大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

永井豪 (43) 「永井豪SF傑作集」

今夜の永井豪作品は、「永井豪SF傑作集」(講談社刊)。
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同じ講談社コミックス(KC)からは「デビルマン」を始め、「手天童子」「凄ノ王」に…代表作となる名作を数多く上梓していますが、これも短編集ながらそれらに勝るとも劣らないほど好きな本。

全8巻の単行本にSF物の短編ばかりを集めた「永井豪SF傑作集」ですが、そもそも永井豪先生は初期の頃からSF作家達に注目されており、あの筒井康隆先生を会長として『永井豪ファンクラブ』まで設立された事が知られています。それに様々なジャンルの作品を描いてきましたが、やはり現在にも通じる名作はSFモノに多いでしょうか。単に宇宙が舞台とかでSFと呼んでいるのではなく、だいたい人間とは何か、といったテーマが絡んでいますね。

このSF傑作集を順に見ていくと…
第1巻の1話目が1971年の「ススムちゃん大ショック」
ある日突然、町中で大人達が子供達を残酷に、そして無感情に殺し始める話。
親が大金をかけて苦労してまで子供を育てる『本能』という不確かな糸が切れて、もはや子供を育てる理由はなくなった、というわけです。それでもママを信じたいススムは、隠れ場所から出て家へ帰ると、さてどうなるか。
SFというより恐怖短編ですが、わずか32ページの作品で見事に恐怖を描いたこの作品のエピソードは、「デビルマン」にも使われています。そちらでは両親がデーモン化した、という理由でしたが…親が子供を食べてました。

続いて1973年の「霧の扉」
これは3話オムニバスでして、雪山で遭難した二人の若者がドッペルゲンガーに出会う「ふりむいた私」。子孫に囲まれて幸せな老人が還暦を迎えた日…枕元に赤いチャンチャンコならぬドス黒いチャンチャンコが置かれているのを発見し、そのチャンチャンコが赤く染まる時を描く「赤いチャンチャンコ」。夢で何者かに襲われると、そこで切られた通りに現実の世界でも傷付いている恐怖を描いた「鎌」(ちなみにこれは最後に映画「エルム街の悪夢」に先駆ける事10年以上前)。

1971年の「シャルケン画伯」は原作付きで、「吸血鬼カーミラ」の怪奇小説家シェルダン・レ・ファニュ(Joseph Sheridan Le Fanu)が書いた短編をコミカライズした作品。
ゴドフリ・シャルケンという実在した画家の実話を基にしているらしいのですが、師匠の娘と熱烈な恋に落ちた若きシャルケンが、金に目がくらんだ師匠のせいで恋人をこの世ならざる存在に連れ去られる…

1971年の「くずれる」は、サンコミ版の「ズバ蛮」3巻末に収録されていたのでその時に少し触れていましたが、他者から自分が自分で無いと執拗に否定される事によって起こるアイデンティティの崩壊を描いた傑作。

1971年の「野牛のさすらう国にて」 は、SF、ホラー小説作家のロバート・ブロックが書いた同名の短編をコミカライズした作品。
この原作者R・ブロックは映画「サイコ」の原作者でもあるのでかなり有名ですが、別名のコリアー・ヤング名義でテレビドラマ「鬼警部アイアンサイド」を企画し、原作も提供している方。アイアンサイドといえば無名時代のブルース・リーが1話だけゲスト出演している事で我々ファンの間では神格化されているドラマですよ!
永井豪先生のコミカライズ版も力作で、『原始人こそ人類のもっとも進歩した姿なのだ』として痛烈な文明批判を見せるのでした。

第2巻はまず、この巻の半分を使ったページ数で…1970年の「鬼 2889年の反乱」
永井豪史上初のシリアスなSF物として知られるこの作品、登場人物の『目』が佐藤まさあき先生や園田光慶先生を意識させる画風です。
人類の科学的進歩が極限まで達した29世紀の未来、人類は無機質からの合成による合成人間を作り出し、それを人間と見分けるために角を与えて鬼、と呼んでいるのですが、その鬼と人間との愛憎入り乱れた物語。ある事から人間に強い恨みを抱いたバルマーが、奴隷として虐待され続けた鬼達を率いて反乱を起こすのですが、ついに仇である人間を殺す時には、鬼から人間に対して『死ねっ ばけもの~~っ』と叫んでいるのが印象深い。
後の「デビルマン」でも人間こそが真の悪魔だという逆転の発想で描いて歴史に名を刻みましたが、その元ネタといえるかもしれません。永井豪作品で鬼といえば「凄ノ王」も思い出すでしょうが、初めに「鬼 2889年の反乱」ありき、という事です。ラストのもう一つの反乱、オチまで素晴らしい。

1971年の「白い世界の怪物」は、リアル・男鹿のナマハゲ!

