大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

梶原一騎(57) 永島慎二 21 斎藤ゆずる 1 「柔道一直線」

前回で久々に梶原一騎原作作品に触れたのでこのまま紹介を続けますが、今度も作画者が超大物、しかし作風的に梶原原作とは結びつかないと思われた、というか誰も思いつかなかったカップリングではないでしょうか…そのまさかの起用は、青年漫画の教祖・永島慎二画による「柔道一直線」(サンケイ出版刊)!
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単行本は少年画報社のキングコミックスで全13巻がオリジナル扱いであり、あとはアイヌ絡みのキャラをカットした光文社版、その他いくつかの版が出ているのですが、今回はサンケイ出版から出ていた『梶原一騎傑作全集』の画像を使いましょう。この全集シリーズも私、随分と買いましたからね…尾崎秀樹による解説付きの、これは全10巻です。
初出は1967年から1970年の週刊少年キング連載で、1971年には外伝の3話が描かれました。特筆すべきは今作は連載で物語が終了しておらず、単行本にも収録されていなかったのですが…それに決着を着ける『大完結編』が最後に描かれていて、「いきなり最終回Part2」(宝島社刊)に収録されています。2004年に高森篤子監修の完全復刻版として出たネコ・パブリッシング版の単行本でそれも収録されたので、これが完全版コミックスでしょうか。

佐藤紅緑の小説「一直線」に乗っかってタイトルを付けたという本作はけっこうヒットしていて、スポ根ドラマブーム黎明期の1969年から1971年まで、東映制作の実写によるテレビドラマ化もしています。
この時に破天荒な必殺技を映像化するために特殊効果を進歩させたのが殺陣と技闘専門のプロダクション"大野剣友会"であり、これが大ヒットしたおかげでその技術を活かして「仮面ライダー」が生まれたと言われています。
テーマ曲は主演の桜木健一が歌う「柔道一直線」、作詞はもちろん梶原一騎先生…私もレコードを買いましたが、この曲は大好きです。
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柔道の知名度を格段に飛躍させ、多くの柔道家達に始めるきっかけを作った「柔道一直線」の物語を追ってみると、まず舞台は東京オリンピックの年・昭和39年からスタートします。
主人公は北九州の小倉で"青葉中学校"の柔道部、そして"明和塾"という町道場にも通って柔道を学ぶ少年・一条直也。彼がかつて講道館で鬼車と呼ばれた車周作六段と出会う事で、運命が変わり始める。
そもそも昭和39年という年は日本の柔道界にとって重要、それも屈辱の年で…柔道の本家・日本代表の神永選手が無差別級決勝戦でオランダのヘーシンクに敗れた年!これが当時の日本に大きなショックを与えたんですね。現在は日本代表が外国人に勝てないのも当たり前の光景になり、作中で車周作(=作者の声)が危惧した通りにボクシングみたいに体重制の試合だけになりました。もちろん小さい者が大きい者を投げる、すなわち『柔よく剛を制す』柔道もほとんど絶滅してしまいましたが、この連載時はまだ夢があったのです。

車周作こそは体重たった50キロ前後の体で柔よく剛を制す夢に取り付かれていた男であり、明和塾の大杉先生曰く『そうなるための車さんの執念はきちがいじみていた』そうで、ついに恐ろしい必殺技・地獄車を編み出した。
そしてその技で、体重100キロを越す巨人柔道家の丸井豪平六段を試合で殺めてしまう悲劇が生まれた…それから車周作は『自分はこじき同然の暮らしにあまんじながら』、マムシの粉を行商して稼いだ金を匿名で丸井六段の家族に送り続けているのです。
そんな車周作に惚れ直也は押しかけ弟子となって今までの生ぬるい柔道とは縁を切り、地獄の特訓をする茨の道を進んで日本柔道再興を目指す、そんな話ですね。
そうだ、久住昌之先生の古い著作で『柔道一直線のパクリで鉄下駄を履いて云々』という描写があったのですが、スポ根の代表的アイテムでもある『鉄下駄』。これって本作が元ネタで、ここから広まったのでしょうか!?

