大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

梶原一騎(64) 荘司としお 2 「夕やけ番長」 2

前回に引き続き、梶原一騎作、荘司としお画の「夕やけ番長」(サンケイ出版刊)です。
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木曽中学校に転校してきた主人公・赤城忠治は、相次ぐ激闘の末にこの学校にはびこる不良グループ『番長連合』を倒し、解散させた番長連合の面子にインテリこと青木輝夫、ヒロインの水の江洋子を加えた人々をスポーツ部として鍛え上げる所から。

激しい特訓で基礎体力を鍛えた後は、まず何のスポーツをやるかの会議で議論を重ねます。
野球は『たかがマリを棒きれでひっぱたく…なにがおもしろいか』、ボクシングは『なぐれるが組みうちはだめだし蹴とばせん』、柔道や剣道は『ぞうきんダンス、棒ふりダンスでいずれも迫力ない』、などと忠治は実際にやってる人に怒られそうな意見を出して反対していますが、彼のごとく命がけの激しいケンカを体験してきた者からしたら、こんなルールに守られたスポーツごときに対する率直な意見ですね。

そこでケンカなどに回すエネルギーを一滴残らず注ぎこめる部活動として…おりしも時代は沢村忠ブームでもあり、『キックボクシング部』を旗揚げする事に決定!
皆が一丸となって練習し、逞しくなっていくのですが、いつも問題は口先番長ながら番長連合で最も影響力の強かった小瀬小次郎。憎しみをもって敵対していたかに見えた彼も忠治に降参し、憧れを持っていた本心を告白した後は本当の仲間になるのですが、口は災いの元でトラブルメーカーである事は変わりません。
わざわざ強敵をつついて忠治に迷惑をかけまくるのですが…彼の相次ぐヘマをインテリは、
『もしや小瀬には 自分でも意識せずへまをやって赤城をピンチに追いこみ そしてあこがれの赤城の強さ無敵ぶりを見物したい たしかめたい心理があるんじゃないか?』
と分析しています。

このキックボクシング編では、小瀬が調子に乗って路上で早乙女高校の弱虫・鮫川小判太を蹴り、この兄貴が高校空手界の王者・鮫川巨鯨だった事で、木曽中キックボクシング部VS早乙女高空手部が多摩川の川原でデス・マッチで決着!とまで発展するのです。
チビの中学生(しかも1年生)である忠治が戦う鮫川という高校生が、体格はでかい上に空手三段の怪物。初めて会った時は『怪物フランケンシュタインとプロレスの馬場をたして二でわったごとき顔!』と驚いたほどインパクトある奴を相手に、しかも他の空手部員達をケンカ好きの血が前後の見境なくたぎった証拠の『ギャハハハ』笑いと共に勝ち抜いた後でも、何とかしてしまうのがケンカの天才。応援に来た紅小路弘曰く、
『ケンカ殺法も………あの境地までたっすると もはや芸術の域』
だというわけで、忠治の勝利。こう書けば簡単ですが、そこに至るまでの感動的な過程も是非本編で読んで頂きたい。

この血まみれの勝利を機に物騒なキックボクシング部は解散し、新たに中学生らしいスポーツ活動として野球部・サッカー部・水泳部・柔道部・バレーボール部・卓球部・陸上部などを木曽中に誕生させる事となりました。
それでは、忠治が最初に難癖を付けてこれらの活動に反対していたのは何故だったのか。地上最高の荒々しいスポーツであるキックボクシングを最初にやった事で、それが全てのスポーツの要素を一切合財含んでいたから他のどんな種目にも応用出来ると目論んでの事だったのです。
これで元番長連合の面々が各スポーツ部のリーダーとして、全校生徒に愛され信頼されるようになるのでした。もちろんどの部に入ろうがスターになれた忠治自身は脇役に回って。

と、ここで終業式を迎え、赤城忠治、クラスメイトのインテリ、水の江、小瀬らは次から二年生に進級するし、黒部搭介その他ほとんどの番長連合幹部は『真の男の友情と生き方を教えてくれた』忠治に対して感謝の涙を流して卒業していきました。
この春休みのタイミングでは、学校以外の忠治の冒険が描かれます。今までのような強敵が出てくるわけではないのですが…いや日本海の漁村で猟師達と命がけの泳ぎ勝負をしたり、奥多摩の鳩の巣キャンプ場でフーテン族と決戦したり、赤倉のスキー場では二億円強奪のギャング団と戦うので拳銃までも相手にしているし、鬼門港(これは架空の地名ですかね)でタコ部屋に入れられたり、ボクシングのリングに上がったりと危ない目には遭っていますが、あくまで番外編的な感じなので結果的に忠治がカッコいい所を見せて、その話だけゲスト出演の男にも女にも好かれて、話があっさりと完結していきます。
これら短編の中にも例のマイホーム主義批判や、その他梶原一騎節の人生訓が織り込まれており、出来は良い話ばかりだと思います。

