大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

手塚治虫(50) 「ブラック・ジャック」

手塚治虫作品より、「ブラック・ジャック」(秋田書店刊)。
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初出は1973年から1978年の週刊少年チャンピオン(秋田書店刊)で、単行本はオリジナルの少年チャンピオンコミックスで全25巻。
主人公は奇蹟を生むと言われるほど神業的な技術を持ちながらも医師免許を持たないモグリの外科医ブラック・ジャック。いつも殺し屋のような黒マントをまとっており(真夏でも、沖縄でもハワイでも)、顔の左半分は皮膚の色が違ってツギハギになっている…て、超有名キャラクターなのでほとんど説明不要でしょうか。
それでも一度も読んだ事が無い方もいるでしょうし、チャンピオンコミックス単行本には『恐怖コミックス』と書かれているので、このちょっと前に同誌で描かれた「アラバスター」的に怖くて陰惨な内容かと思われるかもしれませんね。9巻まで行ってさすがに違うと気付いたのか(遅い!)、『ヒューマンコミックス』に直されましたが。

人気のピーク時をリアルタイムでは知らない我々後追い世代からしたら、『マンガの神様』と評されている手塚治虫先生といえば誰もが認める実績を持ち、そもそもが今も皆が読んでいる漫画の様式を作ったような偉大な方であり、ずっとヒット作を描き続けていたのかと思いがちです。しかし実はそんな事なくて1960年代後半くらいから人気に陰りが出来ており、当時の漫画の潮流から取り残されて編集者や読者からも『昔は人気があった漫画家』といった評価になっていたのですね。
そのまま数年の辛い時代を経て、虫プロ商事と虫プロダクションが倒産してしまった年…1973年に『漫画家生活30周年記念作品』を銘打った本作が、起死回生のヒットとなりました。
とはいえ連載開始時にはこれも人気は低かったのですが、回を重ねるにつれ評判になり、現在では膨大な数がある手塚作品全体で見ても1、2を争うほどの代表作となったのはご存知の通り。手塚治虫先生が得意としたスター・システムも最大限に利用されてほとんどオールスター出演がされていて、そこも手塚ファンにはたまりません。
それに実際に医者の免許まで取得していた手塚先生がついに描いた医学・医療漫画であり、生まれるべくして生まれた名作なんですね。膨大な量がある手塚治虫ヒストリーの中でも、最も人気が高い作品となったのではないでしょうか。

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1話完結の読み切り作品を連作方式で進めているのでどこからでも読みやすく、これがまた上手い短篇の見本みたいな話ばかりなので、とにかくまずは読んでみて欲しいところです。
最初は謎の医者として登場しており、エピソードの最後に
『ブラック・ジャック 日本人である以外 素性も名まえもわからない
 だがその天才的な手術の腕は神技とさえいわれている
 このなぞの医者は 今日もどこかでメスを持ち 奇跡を生んでいるはずである』

とか書かれていたのですが、徐々に正体が判明してきます。

本名は間黒男(はざま くろお)で、ブラック・ジャックを日本語に直すとブラックは黒・ジャックは男で黒男というわけです。
彼はまだ8歳の時に米軍演習跡地の不発弾爆発事故で死にかけるも、将来的にも恩師になる医師・本間丈太郎による手術で助かり、すさまじいリハビリで身体能力を回復した過去を持ちます。
体がほとんどちぎれたのを手術でつないだので全身には事故の傷跡が残り、髪の毛の右半分が白髪なのも事故の恐怖心から。顔の皮膚の左半分だけ色が違うのは、黒人との混血児だった親友のタカシが皮膚を提供してくれたから。その時の友情を大事にしているため、後にも別の皮膚と取り替える事は絶対にしなかったのですね。
実は正規の医科大学…三流大学らしいですが進学して教育を受け卒業していて、しかし様々な理由から無免許のまま、ガケの上の一軒家で外科医として開業します。ちなみにここの初めての入院患者は、広島で被爆した原爆症の大工・丑五郎。
スピードも正確さも外科医として世界一の技術に加え、人間の体の中で血管一本・神経一本でもどこを走ってどう絡みあっているか分かる頭脳と感覚、とにかく唯一無二の天才医師に成長した事は確か。そしてその腕の対価として法外と言える治療費を請求する。

