大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

楳図かずお(47) 「わたしは真悟」

奇蹟は 誰にでも
一度おきる
だが
おきたことには
誰も気がつかない



楳図かずお先生の「わたしは真悟」(小学館刊)。
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楳図かずお先生が大人の男性、いわゆる青年向けのビッグコミックスピリッツに進出して1982年から1986年まで連載したSF作品で、単行本は全10巻。
多くの楳図ファン達から最高傑作の呼び声高いこの作品、もちろん私も大好きですが…とりあえず何か楳図作品を読ませて欲しい、そんな初心者の方には薦めていません。前半のテンションは全楳図作品の中でも特筆すべきものがあるし、美しい絵も含めていつか絶対に読んで頂きたいとは思いながらも、この作品は異常に難解だから。
単純な恐怖漫画からは離れて、神とか人間とか機械って何なのか、そういったもはや哲学的と言えるテーマに挑んでますからね。連載開始の前年までは、あの「まことちゃん」を連載していたので、今度は『逆に真面目をやろうと思った』のだそうです。
あの塚本晋也監督はこの作品で『細胞が思考する不思議を思うなら、金属の分子だって思考し始めてもおかしくない』と思い至ったそうで、自身の映画「鉄男」が深い影響を受けている事を公言しています。

本作はある"存在"のナレーションで幕を開け、全編通してこのモノのナレーション形式が続くのですが、その主は"クマタ機械工作"で作られて"豊工業"という町工場に納入された、R4・5という産業用ロボット!
部品の組み立てをするこのロボットは2台が同時に入り、片方はヴィヴィアン・リーから『リー』、そしてもう片方はマリリン・モンローから『モンロー』という愛称を付けてもらい、どちらもアームの上にでかい切り抜き写真も貼られて当初は愛されるのですが、この後者、モンローが主役でありナレーション主のロボットです。いや、実はナレーション主をモンローだとすると疑問が残る部分があり、作者の言葉によるとこの産業用ロボットが後に変化するあるモノ、という事らしいです。
そして…これって、後のスティーヴン・スピルバーグ監督の映画「A.I.」との類似点を指摘したくなりますよね。
ついでにアメリカのプログレ・ハードロックバンド、スティクス(Styx)は日本滞在中にテレビで我が国の工業用ロボットを見て、あの「ミスター・ロボット」を発表したのですが、それが真悟の連載開始翌年の1983年。特に作品と関係ないけど奇妙な符合。

父親が豊工業の労働者であるため、いち早くロボットのニュースを聞いてワクワクしているのが小学6年生の近藤悟(さとる)。コンマと呼ばれ、6年生にしては子供っぽすぎるイタズラっ子でしたが、クラス行事として皆で豊工業にロボット見学に行った時に出会った他校の6年生、山本真鈴(まりん)と恋に落ちるのでした。
一瞬の邂逅で名前しか聞かずに別れた二人でしたが、もう運命としか言いようがない感じで惹かれあって再会し、急速に仲を深めていく…この恋愛が胸キュンでいい感じですが、二人の共通アイテムがロボットのモンロー。工場に入ってロボットを勝手にプログラミングし、自分達の顔と名前を認識させてデータも入れて遊んでいます。

今作ではロボットの中身、脳みそに当たるLSIや命令を送って回路に電流が走る様などにも長いページ数かけて描写するシーンが目立つのですが、さすがは楳図先生…コードやICチップで埋め尽くされた内部構造まで人間の脳細胞や内臓や血管や神経のような気持ち悪さがあるし、時には宇宙へ、いや前衛芸術みたいな世界に飛んで行く事もありました。

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さて、さとるとまりんの恋愛ですが、やはりまだ子供…大人の都合一つで簡単に引き裂かれてしまいます。
日本でアメリカンスクールに通っていたまりんですが、外交官である父親の仕事の都合でイギリスへ行かされる事となりました。
まずモンローを使ったメッセージのやり取りで結婚する事を誓った2人は大人達の手から逃れて、別れる前に子供を作る事を決意します。うわーいやらしい、って?いやいやこの子供たちは純粋な気持ちで愛し合っているのですが、しかし子供の作り方を知りません。
そこで豊工業に侵入し、既に質問に答えてくれるようになっているモンローに『?ドウスレバコドモガツクレルカ』と尋ねたのですが、そこで出た答えは
333ノ
テッペンカラ
トビウツレ