1970年の「吸血鬼狩り」は、若者達が雪山の小屋という閉鎖空間を舞台に姿の見えない吸血鬼探しをするサスペンス。

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第3巻は、1974年に生まれた泣きの名作…「真夜中の戦士」で幕を開けます。
火鳥ジュンが目をさますと、周りにはそれぞれ別の武器を持った10人の異形の人達と9台のロボットがいて、皆が自分が誰で何故ここにいるのか知らない。そこが戦場らしく、『FIGHT』とだけ書かれた文書があって。
戦う意味も分からないからこそ、戦う事でその戦争の意味を知ろうと決意した彼らは、いよいよ戦闘開始!正体不明の敵陣も同じ陣形・能力。あ、ここで陣形を見るとこれは『将棋』を模した戦いである事に気付くのですが、ジュンは位置からして金将。
戦いの最中でジュンが女戦士を親しくなり、対話の中で自分達も初めから記憶など無い生まれたばかりのロボットなのではないか、という不安を感じます。吹っ飛び、殺されていく仲間達、敵方…そしてやられた女戦士の体からは内臓ではなく機械部分が、赤い血ではなくドス黒いガソリンや機械油が飛び散った!
敵将を討ち取ったジュンが、ついに知った戦いの真実、そして自分という存在とは?
印象的なシーンも多いこの名作は、後に長編版が描かれる事となります。

1977年の「ファンタじい」は、孫にヨタ話ばかりしている爺さんの冒険話が現実の物となる…ギャグ漫画ですが、孫の名前は蛮子。顔からしても、「おいら女蛮」の主人公・女蛮子の幼少時代と見て間違いないでしょう。

1977年の「超人間現わる」は、コンピューターに管理された未来都市で、突如現れた超人間(ヒューパーと読みます)が敵ロボットを倒しまくる大活躍。タネをばらしちゃえば彼はタイムマシンで過去から現れたただの人なのですが、人間の肉体が弱体化された未来においては超人間である、と。

1973年の「ドリーマン」は、虐げられて怒りを溜め込んだ男・冷田奴の前に現れたのは自分の『怒り』の潜在意識、怒利夢男(ドリムマン)。こいつが奴の敵を倒してくれるのだが!?

第4巻はまず1978年の「夜に来た鬼」と、また鬼モノです。
ある日UFOに乗って地球へ襲来した宇宙人世界中の人類から日本人だけを見つけて狩り始めます。その力は圧倒的で、最後の二人となった日本人の前で初めて宇宙人は言います…日本人の歴史を調べ過去に日本人が犯した罪を発見したのだと!仲間を殺し宝を奪うという残虐な罪を犯した日本人の名は!桃太郎!
現れた彼らの姿は角の生えた鬼そのもの、というわけで作り話を基にして虐殺をしていた事が判明するのですが、だからこそ怖いですよね。
現実、そして現在を生きる我々日本人も捏造された虚偽の歴史を押し付けられる事が多いじゃないですか、それに対する早すぎた教訓にもなりますね。漫☆画太郎先生の「つっぱり桃太郎」は、この作品に対する25年後の回答でしょうか。

1968年の「ウスラセブン」は、円谷プロダクションの「ウルトラセブン」をギャグ漫画でパロディした物。「ハレンチ学園」を描き始めたくらいの時期に描かれた、超初期作品ですね。

1978年の「スペース騎士」は、スペースオペラ。ちょっとまともすぎるヒロイック・ファンタジーですが、一応ラストはオチがあります。

1971年の「大仮面」も、円谷プロの「ウルトラマン」パロディですが、正体は教育ママに監視される小学生。

1970年の「快傑ウルトラ=スーパー=デラックスマン」は、弱虫でいじめられっこの少年・須羽うる太が遠くの星に生きたいと願ったら、本当にワープして別の星へ飛ばされ、しかもそこは元素が違うので地球では弱虫のうる太も超人になれる。よって、悪者を倒して美しい姫にモテる…
全くつながりのない話ですが藤子不二雄(藤子・F・不二雄)先生のSF短編でも「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」というのがありますね。しかもそちらの方が有名だと思いますが、永井豪作品の方が先に描かれています。

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第5巻は、1978年の「宇宙怪物園」からスタート。
動物園のように宇宙人を見世物にしている宇宙怪物園…そこにいる怪物達はグラウス星から捕獲してきているとの事ですが、その実情は騙されやすい地球人の若者を手術して怪物に作り上げたインチキな物でした。他の星まで連れてかれた若者達に逃げ場は無く、醜い姿に改造されて一生を檻の中で過ごす事になるのです。うーん、怖いというか、音味悪い作品。

1970年の「キャプテンパースト」は、どんな簡単な事件も迷宮入りにしてしまう老人の活躍を描いたギャグ漫画。キャプテン・フューチャー(未来)のなれのはてで、キャプテンパースト(過去)という事らしいです。

1977年の「電送人バルバー」は、5巻の4分の3ほどのページ数を使っており、この傑作集全部の中でも一番長い作品ですね。
主人公は4人姉弟の末っ子で元気な小学生・火花英児。東京から田舎の小学校に転校してきた所から、彼の冒険が始まります。登ってはいけないと釘を刺されていた天魔山に、クラスの若草ポニーと平賀源を連れてあっさり入山。すると数千年の時を眠っていた宇宙船パンドーラの力を得た英児は、超兵器バルーと合体して電送人バルバーとなりました!それから邪悪なデモス星人と戦って、エンゼル星のオーロラ姫を救うべく活躍するのです。