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ブラック・ジャックの家族構成についても触れておくと、まず母親はブラック・ジャックと共に爆発事故に巻き込まれ、少なくとも息子は世界で一番美しい人だと思っていたその顔、そして両手足と声を失う状況になった上で後に死ぬという悲惨な人生でした。
しかも、その夫であるブラック・ジャックの父はそんな家族を捨てて愛人の蓮花を連れてマカオ(香港と記載の時もあり)へ逃げた…そんな彼は会社で成功を収めて蓮花と再婚しますが、息子の手術の腕に頼る事になります。
ブラック・ジャックにとって義母となった蓮花は後にハンセン病にかかり、崩れた顔をブラック・ジャックがある理由から実母の顔に整形するという、何ともドロドロした展開に。
蓮花の娘・小蓮はブラック・ジャックにとって異母妹。彼女は非業の死を遂げるのですが、まぁ1話完結で続く作品の性質上、登場人物が死ぬ事はやたらと多いのです。
元々没交渉だった父も後に死んで、ブラック・ジャックは正真正銘天涯孤独の身になります。

ブラック・ジャックが全編を通して母親に似ている女性を手助けしたり、母親を大事にしない者に厳しくしたり(逆に母親を大事にする者には優しい)といった描写で、冷血人間と誤解される彼の本当の人間性を現しています。
何度も襲われて銃弾に爆弾にと受けているし天災等で死に掛けたりもしているブラック・ジャック、騙された事も数え切れないほどありますが、
『おれは今日ほど 腹の虫がにえくりかえったのは はじめてだ』
と発言しているのは『もらい水』というエピソードで、患者が来ると母親を追い出してその部屋に入院させている手瀬間胃腸病院の家族に対して。最後は、
『わたしなら 母親の値段は百億円つけたって安いもんだがね』
のセリフで〆ます。
ちなみにこの話では『東北一帯にマグニチュード7.5の地震発生』して凄い事になっていて…この当時は2011年の東日本大震災など起こると予測出来たわけもないのですが、今読むとちょっとゾッとします。

そのように血のつながった家族は途中からいなくなったブラック・ジャックですが、一緒に生活していて本当の家族以上の存在であり、ただ1人の助手でもあるのが、ご存知…ピノコ
単行本第2巻の『畸形嚢腫』で初登場以降は、ずっと主要キャラとして登場しているヒロインでもありますが、その誕生は衝撃的。双子で産まれるはずだった片方が出来損なってもう片方の体内に包まれたまま産まれてしまい、脳や手足に内臓といった人体の部位が腫瘍のようになって成長する事があるらしいのですが、脳髄まで持ちながらも人間になれなかった肉体のクズを集めて、足りない部分を合成繊維で組み立てブラック・ジャックの持つ技術を駆使して誕生したのがピノコです。世に奇形児などは数あれど、ここまで奇形中の奇形は他にそう居ないでしょう。同じ手塚作品では「どろろ」の百鬼丸なんかも同レベルの奇形でしたが…
でもこれが舌足らずなしゃべりと『アッチョンブリケ』で有名なピノコ語、愛らしい見た目もあって手塚漫画屈指の可愛すぎるキャラとなったのです。合成繊維で作った顔のモデルは、医学雑誌に載っていたかわいい女の子の写真でした。勝手な行動や無茶をするピノコに振り回されながら一緒に暮らす事でブラック・ジャックは顔の表情も豊かになり、人間味を増しています。

