大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

梶原一騎(62) かざま鋭二 3 「青春山脈」 2

前回に引き続き、梶原一騎原作、かざま鋭二劇画の「青春山脈」(講談社刊)です。
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当初は「火乃家の兄弟」としてスタートしたこの作品ですが、兄・直彦の方を亡くすまではあくまで『序章』。つまり「青春山脈」としては、主人公が火乃正人だけになった所からが本編です。
戦後の暴力が渦巻く東京を舞台に、ステゴロ火乃正として裏社会で生きる正人。まだ兄がいた兄弟編以降は、世相を反影して実録的だった部分が影を潜めてヒーロー物に、つまりこの火乃正のカッコよさ、そして『男』を描くための作品になったと言えるかもしれません。

生きる目的を見失って新興暴力団ステゴロ一家を形成し、ケンカを重ねるうちに敵対した構成員1500人の大組織・御神火組の用心棒で剣道五段の男と戦い、5巻からの表紙を見てお分かりのように頬キズが出来ました。
御神火組へは一人でダイナマイト巻いて単身乗り込んで男を上げ、配下も増えて悪名で世間の有名人にもなった火乃正。初恋の人だった春日先生も新聞記事で火乃正が生きてた事を知り、新宿の角筈に構えた事務所へ訪ねてくるも冷たく追い返す。一人になって思い出で涙も流す火乃正ですが、教師にヤクザの知り合いがいてはいけないという配慮からでしょう。

ステゴロ一家は義賊のような活動もしていて、権力者からヤバイ橋を渡って奪った食糧で、闇市に豪華な5円ゾースイを提供する。そのおかげで、甥の直樹と涙の再会。病床にある母、つまり生前に兄が愛した水上晶子に食料を届けるためにゾースイをもらいに来ていたのですが、元ブルジョア令嬢の晶子が、今は薬も買えずに劣悪な環境の戦災者寮で寝たきりになっていました。
今度こそ誇り高い親子が義弟の世話になるのを嫌って逃げないよう、火乃正は晶子には一切姿を見せずに陰から覗くだけにして匿名で助けるのです。医者は『コジキのふきだまり』などと言って行きたがらない戦災者寮へ札束で行かせ、帝都大病院にも入院させました。さらに今後のケアのため、ゼニカネにがめつくなってまで晶子と直樹を守る事に尽くすのでした。

そう…あとの物語は全て、この二人を幸せにするためにする火乃正の奉仕行動を描いているようなもの!

御神火組の兄弟分・鬼門組が復讐に立ち上がった時には、新聞沙汰になって回復した晶子に汚い暴力団である自分の存在がバレると治療費の出所も勘付くからまずいというので逃げ回るし、直樹が火乃正に憧れてヤクザを英雄視して乱暴な子になってしまうと、わざとカッコ悪い姿を見せて幻滅させるほどです。
鬼門組の魔の手は迫り、刃物(ヤッパ)の政、焼肉屋キム…プロの殺し屋達が次々と襲ってくるのを退けますが、ついに水上母子の存在を嗅ぎ付けられて二人が誘拐されました!
ヤクザの親分となった事を死ぬほど後悔する火乃正は、多人数で機関銃まで待ち構えている鬼門組に貯水タンクをガソリンで満タンにした消防車で乗り込み、見事に人質を救出する。火乃正を見ているとケンカの天才は結局ひらめき、頭脳の方も天才じゃないといけないのだと思いますね。この後も見れますが、ありとあらゆる周囲の状況を利用する戦法は見事。

この件で懲役12年の刑に処せられ、自分よりもはるかに大事で愛しい水上母子ともお別れです。
網走番外地にて服役した火乃正は模範囚として囚人作業にも従事し、面接に来た義姉の晶子に『直樹に前科者の身内はいりません』と言って今後は赤の他人になる事を宣言。
帰りの網走駅、別名"なみだ駅"と呼ばれるこの駅を去る晶子は『火乃正人・・・・・・・・おおきな人!なんら代償をもとめない・・・・・・・・おおきい かなしい愛!!』と泣き崩れる。本作のこういった浪花節的部分には私、最初に読んだ若い時よりも歳を重ねてはるかに泣けるようになりました。

