大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(181) 石川球太 1 戸川幸夫 1 「牙王」

石川球太「牙王」(大都社刊)。
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石川球太先生は1940年の神奈川県出身で、「魔犬ムサシ」「キリマンジャロの風」などで梶原一騎原作作品も手がけているし、1970年の不条理漫画「巨人獣(ザ・パラノイド)」が一冊100円のダイソーコミックスで出て話題を呼んだり、あの谷口ジロー先生が長年に渡りアシスタントをしていた事も知られています。
15歳かそこらでデビューしている天才漫画家で絵が上手く、特に動物漫画の大家で有名な方ですが、この「牙王」はさらに動物文学の大家・戸川幸夫氏の「牙王物語」を原作としています。石川球太&戸川幸夫という組み合わせは、動物モノ好きには垂涎の的な作品でしょうね!
(このコンビは後にアフリカ取材を共にして、小説と漫画を同時進行させる新方式で「人喰い鉄道」という傑作も描いているので、それもまたいつか紹介しましょう)

期待を絶対に裏切らないこの名作、初出は1965年から翌年までの週刊少年マガジン(講談社刊)で、単行本は私の持つスターコミックスでは全3巻。
物語は北海道の大雪山に始まります。"東京大サーカス"から逃げだしたヨーロッパ狼の雌・デビルが山で雄のアイヌ犬・テツと出会い、キバ・赤耳・クロ・アマッタレ・ナキベソの順で混血の子供を5匹産みます。その最初の子・キバこそが本編の主人公。

デビルは厳しい自然の中での生き方を子供に教えますが、大雪山は環境の厳しさに加えて恐ろしい外敵もいます。作品を通してのラスボスとなるヒグマ・片目のゴンに襲われて兄弟を殺された上に、まだ幼いキバは沢に流されて家族と離れ離れになってしまいました。そこを優しい人間の娘・日高早苗に助けられて"日高牧場"で飼われる事となります。
人間の世界での生き方も早苗に習って愛する主人を見つけますが、やはり波乱が待っていて。30頭もの犬達との激しい闘いを繰り広げて集団の力を知りますが、重傷を負いながらも負けなかったキバに惚れ込んだのはカネトヨシトという伝説の猟師親子。これがちょうどキバの父犬であるテツを飼っていたアイヌ人ですが、彼らの下でアイヌ特有の仕掛けを覚えながら猟犬としての訓練を受け名犬に成長していくのですが、アイヌの儀礼である『イオマンテ』を見た時から人間に恐れを抱くようになってしまった…
そうそう、「牙王」は現代の日本人にあまり知られていないアイヌ文化描写が多い漫画でもありますが、石川球太先生は本策のために飛んだ北海道で、当時はまだいたアイヌ民族達も取材しているそうです。

人間へ不信感を覚えた事がきっかけで、カネトらから離れて自然の中で生活する事を選んだキバ。
山中で統制のとれた犬の集団と出会って闘いますが、そのリーダーが白い狼・デビル。つまり三年前に生き別れたキバの母であり、中心勢力の三頭はあの時一緒に生まれた兄弟なのですが、動物の悲しさでそこはどちらも気付かない…
一匹狼だったキバも後に野生生活で厳しい大自然と人間達に対抗して行き抜くには群れるしかないと悟り、別の野犬グループを従えるボスになるのですが、カネトが仕掛けた罠でデビルが死んだ時に二つの群れはぶつかり、キバ(長男)が赤耳(次男)を死闘の末に倒して王者となるのでした。
首領となったキバの他は、副首領の赤耳、三番手には知恵者で老ポインターの学者先生、四番手が弟のクロ、五番手は美しい雌セパードのホシ、その他も樺太犬にアイヌ犬、秋田犬にビーグルやコリー…様々な犬種が集まって生活します。しかしそのうちに、かつてエゾオオカミを絶滅させた無味無臭の毒薬・硝酸ストリキリーネで仲間の多くが殺されキバも死に掛けた事で人間への恨みを増す。