丸井六段の息子・円太郎、直也の初恋の相手・高原ミキ、そして数々のライバル達と関わりながら物語は進みますが、やはり重要なのは車周作。直也に厳しい試練を出し続けますが、それをクリアすると人知れず涙を流して喜び、夢をかける。
つまり車周作と一条直也…これはそのまんま「巨人の星」の親子の設定であり、しかし本作では血のつながりは無い師弟の絆という事で「あしたのジョー」に近いと見る向きもあると思います。この超有名作どちらとも連載時期が被る同年代作品ですけどね、「柔道一直線」が知名度で一歩も二歩も劣るのは悔しい限り。まして野球やボクシングと違って、柔道は原作者自身が実際にかなりの所まで学んだ格闘技ですからね。しかし柔道を知り尽くした梶原先生が、それら以上にリアリティのない必殺技を描きまくったのは面白い所。この後で連載開始する柔道漫画で、さらに荒唐無稽な「柔道讃歌」しかり。

基本的に強敵が登場し、鍛えてそれを超えて、また強敵が登場し…と次々と出てくる敵を倒す、いわば少年向けの連載漫画における黄金律で進むし、インパクトのある敵も多いのですが、梶原先生の思想性より単純に試合の面白さばかりを描こうとしているので浅いと見られているのですかね。
あとはやはり、組んだのが天才漫画家とはいえ作家性の違いはどうしても埋まらなかった、かつその永島慎二先生に途中降板されたのが痛いか。個人的には大好きな作品、というかこれこそ私のバイブルなのですが。

目の前に現れた天才少年『北九州三四郎』こと赤月旭に対抗するため、直也も車周作によるシゴキの甲斐あって二段投げという技を編み出します。それでも平凡な努力型の直也は、カッコいい天才の赤月に二段投げを破られて団体戦で負け、しかしその弱点も克服して個人戦では勝利する。その間にも様々なドラマがあるのですが、どんどん話を先に進めましょう。
次はあるテレビ番組に出演したのが縁で空手の天才児・鬼丸雄介と対立する事となりますが、この鬼丸は何と極真会館の門下生。つまり大山倍達総裁の弟子であり、直也が東京の池袋にある極真会館本部まで乗り込んで行った時に、その師匠であるマス大山も登場します。つまり永島慎二先生が描くマス大山…「空手バカ一代」以前の作品ですが、ここでもマス大山のスーパーマンぶりを見る事が出来ます。お、でもマス大山が千葉県の清澄山に籠もった時の有名な片眉剃りのエピソードですが、この時点ではまだ両眉をそり落としています。片眉の方が醜いと気付いて後にアレンジしたのでしょうね。

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続いては柔道着を着た外人の覆面レスラー、ザ・ジュードー・キッド編。
小男が技で大男を手玉に取る、日本柔道界から失われてしまった柔道の極意・柔よく剛を制すをやってのける凄いヤツですが、残忍で柔道の心は伴っていない。とはいえ強さは本物中の本物なので、彼の必殺技ライナー投げによって一条直也は敗北。
中学生レベルの柔道ではもはや敵無しで孤独を感じる直也、先生も投げ飛ばし上級生にも君付けで呼ばれるようになってしまいますが、師匠の車周作からしたら子供扱いの力しかない。そして出場した『インターナショナル国際少年柔道大会』でもライバルの中にとんでもない怪物が…

今度は世界の柔道が相手なので、日本人のナショナリズムも見せてくれます。そもそもが日本が本家であるはずの柔道王者の座を外国に取られた事が大きなテーマになった作品ですからね。
まず大会出発前の見送りで"鮮魚 魚一商店"を営むかあちゃんが
『日本男児が青い目なんぞに負けちゃいけない!いけない いけない いけない いけないよ ふんとにもう!』
と言って送り出すし、車中では車周作が
『日本男児が青い目なんぞに負けちゃいけない あのおかあさんの叫びこそ 今の日本人全体に欠けとるものじゃよ
 世界じゅう みんな友 むろんそうあるべきじゃが まず自分の母国にがっちり誇りと愛を持ってからのこと!』

そして直也と同じく北九州代表で出場する赤月旭は、
『同感です 愛国心なしでやたら外国になれしたしむのは わが家にかぎをかけず よその家に入りびたるようなものです』
と続けます。