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中学二年生になった忠治は、スポーツ部の歴史ゼロの木曽中で各部を順々に助っ人として渡り歩いて強くしていく事となりました。
その第一弾で柔道部に参加しますが、サッカー部の部長に抜擢された小瀬が"明星中学校"に練習試合でボロ負けした腹いせに柔道部にケンカ売ってきて、今度は忠治がこの名門校の荒尾雷太を相手しなくてはならなくなる。
こせこせした小瀬の口八丁、災いを呼ぶ惨めな男は作中ずっと治らないのですが、まぁ考えてみたら彼がわざわざ嵐を呼ぶ事によって少年漫画としては盛り上がるわけです。

そして物語は次の野球編に突入。ついに非格闘系スポーツです。
さしもの忠治も広い平野の無い山育ちゆえに団体競技、特に野球経験はゼロとの事で、始めてみたら上手くいかずに苦労続き。ウルトラ運動神経を持つ忠治が野球は下手な様を見た水の江洋子曰く、
『野蛮人なんだわ!!かれの野蛮で でっかすぎるエネルギーは お上品な野球みたいな近代スポーツには おさまりきれないんだわ』
との事。とはいえ守備は受け身でガラじゃないので失敗続きでしたが、打撃はタマを引っぱたくすなわち攻撃なので、最初から超強打者。代打専門で助っ人になる事で落ち着き、打撃練習を始めるのでした。
それが大木にエキスパンダーを括り付けて手首に付けたつり革の輪と結び…テレビでよく見たやつ、つまり「巨人の星」の"大リーグボール養成ギプス"は投手用ですが打者用として忠治が考案した"ホームラン養成ギプス"にて鍛えます。電車ハウス前で勘太郎とする特訓シーンでも、星家の親子のパロディがありますよ。

しかし…もう卒業した親友の紅小路弘がいたブルジョア学校"白亜学園"との練習試合で、エース・疾風進の投げるカーブにコロリとやられてサヨナラ三振で終わってしまいました。
カーブを知らなかった忠治なので無理もないのですが、不可能を知らないヒーローだった彼が初めて惨めな姿をさらすと同時に、『たかがマリころが 命のないボールが あんなにおそろしく空間でまがりやがる』野球の凄さを知って、再度挑戦するのです。
下手糞な木曽中野球部にペコペコして練習し、他にもある秘密特訓までしている姿を見たインテリは、
『男がなにかをやろうとする姿とは……あれだ………あれなんだ!!』
と涙を流す。
その裏で小瀬が疾風に変化球を投げないように脅すという卑怯な手を使いますが、小瀬は小瀬でどうあがいても自分は英雄になれないから忠治に夢を託し、英雄であって欲しいと願う悲しい心あっての事。
もちろん忠治VS疾風の野球再戦は、変化球打ちをマスターした忠治の圧倒的な勝ちで終わりました。

どこの部からも引っ張りだこの忠治が、次に助っ人する部として選んだのは…水泳部!
『大利根の流れでウブ湯をつかった』と自称する忠治の泳ぎが達者なのは今作では何度も表されていますが、実際にプールでコースを泳いでみても水泳部達に『まるで人間魚雷だ』と感心される速さ。しかしまた水泳でもライバルが現れてレースをやるのだとしたら、この漫画においては地味すぎますよね。
ご安心ください、区内中学水泳大会で木曽中水泳部を優勝に導く決意をするしラストは事実優勝しますが、それよりそのために合宿で行ったK海岸での出来事がこの話の主になります。
新宿を根城にするフーテンの一派が流れてきていて、そいつら(特にリーダーのクレイジー・ドッグ ヘンリー)と対立する話ですから。この狂犬ヘンリーは『白人との混血児』なのですが肌の色は何故か黒人に近い。激しく日焼けしたのでしょうか。そして頬には派手な傷を持つこの男、世間にいじめられた恨みでひねた性格してますがバカ強い。
そいつと、いつも通りオッチョコチョイの疫病神・小瀬が災いを呼んで忠治は決闘する事になるのです。

