大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

藤子不二雄(69) 「笑ゥせぇるすまん」

続いての藤子不二雄作品も、藤子不二雄Ⓐ(安孫子素雄)先生側の作品で…「笑ゥせぇるすまん」(中央公論社刊)です。
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もはや説明の必要も無い国民的漫画であり、アニメ化にあわせて1989年に上梓されたセールスマン・バッグを模したデザインの単行本、この第1巻はブーム時の事でもあり物凄く売れたはずです。当時中学1年生だった私の周りでも、どれだけ多くの同級生がこの分厚い本を持ってた事か。
このFFランドと同じ中央公論社より、中公コミック・スーリで出たオリジナル単行本は全6巻。

せぇるすまん・喪黒福造が登場するシリーズは藤子A先生の代表作ともなりましたが、初登場は1968年にビッグコミック(小学館刊)にて読み切り作品として掲載された「黒イせぇるすまん」。これは少年向けギャグ漫画ばかり描いてた藤子A先生が大人向けでブラックな作品を描くきっかけになったものであり、今読んでもこれが一番ヤバい内容だと思いますが、この作品は一部の短編集などで読めるもののコミック・スーリの単行本には未収録なんですよね。
で、その翌年・1969年から1971年まで週刊漫画サンデー(実業之日本社刊)で「黒ィせぇるすまん」と改題(微妙な変化ですが、『イ』→『ィ』となっています)して連載されたのが、この第1巻に収録されている作品群。これを1989年からのアニメ化されたのに合わせて単行本化し、その際にさらに「笑ゥせぇるすまん」と改題されました。ついでにせぇるすまんの名字の読み方も『もこく』から『もぐろ』へと変えられています。
アニメ版の好評に合わせて1989年に「笑ゥせぇるすまん」のタイトルで喪黒が初登場した時と同じビッグコミック誌上に読み切り作品を、そして連載が決まると中央公論(中央公論社刊)で1990年から1995年という長期に渡り描き続けられました。それが2巻から6巻までに収録された内容で、その全てが1話完結の連作方式で進みます。
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全身黒づくめという服装と歯が凄い不気味な顔で、ターゲットと定めた人に近づいては『ココロのスキマ・・・お埋めします』と書かれた名刺を渡す男・喪黒福造。タイトル通りせぇるすまん(セールスマン)ですが、扱う商品は人間のココロ。
ターゲットが意識の奥に隠し持つ欲望を白日のもとにさらけだしては快楽に引きずり込んだりして幸福感を与え、それからどん底に落とす。相手を指さして『ドーン!!!!』とやるお決まりのアレを、知らない人はほとんど居ないでしょう。
あのドーンは初期の頃から出ていて、『サイミン術ですか合気道ですか』と問われて『まあ そんなものです』と答えています。これは一歩を踏み出させるために、もしくは約束を破って罰を与えられる時などに喰らわせるのですが、その後に不思議な現象が起こるのがオチになっています。

本作で登場するネタや道具など、藤子不二雄Ⓐ先生が描いてきた一連のブラック・ユーモア作品とかぶるネタも多いです。「ブラック商会変奇郎」の変奇堂と店主が出てきたり、「やすらぎの館」などの短編で使った設定だけ使われるとか、おなじみの『変コレクション』が出てきたりと形は様々ですが、永井豪先生でいう「バイオレンスジャック」的な、藤子Ⓐ漫画の集大成と言えなくもないかと思います。連載中に、毒は徐々に薄まっていきますが…

喪黒に『ココロのスキマ』を見破られた人達は新手のセールスかと思って財布の心配をするのが常ですが、喪黒の行動は全て無料です。ただ、趣味のイタズラでターゲットにされていた事を思い知る事になるのですが…
そもそもイタズラにいくらでも金をかける喪黒は、金持ちなのでしょうか。競馬をやれば予想が90%以上的中するから面白くなくて馬券を買わず、馬やそれに一喜一憂する人間達を見に行くだけだったりするし、いくらでも稼ぐ事は出来るのでしょう。

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最初は親切な人を装って困っている人を助けたり潜在的な欲望を叶えてあげたりする喪黒ですが、大体は約束や条件を定めます。で、ほとんどの場合はそれが破られる事となり、そのため相手が悪い、自業自得だからと罰を与える事になるのが通例。
でもこれが、ただでさえ欲望にまみれていたり隠していても強い不満を持った人間をターゲットにしているのだから…そりゃ破るだろうって話なんですよね。手を出さなければずっと平凡な生活を送っていただろうに、一度上げておいて落とすから酷さも倍増します。
1巻のあとがきで作者は、『喪黒福造は奇怪なる人物ではあっても、けっして悪いヤツではないのです。』と言い張ってますけどね。

