梶原一騎作、
荘司としお画による名作…
「夕やけ番長」(
サンケイ出版刊)です。

オリジナル単行本は
秋田書店のサンデーコミックスで全17巻なのですが、私はサンケイ出版の全集…つまり
『梶原一騎傑作全集』の全15巻、横尾忠則による解説付きので揃えてしまいました。
この全集は見つけるとよく買っていた好きな本ではあるのですが、しかしこの1986年刊行の版は後でオリジナルと比べてみたら『不適切な表現』を改竄されまくっている事が判明したので、いつかサンデーコミックスでも揃えないとなりませんね。
さてこの
「夕やけ番長」、初出は秋田書店の月刊漫画雑誌
冒険王で1967年から 1971年ですが、連載途中に同じ秋田書店から創刊された
少年チャンピオン(当時は隔週刊)でもサイドストーリーが1969年から翌年まで掲載されていて、テレビアニメ化もした人気作品。
作画者である荘司としお先生については今まで触れていませんでしたが、1941年生まれの長崎県出身。
貝塚ひろし先生のアシスタントを経て人気漫画家になった方ですが、本作と並んで代表作として双璧を成すのは長編自転車漫画
「サイクル野郎」でしょう。
主人公は群馬県から東京の
"木曽中学校"に転校してきた
赤城忠治。
赤城山で育って国定忠治と同じ名前…よほど両親が好きだったのでしょうが、赤城忠治も国定忠治に憧れており、人情に厚くて強気をくじき弱気を助ける熱血漢です。体は小さいけど運動能力が並外れていて、特にケンカの強さは天才的。
彼の生い立ちを見てみると、まず祖父の剛造は柔術の達人ですが、かつて試合で人を殺してしまい虚しさを感じて山に入って炭焼きをしながら暮らしていました。共に山で暮らしていた、その息子は登山家相手の山小屋を建て、そこで出会った美しい女流登山家と結ばれる…これが忠治の両親となるのですが、彼らは人助け、それもばかども、いかれた若い男女のグループを助けるために雪崩の犠牲になって亡くなっています。
そして、後に祖父と二人で上京して木曽中に転入する所から、この物語が始まるのです。彼らの東京での住居は、何と電車!古くて使い物にならなくなり、貧乏人の住宅に払い下げされた都電です。電車ハウス内部の図解なんかも付いていて、秘密基地っぽくて楽しそうな家ですね。
その前に…今作における記念すべき第一話の冒頭、最初に登場するのは本作の語り部である
青木輝夫、あだ名は
インテリ。いきなりガラの悪い学生達にからまれて殴られていますが、
『木曽中 くそ中 不良中』と呼ばれる木曽中学生だと知れたらもっとやられるのに、あえて校章入りの帽子を取り出してかぶる。どんな不良中でも母校を裏切りたくないと、弱虫のくせに格好いい頑固さを見せた所へ、夕やけの中から忠治が登場するというのが導入部。
このシーンはずっと後、この作品からちょうど20年後に生まれる名作、荒木飛呂彦先生の
「ジョジョの奇妙な冒険」でも同じく記念すべき第一話、当初は弱虫の主人公ジョナサン・ジョースターが、ジョースター家の者だとバレたらもっとやられるのに、あえて自分の名前入りハンカチを見えるように使うという形で引用しています。荒木先生は
「夕やけ番長」におけるこのインテリの姿に、描きたかったジョナサンが目指す『紳士道』を見たのでしょうね。
ちなみにこのインテリ、もちろん忠治の同級生になるのですが、全て対照的なキャラ。つまり忠治とは真逆で勉強は出来るがスポーツは苦手。しかし二人に共通する設定は、貧乏。いや、動かない電車に住む忠治に輪をかけて貧乏で、苦手な体育の時間になると、この時代にしてもいくら何でもひどい、つぎはぎだらけのシャツを着ています。生活保護家庭だといいますが…。ともかく彼は、自ら嫌われ役を演じる事が多い主人公の一番の理解者。
他の主要キャラは、赤城忠治の入る1年B組にあと3人います。
荒木又衛門と呼ばれる担任教師の
荒木先生、ヒロインの美少女で勉強も運動も出来る
水の江洋子、そして『番長連合』の一員である
小瀬小次郎。
出ましたよ番長連合…木曽中ではこれが組織化された大組織らしく、1年各クラスの番長は平幹部、2年各クラスの番長は中幹部、そして3年生は大幹部という構成で、この番長連合が忠治と対立する事になるのです。平幹部にすぎない小瀬は
『名前の通りこせこせと』している小物ですが、ケンカは弱いものの口が達者で悪知恵も働き、番長連合で影響力を持っているのですね。こいつが忠治憎しと争いをしかけてくる、と。
ただし番長連合が味わうのは忠治の天才的なケンカの強さ。持ち前の運動神経を活用して『ギャハハハ』と笑いながら敵を倒していくし、そのための作戦やひらめきも天才的。
多摩川にかかる橋の上での決闘でリーダー格の