さてとインターナショナル大会ですが、世界各国から集まってきているとはいえ桁外れの怪物はただ一人、アメリカの天才少年で『恐怖のそばかす』と異名を取るロバート・クルスです。
決勝はやはり一条直也VSロバート・クルスになりますが、直也の二段投げをあっさり破りながらも意外に苦戦したロバートは、直也をライナー投げで仕留める…
そこで彼はザ・ジュードー・キッドの正体であると見破られました。プロレス界で柔道の腕を磨いていたわけですが、素顔でプロの試合をするとアマチュアしかない柔道の試合に出場する権利を失うので、一人二役のトリックを使っていたと。
正体がバレたロバートは失格で直也が優勝者とはなるものの、優勝カップ受け取りは断って北九州へ帰る直也。勝負としては二度までもライナー投げで敗北したのです!この雪辱は高校進学後に持ち越されますが…ザ・ジュードー・キッド=ロバート・クルス、彼は今作中で最強の敵なのかもしれません。

中学を卒業した直也ですが、車周作は井の中の蛙ではダメだから東京に出ねばならんと、九州の親元から引き離して直也の身柄を預かり、夜警で働きながら柔道の名門である"天道高校"に通わせます。今まで荒れ地を耕して作物を作り、美味しいと評判になるまでになった畑も捨てて、直也の柔道にかけます!
柔道を通して親友になっている赤月旭と丸井円太郎も行動を共にしていますが、この天道高柔道部には大豪寺虎男という怪物がいました…こいつは直也の理想とする柔道とは真逆、『剛道』を唱えて体力・怪力タイプの猛者。車周作は何故こんな奴が支配する柔道部に直也を入れたのか!?
体のでかいヘーシングら外国柔道はいわば剛道なのだから、これは絶好の稽古相手だというのです。あまりに強大な大豪寺に、しかも柔道部を波紋された直也ら三人は"第二柔道部"を作って徹底的に戦う!後にMoo.念平先生の名作「あまいぞ!男吾」でも全く同じ展開がありました。

大豪寺の剛道に対抗する直也は、車周作の地獄車をついに習うのですが、それを習得するためにはとてつもない地獄の特訓が待っています。
『のろわれたわざ地獄車を できれば直よ おまえの若い血潮で清めてくれい……』
と託されたわけですが、困難を極めたこの殺人技を直也はついに習得!第二柔道部は大豪寺ら先輩の正式柔道部に戦いを申し込むのです。

そうだ、この高校編から新たに登場した重要人物として、車周作と直也が下宿している床屋の娘でヒロイン的なカオルちゃん、そして青白きインテリ教師の香川先生がいます。
この香川先生の口からは、前回紹介した「虹をよぶ拳」と同様にマイホーム亭主を批判する梶原節が飛び出します。曰く、
『現代にはちんまり小ぎれいにまとまった若者が多すぎる
 一流高を卒業して一流会社にはいり お嫁さんにかわいこちゃんをもらい クーラーやカラーテレビのそろった
 マイホームとやらをこさえる ちっぽけな夢しか持たぬ若者たち……二言めにはかっこいいだのという
 彼らから見れば でっかい夢に命をかけ いちずにひたむきに一直線につき進む人間は ばかに見える』

という事です。でも後の文豪・政治家・事業家・学者・映画スター・歌手・野球選手、それら各界の第一人者は若き日に、文学ばか・・政治ばか・事業ばか・学問ばか・映画ばか・歌ばか・野球ばかと、おりこうな世間からはののしられた経験を持つそうなんですね。

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ともかく一条直也VS大豪寺虎男の死闘は、傷付き血まみれになった直也が逆転の地獄車を決めて勝利!
初めて白日の下にさらされた直也の地獄車…相手を外輪の輪とし自分を内輪の輪(内側の球と)して連続回転すると、自分は相手をクッションとして全くの安全だが、相手は一回転ごとに脳天および尾てい骨の急所をすさまじいショックで強打して地獄へ直行する車となるという、残虐非常の技。
しかし直也は師匠である車周作のように相手を殺めてしまわぬよう、横倒しに回転を止めて相手の命をいたわる事も出来た。花も実もある柔道の鬼に成長しつつある!
という事で天道高校の勝負が片付いたのも束の間、アメリカン・スクールの柔道部から対抗試合の申込みがありました。そのスクールの主将はロバート・クルス。直也が中学時代に二度までも負けている相手です。ただし今度は地獄車が有り、大熱戦の末にそれを決めて勝利しました。

