大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

藤子不二雄(65) 「少年SF短編」

もう少し藤子不二雄作品から短編集の紹介を続けます。今回は藤子不二雄ランド(FFランド)「少年SF短編」(中央公論社刊)。
FUZIKO-SF-anthology-of-short-stories1-2.jpg

本作は1989年の刊行で、前半はマンガ少年(朝日ソノラマ刊)で描かれた少年短編シリーズを収録、後半は様々な媒体で描かれたSF短編を寄せ集めて編んだ全6巻。
FFランドは藤子不二雄先生の漫画全集であり、過去作品を集めて再録するのが基本なわけですが、当時は何でも単行本化していた時代ではないのでこのシリーズで初めて収録された作品もありました。

第1巻・第1話目を飾る1976年の「みどりの守り神」も、その一つ。現在では有名なこんな名作が、初出から10年以上も読めない状態だったのだからひどい話です。
飛行機の墜落事故から生き残った少女・深見みどりが主人公。助かって目を覚ますと密林で、同じ飛行機から生き残った男・坂口五郎と行動を共にしますが、そこは人類ほぼ滅亡後の世界だった…
体力的に劣るみどりと、それに対して苛立って暴力さえ振るう男という二人の道行きも興味深いのですが、そんな些細な事はどうでもよくなる事態が判明すると男は発狂して『ギャヒョー』と叫びながら走り去り、みどりも自殺を図るのでした。それでも希望へつなげる素晴らしいラストが待っているので、安心して読んで感動してください。
ちなみにこの作品は単行本化の際に大幅な加筆を加えてページ数も大きく増えているらしいのですが、となると読みたくなるのが初出時のオリジナル版…もう長年ずっと藤子不二雄ファンである私も、未だに読めていません。
 
1976年の「耳太郎」
あるきっかけでテレパシー能力を得た漫画家志望の耳太郎。彼は少年らしく大喜びするのですが、他人の心を読めるようになった事で友達や家族にまで気味悪がられて避けられるようになり、聞きたくも無い声が流れ込んでくる事で気が狂いそうになる…
そう、人間には建前と本音があり必ずしも本心を聞き伝える事が良い事ではない…優しさで嘘もつくしその方が相手のためなのです。
以前に紹介した短編集「超兵器ガ壱號」に収録されていた「テレパ椎」と同テーマで、テレパスになった者の苦悩を描いています。

1977年の「ユメカゲロウ」
何だかロマンチックな名前のタイトルは、登場人物が追い求める幻の蝶の事。成長したのび太みたいな風貌で虫博士の男子と同級生の虫好き女子、それにある因縁を持った男が村へやってきてユメカゲロウを追う…何てよく出来た短編でしょう。

1977年の「考える足」
そう、『考える葦』じゃなくて『考える足』で合ってます。動物が好きで運動が得意な少年が親に猛勉強ばかりを強いられ、足首の中に独立した脳細胞が誕生する…そいつは視聴覚を身に付け、皮膚を振動させてしゃべる事さえ覚えていますが、命令系統である脳は少年と別なので寄生生物といった形。しかも消化器官や循環器、呼吸器などを持っているわけではないので共生して生きていかなければならない。
ん?この設定、そして主人公が寝ている間にも勝手に本を開いて勉強している様は、あれですよ…岩明均先生の「寄生獣」のミギーにそっくり。もしかしたら、本作が元ネタになっているのかもしれません。

1978年の「宇宙人」
藤子F先生にしては珍しく何のひねりもないタイトルですが、その内容には驚きがあり涙も誘われる上手い作品で、もちろん何故こんなベタなタイトルを付けたかも分かります。
少年時代からUFO呼びとかやってる宇宙人マニアの福島くん、彼は成長して本当に宇宙飛行士として外宇宙へ飛び出し…凄い、そうだったのか!!