関取番長も倒してしましますが、しかし番長連合には
『かげの大番長』と呼ばれる黒幕が存在するのでした…
その正体を現すまでに時間をかけていますが、しかも友達のふりして忠治に近づいて2週間も一緒に勉強してみたりして、回りくどい。結局正体は木曽中にとってカツアゲのカモになっているブルジョア学校、
"白亜学園"の中でも一番の秀才にしてハンサムで金持ち、しかも恐ろしい空手の使い手である
紅小路弘。
赤城忠治VS紅小路弘、この死闘。
スケールのでかい空手に対して、忠治はケンカの天才ゆえのひらめきがあり、自分で寝転んで敵を迎えます。周りは番長連合が囲んでいますが、小瀬はその姿を見て
『おそろしさのあまりテンカンでもおこしたか』とか言ってます。忠治の有利で進んだ闘いでしたが、邪道空手の秘術『トラだまし』を喰らった所で水入りとなりました。
次の決闘場となったある酒場で、忠治はめくらにされたまま血まみれのチェーン・デスマッチでケリをつける。そのダメージで重体となった所を忠治の献血(お互いA型)で助かって心を入れ替え、今度は本当の親友になるのでした。
これで総なめになれた番長連合ですが、小瀬のアイデアにより少年院帰りでウルトラ級の不良少年・
黒部搭介を次期大番長として迎えるのでした。
今度の黒部は頬に傷があって筋金入りの度胸者。少年院では迷い込んだ犬を捕まえてよく食べてたほどで、野獣のムードを持つ男。しかも実際は高校2年生の歳なのに、少年院にいたため中学3年生からやり直すという者なので、忠治より4歳も年上。木曽中の番長連合が不良少年ぶっていても口先だけでいやらしいと、片っ端から実演して倒しながらケンカ殺法をコーチする骨っぽい所もあります。
こいつが白亜学園の生徒に手を出したために出てきた紅小路弘を返り討ちにして、紅小路と親友の契りを交わしている忠治が次に戦う流れは、素晴らしく燃えるもの。ケンカの寂しさ、虚しさも語りながら、やはりやるしかない…

(↑3巻の赤白ボーダーシャツを着ているのは忠治と同じ電車ハウス地帯に住む少年で、彼を親分と仰ぐ
勘太郎)
黒部搭介、この強敵を相手にまた死闘を繰り広げるのは確かなのですが、保護観察中の身である黒部は学校に通いながら"北極氷店"で仕事もしていて(氷店って絶滅した職業ですね)、そこで『このくず!!どあほ!!少年院がえり!!』とか罵られ虐待されながら働いている姿を見てしまった赤城忠治。
その性格から視察に来た少年院の係員の手前、命をかけて悪役となって黒部と温室での闘いを繰り広げた忠治は、またもケンカの強さだけでなく心で勝って2人にも感動的な友情が芽生える、と。
そんなわけで黒部を失ったどころか忠治の側につかれてしまった番長連合、それでもしぶとく生き残って次はクラスに転校してきたサーカス団員の
天馬三郎を大番長にして赤城忠治打倒を目指します。こいつが空中ブランコのスターなのもあって『握力の怪物』と呼ばれるほど力持ちで、
「グラップラー刃牙」シリーズの花山薫みたいなものか。『握力×体重×スピード=破壊力』の方程式はともかくとしても、それほど握力がケンカの強さに影響すると教えてくれたキャラ。
忠治がその姉で空中ブランコの相方である
天馬雪江に健気な初恋を抱いたため、自分の男を下げてでも我慢していたのですが…やはり結局はぶつかり、忠治が圧倒的なケンカの天才ぶりを見せる事となりました。
番長連合はついに自分達で合気道を習い始めます。いつも他力で向かってきたクズの小瀬達が、ついに自力で鍛えて向かってきた事が嬉しくて、忠治はわざと投げられたりまでしますが、結局は道場の若先生…
「旗本退屈男」の早乙女主水之介と同じ眉間に三日月形の傷を持つ男ですが、こいつを金で雇って助っ人にした小瀬。
これに忠治は怒り、腕を折られながらも金的蹴りと、合気道の原理を破る攻撃を決めて若先生を撃退。
ついに自分の情けなさにも絶望した小瀬とその他番長連合の面々を、忠治はまた自分が悪役になって同情させる方法…梶原先生の好きな室生犀星の
「あにいもうと」方式で全校生徒に許してもらうのでした。これで番長連合は解散、小瀬も陰でもっと自己犠牲を払っていた忠治の事を知るや、ついに実は最初から強い赤城忠治に憧れていたのに自分とは比べ物にならない男っぷりが憎らしくなって、せめて敵対する事で対等になりたかったのだと涙ながらに告白しました。ここで読者(私)も涙…
ここまでで梶原一騎傑作全集版だと全15巻のうち4巻まででしかないのですが、これで物語は一旦区切りを付けます。
次々と出てくる強敵を倒す少年漫画の黄金律は終了し、木曽中にスポーツ部を作ると赤城忠治のウルトラ運動神経が皆を引っ張って様々なスポーツに挑戦していく展開へと以降します。