…と、さらにまた息をつく暇もなく、次の強敵が登場です。地獄車にやられて行きも絶え絶えのロバート・クルスの前に同じアメリカン・スクールの黒人ボクシング部の一団が現れてロバートはスクールの名誉を傷付けたとしてダメ押しの打撃を加える。
今度は黒人達という事で、ここにはアメリカの人種差別問題の渦巻きがあります。そう、「柔道一直線」は人種問題も扱っているのですね。
今度は黒人ボクサー達が天道高校柔道部を付けねらうのですが、直也らを待ち伏せする間にタバコ屋へ寄るシーンで、夜に黒人達が来たものだから黒い肌が保護色になって店のお婆ちゃんが『ふぎゃああぁー め 目玉と歯だけ……』と腰を抜かす所があります。すぐに正体が分かって『ふう 黒んぼさんたちでしたかや』となりますが、これはあんまりですよね(笑)

この黒人ボクシング部の主将はサミー・ジャガー
奴隷になれて牛馬のごとく働かされた祖先の恨みを強く持っていますが、それを何故か白人から日本人相手に転化しているのか?非合法な手段も平気で使って直也らが喧嘩を買うように仕向けます。
カオルちゃんが人質に取られたために直也はサミーの言いなりになって這い回り豚と牛の真似までさせられましたが、直也がそうしたから助かったのにカオルちゃんたら、
『わっ!! みそこなったわ なんといってもだめっ!なんてざまなのあの姿は!!
 な なぜ男らしく戦ってカオルを救ってくれなかったの きらい 顔も見たくないわ!』

などと言って泣くのだからひどい。

その話で大豪寺もついにキレてアメリカン・スクールに殴りこみ、ボクサー達を相手に暴れ回りますが、出ました猪木アリ状態。ボクサーを相手に柔道家が戦うには寝転がるのが有効だと、アントニオ猪木VSモハメド・アリ戦以前に何度も描いている梶原漫画は凄い。というか猪木が梶原作品の読者だった可能性も高いと思いますが。
上記の『黒んぼさんたちでしたかや』もそうですが、この時の大豪寺が言う『さあこい そういやあ わしの家の3びきの飼い犬のうち1ぴきはまっ黒じゃわい』や、あとでホットドック屋の兄ちゃんが言う『おにょれっ 無銭飲食したばかりか おれをぶちのめしたニグロめ!!』のセリフは後の版では修正されています。
あまり他の人種と共生する事のない日本国ではあまり一般的でないネタとはいえ、やはり人種問題はデリケートな所ですからね。

とにかく無事にサミー・ジャガーを倒し、心でも勝った直也はここで一休み。
車周作と無差別級の大会である『昭和44年度 全日本柔道選手権大会』を見学に行きますが、ここで実在の柔道家であり小男と言える岡野功五段が優勝する事件を目撃!
車周作と一条直也の師弟が理想とする柔よく剛を制す柔道がここにありました。しかしそれでも岡野五段は81キロであり、60キロ台の直也がこの域に達する事は出来るのか。それとここでは、岡野五段に重量級の体重があったらここまでの柔道家になっていたか、という事でナポレオンの例なども出して劣等感をエネルギーに変えるという重要な話が出てきますね。しかし今の柔道界では、オリンピックの無差別級が30年も前に廃止されていますからね…今作の連載時には、こんな自体にまでなるとは思っていなかったのではないでしょうか。ええ、ますますスポーツ化して必殺の威力とか失ってますしね。

続いては直也らの出番。『全国高校柔道選手権大会』へ、天道高校も乗り込むのです。
「巨人の星」で息子だけのコーチだった星一徹が星雲高校野球部のコーチに一時就任するのにも似て、車周作が天道高校柔道部を鍛える事となりました。彼は相変わらずスカッとする鬼の強さで、直也を鍛えるより自分が選手として出てくれれば…なんて思ってしまいますね。
彼らが目指す全国大会には三人の大敵が登場するのですが、彼らの出身と名前・必殺技を書き出しておきましょう。
鹿児島代表の城山大作、大噴火投げ
北海道代表の黒江狼介、熊殺し
京都代表の右京真吾、花ふぶき