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一つの部を強くし終わると、また始まるのが各部の忠治を狙うスカウト合戦。次は、レスリング部です。
ここでは女子プロレスの興行で街を訪れた全関東チャンピオンのアトミック・ローザとの関わりが描かれます。まず、このローザを見た木曽中レスリング部の連中はポワーンとして
『地上最大のボイン……目もさめるカワイコチャン!! マリリン・モンローか はたまたジーナ・ロロブリジーダか』
と驚くほど美人。それより私が気になるのは、そのボインなバストを持ちながら確実にノーブラで、私服でも女子プロ衣装でも乳首がクッキリ浮かんで見えている事!そして作中誰もそこに突っ込まない事!

忠治はローザの兄でかつてオリンピックで金メダルを有力視されながら事故で片腕を失った悲劇の男・北上哲也にレスリングを習う事となり、"白雲高校"の南郷主将というアマレス王に挑戦。途中で『もどかしくってイライラして』、極左暴力集団・革マル派のデモに乱入して暴れたりして、自分のダメさ加減による葛藤だとか忠治の珍しい一面も見せますね。ローザは客に技より色気を見せろと要求されるし、北上兄妹の悲しさが伝染したのでしょう。
一途にレスリングをやった忠治はちょっと「柔道一直線」の地獄車を思い出す『波のり固め』で南郷主将に勝利。これと並行して描かれていた忠治らの担任教師・荒木又衛門のローザに対する恋は失恋に終わったけれど…

レスリング部も大会で優勝させると、忠治が次に入るのは小瀬が主将を務めるサッカー部。
サッカーもルールすら知らない状態からスタートするのですが、結局何をやるにも重要なのは彼のような野獣の運動神経…そしてゴールキーパーのポジションでケンカを応用したウルトラ才能を発揮します。
このサッカー編でも強力なライバルが登場しますが、今度はサッカーの歴史が浅い日本人ではなくアメリカン・スクールのサッカー部主将ロバート・ダグラス、ニックネームはペレ二世という黒人選手です!
小瀬がまた先走ってスパイをしたのを捕まえると、『人間ボール』にしてリンチを加える残忍なアメリカ人たち。それを救いに行った忠治は、
『なるほど こういう残酷ガキどもの父親や兄貴が ベトナムのソンミ村の大虐殺なんて悪鬼のまねをやらかすんだとな』
と納得。

こうして燃え上がって迎えた対抗戦。日本人独特の外人コンプレックスは応援団にも現れていますが、味方が得点してくれる可能性は絶望、とにかく忠治のキーパーが打たれまくるシュートを止めるだけの展開で…
ロバートが放ったオーバーヘッドキックの神技で、ついに1点取られて敗れてしまいました。
あの忠治がそこで諦めるわけはなく、雪山での激しい合宿の末に再戦。この感動的な展開を見せる試合では今度こそロバートのオーバーヘッドキックもパンチで返して試合にも勝利するのでした。

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ここで少年チャンピオンで掲載された方のサイドストーリー的な短編を挟みますが、これがまたレベル高い!
冒険王掲載の本編と差別化を図っているのか学校生活以外の忠治達を描いていて、まず私が大好きな「友情論」の巻。インテリの母が悪徳タクシー会社にはねられた事で巻き起こる騒動を描いていますが、ベートーベンやキケロの友情に対する言葉を聞いた忠治自身の友情論、
『自分のわずかの金を友にめぐむもいい あたえるのもいいが 金をめぐんだことも恩をあたえたことも はじめから相手に気づかせなければ なおよろしい』
という、まさに彼の行動を言い表した言葉の意味を見てください。

次の「.黒い夕やけ」の巻は、祭りで出会った幸の薄い少女ユキちゃん。盲目の上に貧乏な生活保護受給の母子家庭で、忠治が買ってあげたヒヨコが成長したらオスだった事が原因で騒音問題になってボロアパート"天国荘"の住人達にも嫌われて…でもその鶏、コケ助がユキちゃんの唯一の友達になるのですが、あまりにも悲しい結末を迎える話です。

