大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

藤子不二雄(62) 「藤子不二雄ホラー・ファンタジー劇場 ヒゲ男」

藤子不二雄作品、「藤子不二雄ホラー・ファンタジー劇場 ヒゲ男」(奇想天外社刊)を紹介しましょう。
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二人の藤子不二雄先生のうち藤子不二雄A先生の手による、お得意の『ブラックユーモア短編』を集めた作品集。1978年の発行です。
これは凄いですよ…ええ、これを読んでなくては藤子A先生の半面・ブラックな部分を理解できません。

表題作が「ヒゲ男」で、1971年のビッグコミック(小学館刊)が初出。
売れないイラストレーターが町で辻占のおじさんにアドバイスされてヒゲを生やしたら自信が付き、作品が売れるようにもなったのですが、辻占はヒゲを異常なほど愛好し、ヒゲに関するありとあらゆる物を収集していた…その彼がイラストレーターに目を付けた目的は!?
同じ『奇妙な味』系を得意とする小説家で、私が少年時代にかなり読んでた作家に阿刀田高がいますが、彼の代表作の一つで直木賞も受賞した短編「ナポレオン狂」に、相当な影響を与えていると思います。

続きも順に見ていくと、「暗闇から石」(原題は「不意打ち」)は1973年のヤングコミック(少年画報社刊)が初出。
映画館でスティーブン・スピルバーグ監督の「激突!」を観賞中に隣の席の揉め事を注意した男が、その注意された人間と思われる奴から執拗に付けねらわれるゆになる話。「激突!」と同様にまるで正体の分からない者に狙われる恐怖を描いた短編で、藤子A先生自身が前に描いている「赤紙きたる」と同列の作品です。

そしていよいよ、「禁じられた遊び」です。
つい最近アップした「黒ベエ」で巻末に入っていると紹介した『ぶきみな5週間』シリーズ、その1話目がヤバいからこの「禁じられた遊び」に差し替えられていると書きましたが、では「禁じられた遊び」はヤバくないのかと言えばそんなわけはなく…むしろこちらの方がオリジナルの姿では再発出来ないと思われます。
本作はCOM(虫プロ商事刊)で1971年に『白い童話シリーズ』の一話として描かれたのが初出であり、前述の「黒ベエ」やその他の再発本の全てで収録されているのはオリジナルの内容を大幅に改変しページ数も半分以下にした短縮版なんですね。

まだ幼い少女は可愛がっていた金魚が死んだ時、死んだ生き物はお墓を作って葬る事を教わると墓作りに熱中する。
そこに少女を王女さまのように崇める知的障害の大男が登場し、少女のために望む死体を集めてくるようになるのですが、最後は人間が…という話。
少女は純粋無垢なだけかといえばそうでもなく、殺した動物の飼い主が慌てている様を大男と一緒に笑っているので、無邪気さを演じているだけなのかもしれません。
強烈でダークな内容をさすがに上手く描いていますが、要はこの知的障害の大男の存在自体が表現としてヤバくて、彼の登場シーンが丸々カットされているのですね。そんなに都合よくその部分だけカット出来ないので、他で多く見られるようにセリフだけとかじゃなくページ編成やコマ時代も編集しまくって、ついに彼は居なかった事にされてしまいました。
これで実行犯役が消えてしまって少女が何故あれを出来たのか分からなくなったし、横浜の外人墓地に行って綺麗だと感じ、自分ちの庭もこういう風にしたいと思うシーンなんかもカットされたので、編集された短縮版は不自然になってもう本質が失われていますよね。
残念ながら現在に至るも本作のオリジナル版が読める単行本は、この「藤子不二雄ホラー・ファンタジー劇場 ヒゲ男」だけ。
それにしても…タイトルと内容で分かる通り同名のルネ・クレマン監督によるフランス映画をモチーフにした作品ですが、あの感動ドラマがよくぞこんな怖い話に!