第2巻に進むと、1978年の「老年期の終り」
タイトルはアーサー・C・クラークの長編SF小説にして超傑作、あの「幼年期の終り」のパロディみたいですが、見事に藤子色で固めて少ないページ数でまとめています。
ある星の人類という『種』が青年期を過ぎて老年期に入り、あとは終わりが待っているだけ…そこへ6千年前の人類であるイケダが現れたため失われていた勇気や若さなどを見る。もの悲しい物語の中に残る希望が素晴らしい。

1977年の「ぼくは神様」
主人公は最近、何もかもが思い通りになりすぎるので不思議に思っている少年・神山。ジャンケンで勝つとか、食べたいと思った物が帰宅すると出されるとかの小さい所から…念じると雨もやむようになるし、テストで出題される問題も自分で決められるようになる。
これはもう偶然ではない、自分はミニ神様だと自覚して理想的な社会を作るとか何とかって夜神月みたいな事を口走るのですが、この力は人間には荷が重過ぎるものでした。
宇宙確率調整機構の管制官ゾロメーが登場して『確率』についての説明がありますが、今回も相変わらず科学的な根拠らしきものを交えて上手い感じに説明してくれますが、とにかく世の中を自由に操れるようになった神山の運命やいかに。

1978年の「うちの石炭紀」
人類など問題にならないほどはるか昔からの歴史を持ち、何でも食料にしちゃうし 繁殖力も高く、例えば核戦争が起きて人類が滅んでも生き残る生物…などと言われているゴキブリ。
ただし約3億年前の古生代石炭紀から進化してこなかった彼らが、突然変異を繰り返して一気に進化し、人類の科学力すら超えたゴキブリと、それが現れた家に住む少年の話。室内で出くわした時のあの気持ち悪さはなく、むしろ可愛らしいゴキブリが描かれる愉快な奇想天外モノですが、やっぱりちょっと怖い。

1979年の「影男」
江戸川乱歩によるあの明智小五郎モノ小説と同タイトルですが、スリラー的な部分が共通するくらいか。リーインカーネーション(輪廻転生)をテーマとした作品で、主人公の少女・倫子の生まれ変わりである人物が登場するのですが、その生まれ変わりが倫子より先に生まれてきていて『時の流れは絶対じゃない』と説明する部分が、やはり輪廻とか霊界にひかれる私には興味深い。倫子の命にかかわる危機、そして秀逸なオチが待っています。

1979年の「創世日記」
中学三年生の加美創が、幻想的な夜に野原で寝転んで空想している所に出会った謎のセールスマン…彼に『天地創造システム』をあずかって観察日記を付けて欲しいと頼まれると、最初は『この人 頭がおかしいのか』なんて思う加美。しかし若い頭は柔軟だからか結局はセールスマンを受け入れて部屋に招き入れてしまうのですね。
肝心の天地創造システムは宇宙を内包している円盤状の物体で、加美はこれに熱中して育てていくと地球に続いて生命体も生れて…いよいよ人類の誕生を間近に控えた所で、息子の受験を心配するバカ親によって天地創造システムが捨てられてしまうと!?
加美が育てていた天地は何だったのか、分かるとまた深い内容になってくるのです。そしてこれはタイトルでもすぐにピンとくるように、ドラえもんがくれた『創世セット』でのび太達が新たな宇宙を作り地球型惑星を観察する…あの「大長編ドラえもん VOL.15 のび太の創世日記」の元ネタにもなっています。

FUZIKO-SF-anthology-of-short-stories3-4.jpg

第3巻は、1979年の「マイロボット」から。
主人公の少年・富夫は届いた組み立てキットのマイロボットに熱中して『ゴンベ』と名付けますが、組み立て段階であるトラブルがあり、ゴンベは偶然にも自我が生まれてしまう…
そして富夫に好意を持つあまりロボットにして妬みの感情を持っていたり嘘をついたりして、つまりは新しい人類、というかそれを凌ぐ知的生物の誕生を示唆しているのですね。いつもの藤子F作品と変わらない可愛らしい絵柄ですが、人工知能の機械軍が反乱を起こすとかって1980年代に映画などで繰り返し描かれていた世界の幕開けというハードな内容です。
(ちなみに同作者による1970年の「ぼくのロボット」。とは、タイトルの意味が同じながら異作品)

1980年の「街がいた!!」
ローラー・プロジェクト、という名が付いたある国際的規模の大事業で作られた街、そこに入った少年少女を描いた作品。人類でないものが意思を持つ恐怖を描いたという意味で「マイロボット」と同テーマの作品。