そういえば体内に包まれていた時のピノコ。この世に誕生する前は念力やテレパシー能力を持っていて医師等を狂わせたりして手術を妨害していましたが、ブラック・ジャックの手によって摘出され人間として産まれてからはその超能力を失っています。『畸形嚢腫パート2』でその相手とだけテレパシー能力は使っていますが…
ああ、医師免許を持つ手塚先生の漫画なのでリアルな手術シーンとか医術知識が使われている事で知られる本作ですが、このようなリアリティのない超能力も複数のエピソードで出てるんですよね。

もっと言えばグマという伝染病の元になるクラゲみたいな地球外生物らしきヤツも出るし、イウレガから来た宇宙人、古代人のミイラを手術したり、霊魂が出る話もあるし…
ロボトミー手術から、頭がくっついているシャム双生児だの人面瘡、公害病で一つ目に指が三本だのといった奇形…「北斗の拳」のサウザー のように心臓その他の位置が通常の人間と左右逆になっている人まで手術しちゃってますが、そんなのは序の口か。明らかに人間の力では達成出来ないであろう手術も多々ありました。他人の腕の移植、脳の移植手術(馬の脳を人に移植するのもあった)、さらには人を自力で飛べる鳥人間に改造するとか、いくらなんでも荒唐無稽な手術を成功させています。
とはいえ失敗もあるし、『医者は人のからだはなおせても ゆがんだ心の底まではなおせん』というわけで、治したために破滅を呼ぶ事なども少なくありません。
それでも、『オペをやりおえたあと 登頂不可能な山を征服したように 満足感と快感で軽いメマイを感じるんですよ』と語っていた回もありましたから、望んで前人未到の手術に挑戦し続けるのでしょう。

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ピノコの他で重要な登場人物を見てみると、これが読みきり形式の作品なので複数話で登場するキャラはかなり少ない事が分かります。2話でも登場したら相当に貴重な存在と言えましょう。
そんな中でわりと何度も出ているのがドクター・キリコ
本作において外科手術の腕ではブラック・ジャックが世界一でライバルなどいないに等しいですが、それでもあえて本作中でライバルを挙げるなら彼でしょうか。ブラック・ジャック同様に黒マントの殺し屋スタイルで、左目に眼帯をした男。
ブラック・ジャックは大金を貰って患者の命を助けますが、ドクター・キリコは大金を貰って患者の命を奪う…というか希望者を安楽死させてあげるのですね。ずっと後の1998年に起こった『ドクター・キリコ事件』は、もちろんこのキャラクター名からきています。
妹のユリというのも登場しますが、こちらは安楽死に対する意見は兄と違っています。

そうだ、ブラック・ジャック本人が手術の腕で自分以上かもしれないと認めた人物が出た話もありました。
大体20ページくらいの短篇だった本作では珍しく90ページ越えの中編で『過ぎ去りし一瞬』。ある手術をした人にどうしても会いたくてエルサルバトルの村を突き止めて会いに行くと…引退した神父で神の声がどうこう言う腑に落ちない話でしたけどね。
あと、『音楽のある風景』で出てきたD国のチン・キ博士の腕もブラック・ジャックが素晴らしいと認めてましたね。

『B・Jそっくり』で出てきた、ブラック・ジャックが外科医であるのに対して、内科医版のブラック・ジャックと言える医師の黒松。こいつは風貌が「ドン・ドラキュラ」の伯爵でしたが、患者として出てきたチヨ子という少女がチョコラだったのもファンとして嬉しい。

あと盲目のハリ師(座頭医師)の琵琶丸は、手術という行為そのものに反対していてハリ一本で患者を治す…こいつはブラック・ジャックより凄いかも。
彼のハリを鍛えている鍛冶師はブラック・ジャックのメスと同じ憑二斉という共通点もありました。