「赤城忠治と国定忠治」の巻では、冬休みの宿題として出た偉人伝の題材を、忠治が憧れる侠客で名前が同じ国定忠治に定めて取材を兼ねて帰省するのですが…
水之江、インテリ、小瀬を連れて帰った赤城の山にて、図書館の文献で調べた国定忠治の生涯は後の講談や小説などで知る有名な姿とはかけ離れたクズの物だった!一つ一つ、夢が崩れていき心に大きな傷を負った忠治。
いたたまれない彼は無法者から警官までを相手に大暴れするのですが、それは実在のではなく今まで憧れたままの国定忠治の通りに自分がなるのだという決意の行動でした。

さらに小瀬がいつもの口八丁で強いと思わせてチビっ子達を子分にするのですが、調子に乗るのが過ぎて"伝馬高校"の大番長で極悪面した剣山大吾と多摩川の川原で決闘をするはめになる騒動を描いた「ケンカの道教えます」の巻、いつものメンバーにて上野で花見をした時に出会った特攻隊の生き残りと出会って話した事により戦争に行った勇士に達に代わって怒り、ヤクザや全学連をタルんだ現代人の代表として相手にして大暴れする「花は桜木 男は忠治」の巻、大阪から転校してきて暴れる女番長・大山泰子を描いた「女番長まかり通る」の巻…そして!

次は「番長王座決定戦」の巻です。
凄いですよね、番長王座決定戦って…これは現在の格闘漫画などが必ず『最強を決定するトーナメント戦』ばかりになっている、この現状を先取りしているのか!?
まぁそこまででもなく、区内のあらゆる中学・高校の番長をズラリと並べて『真の番長の条件』を競い合う、というくだらなすぎる企画にある理由から忠治も参加しますが、実質的にはライバルは"紅華高校"の番長で眼帯の男・渡源平ただ一人。
この決定戦発案者で女王様的なブルジョア令嬢の牧ルリ子は『オリンピック急にスケール雄大』とか言ってるわりには参加者10人程度ですけどね。このルリ子が定めた七つの競技が行われるのですが、もちろん最後の七つ目で忠治は渡源平と激しいデス・マッチを戦った上で優勝します。しかも渡源平はこの番長王座決定戦のために幾多の犯罪を犯しているので、最後は警察に逮捕されるという結末。

それはそうと、ここで一つ…本作「夕やけ番長」の舞台はどこなのか。それがこの話で明らかになりましたね。
今までにも『区内』とか『都大会』という言葉も出ていたので東京都である事は間違いなく、赤城忠治が群馬県から転校してきた先の木曽中学校や住居は多摩川沿いある事も分かっていたのですが、ここで牧ルリ子からの手紙ですよ。
まず番長王座決定戦自体が『区内』の学校の番長を集めており、その手紙に明記されているルリ子の住所が『東京都世田谷区野沢』なんです。つまり木曽中は世田谷区内の学校でした!確かに世田谷区には多摩川が通ってますが、あの川原で番長たちが戦っていたのですね。

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さてさて、赤城忠治の助っ人戦略でスポーツの名門校のようになってきた木曽中ですが、最後はボクシング部!
ケンカの天才、忠治がボクシングならまさに水を得た魚です。次々と他校と対抗試合をしては、どれも1分以内でのKOを重ねる忠治、『秒の殺し屋』との異名も貰って…「あしたのジョー」ばりにクロスカウンターまで使っていますね。
最初から敵無しと思われましたが、やはりこのボクシング編ではその「あしたのジョー」の影が目立ちます。

ボクシング部のまま赤城忠治らも3年生に進学し、今までは助っ人だからと受けなかった部のキャプテンも引き受けるのですが、遅ればせながらこのボクシング編で本作最強のライバルが登場。対校試合のため訪れた"国立あすなろ少年院"で出会った、白椿錠です!
この男、少年院で出会うのに加えて容姿までがジョーのライバル・力石徹に似ています。顔が傷だらけなので、多少ゴツくはなっていますが。元プロという経歴まで同じですが、こちらは国際式ボクサシングではなくキックボクシングと設定を変えていますが。ほぼ同時期に連載されているこの2作、「夕やけ番長」の方が連載開始こそ先であるもののボクシング編は作品終盤なのでこちらが力石徹の後でしょう。
キックボクサー時代のリングネームはダイナマイトフジで、第二の沢村忠と言われてKO率100%の強さでブームも起こしながら流星のようにファンの眼前をかすめて消えたそうですが、その男がこの少年院にいた、と。
暴力団の用心棒もしていた凶暴な相手と戦うのは、ケンカや格闘の天才とはいえまだ中学生の忠治…ボコボコにやられてますが、しかし倒れても立ち上がる。判定勝ちでは面目が立たないと焦る白椿は、試合終了間際に何と跳び蹴りの反則をして負けました。

