大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

梶原一騎(61) かざま鋭二 2 「青春山脈」 1

今夜は梶原一騎原作、かざま鋭二劇画の「青春山脈」(講談社刊)です。
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1977年から翌年までの週刊少年マガジンで連載された作品で、単行本はKCコミックスで全12巻。開始当初は「火乃家の兄弟」のタイトルでしたが、途中から「青春山脈」に改題された変わり種。単行本化の際に「青春山脈」題に統一したのですが、画像のように4巻迄は『序章・火乃家の兄弟』と副題が付いているのが初出時の名残ですね。

私は本作も梶原一騎先生が残した名作の一つとして捉えているし個人的には大好きな作品でもありますが、世間的な評価はあまりにも低い。
かざま鋭二先生のリアルな劇画も内容に合ってて良いんですけどね…確かに後半は迷走していたり安直過ぎる展開も見えるとはいえ、とにかく『男』ですよ。それも『男の中の男』。そいつを見たければ、本作の主人公・火乃を見よ!というくらいで、男なら誰しも彼を手本にして生きてもらいたい。
ちなみにこの時期、今や日本でも有数の売れっ子漫画家となった福本伸行先生がアシスタントで参加していました。

物語の時代はまず昭和十五年…日本の建国以来の危機を迎えた、大東亜戦争が起ころうとしているこの時代からスタートです。
広島県江田島の海軍兵学校の若き士官候補生達が、軍需財閥(要は武器商人)の水上男爵邸に招かれた舞踏会。ここに士官候補生の一人である火乃直彦がその弟で"緑ヶ丘中等学校"に通う学生の火乃正人を連れて現れ、美しい男爵令嬢の水上明子と出会う。
ここでもう役者が揃いましたが、この場でいきなり明子を巡る男達で『決闘』が行われて火乃兄弟は憲兵隊の拷問を受けて、とテンション高い展開で炎のような火乃兄弟を紹介してくれます。ちなみに彼らは熊本の火の山・阿蘇のすそ野で育ったそうです。

実際の大日本帝国史や実在の人物に上手く火乃兄弟らを絡めて話は進みますが、ここで描かれる連合艦隊司令長官で知将、山本五十六がカッコいい。彼は実は誰よりも戦争に反対しており、日米開戦がやむなきとなった時には短期間なら暴れてみせるが、そのあいだに和平への手を打ってくださいと念を押して戦争に突入した史実は、実は本作で最初に学んだ私。
五十六は日米間に於ける国力の差を冷静に分析していたので、短期決戦・早期和平が現実的な作戦だとして実施しようとした事も知られていますが、『ニイタカヤマノボレ』の暗号文で真珠湾攻撃が始まり、日本も強いもんだから半年は圧倒的に勝ち続けたため世論から和平が出来なくなってしまった。もちろん残りの三年間は負け続けて本土まで日本国民と共に焼き尽くされ、あの悪魔の原爆投下に至る歴史は皆さんご存知の通りですけどね。

山下奉文中将らのシンガポールの戦いとか敵国の動き、やがて負けてくる悲惨な様子なども伝えて実録戦記モノのように丁寧に描写しながら物語は進みますが、激動の時代を生きる火乃兄弟は…
弟の正人は、結婚させられる水上明子の婿を襲って兄のために妨害するなどして暴れています。そこは初恋の春日先生が偽証までしてくれて、鬼より怖い憲兵隊や特高警察からの逮捕も免れました。
兄の直彦は海軍少尉候補生として出兵するも、水上男爵邸の決闘の件で右翼のボス・東方光起に睨まれたため東条首相に働きかけられ、『見殺し部隊』に送られて虐げられ続ける。梶原先生の解説によればこの見殺し部隊は『戦争悪を誇張せんがための創作にあらず れっきと実在した』のだそうで、軍部に反対する危険思想の文化人だの身内にアカ(共産主義者)がいた者などを、死地へ送り込んだ部隊だったそうです。

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しかしどんな目に遭わされようが元々が出来るヤツであり、愛国者(親兄弟や友や恋人の集合体である国家を愛する者)である火乃直彦はサイゴン戦線での地獄を生き延びたどころか、敵の秘密製油施設を発見して破壊するという戦果まで挙げました。
それも英雄になってはまずい見殺し部隊の身ゆえに手柄も取られるのですが、次のミッドウェー作戦の戦地でも大活躍した時に山本五十六の目に留まり、そのツルの一声で再び日本の土を踏める事となりました。そして見舞いに来た水上明子と、たった一度の逢引を。これが明子の胎内に子供を宿らせる事となり、大きく物語を動かします。
直彦はこの後、『きずつけてはならぬ男の一分を土足でふみにじられ』て上官を軍刀で惨殺して零戦で逃亡。帝国軍人にふさわしい死に場所として敵艦隊の空母に突っ込む道を選びました。
これが後に追いつめられた日本軍が採用する事になる『特攻作戦』の第一号となり、死んでようやく見殺し兵から国家の英雄となるのです。