でした。

訳の分からない答えでしたが、『333』というのが高さの事、つまり東京タワーの頂上から飛び移ればいいのだと解釈した2人は、本当にそれを実行すべく動く…あの巨大な塔に登って飛ぶなんて想像を絶する恐怖でしたが、それでもやる子供の思い込みの力が凄い。タワーのある所まで昇り、下が見えなくなって怖さが減少する夜までじっとしながら、まりんは『一生のうちで今が一番幸せなのかもしれない』と語ります。
鉄バシゴしかない頂上近くも必死になって昇る二人。下界ではお互いの家族や他の大人、警察も巻き込んでニュース報道もされる大騒ぎになっています。
こんな所に昇った子供たちは恐怖を紛らわすためラジオをかけますが、流れてくるのは麻丘めぐみ「わたしの彼は左きき」、南沙織「17歳」、天地真理「若葉のささやき」…これらの曲はもちろん一般的に有名なヒット歌謡曲ですが、「わたしは真悟」に登場する事で私は個人的に特別な感情を持ったのもあり、大好きですね。

自分のブログでもずーっと前に「ココ」で書いていましたが、様々な作品に登場する東京タワー。その中でも、今作こそが東京タワーを舞台として活かした最高の作品だと断言します!
高さ333メートルは地盤沈下で30cm低くなっている事実も知りますが、その条件もクリアしてついに『333ノ テッペンカラ』飛んだ2人!

ある理由から無傷で助かりましたが、結局親元に連れ戻されて、予定通りまりんはイギリスへ…さとるとの別れのシーンは、もう涙無しには読めないので、公衆の面前で読んじゃダメですよ!
おっとそこまでの行動を起こして、目的だった子供は作れたのか?この張本人、両親すら知らない所で奇跡が起こって確かに子供は産まれました。想像していた形とは違いますが、あのロボットのモンローが意識を持って2人の子供として覚醒したのです。後に悟(さとる)と真鈴(まりん)から一字ずつ取って自らを『真悟』(しんご)と名付けますが、ここでようやく作品タイトルの意味が分かりましたね。

面白すぎる今までの展開が、真悟が誕生するまでのプロローグだった…
と言えば聞こえはいいのですが、正直この作品は2人の東京タワーのエピソードまででクライマックスは過ぎたと思います。
いや、この後こそが作者の描きたかった世界なのかとは思えるし確かに見所も満載なのですが、最初に書いたように難解な方向に流れていくのですね。解けない謎やメッセージもいくつか残っているし。

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ロボットの真悟は自分でコードを食い切って這って工場を出て行き、母をたずねて三千里…
自我に目覚めて美紀という奇形の少女と友達になって自分もニンゲンだと認識しますが(余談ですが、この美紀の姿として『体全体が裏返ってしまっている子供』を描こうとして編集部に止められたそうです)、悪質な酔っぱらいに絡まれたり自分の製作会社から追われたりして、次々と体は壊されていきます。
それでも世界を見る事で成長を続けながら自分の正体を求めて、さとるの言葉をまりんに伝えるため苦難の旅を続けます。

一方さとるは、父親が会社をクビになったのを皮切りに両親が不仲になっていき、母親が働くバーのつてがあったため近藤一家は新潟に引っ越します。あんな土地に行ってしまっては、そりゃ不幸の始まりです。(※新潟は私の故郷。シャレですよ!)
母親は他のさとるの前で男とイチャつき、父親は飲んだくれて部屋でゲロ吐いて失禁しながら寝ている。特に母親は、我が子が東京タワーの頂上を目指して昇っているのを止めるように呼びかけようとして、心配のあまり感極まって拡声器越しに『わっ!!』と泣いたあの姿が嘘のようですね。
まだ少年というのにひどい孤独のさとるは、両親と決別して新天地へ。

まりんはまりんで、イギリスでロビンという狡猾なロリコン青年に惚れられてしまっていきなりキスを迫られ、ショックで記憶を無くしてしまう。
イギリスでは日本に対する凄まじい排斥活動が起こっていてこれも怖いし、ロビンの変態性が牙をむいて襲い掛かってくるのです!このロビン、今作における圧倒的な敵役ですが、不気味さも不死身さもしつこさも、まさに笑ったちゃうくらいジェイソン級!
子供である時間がもう残りわずかになり、あれだけ嫌だった大人にならなくてはいけないまりんですが、『子供』と『大人』を別モノとして、その変化の過程が興味深く表現されています。