もっと重要な人物としては、やっぱり体がバラバラになったブラック・ジャックを手術した命の恩人の医師・本間丈太郎。ブラック・ジャックが医者になるきっかけも彼であり、医者になってからもずっと憧れ尊敬していた人物でした。本作では早めに死んでしまいますが回想シーンで何度も出てくるし、遺族を陰ながら助けたりもしてました。
『人間が 生きものの生き死にを自由にしようなんて おこがましいとは思わんかね……………』
のセリフでもメチャクチャ有名な、この本間丈太郎をスターシステムで演じたのは「火の鳥」でも重要人物として複数の編に登場していた猿田。

あとブラック・ジャックに関わった女性関係を見てみると、まぁピノコは色んな意味で別格ですがそれ以外では何といっても如月めぐみの名がまず挙がるでしょう。
ブラック・ジャックの医大の後輩で、同じ医局で勉強しながら彼は全く気持ちを伝えないどころか冷たい態度を取っていましたが、めぐみが夜道を歩く時は必ずBJが100メートルほど後ろに付いて守っていた…って今だとストーカーとか言われるでしょうが、そのくらい大事にしていた女性。
しかし子宮癌のため医局員時代のブラック・ジャックが手術して、子宮と卵巣まで取って女性としての機能を失ったため男性として生きる悲劇が待っています。その涙の手術の前に、ようやく恋人として…(泣)

その後のブラック・ジャックは女性に興味を失くしたのか!?
いえいえ、女性版ブラック・ジャックだからブラック・クイーンだと呼ばれた女医の桑田このみ。あのブラック・ジャッククリスマスに"ジャックからクイーンへ"なんて書いたラブレターらしきものを渡そうとししていたのですが、わけあってその恋は成らず破り捨てますが。
次に彼女が登場する『終電車』で、二人は西武新宿線の上石神井駅行きの最終電車で再会します。このみは下落合にある病院に勤めていて、近くに住んでるマンションもある設定でした。

そういえば『スター誕生』では杉並井草なんていう、そのまま当時手塚先生が住んでた東京都杉並区井草から名付けたキャラが登場し、彼女もブラック・ジャックとすれ違ったロマンスを演じる事となるのですが…井草も西部新宿線(駅では下井草駅、井荻駅、上井草駅)ですからね、西武鉄道はブラック・ジャックと関連ありです。

あとあれか、可愛いガン患者の青鳥ミチル。これは手術させるために必要な事と判断して芝居でではありますが、あのブラック・ジャックが新郎衣装を着て結婚式を挙げ、終生愛することを誓う宣言して指輪まではめてあげているシーンは驚きましたね…

モグリの医者なので医師連盟などからは嫌われていますが、他に手塚先生本人がモデルの医者としてブラック・ジャックの医大時代からの対等な友人として出てくるし、他にも医者は複数いますね。兵庫県の遠阪峠に友達の山小屋があるし。

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さてこの「ブラック・ジャック」、初出の週刊少年チャンピオン誌で描かれたのは全242話だそうです。
最初の少年チャンピオンコミックスでしか収録されていない作品、その少年チャンピオンコミックスでも版を重ねる際に削除された作品、そもそも単行本化をした事がない作品もあります。
私はこのチャンピオンコミックスの他にも文庫版でも愛蔵版でも集めた(文庫のみ収録されているエピソードがあったりするし)、昔から大好きな作品なので1話1話見てどう面白いか語っていきたいくらいですが、さすがにそれは労力のわりに求められていないだろうからやめておき、友達と呑みながら語ったりするにとどめておきましょう。
そういえば2003年にブラック・ジャック生誕30周年記念企画でアタッシュケースに大型本グッズも入った仕様の「BLACK JACK LIMITED EDITION BOX」が発売されたのを覚えている方もいるでしょうか。あれでのみ収録されているエピソードもあって気になったのですが、値段が値段だったので当時は涙を飲んで諦めました。

そんなわけで読めてない作品も含めた全242話の中には、『ハローCQ』みたいに何度読んでも泣いてしまう作品から、はっきり言ってどうでもいいクソエピソードまでありますが、作品にムラのある手塚作品にしては総じてレベルが高い、既に書いたように良い短篇の見本みたいな仕上がりになっています。

