大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

手塚治虫(45) 「I.L」

手塚治虫作品より、「I.L」(大都社刊)。
TEZUKA-il1977.jpgTEZUKA-il.jpg
(画像の本は同内容ですが、左が1977年版・右が1987年版)

ビッグコミック(小学館刊)にて1969年から翌年まで連載された作品で、単行本はハードコミックスで全1巻。
この変なタイトルは『アイエル』と読むのですが、これは当初「I'LL」(もちろんI WILLの短縮形)としたつもりだったのに、雑誌の予告編で間違って「I.L」と載ってしまったので、それに合わせてタイトルもヒロインの名前もI.L」に変えてしまったのだとか。手塚治虫先生の懐が深い部分を見た気がします。

かつては映画界で名監督として名を上げた伊万里大作、『ロマンチックでほのぼのとした郷愁がある』作風で夢中になるファンがたくさんいたそうですが、人類が幻想と夢の世界だった月に足を踏み入れた日から、人の心から空想も瞬く間に消え去り、同時に映画ファンは現実的でやたらと理屈をこねるようになりました。
よっておとぎ話や伝説や怪奇や夢物語を撮っていた伊万里監督は出る幕が無くなり、家まで追い立てられている状態の時に易者が導かれて行った屋敷でモンスターチックな人々から、そういった世の傾向に抵抗するレジスタンスをやってもらいたい、理屈で割り切れない事件をうんとでっち上げてくれと頼まれます。つまり
『現実の世界の監督です。つまりこの世を演出するんですな』
という事です。その依頼主の中心人物はアルカード伯爵。アルカード、ALUCARD…つまりDRACULA(ドラキュラ)を反対に読んでいるだけですね。そのアルカード伯爵が女優として棺桶ごと渡してきた女性がI.L(アイエル)

アイエルは後半でアルカード伯爵の姪だと明かしますが、能力は変身。棺に入ると伊万里大作監督の思うままに誰にでも、どのような姿にでもなれます。
ただ従順なだけで性格とかもよくわからないアイエルいわく、
『女というものは どんな運命や境遇にあっても それに応じて身をかえるすべを持っているものでしょう
 あたしはそれを からだで表現できますの』

というわけです。

往年の名監督と誰にでもなれる女優、そんな二人が組んでする事は!?
何か事件解決屋さんというか、『I・Lからまいりました』とか言って顧客の所に行って変身能力を利用したビジネスでトラブルを解決するにすぎない感じでしょうか。
1話完結の連作形式なので読みやすいし、それぞれの話がファンタジックだったりサスペンス風だったりでレベルも低くはないのですが、最初に言ってた『この世を演出する』という主題はどこに行ったのかよくわからない。ただ変わった人達の中に入って事件を解決していれば良かったのか?

だんだん目立ってくるのは誰にでもなれるしどんな事だってやり通せるアイエルの、しかし自分自身のものがなく姿や性格も借り物である悩みでしょうか。これは前回紹介した「人間昆虫記」の十村十枝子と共通する部分でもありますね。
何でも出来るアイエルが、恋を意識した時に初めて自我に目覚めたように悩み、大作からは
『アイエル おまえはどんな女にも変われるし どんな相手の心にもなれる
 だが自分自身のものがないんだ おまえの今の姿や性格だって どこか借りものなんだ
 もしおまえが だれかを愛したとしても それはかりそめの恋でしかない……いや恋の演技をしているにすぎないんだ
 おまえに同情するよ』

と残酷な事を言われるシーンが初見時から印象深いです。

まぁそう言った伊万里大作自身が…別れた女房・加世子の面影をずっと追う女々しさがありましたが、アイエルを愛しているのだと気付いて結ばれ、いや結ばれたかと思われたその時にある事件が起こって永久に別れる事となる。
ラブストーリーとしてはあまりにも悲しい結末でした。


この女はね まだ生娘なんです
いや まだ生まれていないといっていい
そんな女がお望みか あなたの意思次第で彼女は誕生します
しかもあなたには絶対服従する



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  1. 2015/01/24(土) 23:00:08|
  2. 手塚治虫
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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