大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(57) 矢口高雄 5 「はばたけ!太郎丸」

今回は久々の矢口高雄作品で、サンコミックス(SUN COMICS)の「はばたけ!太郎丸」(朝日ソノラマ刊)です。
YAGUCHI-habatake-taromaru.jpg
単行本は全2巻の、鷹匠(たかじょう)を主題に使った作品です。

ちなみに鷹匠とは、鷹を訓練して使い、鷹とのチームワークによって獲物を捕らえる人の事で、この狩猟方法を"鷹狩り"と言います。
それにしても鷹匠漫画…こんな物、まさに矢口高雄先生しか描けないでしょう。
そして当然、持ち味の大自然と人間と動物を描いた、感動のドラマに仕上がっていますよ。

舞台は東北地方の奥羽山脈の奥地、鳥海山。
この地で暮らす名人鷹匠の源造が、その精神や技術等を継ぐ孫でまだ少年の源太郎に、とある野性の角鷹(くまたか)をつかわせようと決意します。

この角鷹の母親こそは、源造が60年もの間求め続けていた本物の空の王者で、金色に輝く瞳、カギ状に鋭く研ぎ澄まされたくちばし、一旦獲物をつかんだらひと握りに窒息させるだろう頑丈な爪を持っていた角鷹で…。
かつて惚れたその角鷹の子が、後に太郎丸と名付けられ、日本一の鷹匠を目指す源太郎と友情で結ばれていく様を描いた作品なのです。

『源太郎 わしは伝統ある鷹匠の技を消したくねえのよ
今の世は文明ちゅう えたいの知れねえバケモノがのさばって
いつの間にか生きもんが すめなくなっちまってる
このままいけば やがては鳥や獣ばっかしじゃねえ
わしら人間もすめねえ世の中になっちまうじゃろ
それをとめるのは源太郎!! おめえたち若いモンの仕事!!
そのため最高の鷹をおめえにやるんじゃ』


そう言う源造の指導の下、後に太郎丸と名付けられる角鷹の王を捕らえますが、読者は猛禽類の習性も勉強できて、ちょっとした鷹博士にもなれるようになっています。
さて捕らえた鷹を自分のモノと言うには、この鷹が主人となる人間の手からエサをもらってから初めて言えるのだそうです。
しかし野性の鷹にエサを食わせるほど難しいものはない…

本当に、これから源太郎が太郎丸にエサを食わせるまでの戦いが長々と描かれます。
ここらへん、リアルな絵柄以上に徹底したリアリズム。
愛情が通じて腕にとまってくれるようになると、その人間こそ鷹に名前を付ける権利があるのですが、とにかく太郎丸は野性の本能と誇りを命より大事にするような空の王者で…
三週間近く経っても何も食わず、つまり人間の手からエサを受け取るくらいなら、このまま餓え死にする方を選ぶのです。

この誇り高い鷹を死なせるくらいならと、源太郎はついに根負けして太郎丸を野性にかえしてやるのですが…
後に考えられない事が起きました。
一旦野性にかえった太郎丸が、源太郎の家まで勝手に獲物を運んできたのです!
それから山で源太郎とミヨちゃんが冬眠からさめたばかりの凶暴な熊に襲われている時には空から助けに来てくれ、またマムシに噛まれた時は源太郎を助けるために源太郎のえり巻きを持って祖父の源蔵に知らせ、案内する…
そこまでの友情が育ちました。

源太郎の籠手に呼渡り(おきわたり)もするようになりますが、しかし源太郎は太郎丸の主人になったとはいっても飼っているという関係ではなく、太郎丸は夜になれば山に帰っていくし、鷹匠と鷹というより仲の良い友達のような関係になったのです。

とある工事現場で人間に囚われた子狐と、助けに来た親の感動的な話をはさむと、源太郎は狐に同情してみなしご動物を作るから鷹匠はやりたくないと言い出し…
それを食物連鎖、大自然の調和、人間が自然の中でどうしているかという話をして考えさせ、源造と源太郎はお互いの鷹を連れて鷹狩りへ出かけるラストでした。

おっと、その少し前に机に向かう作者本人が登場して、
『ボクは近ごろ とみに世界のハンサムボーイとうわさの高い矢口高雄です…』
なんて言って、長々と作者の自然に対する警告や考えを語った場面は、笑いました。


2巻の巻末には秋田県羽後町上仙道桧山に生きた鷹匠・土田力三氏の人生を描いた短編「最後の鷹匠」も納められていて、これも感動的な話に仕上がっているのですが…
鷹匠の伝統を受け継ぐ気になれず、浪曲師を夢見てとある師匠の前で得意の一節をうなった少年時代のシーンが強烈でした。
『ひどいズーズー弁だ ここはお前のような百姓の来るところではないッ
百姓なら百姓らしく肥桶でもかついでろッ
伝統の芸術にさびがつくわい ハハハハ』

なんて言って去っていく師匠の言葉にショックを受ける土田少年。

「はばたけ!太郎丸」の方でも、矢口高雄先生が知る鷹匠の固有名詞が出ていましたが、現在では鷹匠という職は完全に失われいるのでしょうか。
惜しいものですが、これもまた"自然"なのでしょうね。


源太郎ようく見ておくんじゃぞ
鷹匠の鷹は なぜヒモなんかでしばってなくとも
にげていかねえものかをな



スポンサーサイト
  1. 2008/11/08(土) 23:26:30|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<トキワ荘(35) 石森章太郎 26 「北斎」 | ホーム | ホラー漫画(28) 杉戸光史 2 「死少女のたより」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://mangabruce.blog107.fc2.com/tb.php/635-05a98fda
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

BRUCE

Author:BRUCE
BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する