赤城忠治VS白椿錠、この第二戦は忠治の根性に心理的に圧倒されて反則負けとなった恥をそそぐため、少年院を脱走して多摩川花火大会での決闘。これは屋形船の上から水中でまで戦って忠治有利の時でしたが、白椿が警官に逮捕されて終わり。
第三戦は再び少年院での対抗試合。ボクシングの猛練習をした忠治は第一戦の時より格段に強くなっていて、ダブルノックアウトの引き分け。また10日後に再戦…と、二人の戦いは続くのでした。(何と作中で決着は描かれずにボクシング編は終了)

そうだ、このボクシング編では日本プロボクシング史上最強のボクサーは誰かという興味深い話題が出ていますが、結論的にはピストン堀口であると忠治の担任教師・荒木叉衛門の口を通して原作者の考えが語られています。
彼の凄さをしっかり描いてもいますが、梶原一騎先生は漫画原作を手がける前、1959年の時点で「打たせて撃つ ピストン堀口血戦譜」という小説を新聞で連載しているほどピストン堀口ファンであり、後にそれを原作として影丸譲也先生の手で「ピストン堀口物語」として漫画化されたのはカジワラーならご存知の通り。
ちなみにずーっと後に「はじめの一歩」の影響で日本でも超メジャーなボクサーとなった『マナッサの人殺し』、そしてデンプシー・ロールのジャック・デンプシーも長々と紹介されています。このボクシング王も炭鉱夫などで働くも長続きせず、すき腹をかかえて浮浪生活していた頃に出会った、これまたみすぼらしく食い逃げしていた男がジャック・カーンズ。後にデンプシーを大チャンピオンに育て上げた名マネージャーでした。この二人はそのまま矢吹丈と丹下段平の関係に似ていますが、つまり彼らを参考にしてジョーで活かしたのでしょうか!?

次の小エピソードは「小瀬の初恋」の巻。
新宿の映画館でケンカの強いズベ公に惚れるのですが、この女キャラが「あしたのジョー」に続いて今度は梶原一騎原作二大メジャー作品のもう片方、つまり「巨人の星」に出てくる竜巻グループの女番長・京子(後に左門豊作の妻となるあのズベ公)そっくり。連載期間がほぼ丸かぶりの「巨人の星」「夕やけ番長」なので、どちらが先に登場したかはリアルタイム読者でない私には分からないのですが、別の作画者ながら確実に後続の方が焼き直しています。
性格と容姿に着ているボーダーの服まで一緒ですよ。原作者って服装まで指定するんですかね。『竜巻グループの京子を参考に』とか書いたらそのまま使われたのかな?
ああ、このネエちゃん…小瀬に『小川知子とピンキーと吉永小百合をたして割ったようなタイプ』と言われていますが、アトミック・ローザと同じく乳首がクッキリ浮かんで見えています。本作のボインちゃんは、全員そうなのです!

続く「無名漫画家の日記」の巻、これはプチ「男の条件」…とまではちょっと言えないものの、漫画家を目指す青年が忠治らと出会って成長する様子を描いたエピソード。
上野の花見で忠治がゲバ学生達と乱闘をする、他のエピソードでもあった展開がここでも起きた!
『親のスネかじりのくせに かってな熱ふいたりあばれたり イキがってるバカタレ』と断じてやっつける忠治のカッコよさよ。ゲバ学生だけに日航機よど号乗っ取りの奴等と同じく関係ない母子を人質を取るという『人命尊重の文明社会の美しい弱点を悪用する卑劣きわまりないやり口』までするクズ共に怒り、しかし忠治は口ベタなので口パクで小瀬に悪口を言わせてゲバ学生達を挑発する様はウケました。おまえらのチンポコ三センチ五ミリ!とか言ってるし。