『報復』では医師法違反で逮捕されたブラック・ジャックにピノコがカップヌードルとボンカレーばかり差し入れに持って行くのですが、ブラック・ジャックに『ボンカレーはどう作ってもうまいのだ』という無駄なセリフをしゃべらせています。
これは日清食品と大塚食品に宣伝費を貰っての事だったのかな!?そうだとしたら、このように世紀を越えて残る名作に入れた見事な宣伝という事にもありますが。天才医師が食べるのだから、体に悪いというマイナスイメージも払拭されたかもしれません。

『古和医院』で、目玉がでっかくギョロリと飛び出している少女・ツユ子が登場し、『おらァまた日野日出志のマンガかと思った』というセリフも出てきましたが、その日野キャラそっくりになってしまう病気はパセドー氏病という事で、現在ではバセドウ病と呼んでいる甲状腺機能亢進症でした。XのYOSHIKI様もこれに患った事をニュースで見た時はこのエピソードを思い出してドキリとしましたが、日野キャラみたいにならなくて良かった…

珍しい例が『ある老婆の思い出』というエピソード。
何と50年前にニューヨークでブラック・ジャックと出会い、彼の手術に立ち会った看護婦が当時を回想する話で、その時にブラック・ジャックが命を助けた新生児がアメリカの大統領になっているオチなのですが、残念ながら50年後のブラック・ジャックは登場せず。年齢的にはまだ生きててもおかしくないですが、さすがにオペはしてないだろうな…
ブラック・ジャックの過去を描くエピソードは多々ありましたが、未来は全然無いですね。

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あとちょっと語りたいブラック・ジャックと医師免許について…
本人が肩書きが苦手だからとか法外な治療費を請求するからとか、他にも様々な理由があるのですが、恩師の本間丈太郎先生を追放した日本医師連盟に敵対心を持っているのは大きいように思います。日本医師連盟会長が医師免許を差し出して手術をお願いしてきた時は、会長の目の前で免許をビリビリ破いてしまったし。

法外な治療費の件は、確かに安くても数百万円で億の単位に届く事も何度もありますが、相手が弱者だったり親孝行者だったりすると一円も貰わなかったり後で返したりしていて、本当にお金を稼ぐために手術しているのか疑問に思う事すらあります。患者や家族を試しているだけの事も多いんですよね。
手塚医師にがめついと言われて、
『がめつい?ほかの分野ならいざしらず…患者(クランケ)のいのちをかけて手術する医者が じゅうぶんな金をもらってなぜ悪いんだ!!』
と返したり、日本医師連盟に呼び出された時も
『わたしは医師連盟できめた料金なんてばかばかしくて あいてにしませんね
 わたしは自分のいのちをかけて患者を治しているんです それで治れば一千万円が一億円でも高くはないと思いますがね』
と言って平然としています。
それだけ信念を持って高い技術を使った手術をしていて、求められてやっているのだと。
患者が死にそうな時はいくらでも払うと言って料金も決めておきながら、治ってしまうと払おうとしない奴もごまんといて…まぁそれで人間性を描いて漫画のネタになるわけですが。

それでも確かに普通の医師より稼いでいますよね。
人間、ただ稼ぐ事自体が目的でそんなに頑張れるわけありません。それで稼いだ金の使い道が重要になってくるのですが、これまた様々な理由が判明していますね…
メインは、美しい自然が残っている島をあちこち買い取っている事かな。

あとはあれか、過去の事故の復讐!!
14巻になってようやく出てくる、ブラック・ジャックの重要な目的として復讐ですよ。早くから事故で大変な体にされて愛する母親も手足を全部もぎ取られて下腹に穴が空き、声もでなくなって死んでいった事は描いてましたが、実はその関係者『ひとりひとりに さりげなく慎重に計画した刑罰を与える』と決意していたのですね。
ブラック・ジャックは襲われたりして闘う必要がある場面では黒いコートの中に隠し持った道具で百発百中のメス投げをしていますが、これも学生時代から復讐を目的にダーツ投げで腕を磨いていたから。
で、そのずさんな不発弾処理で終わらせた事件の関係者というのは5人いる事を突き止めて、当時不発弾処理にあたっていた自衛隊の特別作業班だった井立原、現場責任者の姥本琢三まで処理しました。これで残りは三人…