十余年の服役期間を終えて網走刑務所を出た火乃正を迎えたのは、今は結婚して子供もいて、当然歳も取っている初恋の春日先生。あくまで自分に厳しすぎる火乃正は、晶子と同様に春日先生とも別れを告げて東京へ。
先生に水上母子の現在を聞いたため、高校生で死んだ兄貴そっくりになった直樹が現在通う"東陽高等学校"に陰から顔見に行きますが、窓の外から授業の光景まで見て頭いいのを確認している…まぁ、昔の学校はガードゆるかったですからね。
また、独身を通して大田区自由ヶ丘で小さな花屋"フラワー・ショップA"を経営している晶子も遠目で見て去るのですが、まだ鬼門組の残党が残っていました。それどころか現在は"不動興行"と名を変えて大組織にのしあがっており、彼らが火乃正への恨みを晴らすためにまた水上母子までを使って攻撃を仕掛けてくるのです。

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不動興行が放った刺客は、美しく若い女ながら関東甲賀組の二代目・甲賀魔子。このヌンチャクの使い手で強い女が、直樹を誘惑して堕落させて火乃正をおびき出すなんて回りくどいやり方をしますが、結局は魔子の方が火乃正の男気に惚れてしまい、不動興行を敵に回してまで火乃正と組む展開に。
直樹という甥に一方的に愛を注ぐ火乃正ですが、その甥は叔父の心知らずというか魔子に熱い初恋をしているので激しく憎むだけの三角関係となり…複雑な愛憎模様となりますね。
格が違う叔父の真意は愚かな甥には分かりはせず、敵に売るような真似をした時に愛する魔子から
『よくも自分の血肉をわけたおじさんを敵に売れたもんだねっ このキチガイ!裏切者っ ユダ!!』
とまで罵られるショック。
あとで再会した時は『おまえなんかにホレられるなら ブタにすかれたほうがましだよ!』とも言われるし、若くして惚れた女にそこまで嫌われる辛さほど心の地獄は、そうあるまい。

自暴自棄になっている上に不動興行をバックに付けて札付きの不良へ堕落させられる直樹、魔子の親類同然という一家を頼って千葉県勝浦市まで逃亡してみたらそこで裏切りの目に遭う火乃正と魔子。もちろん火乃正の機転でいつも助かりますが。
また東京で不動興行の殺し屋を相手にステゴロ殺法を見せた時は魔子どころか、自分を憎む直樹まで憧れるほどですが、しかし通常のヒーロー物少年漫画と違うのは自分が英雄になってはいけないと、とにかく自らの立場を落とすため魔子に自分を憎ませて若い直樹と仲良くさせるよう仕向けるのですね。登場人物達は踊らされるまま…
何を考えているか分からないのが人間であり、その隠された心理がどうこうと描こうなんて、普通は漫画だとか映画じゃなくて文学の仕事じゃないですか。それをやるのが、梶原作品。
自分は怖気づいたふりして魔子を一度不動興行に渡し、直樹の手でそれを救出させるよう根回しする作戦…結局これ、火乃正は実力と行動力だけでなくとんでもない頭脳の持ち主って事です。直樹は不動興行専務(副首領)・三条大輔の娘で女子高生の季実子をさらって魔子を助けようとするのですが、季実子との会話の中で本筋と直接は関係ない文学、チャールズ・ディケンズのフランス革命モノ長編小説「二都物語」を引き合いに出して愛について論じさせるのも、やはり梶原作品っぽい。

この件が終わった後で三条季実子は直樹のいる東陽高等学校に転校してくるのですが、その目的は『もっとおそろしい敵』の手から身を楯にして守るため。
そう、またも登場して火乃正らの命を狙う強敵とは…ついに登場した鬼門組三代目にあたる不動興行の首領(ドン)、鬼門竜二。かつて火乃正が廃人にした鬼門組初代組長の孫で、15歳にして殺人を犯して(しかも相手は有名なプロレスラー!)今まで特等少年院にいたので出てこなかったのですが、不動興行のふがいなさゆえに脱走してきたのです。
殺しをやらかした時に不吉と災厄のシンボル黒い星の刺青を額に彫り、闇の裏街道を歩む疫病神の一生を決めたという根性者で、現在は18歳。立派な眉毛と額のシンボルのせいか、後の少年漫画「北斗の拳」に登場する聖帝サウザーを思わす風貌であり、帝王ぶりも似ているしもちろん強い。