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さて第二学期が始まりましたが、木曽中をクソ中から名門校にまでのし上げた赤城忠治が出席しません。
住居になっている払い下げのチンチン電車ハウスと土地から、持主の区役所と土地を欲しがる業者によって追い立てられ、汚いやり口で電車も壊されたため祖父と共に故郷の赤城山に帰らざるをえなくなりました。
ついに木曽中から転校して去るのか忠治…しかしこの同時に、北見冬彦という転校生が登場。この北見が剣道の達人で木刀を持ち歩き、何より危険すぎる性格をしているために忠治は赤城山への転校を延ばし、木曽中が奈良・京都・大阪・兵庫と関西方面へ行く修学旅行に参加する事にしました。
目的はもちろん、自分が去った後の木曽中に『たんなる不良ってより伝染病みたいなやつ』を残さないためであり、最後の夜に旅館の庭で死闘となるのです。命がけの危ない勝負を忠治は勝利しますが、今までのライバル達のように分かり合ってみれば友情も築ける悲しいワルたちと違い、泰平の世になって増えたこの北見のように、ただ見栄や虚栄からワルに走った悪人を相手にした空しさを感じるのでした…

ところで北見は将棋もお強いらしく、決闘の前に忠治がインテリと将棋指してる所に横から『こう角が動けば王手飛車とりの逆襲じゃないの おつむの弱いインテリさんよ』と口出して邪魔するのですが、しかし盤面の絵を見るとそれ王手飛車とりになんてなっていない…荘司としお先生、さては将棋は素人ですね!?

最後の最後に朝礼で転校の挨拶をしていた忠治の前に、待ったがかかりました!
全国的に有名なスポーツの名門校で先輩の獲得したオリンピックの金メダルだけで10個を超えているという"旭ヶ丘高校"が、赤城忠治をスカウトしようというのです。しかも月謝免除で保護者とも暮らせる寮も提供してくれると申し出ます。
これを受け入れて赤城山に帰らなくてすんだ忠治ですが、実はそれほどスポーツが好きじゃない事を告白し、『肉体をきたえるよか 精神をきたえる人生を歩きたい』なんて考えていたのです。スポーツの才能がなけりゃ意味が無いといわんばかりの世間の風潮に異を唱え、
『スポーツじゃ世の中は進歩しない オリンピックでいくら金メダルとったって その国が一流国とはいえん
 日本を日本人を向上させるのは やっぱし学問 知性教養だよな』

なんて、スポーツ万能で勉強は大の苦手な忠治も気付いているのです。人間がでかくなっています。

木曽中卒業の前に旭ヶ丘高校の寮に入って訓練している忠治ですが、この終盤へ来て新ヒロイン登場か…旭ヶ丘の一年生で『すばらしいグラマー少女』の鳳アケミ。これが忠治に惚れて水の江洋子がヤキモチ焼いて。
そして迎えた正月、泥酔した小瀬が鉄棒から落ちる所をいつも通り彼のスーパーマン・憧れの忠治が助けますが、その際にアキレス腱を切ってしまった!これにてスポーツ選手としても、名門校に進学する新生活の道も切断された、と。
過去にも多くの名スポーツマンがアキレス腱を切って消えていったらしいのですが、としてもアキレス腱ってそんなに大事なんですね。治せないんですか?

三年間 木曽中で忠治に迷惑をかけつづけた小瀬ですが、ついにこの悲劇を生んでしまい、しかも奴がかける迷惑はまだ最後じゃなかった!
自殺して罪をつぐなうとかで家出したので、それを救うため忠治は自分の治療そっちのけで足を引きずって小瀬を探し歩くのです。その際にチンピラに絡まれますが、忠治は我が身にかかる火の粉すら払えずインテリと水の江に助けられるという立場の逆転が描かれます。ケンカの天才はそこまで傷付いてしまった…

小瀬の自殺騒動と時を同じくして、一人の偉大な人物が自殺、いや自決しました。ここで唐突に、今まで名前も一度も出てなかった三島由紀夫のエピソードが語られます。
梶原先生も尊敬していた三島由紀夫が憂国の切腹で諫死した『三島事件』は本作連載中のそれだけ大きすぎる時事ネタだったのですが、日本人の作家としては海外でも最も広く愛読されていた天才作家の死、それもノーベル文学賞候補になるほどの地位と栄光に輝き幸福な家庭もある世紀の文豪が日本の魂のために死んだ事で文学に弱い忠治も涙し、そしてアキレス腱だの高校生活ごときに未練を残している自分を恥じて三島由紀夫を志向するのでした。