それから1972年のヤングコミックで発表されたブラックユーモア短編が4編、「不器用な理髪師」「内気な色事師」「無邪気な賭博師」「ダル男の物憂い日々」と続きます。
どれもレベルが高いのですが、特筆すべきは「内気な色事師」でしょうか。この時代にしてすでに今で言うストーカー問題を題材にしているのですが、勝手に思い込んでのめりこんで行く愛の行く末を描いていて、それも加害者となる男側から…いいとか悪いではなく、ニンゲンと言う生物が持つ精神の闇や陰の部分について触れています。
チャラそうな同僚の言う
『どんなイイ女でも オシッコもするしウンチもするってことを忘れない方がいいぜ』
のアドバイスが正論すぎました。
早くからストーカーを扱っていますが、よく似た物語でもある江戸川乱歩の小説「蟲」などを読むと、戦前からそういう人や行為があったのは確かです。

「明日は日曜日そしてまた明後日も……」は前述の「禁じられた遊び」と同様に、COMの『白い童話シリーズ』で描かれた作品。
両親の期待を一身に背負い大学を卒業し、ついに社会人として就職した気弱な男が、あるきっかけで会社に入れず逃げ出してしまい、公園で泣きながら母の手作り弁当を食べる。このシーンに2ページかけるのですが、悲しく情けない心情をセリフ無しで表現した胸を打つシーンです。
男は両親に言えないまま当初こそ会社に行くふりだけしていたのですが、そのまま永遠にどこにも出社する事はなかった…勤めにでることができない病気、これは今でいう引きこもり問題を描いてますね。
現代の引きこもり、ニートなどを書いた元祖も、やはり乱歩だと思いますけどね。しかしこの手のブラックな話を描くとなると、どうしても乱歩の影がチラつく結果になるのは致し方ないでしょうか。乱歩こそが『奇妙な味』の名付け親でもあるし。

「盲滅法の男」は1973年の作品で、初出誌はヤングコミック。後に「一本道の男」と改題されたのは、単純に『盲(めくら)』の語が自主規制されたのでしょう。
内容は麻雀を題材にして『地雷のいっぱい埋まったとこを盲滅法に突っ走っても地雷を踏まないような人』を描いた物で、この単行本の中ではまぁ、一番どうでもいい作品かな。

最後に「万年青」、これもCOMの『白い童話シリーズ』で描かれた作品で、盆栽にかけるどもりの少年の話。
この単行本には1971年の同シリーズが3作収録されていますが、全部で6作存在し、内容は
「ひっとらぁ伯父サンの情熱的な日々」「わが分裂の花咲ける時」「万年青」「明日は日曜日そしてまた明後日も……」「ポルノを買いに」「禁じられた遊び」
となっています。
このうち5作までは改変されながらも単行本化されていますが、「わが分裂の花咲ける時」だけは未だにどの本にも未収録のままですね。

さらに本作「藤子不二雄ホラー・ファンタジー劇場 ヒゲ男」では、それぞれの短編の扉ページ1話ごとに藤子A先生の一言が付いていて、これも復刻時には削除されたのは残念。巻末には小説家の生島治郎による解説文も収録しています。


そう!だまされたと思って、ヒゲをのばしてみたまえ!
ヒゲは、きみに権威と神秘性をあたえるだろう!



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  1. 2014/12/29(月) 23:00:47|
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  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
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コメント

あっこれはね、買いましたよ。昭和53年なら、高校三年生ですね。今更ながら、よく田舎の町の本屋にマイナーな奇想天外社のコミック単行本なんて入ったもんだなと思います。しかも離島の佐渡なのにね。BRUCEさん、この間は佐渡に来られていたんだね。記事読みましたよ。私が使っているのは携帯電話(いわゆるガラケーです)なのでコメントの仕様がありませんでしたけど(笑)。記事も途中で切れてしまったので、ネットカフェのパソコンで全文読ませていただきましたが、JA河崎店で食料品調達には「何と!あそこでかい!?」(どういう意味じゃ)でした。両津と佐和田で泊まられたのですね。我が家は中間の畑野という町ですが。今度佐渡に来る時には教えてくださいねー。石森さんの「7P」も同じ高3に同じ地元の町の書店で買ったんですよ。今でも無事に保管してますよ。Aさんのはチャンピオンの「狂人軍」もリアルタイムで読んでますが、ほんとうに狂ってましたね(笑)。
  1. 2015/01/02(金) 00:49:10 |
  2. URL |
  3. 秀和 #-
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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