その鬼門竜二が仙台の地におびき寄せて放った刺客により、火乃正は左腕を失うという重傷を負います。それでも、水上母子を守った後はまた何も言わずに姿を消し、魔子はいい子になって火乃正の願い通り直樹と仲良くする事も誓いました。
今度は竜二自らがフラワー・ショップAに乗り込み、直樹らを人質に取っておびき寄せた火乃正と、奥多摩渓谷でステゴロにて対決。30ページ以上を使ったこの死闘は片腕の火乃正が男を見せて完勝し、竜二は不動興行の解散を宣言して自首します。

が、また残党達が四代目首領(ドン)をかついで結束するという展開で、これではいつまでもダラダラと続いてしまいますね。
しかもその四代目が、竜二の腹違いの兄妹でブラックローザ・ユキというハーフの娘。しかもこの『混血ギャング』は女子プロレスラーで本場アメリカの中量級チャンピオン!この時点で作品は昭和三十年になっており、女子プロが日本で産声を上げた時らしいです。
今度はリングで合法的な殺しをするため魔子を女子プロレスにおびき寄せる…って、ヒロインが今度はレスラーになるなんて、本作はもう歴史に沿ったリアル趣向であり文学的でもあった『火乃家の兄弟編』からとてつもなく離れ、漫画的な展開になっていく一方です。
まだまだ漫画は子供が読む物であり青年漫画はほとんどなかった時代の事、前半のままのカラーでは当時の少年読者がついてこれなかったので、意識しての路線変更かもしれませんね。

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ブラックローザ・ユキには『ブラックローザ・スペシャル』という現実ばなれした必殺技を持つのですが…この技はヤバイ!というのも私の世代にはキン肉ドライバーにしか見えないのですが!実際に「キン肉マン」を生んだゆでたまご…それも原作担当の嶋田隆司先生は梶原一騎好きを公言しているので、これが元ネタの可能性は高い。
しかもアメリカで育ったブラックローザ・ユキの過去語りによると、レスラー養成機関として男子プロレスにはかの有名なタイガー・ホール(虎の穴)があるが、『女子プロレスにはスネーク・ホール(蛇の穴)がある!』という事で、彼女は父がFBIに射殺されてから12歳でそこに入って年後に卒業したと言います。
卒業するか死体になるかしか出る方法がない秘密ジムの地獄訓練具合といい、「タイガーマスク」とリンクしてきましたね。

考えてみれば梶原先生は後に中城健画で「おんなプロレス地獄変 女子レスラー紅子」を描いているし(逮捕により連載中止し、単行本も未刊行のレア作品となっています)、まだまだ女子プロレスを描く意欲もあったのでしょうね。
しかしその後の漫画史を見ても、ジャンル自体マイナーすぎる『女子プロレス漫画』でヒット作ってあるかな…かろうじて中村慶吾先生の「遥かなるリング」が思い付く程度ですか。
女子プロ漫画を描くのは全然悪くありませんが、「青春山脈」は実際の歴史と絡めたリアル路線の作品だっただけに、何もこの作品で女子プロをやらなくてもいいだろうと思ってしまします。それもタイガーマスクばりの荒唐無稽な背景まで用意して!

ともかくここまで強い蛇の穴出身のブラックローザ・ユキ相手に、空手はけっこうやるものの元暴力団組長でケンカ慣れしているだけの甲賀魔子ではリングで勝ち目は無い。そこで火乃正が登場し、彼が半生かけたステゴロの極意を直伝するのです。
いよいよ迎えた対決の日、激しい死闘の末に魔子はキン肉ドライバー…いや、ブラックローザ・スペシャルを破ります!勝負には負けてしまいますが、この大善戦でブラックローザ・ユキは不動興行に魔子その他の周囲の人に手を出さない事を命令し、その後でバックに付くマフィアに消されてしまいました。
これにてようやく平和が訪れた水上母子と、魔子。そして火乃正はまた、姿を消す。

それから十年の歳月が流れ…昭和四十四年。
片腕の男が我が身を挺して子供を交通事故から救った美談が新聞に載ったため、水上家がそれは火乃正に違いないと気付いて入院先を訪れ、再会。晶子も火乃正も白髪混じりになり、直樹と魔子は結婚して正樹(火乃正から一字貰っている)という長男を産んでいます。
特攻隊で死んだ兄・火乃直彦の孫を抱いて涙を流す火乃正でした。

