大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

手塚治虫(42) 「紙の砦」

手塚治虫作品より、「紙の砦」(大都社刊)。
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(画像の本は同内容ですが、左が1977年版・右が1987年版)

今回は短編集で、1970年から1976年にかけて描かれた作品が集められています。
共通点は手塚治虫先生本人もしくはモデルにした人物が登場する所でしょうか。よって創作でも自伝的要素が強い所が目立ちますね。
収録作品は、順に「紙の砦」「すきっ腹のブルース」「ゴッドファーザーのむすこ」「四谷快談」「トキワ荘物語」「ガチャボイ一代記」となっています。

まず表題作の「紙の砦」は1974年の週刊少年キングが初出で、手塚作品の中でも『反戦マンガ』として語られる時によく挙げられる有名短編。
第2次世界大戦末期、まだ中学生2年生で美術部に所属してこっそりマンガを描いているのは大寒鉄郎、顔もそのまま手塚治虫先生自身の姿です。
教官から睨まれて特殊訓練校送りにまでされるほど教練や作業の方は全然ダメですが、勤務動員で軍需工場にて働いている時に最近知り合った宝塚音楽学校の生徒の岡本京子と再会。
可愛い京子へ想いを寄せる大寒は彼女をマンガの主役に出したりしてましたが、大寒は非国民扱いされてヤキを入れられたりマンガ原稿をやぶかれたり…
それよりもはや米軍機が自由に本土を飛び回って爆弾や焼夷弾を落としまくり、日本の一般市民を大量虐殺している状況。家族や同級生、街の人々が焼かれて逃げ惑う様を見ながら大寒は『地獄ってこんなもんかねェ……』とつぶやく。
ボロボロになった日本は、8月15日でついに敗戦。生き残った大寒は灯火管制もされていない街の灯を見て、日本が負けてこの後どうされるか分からないにもかかわらず、とりあえずこれからは思いっきりマンガを描ける事に大喜び!京子にも『きみもオペラ歌手に…』と言った所で大寒は思い出す。京子の顔は爆撃で半分潰れたようになっていて、もう歌手などなれない事を。

続く「すきっ腹のブルース」は、その続編で同じく週刊少年キングに発表された作品。
まだ学生の大寒鉄郎が芋泥棒するシーンで幕を開けますが、戦後の食糧難時代を描いています。黒人兵と仲良くなった大寒は絵を描いて食糧貰ったり、その黒人兵が白人兵に人種差別からイジメを受けている所に遭遇し、ついでに大寒もボコボコに殴られたり…そう、日本を占領したアメリカ軍の暴挙も描かれています。
『占領軍の乱暴は ひどいものでありました
 あっちこっちで なぐられたり殺されたり
 女の子がイタズラされたりしました』

というのも、手塚先生が実際に見てきた生々しい戦争体験でしょう。当時まだ若かったので水木しげる先生のように戦地までは行ってませんが、多くの手塚作品にもあの時代を生きた事が確実に作家性として活きています。
その後、大寒は新聞記者の河原和子なんてまた美人と知り合って編集部を紹介してもらった上に、何とファーストキスまでさせてもらいました。その後はついに童貞も捨て…られる機会を、食い意地のせいでみすみす棒に振ってしまいましたが。

大寒鉄郎のシリーズは上記2作で終わり、次の「ゴッドファーザーのむすこ」は中学3年の手塚として少年時代の作者自身が登場します。
初出は1973年の別冊少年ジャンプで、学校の番長で極道の息子・バンカラこと明石とマンガがきっかけで仲良くなった手塚。二人の少年の戦時下における友情を描いた作品です。
ところで他の本では「ゴッドファーザーの息子」と『息子』表記なのが、何故この大都社版だと『むすこ』になっているのでしょうか。

ここまでの3作品は、「ココ」で5,6年前に紹介した集英社の「手塚治虫 THE BEST 1 1985への出発」にも収録されている作品でした。
次にでてくる1976年の「四谷快談」も同様に、「ココ」「手塚治虫 THE BEST 10 マンションOBA」で既に紹介しています。