1980年の「征地球論」
前に紹介した「藤子不二雄SF短編傑作劇場 SFシアター」にも収録されていた傑作ですが、地球なんかよりはるかに進んだ文明を持ち遥か遠くの星に住む宇宙人目線で地球人を議論する…この宇宙人目線が素晴らしくて我々地球人としても勉強になるのです。で、観察されている地球人が
『この少年の心は爆発寸前にある 他の者はだれ一人気づかないが 追いつめられ絶望的になって 大きく軌道をふみ外そうとしているのだ』
と見られている所に、当時はティーンだった私はやたらと共感して涙した覚えがあります。

FUZIKO-SF-anthology-of-short-stories5-6.jpg

…これまではマンガ少年が初出の少年短編シリーズを集めていた本シリーズでうすが、あとは3巻の後半から最終巻の6巻まで、つい先日紹介したばかりの「藤子不二雄異色短編集」に収録の「かわい子くん」、それに「藤子不二雄少年SF短編集」に収録の「四畳半SL旅行」「ニューイヤー星調査行」「おれ、夕子」「ひとりぼっちの宇宙戦争」「コマーさる」「なくな! ゆうれい」「ポストの中の明日」「ふたりぼっち」「恋人製造法」「流血鬼」「絶滅の島」「世界名作童話」「宇宙船製造法」「アン子 大いに怒る」「未来ドロボウ」「山寺グラフィティ」「宇宙からのおとし玉」と寄せ集めてアンソロジーにしています。
つまり、再録続きで藤子作品をずっと追っていたファンにとっては後半は有難味がないと言えるのだと思いますが…しかし!それまで未収録だった作品が第6巻に1編有り。

それが、1979年の「ベソとこたつと宇宙船」です。
現実の世界ではパッとしない駄目系の少年・ベソが、空想の世界ではスケールでかく宇宙空間で大活躍するヒーローで…と、私もふくめたこういう子によくある事だと思いますが、物語ではここから本当にこたつの中(畳の裏)につながったロケットに出入りして怪物(クリーガン)を倒し、つまり本当にヒーローとして宇宙人同士の戦いに加わる事となるのです。もちろんそこに美少女を絡めて、『地球の勇者』として冒険するのだから少年が想像しうる最高のカッコいい存在ですよね。
迷いこんだ星は重力が小さいので、地球ではスポーツも苦手だったベソが圧倒的に強いスーパーマン。血のにじむような根性で努力などせずとも周りが勝手に弱いため自分が強いという、これまた子供にとって都合よくて嬉しい設定。明るいラストのオチまで嬉しい、少年漫画の見本みたいな作品でした。
また藤子F先生のSF短編は、のちに「ドラえもん」に転用された例がいくつかあるのですが、本作は明らかに、そのまま「大長編ドラえもん VOL.2 のび太の宇宙開拓史」でしょう。


そんなわけで藤子不二雄先生の漫画全集・FFランドで編まれた短編集「少年SF短編」でしたが、1巻と3巻の巻頭で藤子F先生の前書きがあり、「オバQ」のヒットにより新作依頼は生活ギャグ路線ばかり注文されていた中でこれらのSF短編は自身が好きな物を趣味的に描いていた事が語られています。『明るく健康的なまんが』ではない屈折した作品にも挑戦し…ええ、それは作品を読めば想像出来ますね。大人になってから改めて藤子F作品を追うと、それらの作品の方がクオリティ高いし現在でも通じるテーマ性を持っていて、時代の流れに風化されない普遍的な面白さが残っている事が分かるのです。

また毎月4冊ずつ発売されていたFFランドは、そこらへんの漫画全集と違ってワクワクする作りでした。
価格設定も安かったのに、各巻に巻頭付録でカラーセル画が付き、メインとなる作品を読んだあとはその作品の解説記事、TVアニメガイド(当時は凄い数の藤子作品が放映されていました)や読者のひろば、そして新作連載漫画!
今回は全6巻の全てに藤子A先生の方の「ウルトラB」が収録されています。


無理なら無理でいいじゃないか
進む道は ほかにいっぱいあるさ
頭を使うからえらいってもんじゃない
手を使おうが足を使おうが
一つの仕事をりっぱにやりとげれば その人は一流なんだ



スポンサーサイト
  1. 2015/10/22(木) 23:59:06|
  2. 藤子不二雄
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<藤子不二雄(66) 「異色SF短篇」 | ホーム | 藤子不二雄(64) 「藤子不二雄異色短編集」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://mangabruce.blog107.fc2.com/tb.php/1430-bb24c80e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する