…です。それぞれタイプの違う個性的なキャラ達で、ここからまた一気に荒唐無稽な必殺技のオンパレードですね。

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東京地区予選では大田区のウルトラ・デブ・田淵万太郎選手に苦戦してしまいますが、何とか全国大会行きを決めた天道高校。あ、今回は団体戦の勝ち抜き戦です。
三人の大敵のうち最初に当たったのは黒江狼介ですが、彼の熊殺しはプロレスでいうパイル・ドライバーを連続で喰らわせるような殺人技。実際に人間よりはるかに丈夫な熊も殺している技ですが、彼はアイヌの血が混じった男であり、作中アイヌ文化が描写されたりアイヌの子だと和人(日本人)に差別されたりする描写があるためでしょうね…後の『光文社漫画文庫』では何と彼の存在自体を丸々カットされるという、「柔道一直線」で一番不幸な登場人物!消されたキャラクター!

次の右京真吾は、首都・東京代表の直也をやたらと『東京のいなかっぺ』呼ばわりするのですが、これは現実にも存在する勘違い京都人だー!
彼との勝負は空中からかける地獄車が決まって直也の勝ちとなりますが、後に右京は再登場します。元々の今牛若丸と呼ばれた天才イケメン具合を捨てて猛特訓し、汚れた姿で…つまり後の「柔道讃歌」における秒の殺し屋、帯刀省吾の前身となるキャラクターでした。

決勝で当たった最強の敵・城山大作とはやはり大熱戦。直也は逃げ回っているかに見える戦術で観客のブーイングを受けますが、どうせかっこいい事なんざ生まれつき縁が無いのだと開き直って、それでもこのペースで勝ちに行く。その小回りを生かしたかき回し戦略を自分で『べトコン戦術』と呼んでいますが、後の版では『ゲリラ戦術』に修正されている。べトコンもダメなのか…
延長戦の末に勝負付かずで引き分け、つまりこの全国大会は直也の天道高校と城山の桜島高校とで同時優勝となりました。
その結果、あまり面と向かって褒めた事のなかった車周作が、東京に帰ってきた直也をついに感情むき出しで抱きしめる。

小倉からデザイナーの勉強をするため上京してきた高原ミキと、東京の下宿の娘・カオルとで直也をめぐる女の冷たい争いが起こっているその時、直也は講道館の段位に挑戦。そこで血で血を争う男同士の決闘が行われているのでした…

次の展開は、また異種格闘技戦。
今度の相手は"竜神キックボクシングジム"のアニマル児雷也で、名を売り出したい野獣のような相手。
直也に『有名になることにとりつかれた狂人』と表現されていますが、実力は沢村忠クラスかつ無法者すぎるこの相手にキレて、破門を覚悟で波止場の決闘!
やはり勝てぬかと悟った直也は、海を背にして、
『海へおとすかおとされるか くうかくわれるか?これを……背水の陣という!!』
と言って児雷也に向き直りました。

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…あれ?絵が違う。
そう、この強敵を相手にして戦っている、それも大ピンチのタイミングで作画の担当が永島慎二先生から、斎藤ゆずる先生に交替してしまいました!
実はこの前にも永島先生はアシスタントの向後つぐお先生に数話を任せたりもしているし(本作を読めば絵で一目瞭然ですがロバート・クルスと戦ってる時の一部)、アメリカで絵の修行をするとかで長々と休載した時期もあるのですが、今度こそは完全に放棄してしまいました。