あれ?そうです、この名作に難点を挙げるとしたら作者がこの復讐を忘れている事。この後その話は無かったかのように、全然出てこないまま作品は終わるのですから。
うーん、これって全くの他誌ですがちょっと前に連載されていて映画化もした「修羅雪姫」の影響で作っちゃった話だったりしますかね?復讐というテーマはもちろんのこと、二人目はやっと見つけたと思ったらとても復讐するような状態じゃなかったり、似ている部分もありますし。

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そんなわけで復讐は途中で放り出されてしまった本作。良く解釈すれば、ブラック・ジャックが二人目の時にその空しさに気付いて止めたのかもしれませんが、では最終回はどうだったのか。
この作品は毎度読み切りで連作になっているので、毎回最終回に出来るという所もあるかとは思いますが、それでも一応〆は欲しいじゃないですか。
あえて言うなら5年目の1978年に描いた『人生という名のSL』か。これが一旦週刊連載を終了させるための1本。
その後もたまに読み切りを描いて13話が追加され、実質は1983年まで続いた事になるのですが…その内容からしても『人生という名のSL』は最終回っぽい。

その前の『台風一過』で、あの丑五郎がどんな潮風にも台風にもいたまないようにとこしらえた石造りのブラック・ジャック邸がついに吹っ飛んでるし…
ちなみに最後にピノコが淹れてくれた朝のお茶を、何もなくなった家の残骸の所で頂くラストは後の1984年に公開された石井聰亙監督&小林よしのり原案・脚本の名作映画「逆噴射家族」とかぶります。

『人生という名のSL』の内容といえば飛行機内でうたた寝をしながら、ヒゲオヤジからドクターキリコに如月恵、もちろん本間先生などが登場し、最後に八頭身美女版のピノコが出てくる夢を見る、しかも死ぬ前に見た夢っぽい形で紹介されたエピソードだったので、まさに最終回っぽかったのです。ピノコとの会話も素晴らしく良かったし。
翌年からまた不定期で描き続けられたブラック・ジャックですが、作中の時系列はあてにならないのであの後で死んだのかどうかは全く分かりません。

チャンピオンで最後に掲載された243話目は『オペの順番』、チャンピオンコミックスで最後の25巻の巻末に載ったのは『流れ作業』で、共に全然最終回っぽくないですね。
この点は本当に残念だなぁ…その後、同じ少年チャンピオンで手塚先生が連載した「ミッドナイト」は個人的にあまり好きではないのですが、何度かブラック・ジャックが設定そのままで出てくるのは嬉しいポイントでした。その「ミッドナイト」の最終回(1987年)が、そのまま「ブラック・ジャック」の最終回でもあったと見る事も出来ますね。
結局はハッキリとしたブラック・ジャックの晩年とか末路は描かなかった事で、読者それぞれの心の中にそれぞれのブラック・ジャックが居るのです、と。

本作から生まれたリメイク漫画にドキュメンタリー漫画、オマージュの要素がある漫画など関連作品、それに漫画以外のメディア化した作品には触れませんが、偉大すぎる作品ならではの影響力は連載開始から実に40数年が経った今も残っています。


神さまとやら! あなたはざんこくだぞ
医者は人間の病気をなおして いのちを助ける
その結果 世界中に人間がバクハツ的にふえ
食糧危機がきて 何億人も餓えて死んでいく……………………
そいつがあなたのおぼしめしなら………


医者はなんのためにあるんだ


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  1. 2016/04/24(日) 23:59:59|
  2. 手塚治虫
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Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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