伝」(日本文芸社刊)。
HIRATA-satsumagisiden1-2.jpg

連載は1977年の増刊ヤングコミック(少年画報社刊)に始まり、同誌が休刊した1979年からは週刊漫画ゴラク(日本文芸社刊)に移って1982年まで掲載された作品。平田弘史先生の歴史における後期の代表作であり、単行本はゴラクコミックスで全6巻です。

物語の舞台は宝暦3年(1753年)、薩摩の国…
冒頭『ひえもんとり』という行事を行う薩摩の人々を、まずは見よとばかりにほぼセリフ無しで30ページ弱ほど描かれます。そのルールは、鎧甲冑で騎馬に乗る者達が東西二軍に別れ、馬に乗せて放たれた死罪人の『生き肝』を争奪するもの。
槍刀を持った彼らが群がり、殺したばかりの死体を引きずり回して奪い合ううちに体は二つに分かれ、さらに細かく引きちぎられていって最後に割いた腹から内臓が!という壮絶でグロテスクすぎる光景が展開されるのです。

さて次なる獲物となる死罪人は斯波左近という豪傑。
彼は薩摩武士の中でも非差別側の郷士(下級武士)であり、身分の高い城下士(上級武士)とのやむを得ぬ対立で罪人となったのですが、このひえもん(生臭いもの)とりという死のゲームを勝って生き残り、自由を得るのです。
その時に左近と一騎打ちして負けた権堂という城下士はその場で自殺し、その子である十三郎は仇を討つ事を誓うのですが、彼自身がアウトサイダー的な武士であり父に恨みを持っていた…

斯波左近と権堂十三郎、激しい生き方をするこの二人を中心に物語は進んでゆく!
…となるのが普通のパターンでしょうが、何と主役扱いは1巻のみ。この後で起こるもっと重大な薩摩の危機を迎えて、彼らほどの個性も脇役へ移ってしまいました。では誰が主役になるかといえば、この作品自体が独立した短編の連作と言える作りになっているので、それぞれの話で主役も違うのです。

全6巻の単行本それぞれ、最初にカラー口絵が付いているのですが、2巻は大怪我を負った武士が切腹した腹から自分の手で腸を引きずり出している壮絶絵で…
この2巻から描かれる薩摩最大の危機とは、江戸幕府から薩摩藩に下った木曽三川の治水工事命令。江戸時代の薩摩の貧しさもリアルに描かれていましたが、そこへきて美濃国(岐阜県)という他国のために膨大な費用をかけて工事せよというのだから、実質は幕府による外様大名の国・薩摩潰し策。犠牲者も多く出るし。
関ヶ原の戦い以降は徳川家の軍門に下ったわけですが、徳川は代々決して薩摩に気を許しておらず、しかも実力ある彼らを直接武力で強引に征伐するのは無理と知り、わざと甘くする柔和作戦で武士達を軟弱にしていたのですね。その他の手口も使って薩摩が力を持てない様に調節し、監視していたのですが(近代史でのアメリカと日本の関係そっくりですよね)、時代は巡ってついに弾圧政策に切り替わった、と。

HIRATA-satsumagisiden3-4.jpg

合戦すべきと主張する者も多く割れる薩摩藩内の重鎮達による会議、しかし結局は命令に従う決意をする武士たち。
不満分子の出現、美濃へ向かう道中、到着してからも…常に問題の連続。薩摩藩の到着を待つ美濃側の人々も描かれるし、工事が始まっても様々な場所で様々な立場の人にドラマがあるので、それを一つ一つ丁寧に描写した壮大な大河ドラマなんですね。
そのどれも面白い話に仕上げてますが、背景にある土風から描き起しているそれが丁寧すぎたのか、最後まで描き切るに至らぬ事に…それはまた、最後に説明しましょう。

木曽の三大河川が及ぼす水害については、同じく平田弘史先生の名作短編「大垣藩治水魂」でも描かれていました。
必ず時代考証をする平田先生の事、この「薩摩義士伝」も実話に基づいているのです。よって現在でも遺跡が残っているし、岐阜の人々は『薩摩様』と呼んで感謝の心を持ち続けているそうですよ。

さらにさらに、シリアスなこの話の中にも絶妙なタイミングでギャグが散りばめられていて、それもたまらない。

HIRATA-satsumagisiden5-6.jpg

どれもが語りたい重要なエピソードと言えますが、最終巻の6巻では女の問題がメインです。
幕府の陰謀で薩摩藩は連続強姦魔の汚名を着せられ、薩摩藩内部でも疑心暗鬼で女好きの男が肉棒を切り落とされたり…
それから強制的に所謂慰安所みたいなのを設置させられて女郎を100人雇い入れ、薩摩藩はさらなる財政難に陥るのです。そこで登場した女郎の一人・ふさという豪女が聖母的な感じで素晴らしく、彼女メインのエピソードが続いたまま「薩摩義士伝」の幕も閉じました。

この難工事は成し遂げられた所まで描かれる事なく、未完のまま連載終了するのです。
6巻末の平田弘史先生自身による挨拶にもあるように、本来はこのタイトルでやるなら薩摩側総奉行の家老・平田靱負を立役者にすべき所でしたが、元来が弱者側からの視点で描き続けてきた著者ゆえにそうならなかった。
ただし前に紹介した「無名の人々 異色列伝」のあとがきで
『長い間、弱者ばかりに味方し、強者を敵、とする考えは片寄った考え方である事に気付いたのが40歳位の頃であった』
と書いていて、作品の目標や方向が分からなくなって創作活動が止まったのだそうです。ちょうど「薩摩義士伝」連載開始の年こそが平田先生40歳。上からの命令で使われる者達ばかりを描きながら葛藤し、筆が止まってしまったのでしょうか。

「薩摩義士伝」の挨拶では、まだまだ描き足りない、充電期間をおいて本当に終了するまで描き続けたい旨も宣言しているし、『第一部の終了』としか言っていないのです。よってこれは未完作品ではなく、現在は中断しているだけで連載中の作品である!そう願いたい!!
絵の凄さは今さら語るまでもありませんが、名前なえ与えられないキャラクターにも実在感や魅力があり、主君には絶対服従の武士という人達・江戸時代の話を使って現在にも通じる人生論、日本人論としても描かれています。


騒げ 桜島の親父殿
生きて戻ろと死んだも同じ おどんら芋郷士にゃ夢はない
何の夢みて 生きろかや
まして おどんは
まして おどんは仲間の命 この手にかけた因業者………
…因業者



スポンサーサイト
  1. 2013/08/13(火) 23:00:00|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<劇画(171) 平田弘史 11 「新首代引受人」 | ホーム | 旅行・紀行・街(149) 東京都千代田区 4>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://mangabruce.blog107.fc2.com/tb.php/1235-7e82f3db
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する