大御所にして天才漫画家である永島先生の仕事の続きだなんてやりにくかったでしょうに、よくぞ受けてくれたこの斎藤ゆずる先生。1941年生まれの東京都生まれで、さいとう・たかを先生のさいとうプロ出身で、現在ではダイナマイト鉄の名義で知られている方です。
実はこの前に園田光慶先生の戦争漫画「あかつき戦闘隊」も代筆を担当した時期があるといるし、この手の仕事が得意だったのかもしれません。まだ若き日のすがやみつる先生らもアシスタントに加わり、なるべく永島先生が描いてた絵に似せて描いているので、つのだじろう影丸譲也と作画者が変わった「空手バカ一代」ほどの違和感は無いですね。
モブシーンの群集だとかあの目とか、永島先生の特徴的な部分までは模してないのは良いのですが、やはり単純に画力の違いが目立ちます。
あまりにも急ぎの仕事で、しかも他人の絵柄で描かされている斎藤ゆずる・画の部分を叩くのは止めておいて、物語の続きを見ていきましょう。

一条直也VSアニマル児雷也は、背水の陣作戦で何とか直也が勝利。
駆けつけた車周作は、この醜い闘いを止めもせずに特ダネにしたい一心で見ていたマスコミ人間を寄生虫並みだと批判しますが、
『いやなやつ いやな風潮のはびこる世の中よのう すみきった柔の道なくば とうていわしなど生きてはいけまい』
とセンチになっています。
さらに直也は重症で、さびしくて涙を流し…どんなに厳しい修行でも耐えてきた柔道と戦いの連続の日々を、初めて嫌になります。柔道の練習はせずに香川先生(「おとこ道」で言う所のやはりインテリ教師・江波慎太郎の役割)に相談に行き、下宿で習ったヴェルレーヌの詩「ことばなき恋歌」なんか柄にもなく口ずさんだものだから、車周作にぶんなぐられて、
『詩なんぞ柔道には への役にもたたんわ!!』
と、言われ投げつけられて階段から転げ落ちる。直也はこのスパルタ式にも嫌気が差し、柔道も学校もやめて故郷の小倉に帰る決意までしてしまいました。

車周作に対して
『先生の柔の夢がたくされたのに ご期待にそえず も もうしわけありません!
 しょせん一条直也はこれだけのやつだったと あきらめてください…』

ここまで言って下宿から去るのですが、ある事がきっかけで意外とあっさり、また柔道に戻る事になりました。しかし覆水盆に返らず。車先生は荷物をまとめて行き先を告げずに下宿から去ってしまいました。

号泣する直也は、香川先生から柔道一筋にかけても悔いぬ態度を示せば、また車先生も戻ってくるかもと言われて奮発。『青少年選抜柔道大会』で勝ち抜いて優勝する事を誓うのでした。
この大会では、前回の対決で引き分けて現在は講道館の研修員になっている城山大作が最大のライバルだと思われたのですが、思わぬ伏兵が出てきました。鎌倉工業高校から来た神奈川県の手足がネギみたいに細い『ガリ勉タイプの青白きもやし少年』、東儀冬樹です。
彼は何と柔道の技を使いません。神童と呼ばれた頭脳を持ちながらも、女子にもノックアウトされるほどの虚弱体質からなる劣等感が有ったため、高等数学の方程式を応用して科学的に人間を倒す『物体ひっくり返し科学』を執念で会得し、科学的ポイントに触れただけで相手が吹っ飛ぶようになったのです。
地獄車や大噴火投げを科学的に破れると宣言する東儀…こいつが使うのはほとんど超能力のPK(サイコキネシス)で、今までの荒唐無稽な必殺技の数々がかすんでしまいます。

ある秘策で東儀を倒し、ついに再会出来た車周作にすがる直也でしたが、完全に別れを宣言されるのでした。
絶望的になった直也は決勝戦を放棄してそのまま行方不明になり、高校柔道連盟からも除名されてしまいました。天道高校も退学し、兵庫県神戸市に流れていました。そこで生まれて初めてのビールを飲んだ上で、暴力スナックで乱闘。
酒のアルコールの怖さを体験するのですが、酒は『ど どんな強者からも能力をうばいさる 酔いというおそるべき副作用』とまで言われてますから、酒飲みの人は気を付けましょう。

一方、小倉の一条家を訪ねた車周作が直也の母に語った真相は、やはり日本柔道と『柔よく剛を制す』のため…
心を鬼にして直也を見捨てたのは、直也を『けもの』にするためだと言います。高校柔道部あたりでほどよく修行をやるのでは人間界の理論の範囲でストップしてしまうし、体重60キロの日本人が体重100キロの外人に勝てはしない。それが『野獣』ならば出来るのだ、と。