またも十年の歳月が流れて昭和五十四年、最終巻でようやく連載中のリアルタイムに追いついて…高度経済成長を遂げた日本。
あれから火乃正(50代にして頭髪は完全に真っ白)も素直に風来坊人生をやめて水上家に入り、孫の正樹を可愛がりながら"フラワーAマンション"の管理人をしながら余生を過ごしています。一階にはちゃんと"フラワー・ショップA"が入り、ここは水上家が建てたマンションらしいのですが、花屋一軒からマンションを建てるまでなんて儲かるものなのでしょうか。

心配の種は、成長した正樹が弱虫なのにわがままな中学生になっている事。水上家を守るために片腕を失くした火乃正を、キャッチボール出来ないからと笑いものにするひどさでは、読者は好感の持ちようもないガキ…これも火乃正の猫可愛がりのせいですが。
そのうちに正樹は火乃正の過去を知り、すると今度はそれを利用してクラスで威張り散らす腐った根性しています。どうやら映画で「実録・戦後暴力団史」というのがあり、それに火乃正をモデルにしたステゴロ・グループのボス、ステゴロ飛竜というのを菅原文太が主演で演じているらしいのです。もちろん作中作ですが、その文太兄ぃを見てみたい!
父の直樹もバックの力で学校の番長も従えた事がありましたが、さらに火乃の血が薄くなった正樹はもっとクズなだけに、自分を笑いものにした女子を全裸に剥いてプールに放り込んだりまでしています。当然ながら学校や住民の間で騒ぎになり、火乃正は責任を取って家出。故郷である熊本の阿蘇へ去ると他の梶原一騎作品の名作で活躍した主人公たちのように、悲劇のラストを迎えるのでした。

梶原一騎先生が得意としたのは男の世界、そしてその中でも男度が高いのが本編の主人公・ステゴロ火乃正(火乃正人)でした。何しろ他の多くの主人公達のように迷いもなく、我が身を犠牲にして他者に尽くす…それだけに遠すぎるキャラとなった部分もあるかもしれませんが、私の中で『男の中の男』像といえば火乃正。
一度としてジョーや飛雄馬らのように栄光を得る事もなく(ヤクザ社会では一時名を上げましたが)、でも彼らと同じように妻や子を作るような一般家庭の幸せを得る事もなく、何も残さずに消えてゆく。
最後の回想シーンで、自分が命をかけて守ってきた水上晶子を、実は愛していたのではないかと考えかけて止めました。彼女は亡き兄がただ一人愛した女性であって愛してはならない人であるし、それを認めては今までの自己犠牲も不純なものになる、と。
うーん…ここまできてようやく、この物語は「無法松の一生」の梶原版だったのかとも思えるのでした。

最終巻の巻末には、かざま鋭二先生の単独作品だと思いますが高校野球モノの短編「白球と赤いバラ」が併録されています。

最後にまんが専門誌 ぱふ(清彗社刊)の1980年1・2月号。
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これは『特集・林静一の世界』の号であり、表紙は真崎守先生が手がけているだけで素晴らしいのですが、同時に『梶原一騎小特集』も収録されており、その記事の内容が濃い!
仕入れた時は随分と梶原情報を得る参考にもさせて頂いたものですが、漫画評論家の高宮成河氏による「挌斗宇宙の創造者」という素晴らしい文章の中で「青春山脈」についても触れられていて、本作の火乃正を『特攻帰りの大山倍達がもし空手の世界に入らなかったら』を前提として描いていると論じていました。
それから斉藤正浩氏により、梶原一騎先生ご本人へのインタビューも行われているから要チェックですよ!


正樹は泣く 泣く ひたすら泣く
しかしいつの日か彼は悟るであろう
彼の祖父直彦と正人の 火乃家の兄弟が この阿蘇山であれば・・・・
となりの山は祖母晶子であり・・・・
そのまたとなりの山は父直樹と母魔子たちであって・・・・
さらに正樹の山とつらなりつづき
きびしく起伏する「青春山脈」であることを悟るであろう



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  1. 2014/10/09(木) 23:00:19|
  2. 梶原一騎
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  1. 2014/10/14(火) 08:10:03 |
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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