人間の食べ物や家畜も襲うようになり『大雪山の悪魔犬』と人々に恐れられていたキバですが、山中で愛しい早苗と再会しますが、今はホシと結ばれて子供も出来たキバはもう人間とは暮らせない。
妻や子を救うためにあえてカネトの罠で人間に捕らえられたキバは死ぬ気であり、カネトも仕方がないと思っていましたが、生きながら焼き殺そうとした町民達のやり方に怒ったカネトは処刑を邪魔しました。
その後は興行師に買われて巡回動物園で全国巡業に出て、九州ではライオンと闘わせられそうになり…次は北海道で日高牧場の牧童頭だった松吉に買われて、土佐犬相手の闘犬を続けさせられていました。宮崎では闘牛とも闘いますが、大分のノタ場ではイノシシと、その他の場面では空飛ぶ敵の大ワシやなんかとも闘うし、キバの異生物対決も本作の見所です。
一方の北海道では宿敵のヒグマ、片目のゴンが民家に押し入って一家を皆殺しにしたりと凶暴化しており、村田銃を持って山に入った名人カネトまでが逆に喰われてしまった…

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1970年代に活躍した犬漫画の巨匠は石川球太先生である事は文句無しの常識でしょうが、時代は経ち90年代になると犬漫画といえば高橋よしひろ先生。正に私の世代はジャンプで夢中になって傑作「銀牙 -流れ星 銀-」を読んだものですが、高橋先生は現在に至るも銀牙の物語を描いており、ちょうど週刊漫画ゴラク(日本文芸社刊)の最新号でも新連載として「銀牙~THE LAST WARS~」がスタートしたばかりですね。
私はもちろん「牙王」の方を後から読んだのですが、「白い戦士ヤマト」も含め高橋作品がいかに本作から影響を受けていたのかが読み取れました。そもそも眉間に星が二つ付いた顔の主人公、片目のヒグマがラスボス(赤カブト編)という設定だけでも同じだし。

さてさて「牙王」ですが、父親を片目のゴンに殺されたヨシトが父の遺言にもあった通りゴンを倒すには絶対にキバが必要だと分かり、キバを探す旅に出て…
松吉の手から逃れて自由の身になったキバは北九州の門司で、警察に追われるある人の逃走劇に付き合っており、その騒動の中でついにヨシトとキバは再会し、北海道に連れ帰りました。キバは大好きな早苗とも会えて天人峡温泉辺りでほんの一時の安息の時を過ごしますが、いよいよヨシトと山に入ると、ゴンとの決戦の幕が切って落とされるのです!

ゴンは血に狂った悪魔ながら頭脳は明晰で、肉弾戦の前に追跡から闘いが始まっています。『小便だまし』などのテクニックも使うし、自然もこの決戦を前に荒れ狂います。
風速四十メートルを越える、原生林もなぎ払うほど巨大な台風の中で犬も熊も人間もすべからく波乱に巻き込まれる…何と早苗の身にもまさかの展開で、キバ達より先に山でゴンに出会ってしまうとその手にかかってあっさり殺されてしまうのです!
銃を持つヨシトも嵐で飛ばされて戦闘不能。しかし大泣きした後でキバは山の家族や仲間達を呼び寄せ、犬(狼)達だけで片目のゴンを囲んで決着を着ける。

キバにとってこの宿敵のヒグマ・片目のゴンは生まれてすぐに兄弟を殺した敵であり、最後は最愛の早苗まで殺してしまうのですが…物語の全てはらすとのカタルシスへ向かっていました。戦闘の後は墓標の前で涙の遠吠え、そしてお別れ。
単行本にしてたった3巻分ながら、ネタを水増ししてページ数を増やして長編にしているような現在の漫画界では見られなくなった、この物凄く濃い内容。傑作…傑作すぎます!


故郷とは キバにとってそれは自分を育ててくれた大雪山でも大自然でもなかった
心のふるさとはただひとつ 早苗だったのだ
だが その故郷はもう消えてしまった



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  1. 2015/06/06(土) 06:00:00|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
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コメント

「牙王」は名作!

「牙王」ほんとうに名作だと思います。
画力、キャラクターの作り込み、ストーリー展開。どれも最近のマンガにはない密度!
幼い頃この作品を読んで、動物と人の絆、愛する者との死と別れ、自然の優しさと厳しさ等々、心を揺さぶられたのを思い出します。
  1. 2015/12/20(日) 10:23:53 |
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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