学園ドラマでスポーツ万能の主人公がケンカ以外にも各部活・各種スポーツに次々と挑戦して大暴れ、というこのパターンは先立っては
ちばてつや先生の
「ハリスの旋風」、後続でもそのずーっと後…
「さわやか万太郎」などを経て
「コータローまかりとおる!」とかの1980年代くらいまで流行ったパターンです。他にも少年ジャンプの無名で終わった漫画なんかでも、私が子供の頃までは本当によく見られたものですよ。現在では一つの事をする専門家の漫画ばかりになりましたが…
それにしても当時大ヒットしてテレビアニメ化までしているし、コアなファンからは超名作と名高い作品なのに、今ではカジワラー(梶原一騎ファン)以外の漫画読者にはほとんど読み継がれていない
「夕やけ番長」。
タイトルにある
『番長』という死語の響きが古臭さを感じさせるからか、とにかくそんな現状ですね。この題だし初出の時代を考えると今で言う『ヤンキー漫画』の元祖に位置付けられてもいいのですが、結局は梶原一騎原作らしいスポ根モノの名作だと思います。
だからこそ、ケンカは続けるもののここまで早い段階で不良グループである番長連合を一掃し、スポーツで活躍する赤城忠治を描くのです。はい、続きはまた次回。
ふふ・・・・おれにも どういうわけかわからん
ただおれは小さいころから 夕やけあいつが好きだ
カッカと頭にきているときに 夕やけ空をながめていると
みょうに心がしずまってくる
さみしくさえなってきやがるんだ……
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- 2014/10/21(火) 23:59:34|
- 梶原一騎
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おゝ、この作品こそは「不朽の名作」!と思う私は「カジワラー」の資格を有するのでしょうか。
ありがとうBRUCEさん。ついに「約束の橋」?を渡ってくださいましたね。秀和感激であります。
そうですか!そんなにたくさんのトリビュート(オマージュ)作品が後に誕生したのですね。それも嬉しいです。
リアルタイムの「冒険王」にてB5版フルサイズで読めたのは昭和43年3月号か4月号か?まさにその、忠治vs紅小路弘の酒場を舞台の即席チェーンデスマッチの回でした(決着編ですね)。まだ小1の私はその凄惨さに身震いしたものでした!忘れられない名場面。(因みに紅小路の目潰しはまさにトラウマものですね。当時の一線を超えた表現の評価は的を射てますね)
サンデーコミックス全17巻は所有してます。サンケイ出版ヴァージョン全15巻は揃いで持っていましたが、リングス時代の前田日明さんの講演会の約束(一方的ですが)で全巻あげました(リングス事務所宛で送付)。新潟県北蒲原郡聖籠(せいろう)町という所(あっBRUCEさんは判るね)で平成10年に何故か前田さんの講演会がありまして、質問コーナーで挙手して.「夕やけ番長ファン」を自認?してた前田さんに「全巻あげます。秋田とサンケイ、どちらがいいですか?」と。で、サンケイの方を送りました。あとで幾らでも買い戻せると思いました。時は流れ、飛び飛びで購入の未だ最中です。
- 2014/10/22(水) 16:02:02 |
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タハハ。タイトル意味不明になりましたね(ほんとはもっともっと長く書いたのですが、字数超過で、でもちゃんと意味が通じたので、ほぼ前半だけのを送稿いたしました)。これはですね、「冒険王」の読者コーナー「王ちゃんクラブ」なんです。そこのマスコットキャラクターが「王ちゃん」で。「夕やけ番長」の連載は昭和46年3月号で最終回だったようですが、それから3ヶ月あとの6月号を当時買いました(「スペクトルマン」の白アリ怪獣バクラーが表紙を飾った)が、すっかり忘れていた「夕やけ番長」の女の子ファン(「冒険王」読者)のお便りが採用されていまして、「忠治が好きだったのに~。『夕やけ番長』を終わらせちゃうなんて、王ちゃんのバカバカバカ~!」という悲痛な叫びのようなものが本当に載っていたのです。「あゝ『夕やけ番長』って(女の子にも)人気あったんだな~」って当時はもう小5になっていた僕も感じ入り、未だに脳裡にこのことがコビリツイテいるということなんです。
続きを楽しみにしておりますよ。
(赤城忠治にも紅小路弘にも輸血出来ない、B型の秀和です)フフ。
- 2014/10/23(木) 00:32:27 |
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