大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

楳図かずお(44) 「イアラ」

その時、わたしはやっとイアラの意味がわかった…


今夜は楳図かずお先生の「イアラ」(小学館刊)。
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青年誌のビッグコミックにて1970年に連載された中編…2冊分に満たない表題作を中心に、その他1968年から1973年までに描かれた短編を集めて編んだ単行本は、ゴールデンコミックスで全6巻。
最初の単行本化であるこの版は、正確には『イアラ 異色短編傑作選』のタイトルが付いています。
初出誌はビッグコミック以外のもあるし、時期もこれだけ開きがあるというのに統合性が取れているのは、どれも大人向け作品であり、人間の暗部を中心とした内面を鋭く描く文学のような作品ばかりだからでしょうか。いや、突然絵柄も変えたナンセンスギャグ作品が挟まれていたりしますが、それも清涼剤の役割を果たしてて良いですね。

楳図かずお作品の中でも文学色が最も強い部類の作品であり、もう痺れるくらいの名作揃いなのですが、知名度は決して高い方ではないですよね。これは、単行本が例えばサンデーコミックス(講談社刊)などのようになかなか絶版にせず刷を重ねるタイプではなく、ゴールデンコミックスで出してしまったためにすぐ絶版になったのが要因でしょうか。小学館文庫や豪華愛蔵版なども出ていますが、イマイチ出回りが少ないですよね。それぞれ構成も変わるし!
この変則的な単行本化のおかげで「イアラ」本編と、その他の関係ない短編もイアラと呼ぶようになってややこしいのも正直な所。
単純に小難しいとも言える内容が敬遠されて、これ以前の少女向けホラーだとか、後の少年向けギャグのようには大衆ウケしなかっただけかもしれませんが。ただ一部の読者には絶大な支持を得ている作品であり、私も今作を愛してやまない一人。

内容を見てみると、まず1巻と2巻で「イアラ」本編が収録されています。他に短編もありますが。
それがもう、恐らくは楳図かずお作品一の壮大なロマン!全7章からなり、地球の誕生から終末までを描いたスケールのでかさですよ。
第1話は主人公の土麻呂が若者になった聖武天皇の時代、奈良時代中期。土麻呂は愛する小菜女(さなめ)と離れて大仏造建に従事する事となるのですが…
大仏を完成させるまでの過程で小菜女は鋳物とともに胎内に入れられて、大仏の魂にされてしまいました。つまりは殺されたのですね、それも公麻呂の目の前で!
小菜女は死ぬ直前にイアラーと叫んだのではなかったか、そう思った土麻呂は2話目以降歳を取る(老いる)のを止め、時間を超越して『イアラ』という言葉の意味と共に転生しているはずの小菜女を探す旅を続けるのです。
土麻呂は過去に千利休や松尾芭蕉などの実在人物とも関わるし、それから現在ではついに自分を認知した女と出会い、そして未来へと彷徨います。数々の時代で出会う小菜女と思わしき女は、ただの貴族だったり農民だったり高麗だったりこじきだったり…そして驚きの結末は!?

転生や長い時間を描いている事と、この哲学的な内容から手塚治虫先生の漫画「火の鳥」だとか、三島由紀夫の小説「豊饒の海」などを思い出す方も多いと思うし、作者もそこら辺を意識したのではと思いますが、その点では失敗しているのかな。正直楳図かずお先生は壮大なスケール感を描くのが得意な作風ではなく、むしろ小さな小さな世界…人間の愛憎とか執念とか、心理の内部を洞察するのが持ち味だとこの「イアラ」でも再確認させられますから。もちろん個人的な好みでどちらに軍配が上がるかといえば「イアラ」です。
そもそもスケールの大きい話なんて、そこらのアメコミとかジャンプの漫画でも描かれてますからね。

他に収録されている短編は、
1巻に「ねむり」「ブラックエンゼル」「雪の夜の童話」「指」
2巻に「指輪」「ろうそく」「図明氏のユーモア」「くさり」
です。

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3巻に「ほくろ」「目」「きずな」「洞」「いろ」「衣」「図明氏の生活」「夏の終わり」
4巻に「傷」「耳」「宿」「雪の人」「一つの石」「南へ」「ドアのむこう」

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5巻に「蟲たちの家」「こがらし」「森の唄」「図明氏のギャング」「砂」「波打ち際の女」「内なる仮面」
最後の6巻は『烈願鬼』の連作があって大部分を占めるのですが、それが「遠望の月」「けものの指」「白霧」「鉄輪」の4話。
それから「さいはての訪問者」「螺旋階段」があり、これら多くの作品の描かれた時期とあらすじも書かれた『索引』で終了。

これら短編群も楳図かずお先生がいい時期に、青年向けとして気合い入れて描いているのがよく分かります。人間の内面の、心理的な恐さを表現した傑作揃いであり、紹介していきたい所なのですが…3ページ物からちょっと長めのまで数が多いし、勿体無いのでやめときましょう。

『烈願鬼。願いとは情念なり、願いとは心の叫びなり。心は心により 口に出さずとも伝わるものなり。』
とかってカッコいいセリフを言いながら登場する謎の忍者が主人公で「おろち」的な狂言回しの役割で出てくる「烈願鬼」は、イアラ本編の次に長い分量もあるし単独の作品としてシリーズ化したら良かったのではないでしょうか。

最後に「イアラ」といえば、歌って踊れるシンガーソングライターでもある楳ちゃん先生自身が作って歌唱している同名曲も忘れてはいけません。「闇のアルバム」の2曲目に収められた名曲!
そういえば今作に収められた最終作品である短編「螺旋階段」でも、自作の歌が楽譜付きで登場していました。楽譜が読める人はこの曲『しあわせの限界』が聴こえてくるのだろうな、と羨ましく思ったものです。

奥が深くて時代を経てもまるで古くならない、「イアラ」は楳図かずお文学です。これを読み、その天才に震えよ!!


水は流れて海にはいって どこへ行くのだろう?
けむりは空にのぼって どこへ行くのだろう?
みんな ぼくに黙って どこへ行ってしまうのだろう!



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  1. 2014/02/19(水) 23:00:37|
  2. 楳図かずお
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

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