小瀬の大迷惑な自殺騒動をも助けた後に今度こそ本当に東京から赤城山へと帰って行く赤城忠治で作品は終了しますが、考えてみれば忠治はケンカやスポーツに強いだけの男ではなく、元々その男気や天使のような精神性が凄かったのです。いつか理想の文武両道をかねそなえた男になるでしょう。
…と、こうして終わるのは多くの名作が悲劇のラストで終わる梶原一騎作品らしからぬハッピーエンドでしょう。翼をもがれたとはいえ、次の希望を見つけているので単純に暗いだけではないのですよね。ええ、彼らの別れに泣きながらも、忠治が必ずやスケールのでかいヤツになってまた再会する事を期待して本作は終了です。

そうそう、本作の単行本を私は大昔に梶原一騎傑作全集版で揃えていたので秋田書店・サンデーコミックスのオリジナル単行本全17巻を持っていない事を前回に書きましたが、そうしたらどうしても欲しくなって...思い立ったが吉日と、早くも入手しちゃいました。
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ちゃんと表紙を見ていくとこの通り。セリフの『不適切な表現』がそのまま残っている、この版で作品紹介もすれば良かったですね。
もう、1巻をちょっと開いただけですぐに、
『あ あいつ きちがいだ
 泣く子もだまる番長連合にたてつくなんて…
 き きっと かたわにされるぞ』
なんてセリフが飛び出していますからね。
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最後に余談。私が小学生時代から大好きだった「ビー・バップ・ハイスクール」(BE-BOP-HIGHSCHOOL)の1巻を読んだ時は、まだ「夕やけ番長」を未読だったために忠公(赤木山忠治)が本作のパロディキャラだった事は気付きませんでした。時代的に無理もありませんが『番長』なんて前時代の生き残りであり、化石みたいな不良として描かれていて、トオル(中間徹)にも『おう!愛高の夕やけ番長とは俺のことだ!!』なんてふざけて言われるくらいなので、やっぱりそういう風に見られていたんだろうな...
しかし「夕やけ番長」の本質は時間の経過で風化するものでもないし、そもそもビー・バップで大笑いされるようなヤバい不良ファションもしていません。ここで笑いものにする番長ってのは「夕やけ番長」ではなく、例えば司敬先生の「昭和バンカラ派」などの服装した人達の事であるのでしょうが、槍玉に挙げられたのはそれだけ「夕やけ番長」の知名度が高かった、という事でしょう。
また、あの「夕やけを見ていた男―評伝 梶原一騎」(新潮社刊)の著者・斎藤貴男氏は、この最強の梶原一騎ノンフィクションでタイトルに『夕やけ』の字を入れ、『夕やけ番長こそ梶原氏の原風景だと指摘』していますが、まさに今作の主人公・赤城忠治の言葉や行動に梶原イズムが全て詰まっています。とにかく、必読の名作です。


あれが………
赤城忠治という男なんだな
だんじてゆるさぬ人間が一種類だけある
自分の持ち場を逃げるやつだ



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  1. 2014/10/30(木) 23:59:39|
  2. 梶原一騎
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3
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コメント

大悟さん、ひさしぶりです。

>ここで笑いものにする番長ってのは、司敬先生の「昭和バンカラ派」などの服装の人達の事であるはずですが

そこで司敬先生の作品を事例に挙げちゃうのは、何かが違うんじゃあないかって言いたいですね……
だいたい番長を笑いモノにすること自体が私としてはその、実に。
  1. 2016/08/15(月) 20:08:49 |
  2. URL |
  3. 流浪牙-NAGARE@KIBA- #-
  4. [ 編集]

>翼をもがれたとはいえ、次の希望を見つけているので単純に暗いだけではないのですよね。
>ええ、彼らの別れに泣きながらも、忠治が必ずやスケールのでかいヤツになってまた再会する事を期待して本作は終了です。

否。彼の日常はこれまで以上に社会の矛盾や人間のエゴに巻き込まれざるを得ない、
いっそう苦しくやりきれないものになるのではないだろうか?
つまり遅かれ早かれ、彼はあの三島由紀夫のように……
  1. 2017/07/24(月) 13:15:10 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

>翼をもがれたとはいえ、次の希望を見つけているので単純に暗いだけではないのですよね。
>ええ、彼らの別れに泣きながらも、忠治が必ずやスケールのでかいヤツになってまた再会する事を期待して本作は終了です。

否。彼の日常はこれまで以上に社会の矛盾や人間のエゴに巻き込まれざるを得ない、
いっそう苦しくやりきれないものになるのではないだろうか?
つまり遅かれ早かれ、彼はあの三島由紀夫のように……
  1. 2017/07/24(月) 13:15:18 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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