大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

藤子不二雄(60) 「黒ベエ」

藤子不二雄作品、「黒ベエ」(小学館刊)を紹介しましょう。
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1969年から翌年まで週刊少年キング(少年画報社刊)にて連載された作品で、単行本は朝日ソノラマのサンコミックスで全3巻。
本作は二人の藤子不二雄先生のうち藤子不二雄A先生の方。二人の作風を区別する時によく使われる『ブラックな藤子A』を代表するような黒さを持つ作品です。

幼年向け漫画の傑作を生んできた藤子A先生が、大人向けのブラック・ユーモア漫画という新境地を精力的に描き始めたのはこの前年の「黒イせぇるすまん」から。よってまだ読者からこちらの方でも巨匠だと広く認知される前の事であり、少年誌の連載らしいギャグタッチも入れながらほぼ同時期の「怪物くん」と大きくは違わない絵柄で描いています。しかしこれがけっこうヤバい内容で、少年漫画の範疇でどこまで異色の物語を描けるか挑戦していたのではないでしょうか。
後に藤子・F・不二雄先生の方が描いた『くろべえ』「ジャングル黒べえ」としてやはり児童漫画の形で上梓されており、70年代前半の時点で二人は完全に違う方向に進んでいるんですよね…コンビを解消するのは、ずっと時を経て1987年ですが。

さて「黒ベエ」ですが、主人公がタイトル通り黒ベエという男で、スーツやマントその他も黒ずくめの服装にハゲの子男で、ロゴの目玉が付いてる『黒』の字と同じように小さな山高帽をかぶっています。やはり決して子供の間で人気が出そうな風貌ではありません。
夜道をヒタヒタ歩いてきて、『ドジャーン』と登場したこいつは影を操る魔力を持っていて、ハゲタカのハゲベエを連れて旅しつつ、気になった人物を追う見物者。時には徹底的に関わるのですが、黒ベエに目を付けられると大抵は酷い目に遭わされます。
プロローグに続く冒頭の話「ワニ料理」で、いきなりある一家がワニに喰われて終わりますからね…

続く「スズキ・ミチオの秘密復讐計画」は、おとなしそうに見える少年・スズキミチオが自分に害を成した者に黒星を付けていき、その星が10点に達した者は定めにより処刑していく話。これは中上健次の文学「十九歳の地図」に影響を与えているのではないですかね。
また、藤子A史で見ても明らかに後に描かれる名作長編「魔太郎がくる!!」の原型なので、重要な話でした。ここではより凄い特殊能力を持っているのは黒ベエの方なので、『影封じ』の術で魔太郎みたいなスズキミチオが消えてしまいましたが。

全11話の中で一番ヤバイのは、「しごく者 しごかれる者」じゃないですかね。
ある会社が新任研修として昔の兵隊の格好で旧日本軍の軍隊式に『きちがいじみた特訓』で鍛えているのに遭遇し、黒ベエは忍び込んで見物しますが…そのシゴキがすごい。
暴力や非人道的なゲームなどをやらせて会社に絶対服従するよう心に植え付けるわけですが、表向きは優しい顔している部隊長(社長)は、黒ベエがある二等兵に『あの社長はとんでもないきちがいだぜ あの社長はジキル博士とハイド氏みたいな男なんだ!』と忠告していますが、この回は会社側が悪魔すぎて黒ベエは普通にいい人役。しかし助言の甲斐無く会社を信じたあわれな二等兵は、気が狂ってしまうのでした。
これが描かれて45年…現在を代表するブラック経営をしている会社・ワタミとその社長の手口を見ると、経営者がより巧妙になっているだけで同じ事をやっていますね。スローガンの美辞麗句で若者達を洗脳して飼い犬にし、自分だけが儲ければ良いのだと。(参考 中村淳彦「ワタミ・渡邉美樹 日本を崩壊させるブラックモンスター」コアマガジン刊)

