大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

手塚治虫(52) 「ノーマン」

手塚治虫作品より、「ノーマン」(朝日ソノラマ刊)。
TEZUKA-noman1-2.jpg

初出は1968年の少年キング(少年画報社刊)で、最初の単行本はサンコミックス版で全3巻。
物語は33才になる主人公が体験した20年前の出来事の回想という形で紹介されるのですが、つまり13才の少年だった主人公は、中条タク
軍事物資を扱っていたために『死の商人』と怨まれている父の仕事の都合で、タクも両親と共に夜逃げ同然に東南アジアへ飛ぶのですが…一家で命じられた『北緯1度13分東経102度5分』の場所に向かうと、荒れ地の小屋に2人の男が待っています。彼らの1人はマルセイユの船員でルイ・ブードル、もう1人は英国人のデービッド・フライト。合計5人が揃うと、骸骨から肉体を得た男によって別の土地へ連れて行かれるのですが、それが現代の地球から時は5億年前、場所は月という、とんでもない所にワープさせられていたのです。

ちょっとやそっとのタイムスリップではなく、5億年前って…地球はカンブリア紀で、霊長類の出現よりはるかはるかに昔の事ですからね。ええ、何ともスケールのでかい話でしょう。
とはいえ当時の月は自然豊かな美しい星で、見慣れない生物も多いものの人類が存在して都市も作り上げていて、タク達は普通に会話も出来るのですが。彼らが連れて行かれたのはモコ帝国のカルカン砦で、何と着くなりタクの父親は毒矢で殺されて塩になってしまう。やったのは銀河の果てから来た爬虫類系の宇宙人・ゲルダン人のスパイだったようで、月はこのゲルダン星人からの侵略に脅かされており、それを阻止するために未来の地球から超能力者(エスパー)達を呼び寄せたのです。
そう、タクもまだ弱いながら超能力者で、念動力(テレキネシス)の使い手なのでした。ちなみに父がすぐさま殺されたのに加え、母は訓練中に心が乱れないため冷凍保存されています。

月でこの帝国を収める王子が、瞬間移動(テレポーテーション)能力を持つノーマン
この星では子供は試験管で生まれるため『親』という概念も愛情も知らず、タクとの初対面でいきなり『気ちがい』呼ばわりされていますが、それは環境の違いでしょうがない事です。
そしてこの名前!作品のタイトルになっている人物名ですが、ノーマン王子は決して主人公ではなく出番もさほど多くない。いわばサブキャラなのにタイトルになっちゃった珍しいパターン。今回載せてる単行本の表紙も、全てがタクの絵ですしね。

さてタク達地球人の他にも様々な星から、月の都で宇宙一美しいアローデ市に集まった超能力者達は"特殊訓練所"で修行をさせられるのですが、ここの同僚で紅一点のルーピというのが本作の可愛いヒロイン。スピカ出身で長い尻尾を持っており、細胞分裂で一瞬にして自分の分身を作り出す能力を持っています。
辛い特訓の中でも、タクとルーピのやりとりは微笑ましい。

敵の醜いゲルダン人ですが、これが…強すぎる。爬虫類の見た目のくせに科学力も高くて残忍なのに、分裂能力・変身能力・毒ガス能力・念動力・仮死ボールと5つの超能力を自由に扱うのですね。
現代の我々が見る月は穴だらけの死の世界ですが、こうなったのも原因はこの時代にゲルダン人が侵略してきたため月で大戦争あ起こり、その際に核爆発と放射能でいっぱいになって全滅したから…と、この事はノーマン王子も未来を映すタイム・ビューアーで見て知っているのです。主人公側が負けると始めから分かっている戦い、しかしそれでも決定されているモコ帝国の敗北と月の死滅を食い止め歴史を変えたい。そのための『ノーマン計画』として様々な時代・星から超能力者を集めており、タクもそれに巻き込まれた一人。

ノーマン王子が集め、特殊訓練所で腕を磨いている超能力者達を見てみると、
・所長のベガー少佐(月人) 再生能力
・ブッチ隊長(ハウンドロ星人) 音速能力
・メルス隊員(ブザール星人) 体が平たくなる能力
・ゴブラン隊員(ミゼル星人) サイボーグ二十万馬力
・ザロモン隊員(フォルン星人) 破壊脳波能力
・ルーピ隊員(スピカ星人) 分身能力
・ブードル隊員(地球人) 誘導能力
・フライト隊員(地球人) 透視能力
・中条タク隊員(地球人) 念動力
と、バラエティ豊かな人とそれぞれ違った特殊能力、これは正に戦隊モノですね。
しかも、9人の戦士達か…となるとすぐに石森章太郎先生の「サイボーグ009」が思い出されますが、手塚治虫先生は「ナンバー7」「白いパイロット」等、009よりずっと以前にチーム・ヒーロー物を描いていたのですよね。しかし本作はかなり後年に描かれた作品である事や知名度が低い事を考えると、当時としてもちょっと古かったのでしょうか!?
いや、でも初出から実に50年近く経った今読んでも面白い冒険活劇ですよ。もうちょっと評価されて欲しいものだと思うのですが。

