大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

トキワ荘(35) 石森章太郎 26 「北斎」

今夜の石森章太郎作品は、「北斎」(世界文化社刊)です。
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石ノ森章太郎名義に改名された後の作品で、単行本は全3巻。
作画協力としてあのシュガー佐藤先生の名前もクレジットされています。

タイトルでお分かりの通り、世界的にも著名な江戸時代に活躍した浮世絵師・葛飾北斎の生涯を描いた作品です。
とはいえ北斎の生涯は謎があまりに多いため、石森章太郎先生の予想や空想によるフィクションの部分が多いと思います。
改名につぐ改名は30回、90回以上もの転居、3万点を超える作品数に画風の変化…そしてこの時代に九十歳と、人の倍近く生きたと言われる人物ですからね。

序章と終章以外に1~9章に分かれているのですが、これが時間軸をバラバラにした構成で面白いです。

俵屋宗理の名で売れていた42歳時に『このまンまジジイじゃもったいねえ』と葛飾北斎に改名し、寺で150畳の巨大な絵を描いて"葛飾の画狂老人"北斎の名を天下に知らしめた、要は精力盛んな時期から始まります。
(そういえば石森章太郎先生も第一線の漫画家時代に改名しましたね)

次は少年→青年時代の回想から戴斗と改名する56歳時…
先に書いた通り、北斎は30回と言われる改名をしていますが、若者時代に
『名前なんざどうでもいい!
絵が描きつづけられりゃそれでいいんだ!!』

と決意するまでも描かれています。

もう晩年も近い85歳で勝手に三浦屋八右衛門なんて名乗って貧乏暮らししている北斎、その次に最も慢心して技と人気に溺れて自分を見失っていた50歳…
時代がコロコロと行きつ戻りつし、67歳であの「富嶽三十六景」を手がけている描写もありますが、この時は弟子を二人連れて旅して富士を教え、さらに北斎が命を狙われるサスペンス仕立てにもなっていて、面白いです。

ISHIMORI-hokusai3.jpg
『わしは……別に富士を描いておるわけじゃない
人間を描いておる 時間を描いておる
…なぜならいくら美しい景色でも 人間の眼を通さなければ 美しい景色にならんからだ
…その人の眼を通して 人の世とは違って 変わらぬように見える大自然も……
人の世と同様 時々刻々に変わることを 描いておる』


『富士山は 決して同じ形ではない……
見る時と場所によって さまざまに色と形が変化する……
それにまた……富士に限らず景色というものは
見る人のその時の心のありさまによっても たたずまいを変える
つまりじゃ 自然も生きておるということじゃ
人の心を通して 生きも死にもするということじゃ…!』


などと難しい事を言って弟子達を悩ませますが、何度も挿入される北斎の有名な画は凄い。
この「富嶽三十六景」を後世、ゴッホが賞賛し、ドビュッシーが交響詩「海」を作曲するまでの影響を与える事となるのですね…

タフな北斎ですが、74歳の貧乏暮らし時には奇妙な幻を見るようになった上、ぐれた孫の栄吉に金をせびられる話があるのですが…
この栄吉、自分の女房に色仕掛けさせてまで北斎に金になる絵を描かせ、あげくは刺客に殺されるやり切れないエピソードでした。
何より弱い北斎が辛い。

両親の悲しいお話、北斎自身の家庭問題、あの滝沢馬琴との交流…
いろいろあって、絵を描き続ける80歳で
『…なぜ人は死ぬ?わしは……死なんぞ!!
百までも いやそれ以上も生きてやる!
……でないとでないと やりたいことをやり終えることができん…!
…九十歳よりはまたまた画風を改め
百歳の後にいたりては 此道を改革せんことのみ願う……』

と、海を見ながら宣言するわけですが、このおよそ10年後の嘉永二年(1847年)に、このバイタリティありすぎる画狂も死にました。

葛飾北斎。
フランス印象派に大きな影響を与え、ピカソも絶賛した…いや、もうこの方の偉大さはこういう事だけで評価できるものではありませんが、この石ノ森章太郎版では売れない時の貧乏生活や大変な性格、業績よりも謎が多い空白の部分にこそ想像の光を当てて描かれています。
北斎の絵をかなりの数引用しているのはいいのですが、これで自身の絵が素敵で勢いもあった石森章太郎名義の時代に描かれていたら…もっと凄い傑作になっていたのかもしれませんね。


…わしが旅を好むのは
じっとしていては見れんものが見られることじゃ……
景色 建物 そして いろんな人々

…特にこの"人"というのがおもしろい…
むずかしいかと思うと簡単で 簡単かと思うとむずかしい
人の動きの向こうに見えないものが見えてくる……それがたまらない…!
…絵を描くのが実は旅によく似ている
新しい絵を一枚描くのは 新しい景色を見るのと同じ
そして絵のなかでは 人を描くのがいちばんむずかしい

人の形を写すのはだれにでもできる…
だが いろんな動きを描き写すのはむずかしいし
その動きの後ろの 人の心まで描くのは さらにむずかしいことなんじゃ



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  1. 2008/11/09(日) 23:16:03|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

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