「トキワ荘物語」は1970年のCOMが初出で、このブログではカテゴリーも作って何度も書いていますが、タイトル通り伝説の漫画家アパート・トキワ荘を描いた作品。
手塚治虫先生に始まり、若き日の寺田ヒロオ、藤子不二雄石森章太郎赤塚不二夫水野英子…その他の漫画家達が集まって入居し、また去って行った歴史を擬人化したトキワ荘のモノローグで進む短編でした。
まだ漫画家は手塚先生だけの時代、布団に入っていると女性のおっぱいを頭に浮かべて飛び出して行く手塚先生が描かれます。その時に『たいへん遊び好きで ルーズな人でした』とトキワ荘に語られてるし、女体を求めてトルコ風呂(今で言うソープランド)か恋人の元にでも走ろうとしていたのですね。後続の漫画家達から尊敬を集めてほとんど聖人君子のように語られるマンガの神様も、当たり前ながら存在する性欲が描かれた貴重なシーンかも。

最後の「ガチャボイ一代記」は1970年の別冊少年マガジンが初出で、これも本来は「がちゃぼい一代記」とひらがな表記の作品だったと思いますが、何故かカタカナに変えられています。
終戦直後の大阪、20歳で漫画家を目指している手塚先生がコジキの風貌したおじさんと出会う。 彼は若き手塚先生について、
『手塚治 あだ名はガチャボイ オッチョコチョイ ヒス オメダテヤ 虫きちがい 天文マニアでメシよりマンガが好き』
と、何故かよく知っています。あ、これでタイトルの意味が分かったと思いますが『ガチャボイ』というのは手塚先生のあだ名であり、本作は『手塚治虫一代記』と言えば分かり易いでしょうか。そうするとノンフィクションみたいになって勘違いされるかもしれませんが。
で、そのおじさんというのは『マンガの神さま』らしく、手塚先生に助言や力添えしてくれるのです。最初は宝塚少女歌劇に連れて行ってポスターを描く仕事を振ろうとしますが、『ぼく女の人の前へ出たらテンカンおこすよーっ』と言って焦り、実際に美女達に囲まれて泡吹いて寝ちゃう…うん、ここではいつも通り純情な可愛い手塚先生です。
ベレー帽かぶれなら歩き方まで指南し、売れてからも稼ぐ事よりいいマンガを描く事という肝心な事まで教えてくれて漫画家として成長を見守った、このマンガの神さまってのは何だったのか。この存在は自分への戒めなのか、マンガブームだからってクソみたいな作品が流行しているシーンへの警告なのか。
それと一つきになったのは、大阪大学で医者になるため勉強している時の手塚先生。勉強するふりをしながら、やはりマンガばかり描いていて、大学の先生から
『きみは……このまま 医者になってもかならず人殺しをする
 世のため人のため 医者をやめてマンガ家になりたまえ』

と助言されているんですよね。よく手塚先生といえば世界一の漫画家でありながら医師免許も持ってて云々と称えられる事がありますが、現在では医学の方では才能無かったというのが通説になっています。

今回の「紙の砦」には以上の6作品が収録されていましたが、やはり大寒鉄郎の反戦モノが印象に残りますか。
手塚先生が少年期に体験した戦争以来、日本はもう約70年間も戦争していない平和国家であり続けた事はご先祖様達にも誇れると思います。もちろん、やらざるを得なかったあの時代に我々子孫のために命がけで戦ってくれたご先祖様達には感謝してもしきれないし、その上で今の長き平和があるわけですが。
その戦争に行って犠牲になった世代を、おかげで行かずに済んだ世代が叩き、どこぞの国で一般市民を大虐殺しただの政府が慰安婦を奴隷狩りのように強制連行しただのと、冤罪で貶め続けていたわけです。あー、クソすぎますね。近年になってようやくインターネットで情報を集められるようになり、国際情勢・世論の変化などもあってそういう事を信じているのはよほどの情報弱者・白痴だけになりました。
現在の安倍晋三総理大臣の行政には不満が多い私ですが、先人の名誉回復という点だけ見れば功績が大きいと思います。昨年の大きな話題となった『集団的自衛権の行使を認める閣議決定』の時は、ノォ~これで日本も徴兵制がぁ~、とか戦争になるぅ~とか本質を見えてない、それこそ陰謀論を楽しむ人々以下の低脳さを多くの人々がばらしてしまいましたね。そういうのを見ているのも傍観者としては面白かったけど。