単純に武力で押してくるだけでなく、巧妙に内部からズル賢く攻めてくるゲルダン人の手口、そして味方側からも敵のスパイに転ずる者も出るし…わりと複雑な展開でスリリングに進みます。
タクが一度敵の手に落ちた時、ゲルダン人の拷問を受けるのですが、それが酷い…気持ち悪い虫攻めとか、しかも何度も治療して繰り返すという!あとタクは、ある戦いで全身メチャメチャになって死にかけ、首から下をサイボーグに手術しています。主人公の少年が首チョンパしている絵はちょっと衝撃。

TEZUKA-noman3.jpg

特殊訓練所の超能力者達は"ノーマン・レインジャー"という精鋭部隊になり、当初はまだまだ弱かったタクの念動力も強くなっています。
そしてゲルダン人の前進基地に乗り込む等、最終決戦に備えて大きな動きを始めるのですが、ゲルダン星攻撃軍のグズボ総司令官なんてとんでもない化物が出るし、ゲルダン星軍への指令を出す中枢のコンピューターに捕らわれて対話する事になります。知識を求め続けている中枢は、タクの頭から母親の愛情を知るのですが、この事が後に物語に大きく影響します。

それからはクライマックスへと続く大攻防が開始されるのですが、これが一進一退、いやあきらかに不利な状況が続く戦いでノーマン・レインジャーも死者が続出するし、緊張感が高まります。本作は敵が強すぎますからね…それも滅びの未来を知っているからこその設定でしょうが。
ゲルダン人は月に攻め入るや非戦闘員の女や子供もなぶり殺しにして吊るしたりする冷酷さで、街が廃墟になって死体が転がる様は地球で言えば人体実験の意味も強く非戦闘員に原爆まで落としたアメリカ軍を連想します。宇宙でも名高い美しい都・アローデ市の史跡や文化財などは戦争とはいえ破壊するに忍びないと壊さないよう配慮しているあたり、アメリカ軍より良心的とさえ言えるか。
そういえばグズボ総司令官とベガー少佐の問答で、どちらが侵略者とかは立場によって違うのだし軍人は偉い連中が決めた事に文句言わず戦っていれば良いのだと、それが軍人の悲しさなのだと語っていましたが、確かにその通り。

もうゲルダン人に対して打つ手はゲリラ戦的なものしかなくなった月人ですが、ノーマン王子は非戦闘員達をまだ人類の誕生する前の地球に送る事にして、その護衛としてノーマン・レインジャーを付けました。よって、タクもついに地球に戻れるのです。
さらに都合よくタクと母は現代の地球にワープしますが、サイボーグの体になってるのはどう説明付けるんだろ。作品プロローグ部で、少なくとも33才まで普通に生きている事が分かっているし。
あと、そこでその時に地球へ降り立った月人たちが現在の地球人たちの祖先ではないか等の珍説も出て…
『地球人は月へいこうとしている なぜなら 月へいかなければならないからだ』として作品を〆ているのですが、くしくも本作が描かれた翌年にアポロ11号で本当に人類が月面着陸するのだから、面白いものです。


最終巻である3巻の巻末には1970年の短編「ドオベルマン」が収録されています。
これは1989年…つまり手塚治虫先生が亡くなった年に、朝日ジャーナルが藤子A先生の表紙にて追悼の臨時増刊したB5判の本「手塚治虫の世界」(朝日新聞社刊)の中で唯一再録された手塚漫画でもありました。
TEZUKA-sekai.jpg
当時はまだほとんど生きていた漫画界の大御所達がこぞって漫画を寄稿、もちろん他ジャンルの有名人達も寄稿しまくり、貴重な内容であると同時にいかに手塚先生の逝去が事件だったかも物語る増刊でしたが、「ドオベルマン」が再録されたのは手塚先生自身が登場人物となっているから、そして傑作短編だからでしょう。
新宿に現れたイングランド人で下手な絵描きのコニー・ドオベルマンと、その絵に秘められた恐ろしい法則を描いた傑作SFでした。

あとここの『手塚治虫〔ベスト20作品〕』のコーナーで漫画評論家の呉智英氏が「0マン」を紹介していて、その中で
『マンガは、連載と並行してリアルタイムで読むのが一番いい。次が、連載から少し遅れて、単行本にまとめられたものを読む読み方である。歴史上の作品となったものを後に読むのは、読まないよりはいいだろうが、それは知識を得たというに近い。作者と読者の時代の三者の相互関係が作品を形成している面があるからだ。』
と書いています。これは私も自分が読んできた漫画と照らし合わせても全く同感で、それだけに手塚作品をリアルタイムで一つも読めていない世代に生まれた(小学生の時は存命でしたが、手に入る児童誌や少年誌では描いてなかった)、そんな我が身の不幸を嘆いています。


かっこうだけでは抵抗はできんですぞ スン
要塞ができたって 武器がそろったって 負けるときは負ける!
かんじんなのは………………心じゃ
月を守り敵と死んでも戦うファイトだ
それがなければ どうしようもないわ



スポンサーサイト
  1. 2016/05/15(日) 23:30:13|
  2. 手塚治虫
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<手塚治虫(53) 「サンダーマスク」 | ホーム | まことちゃんポスト、その他の楳図かずおネタ>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://mangabruce.blog107.fc2.com/tb.php/1462-bb63a382
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する