喪黒に家があるのなら、住んでいる土地は正確には分からないながらも東京の小田急線沿線っぽい事が分かる描写だけはありますね。
よく待ち合わせ場所にも使う行きつけの店が、"BAR 魔の巣"。最終巻まできて『ゴールデン飲食街』という飲み屋街の中にある店だと分かる描写がありました。新宿のゴールデン街がモデルか!?いや、また別の回では『駅前飲食街』という名称になってたりするし特定させるつもりもないのか。
とにかく 喪黒が連絡先として使っている店で、『ココロのスキマ・・・お埋めします』の名刺の裏にはこの店の電話番号が書いてあるほどです。呼ばれた客が先に着いてヒゲもじゃマスターに話しかけると、見ざる・言わざる・聞かざるの置物を指差されて何も教えてくれないのが有名ですが、実は一度だけ普通にしゃべった事もあります。それが『夢のあと』の回で、喪黒さんはと問われて
『きょうはまだです でもまもなくおみえになるでしょうから どうぞ』
というのが唯一のセリフ。あのミステリアスなマスターですが、しゃべってしまうといたって普通!
また、初期は"スナック 魔の巣"もしくは"SNACK 魔の巣"の屋号で、別のマスターがいる描写もありました。
喪黒は他に、ターゲットをママがやってる小さな居酒屋とか小料理屋みたいな所に案内する事もありますが、そういう時もママは喪黒を常連のように扱っているから、一人でも相当呑みに行って店の人を取り込んでいるようです。

喪黒のターゲットに選ばれる男達(あ、超レアケースで女性の場合もありましたが)は、あくまで藤子A先生がその欲望を予想しやすいタイプで選ばれているからか、漫画家やイラストレーターだったり、あとサラリーマンでもゴルフとか麻雀にはまっているような奴ばっかり出てくるから、読者である私…中学1年生の頃から読んでて現在では彼らと同じおじさんになった今でも、それらの方々は遠い世界の人たちなんですよね。
しかし『マンガニア』の回は古本、それもヴィンテージ・マンガのコレクターである中念宅次(38歳)を追った話なので、同じ趣味を持つ私は感情移入し過ぎてしまいます。この人の歳にも、ちょうど今の私が追いついちゃっています。男のこういう趣味が女性には理解してもらえないとかの酒呑み話もよく分かるし、ラストのオチなんて悲し悔しい涙が出てきちゃいそう。
この回ではある漫画は古本として高い価値が付いている事を紹介し、特に高価な手塚治虫先生の漫画を集める中念氏が古本屋の目録を見て頭を悩ませたり顔なじみの店に足を運んだりする様が描かれていますが、喪黒が出してきた漫画が「足塚夢四雄/LAST UTOPIA 最後のユートピア」なる作品。これは元ネタがヴィンテージ・マンガの中でも一番有名と言える本なので分かる方も多いと思いますが、本作の作者でもある藤子不二雄先生が足塚不二雄名義で1953年に描き下ろした単行本「UTOPIA 最後の世界大戦」ですね。
ここでは『これ一作しか描かなかったので マンガ界の写楽とよばれている足塚夢四雄の幻の単行本だ!』だそうなので、その後ペンネームを変えて輝かしい成功を収める藤子先生達とは別の人として描いているのでしょうが。

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まぁ手を変え品を変えで進む短編の連作「笑ゥせぇるすまん」ですが、さすがにこれだけの話数があるとワンパターンと感じてしまうし、オチなんかすぐに読めます。ただし本作の楽しみはオチがどうなるかなんかではなくて、それは分かっているのだけど喪黒福造が出てきて、あの『ドーン!!!!』で人を地獄に突き落とすお約束を見たい、となってきます。
そうだ、何故かドーンじゃなくて両掌を相手に向けて『ウラー!』としてパワーを付けてあげる回があったのですが、あれは何だったのか。ドーンを喰らっても大して不幸にならない人もいますしね。

さらにこれだけ見てても、またアニメ化やドラマ化した作品も同様ですが、喪黒の正体は作中でほとんど明かされません。
ただしこの全6巻が完結した後も『せぇるすまんシリーズ』といった感じで定期的に喪黒は描かれており、「笑ゥせぇるすまん」連載終了の翌年である1996年に早くも漫画サンデーで「帰ッテキタせぇるすまん」を連載したのが2000年まで続いてるし、その連載終了翌年である2001年には「踊ルせぇるすまん」も描いています。で、特筆すべきはさらに後の2003年、ビッグコミックの1001号記念作品で描かれた読み切り作品ですよ。タイトルは「わが名はモグロ… 喪黒福造」として、誕生秘話を描いちゃってます!

中公コミック・スーリ各巻の背表紙は、喪黒福造の後姿。ちょっとユーモラスな感じがします。
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あとは「帰ッテキタせぇるすまん」期である1997年から翌年までカピタン(文藝春秋刊)で連載された外伝が、「喪黒福次郎の仕事」。単行本は全1巻です。
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これは今まで家族構成など一切明かされなかった喪黒福造の弟である喪黒福次郎が主人公で登場し、こちらは何と行動も兄とは逆に落ちて行く人を無償で本当に助けているという、ヒネリなく普通に善人なんですね。表紙を見て分かる通り、顔も似てないし服装も違う。
本作でもBAR 魔の巣及び見ざる・言わざる・聞かざるのマスターが登場するのですが、"MANOS"というアルファベット表記の屋号になっています。
福次郎も兄と同じように電車内でターゲットを物色したりしているし、『ドーン!!!!』ほどお決まりでもないのですが『ドダーン!』といって似たような技を使ったり…が、やはり道を踏み外しそうな人を救っちゃうので結局は何も起こらないわけで、この手の物語としては盛り上がりに欠けるかな。


ホッホッホッ
わたしはコンピューターで不幸な人の選択をしているのではありませんのです
人はだれでも不幸のタネをもっているし その尺度は客観的にははかれません
その点ではだれもが平等ということがいえます
だからわたしは無差別方式でえらんでいるわけです



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  1. 2016/01/29(金) 23:59:30|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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