第6巻は、1979年の「都市M1」から。悲しい哀しい恋を描いたラブストーリーです。
人口爆発を抑えるためにある制約を設けられた未来の国の話で、とはいえ西暦2007年が舞台なのですね。今となっては過ぎた年がこんなになっている設定を描けるほど、1970年代を生きる人々には30年後とかって劇的に世界が変わっている物だと想像したのでしょう。

1978年の「ガリキュラ ろぼちゃー ド・キーン」は、「ハレンチ学園」のスピンオフ作品という事で価値が高い…のかな…

1978年の「鏡の中の宇宙」は、セリフほとんど無しでアート度高く女の心を描いた作品。

1971年の「屋台王」
1978年の「第三次中華大戦」は、どちらも食べ物を扱ったギャグ漫画。どちらにも出てくるヤキトリ魔人てのが、バカすぎて笑えますよ。

1978年の「魔人戦車バルドス」は未来の戦記モノで、頭脳戦も含めた戦闘の楽しみ、そして兵士の悲しみも描かれます。

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第7巻は、表紙に「デビルマン」の登場キャラを使ってカラフルに描かれていてカッコいいですね。
中身も、「新デビルマン ウィーンの晩い春」で幕を開けます。全部で6話が描かれた「新デビルマン」の1話だけを、何故かここに収録しているので中途半端な感じはしますが。

1973年の「白雪姫」は、もちろんあの有名なお話のパロディですが…惜しみなく全裸のヌードを披露してくれる分だけ、永井豪版はポイント高いです。

1978年の「スペオペ宙学 インベーダー作戦」は、もちろんあの「スペオペ宙学」の1エピソード。
 
1968年の「豪ちゃんのふぁんたじい・わらうどバン」は、超初期作品ですが…こんな時から師匠である石森章太郎(石ノ森章太郎)先生の作品をパロディに!そう、元ネタは幻想的な傑作「章太郎のファンタジーワールド ジュン」です。

1979年の「00学園学期末スパイ大作戦」は、007シリーズのパロディをしつつ冒険ありギャグありエッチありで楽しい作品。

最終巻になる第8巻は、まず1979年の「UFOから来た少年ムー」
このタイトルであり、初出の掲載紙がオカルト情報誌・ムー(学研パブリッシング)の創刊号!
3話構成で、『ムー』としか言葉を発さない宇宙人の少年が怒ると不思議な力を発揮するのですが、最後には大きくなってレイプされた直後の女性と性交したらさらなる能力が目覚め、超神ラ・ムーとなる…不思議な作品。

1980年の「蟲(ムシ)」は、カフカ「変身」の逆パターンか…ある朝目覚めたら、自分以外の全ての人がムシになっていたのです。ムシがエサ(給食)を喰うシーンとかけっこうグロいのですが、ここでのオチの付け方も秀逸です。

1981年の「DON!」は、気弱で虐げられし少年がついに怒りを爆発させ、自分の指を好きな拳銃にしてクラスの奴らを撃ちまくる…

最後が、1979年の「思い出のK君」
サブタイトルに『永井豪 自叙伝』とも付いているので、よほど重要な作品だからラストに持ってきたのでしょうか…いやいや、ふざけた話です。
自叙伝の形式なので永井豪本人が少年時代に体験した事として描かれるのですが、それがそのまま「マジンガーZ」になっており、つまりあれは全て実話だったと持って行くのです。マジンガーの名場面がセルフパロディーされまくる!

どうでもいい作品も含んだ『SF傑作集』でしたが、永井豪作品を語る上で外せない重要な作品がいくつもあるのに、短編なので有名作に比べるとあまり多くの方には読まれていないのが勿体無いです。


気ちがいの時代だ
人々はつぎつぎと新しい刺激をもとめてくるっていく
気ちがいの時代だよ
鬼はきみたちではない 人間の心こそ鬼なのだ!
血にくるった鬼だよ!



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  1. 2013/09/23(月) 23:59:55|
  2. 永井豪
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  3. 通りすがりの名無し@もる~ん #-
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永井豪(43)「永井豪SF傑作集」

v-10v-115v-218v-442SF傑作集8巻黄金甲冑のお姉さま男前ですねおはようございます
日本ヘラルドにて読んでましたよv-423それではさようなら
  1. 2014/05/15(木) 05:35:08 |
  2. URL |
  3. 名無しさん #lIIhmX1g
  4. [ 編集]

「夜に来た鬼」
桃太郎は鬼が捏造した物語ではありません。
むしろ人間による「鬼=邪悪」という捏造が、
本来無関係だった異星人を鬼に変える。
「鬼 2889年の反乱」の問い掛けが、ここでも生きてます。
ご再読を。
  1. 2014/10/03(金) 10:04:50 |
  2. URL |
  3. mazinger #oNnex6fQ
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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