戦後の愚民化政策が功を奏しすぎですよ、まったく。日本人は優しくて信じやすいのは良い事の一つでもありますが、平和ボケ国民を作りたい側からしたらこんなちょろい国はないわけで…
自国に原爆まで落とした旧敵のアメリカ軍に守ってもらって防衛権というか軍部を握られ、金を巻き上げられた上でしか成立しない現在の歪んだ平和国家・日本ですが、そのアメリカよりもはるかに治安が良くて貧富の差が少ない国を造り上げたのは確かです。立場がどうでも上手く利用してのし上がる強かさがあったのかね、日本人としては自画自賛になりますがやっぱり凄いですよ。
今後も外交能力を高めて戦争を避け、情報戦も含めて他国からの侵略を退いていかなくてはなりません。その上でさらに絶対戦争をしないためには、きちんと軍備を整えて占領国が作って押し付けた『日本国憲法第9条』のような足かせはとっぱらってですね…と、ここで9条の話を出すと9条信者が騒ぐんですよね。日本国憲法は憲法改正を認めているのに、『改憲は絶対に許さない』と主張して圧力をかける護憲派の人こそが憲法違反じゃないのかと思うし、カルト宗教以上におかしい事言ってますよ。日本だけが時代の変化にも絶対に合わせられない、その方が不自然だと思わないのかな。
島国に住む我々は、あの大戦以降はほぼ防衛を意識しなくても能天気に生きてこれた幸せな民族です。でも水面下では様々な危機もあったし、戦後に竹島など占領されても何も出来ないでいるんですけどね。私なんかヨーロッパの友人にその理由の一つとして、日本にはこんな憲法があるんだと9条について語ってみると、まず笑われます。それだけ隣国と戦争を重ねてきた人々には現実的じゃないし、日本だけ感覚が違うというか無知なんですね。

まして我々は現実にヨーロピアン以上に危ない現状、すぐ目の前で覇権主義の一党独裁国家が猛威を振るっているというのに、絶対に自分達の国だけは攻められないと信じ、もっと酷いのになると話し合いで解決するだとか占領されても謝り続ければいいだとか…もうヤバすぎるのが言論界に何人もいるじゃないですか。
遠くでとはいえ現在も猛威を振るっている『イスラム国』など少年漫画の…それこそショッカーだとかブラックゴーストみたいな盲信者による悪の組織レベルだし、それを中国がまだ同様の事を続けている事を知らないわけじゃないでしょ?
無抵抗主義とかの理念が存在するのは知っていますが、戦争となれば女は犯され、男や子供は殺される。街も財産は根こそぎ奪われて焼き払われていくわけですよね。「紙の砦」みたいな作品から、そのくらいの事を読み取れなくは何も読んだうちに入りませんよ。
手塚先生は戦争の悲惨さを伝えてくれていますが、読者は想像力が豊富な者ばかりではない…再びそうならないためには防衛力が必要だともうちょっと伝えて欲しかった(そりゃ手塚先生は私がここで書くより1万倍以上の影響力があるでしょうから)。
手塚先生に限らずですが、少しでもヒーロー物を描いた漫画家なら全員よく分かっていると思います。我が身や仲間、子供達を守るには、敵以上の力を持っていなくてはいけないのです。


ぼくにマンガ書くなっていわれたらクビつるよ
戦争が終ったら自由にマンガ書けるようになるだろうね
ぼくはマンガ家になるよ!



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  1. 2015/01/13(火) 23:04:40|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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