さて史実は『ただひとりアメリカにとっておそるべき相手』である山本五十六長官機が撃墜され(海軍甲事件)、敗戦への秒読みが始まります。梶原一騎先生は相当に五十六好きみたいで、死に方までカッコよく描いているのはもちろん、登場人物の口から『事実あの人は日本軍部にあって ただひとりの天才的な戦術家であるとともに 本当の愛国者だった』と語らせています。

そんな中、一躍『軍神の弟』となった火乃正人は兄を思い、『兄弟の仁義』のために茨城県霞ヶ浦の"海軍飛行予科練習所"へ入学。卒業後は特攻隊になると志願すると、後に一飛曹として第三高千穂隊に配属されて出撃の場となる宮崎県の富高航空基地へ。
ここで疎開してきた沢田弘信少年と交流するのですが、この部分は作中の舞台と同じく戦争末期に宮崎県へ疎開していた原作者の梶原先生、少年の日の体験をそのまま描いているといいます。しかし生き残った梶原先生と違い、作中の弘信くんは近所の子らと国民学校へ登校の途中で空襲してきた敵機に狙い撃ちされて無残にも殺されました。そう、アメリカ軍は戦争と関係ない女子供まで目に入る者は皆殺しにするべく動いていた悪鬼だったのも史実。

弘信くんの仇も取らなくてはならない正人は、ようやく特攻隊員として出撃しますが、まさかの事態が…敵と刺し違えて命を捨てる気で乗った戦闘機が故障し、海に墜落して沖縄諸島・伊江島に漂流。既にアメリカの占領下にあったこの島で捕虜にされ、殺されもせずに生き恥をかかされるのです。
何度も自殺を試みますが邪魔されたりして果たせず、ついに終戦。広島の原爆投下でキノコ雲の後、焼かれた一般市民が蠢く「はだしのゲン」ばりな描写もありました。断末魔の日本に対する卑劣なソ連軍の参戦、そして長崎の原爆投下の日に皇居内の防空壕で行われた御前会議…こちらはゲンよりも史実に忠実に天皇陛下やその言葉が描かれ、物語は敗戦後の日本へ。

「火乃家の兄弟」のタイトルでスタートした本作は兄が死んで火乃兄弟の兄弟愛を描く部分が終わっており、ここからは生き残った弟・火乃正人だけに焦点を当てた「青春山脈」へと移行します。
昭和二十一年の東京。アメリカの占領軍がのさばり、暴れている所を特攻くずれ…いや捕虜くずれの正人が「空手バカ一代」の大山倍達みたいに叩く。それからMPに追われている所で、落ちぶれて靴みがきをしている水上明子と運命の再会!しかもその隣には兄の忘れ形見で幼い直樹、つまり正人の甥がいた!失意の正人に生きがいが生まれるものの、ボロをまとう水上明子の心は貴族、世話にならぬようまた姿を消してしまいました。

敗戦日本の混乱は社会に悲劇や悪と共に暴力をはびこらせています。考えてみたらこの時は侍が刀持ってた時代よりもバイオレンス日本。
『暴力!! 日本人はもちろん台湾人 朝鮮人らをまじえた暴力組織を 悪魔のおとし子のようにそだてつつあった!』
という事で恐ろしい無法地帯と化した東京で、次に登場する正人は『ステゴロの火乃正』として名をはせています。ステゴロ(素手のケンカ)を道楽とし、暴力団専門にケンカを売り歩く東京暴力街の『脅威の疫病神』となった正人は、身辺に集まってきた押しかけ子分らとステゴロ一家を形成されていくのです。
…こうしてあらすじを書くのは簡単ですが、その端々でなかなか重厚な人間描写を見せてくれる本作。続きはまた次回です。


こいつも人間じゃないか 鬼畜アメリカなんていうが ただ目の色ひふの色がちがうだけで・・・・すっかり おびえきってやがる
鬼畜というなら・・・・短剣をふりおろそうとした おれの顔だって鬼そのものだったろう



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  1. 2014/10/05(日) 23:00:09|
  2. 梶原一騎
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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