さて工場で部品を組み立てる産業ロボットでありながら、こんな世紀の名作の主人公となった真悟。
実はあるブラックボックスを植えつけられたとか判明してくるのですが…次々と成長して不思議な能力を得ていく真悟は、海を渡る船上で素晴らしく幻想的な光景を繰り広げたりしています。さらにコンピューターが通信衛星の深い所までつながると『四角』から『三角』に進化!また後に『丸』に進化すると、この世の全てを知る地球そのものと言える存在になるのです。
しかしエルサレムでまりんの危機を救うために全てを使い、その後は今までと逆に次々と力や記憶を失い続けていきました。

結局真悟はさとるの愛の言葉を伝える事が出来ず、まりんの返答も聞く事が出来なかったのですが…色々な感情を学んだためにウソも覚えており、母の返事として
『サトル、ワタシハ イマモアナタガ スキデス。マリン。』
を伝えるため、今度はさとるを目指す旅に出ました。
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ちなみに「わたしは真悟」は大きく分けて7つに区切られていますが、それぞれサブタイトルが付いていて、
『Program1 誕生』
『Program2 学習』
『Program3 意識』
『Program4 感情』
『Program5 まりん』
『Program6 兆し』
『Program7 さとる』
となっています。

また連載時の1話1話ごとに美しい扉絵が描かれています。この出来もノスタルジックで幻想的に素晴らしくて毎回楽しみとなるのですが、『Program6 兆し』は明らかに楳図かずお先生が大好きなH・R・ギーガーに影響を受けている、ギーガー絵と楳図絵の合作みたいなのが見られて嬉しかった。

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またも試練の連続となる真悟の旅。
もはや自分の過去をほとんど失くして体はアーム部分だけになり(もしかしてだけど1980年のアメリカ映画「スペース・サタン」の影響を受けてる!?)、『日本人の意識』に追われ…
最後の舞台はさとるも行く佐渡島で、ここで人知を超えた恐ろしい事が起こります。ここでの事、それ以外にも紹介していない中に深読み出来そうなキーワードやエピソードの数々があるのですが、大変な所まで行っちゃいそうなので説明はここまでにしておきましょう。
とにかく、最後に『アイ』の2文字が残りました。


さとるはまりんを今も愛している!!
このことを、わたしはまりんに伝えなければならない!!
これが、わたしの生まれてきた目的だったのだ!



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  1. 2014/03/24(月) 23:59:33|
  2. 楳図かずお
  3. | トラックバック:0
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コメント

佐渡島?

お久しぶりです。元気に更新されていて何よりうれしいです。さて、「わたしは真悟」ですが、「ビッグコミックスピリッツ」連載中の最初の方かな?少しだけ読んでましたが、最後は私が生まれて育った(途中、今で言う「さいたま市」で就職してましたが)、今も住んでいる、この佐渡島が舞台になりますか。それは知らなかった!う~ん、スルー出来なくてコメントしてしまいました(汗)。
  1. 2014/03/25(火) 22:45:55 |
  2. URL |
  3. 秀和 #-
  4. [ 編集]

そう、佐渡島です。

>秀和さま

コメントありがとうございます。
正直、ブログに対するモチベーションは低下気味なのもあり、更新数も減ってきて申し訳ありません。まぁ今までが更新多すぎたかと、このくらいのペースでも続けて行く所存ではありますが…

さて「わたしは真悟」のラストを飾る、重要な舞台はそう、佐渡島なんですよ!さとるの引越し先が新潟市になったのも、その布石だったのです。
このような名作で使われたのですから、佐渡の住民達で真悟の記念碑、いやテーマパークでも建てたらどうでしょうか。きっと全国の楳図ファンが佐渡を目指す事になると思います!
まぁ『島民皆殺し実験』云々の内容になってくるので、住人としては素直に喜べないかもしれませんが…

秀和さまは佐渡島在住でしたか。私も同じ新潟県出身でありながら、佐渡島は子供の頃に訪れたきり行ってないので、今年こそはお邪魔したいと思ってます。
いざ、「わたしは真悟」の聖地・佐渡へ!
  1. 2014/03/28(金) 01:14:29 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

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Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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