「機械マニア」は、"機械城"に住む偏執狂の城主と息子が黒ベエとハゲベエを拉致していたぶる話ですが、絵と機械じかけのアイデアだけでカラクリ装置好きにはたまらないですね。
大変な絵をやたら丁寧に描いていて、変な道具のコレクションである藤子A先生自信もかなり楽しんで描いていたのであろう事がうかがえます。

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やはり大人向けのブラック・ユーモアで恐怖と笑いを描く作風は少年キング読者に支持されなかったのか、後半は黒ベエらの設定はそのままにわりとまともなギャグ漫画になっていき、「ハゲベエと黒ベエの場合は」で鳥キチ一家の遺産騒動を描いた後は短い話を2編で、特に最終回らしい話も無いままに終了。
江戸川乱歩が海外ミステリを日本へ紹介して普及させたように、藤子不二雄A先生はブラック・ユーモアを日本の漫画読者に広めた功労者だと思いますけどね。

1980年代に中央公論社の藤子不二雄ランドでも復刻されている本作ですが、同書は1990年代には全て品切れ状態でしたし、後に少年漫画の名作が次々と文庫化して復刻されるブームがあった時にもまるで復刻される気配が無くて、長らく絶版のままだった作品。
「しごく者 しごかれる者」辺りがヤバくて再発出来ないのかと思ってましたが、2011年になってついに!ブッキング藤子不二雄Aランドで出ましたね。

ところで今回画像に使っているサンコミックス版では、まだ重要な部分があります。
実は巻末に陰の代表作が2作収録されていまして…まずは1970年の高三コース(学習研究社刊)で連載され、ずっと後でアニメ化もされた「夢魔子」が全5話。これは後に表題作となって単行本化もされているので、別の機会にちゃんと紹介するとしますか。

そして、同じ1970年の少年キング(少年画報社刊)で「ぶきみな5週間」として掲載された全5話を、「不気味コレクション」と改題して載せています。それぞれ、
第1話 毛のはえた楽器
第2話 爪のある杖
第3話 串のはいった鞭
第4話 鎖のついた武器
第5話 目のない舞姫

とタイトルが付いている独立した短編ですが、『異常な過去』を持つ道具を主題にして創作された物語である事で共通しています。

どれも面白い話ですが、ダントツでヤバいのは第1話の「毛のはえた楽器」。アフリカはウガンダのピグミー部落を取材に行った日本の極東テレビ撮影隊のカメラマンが、小人たちに対してバカにした態度を取りルールも守らなかったために密かに殺されて、その人革を使って観光客に売りつける楽器にされるという話で、これは後に『ぶきみな5週間シリーズ』が再発される時にも抹消された封印作品。
(中央公論社「愛蔵版 藤子不二雄ブラックユーモア短篇集 第2巻 ぶきみな5週間」の初版時のみ差し替えなし)

アフリカの黒人が出るだけでも出版社の自主規制で本にならなかった時代が記憶に新しいと思いますが、これなんて1ページ目で最初のセリフがガイドによる
『とにかく やつらには気をつけてください やつらは われわれとおなじ人間じゃないんだから……』
ですからね。続けて『やつらピグミーは人間とけものの あいのこのようなものです』なんて言ってるし、人権意識とか差別的な表現とか何とかってレベルではひどい作品になってしまうのでしょうね。
で、後年『ぶきみな5週間』が再発される時は第1話だけ全くの別作品である「禁じられた遊び」に差し替えられるようになるのですが、新たに持ってこられた「禁じられた遊び」自体にも問題があり、オリジナル版に比べ大きく内容を改変をされた短縮版が収録されているのでややこしくて…それについても、またの機会に書くとします。


けけけけけ
どーやらハゲベエのいうとおり すこしくるっていたらしいな……
さあ またもとの黒ベエにもどらなくっちゃ!!



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  1. 2014/12/22(月) 23:59:43|
  2. 藤子不二雄
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

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