それならば車周作の思い通りにいったと言えますか…
酔いに倒れてやられた直也は、暴力スナックの用心棒を務める暴力団錦一家によって南京袋に詰め込まれ、神戸港に捨てられるのです。つまりガチで殺されかけたのですが、生きて帰って復讐に燃える直也は、生まれて初めてのすさまじい怒りにかられてチンピラ達を全員ぶちのめします。しかも、全員の骨をへし折る残酷さ!
そこから強すぎる直也は、錦一家と敵対する湊一家に雇われて用心棒になります。夜の店で用心棒になるのは、梶原一騎漫画でよく見る姿ですね。ちなみに柔道をオリンピックなど大きな試合をテレビで見るだけの人は、ただの投げ合いであまり実戦向きの格闘技ではないと思う方がいるでしょうが、否、柔道家は凄まじく強いです。まして鬼車柔道は関節技も当て身もやるし、講道館流と違って受け身を許さず脳天からつき落とすやり方も学んでいるのですから。

ここでまた劇画チックな男…プロの用心棒の夜光玄之介が刺客として登場!
意外な結果となる、彼との対決がきっかけとなって用心棒家業は早くも辞め、最低の私立校である"万里波実業"なる高校に編入しました。これで高校生の資格を取り戻したので、『国際ハイスクール柔道大会』に出るための山ごもり修行を開始。これは国際大会だから、高校柔道連盟から除名されていても出場出来るのですね。

しかし車周作が直也に課す試練はさらに続き、出場する外人選手で最も素質がある優勝候補でアマレスで全米ハイスクールを制したアメリカ人のロック・ゴードンを鍛え、自ら直也に授けた地獄車の破り方まで教えるのです。
どちらも順調に勝ち進み、城山をも倒した直也は準決勝でついにゴードンと対決…するはずなのですが、車周作を越えるのか越えられぬのか判明する、ここで突如作品の連載が終了。
『直也はたおれるかもしれないが たおれたならたちあがり また一直線の道をいけばいいではないか!いずれ また物語る日もあろう (梶原一騎)』
の一言で終わるんですよ~!

1970年の連載終了後、1971年に車周作を中心にして3話描かれた『外伝』の最後「「柔道一直線 大完結編」で、ちゃんと勝負を付けて完結させているのですけどね。
無念無想の境地に達して柔の道をまた一歩極めた直也がゴードンに勝利し、その後もパリで開かれた『世界柔道選手権大会』で大活躍する…その姿を、酒場のテレビで見守る車周作。そして本物の鬼のように強かった鬼車、車周作の満足そうな死まで。
でもこれが従来の単行本には収録されなかったものだから、読めるまでに時間がかかりました。梶原一騎作品の大作では珍しい、ハッピーエンドを迎えるこの大完結編、ちゃんと読めるようにしておかなくては駄目でしょう。

私が梶原一騎先生を再評価し、全作品を集めたいとまで思ったきっかけとなったのがこの「柔道一直線」であり、最初に集めたのは1990年に厚い単行本全8巻で発行された講談社・KCスペシャル集。この版こそが、確かちょうど中学1年生だった私が新刊で買い揃えて興奮しながら読んでいた本です。もちろん柔道も習いました。
後にもっと前の版でも集めてみたら、前述の通り黒んぼだのって黒人関係のワードに、きちがい、こじき、かたわ、テンカン、べトコン、イザリ…といったセリフは修正されている事が分かりました。ん?『体を不自由にされた』なんて部分も『大ケガしてしまった』に治されてる。かたわならともかく、不自由もダメなのか。
とにかく柔道漫画の決定版、傑作すぎる「柔道一直線」は、必ず読んで欲しい。
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きびしい目で自分を見つめよ!!
とかく人間のやる 正義だの愛だのはそういうものなんじゃ!
何不自由なく生活でき またわるいこともやる必要がないから正義ぶる
めぐまれた中から ちょっぴり他人に幸福をあたえて 愛の天使づらをする!
真の正義とは うえて死んでもぬすまぬことであり
また自分は食えなくても他人にあたえてこそ真の愛!




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  1. 2014/09/15(月) 23:59:02|
  2. 梶原一騎
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Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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