大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(58) 安達哲 1 「さくらの唄」

今回は安達哲先生の名作「さくらの唄」(講談社刊)です。
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ヤングマガジンで1990年から連載した作品で、単行本はオリジナルのヤンマガコミックスでは全3巻ですが、使った画像は10年ちょっと前に出た当時買った愛蔵版で、こちらでは上下のみの全2巻です。

まずお断りですが、私のブログでは今の所この作品を入れる適当なジャンルが無いため"劇画"の所に入れさせてもらいましたが、気にしないでください。劇画という言葉は、広い意味で使っていいと思いますしね。

安達哲先生は1968年生まれの東京都出身。
1988年に週刊少年マガジン(講談社刊)にて「卒業アルバム」でデビューして、今回の「さくらの唄」の他には「キラキラ!」「お天気お姉さん」あたりが代表作でしょうか。

「さくらの唄」の主人公は暗い高校生の市ノ瀬利彦で、『みんなが見てる みんながオレのこと 変な目でみてる』などと他人の視線を怖がり、妄想癖のある少年です。
ヤンキーやスポーツマンではなく、クラスの目立たない奴、文系男子側を主人公にしての学生漫画って、それだけで私には好感持てますが…
後半のすさまじい展開によって、伝説的な扱いをされている作品です。

ガラッと作品が変貌を遂げて、だからこそ名作になった漫画といえば「デビルマン」「東大快進撃」や…って例を挙げたらキリが無いかもしれませんが、「さくらの唄」もそのパターンで、さらに日常生活描写の隅々や脇役まで面白いです。


市ノ瀬は憧れていた担任で美術教師の三ツ輪先生が妊娠(つまりセックスしてた!)して学校を去る事で想いは終わり、それでもすぐに学校でもアイドル的な美少女にして同じ美術部でもある仲村真理に憧れるのですが、暗い性格なので話しかける事もできません。
家庭は両親がシンガポールで生活していて、出戻りの姉・詠子と二人暮らし。
く三ツ輪先生が残していった"アトリエ武蔵"のパンフレットを見て、『オナニーより大切なものが生活に欲しかった』とかで絵を真面目に描く決意をします。

ある日、姉弟で住む自宅にあくどい不動産業を営む金春のおじさん夫妻が強引に引っ越してきて…共同生活が始まるのですが、これが運命の狂い所でした。
この夫妻は五十半ばというのに夜は夫婦生活(しかも変態プレイ)があるし、生活の押し付けも増えて自由が無くなり、さらにおじは姪の詠子を目当てで来たようなのです。

しかし一方では、暗い童貞の主人公だった市ノ瀬、本格的に絵を習い始めると同じ塾で見つけた真理と急激に打ち解けてゆき、文化祭で映画上映する企画の主演を真理にお願いしました。
クラスメートとも意気投合して皆とワイワイやる存在になっていき、普通なら読者は頑張れと応援する所なのですが…市ノ瀬の性格が変わっていきます。

実はおじが本当に街を牛耳るほどの権力者で、でかいバックもいるのだと分かったからなのですが、市ノ瀬を後継者に決めたおじはあれこれ世話を焼き始めるのです。
憧れの三ツ輪先生の旦那を脅して性教育させ(もちろん童貞喪失も)、ヤクザをボディガードに付け、豪邸に住まわせる。

市ノ瀬は、前に真理の住む豪邸に行って生活レベルの違いを思い知らされるシーンがありましたが、今や自分が御曹司扱いで周りからチヤホヤされ、パーティー会場で見かけた宝塚女優の名取葉子を皮切りに、アイドルやモデルなんかも権力使って抱いていきます!
あの絵が得意なだけだった暗い少年が…
『社長か・・・・こんな生活できるなら それにこしたことないじゃん
自分のめざした道とは違うけど そんなにやっきになって貫くほどのもんじゃないし
売り渡して困るほど気高い魂ももってるとは思えない・・・・』

なんて、開き直ってエロ三昧の日々なのですから。

しかしクラスの奴らは急に羽振りが良くなったバカ殿のような市ノ瀬を敬遠し始め、いろいろ考えてやっと目がさめて美大に進学する決意をするのですが…
すると今度は金春おじの執拗な妨害が入ります。
文化祭で上映するために3年7組の皆で力を合わせて、ついに完成した「さくらの唄」は…上映本番の時に市ノ瀬と三ツ輪先生のポルノに入れ替えられていて、学校では大の嫌われ者になりました。
さらにおじが姉を強姦する衝撃シーン!その写真を見せ付けられ、おじを殺す計画を実行に移すべく爆弾作りに残りの青春をかけ、本当にショック死させてやりました。
それから利彦と詠子の市ノ瀬姉弟で近親相姦、それをおばとアイドルの真理とに見られ…

五年後ー
ニューヨークに住んでいる市ノ瀬は、偉大な画家として世界的な評価を得ています!
高校時代で既にアメリカ美術界の権威であるマルセル・クリスプ
『長い間迫害蹂躙され祖国を奪われた民族しか知り得ない嘆き哀しみが滲んでいる』
と評価しているのですが、要はあの異常で過酷な体験こそが市ノ瀬の美術の才能を開花させたようです。
そうなると三ツ輪先生も『偉大な芸術家に性を手ほどきした情熱的な教師として伝説的マドンナ扱い』され、高校の美術室は"市ノ瀬記念館"扱いして…
といった、まぁこのラストは安達哲先生らしいハッピーエンドを取って付た所でしょう、とにかくこれで終わり。
最後の言葉は、美術教師になった真理の『最初から自分信用してやればよかったのよ』でした。


ちなみに後半の暴走は、描くのがイヤになって悩んだ安達哲先生が、どうグチャグチャにしてやろうかと考えながらのだそうです。
これのせいで、例の"有害図書論争"で発禁にされかけ…成人指定図書となった時代もありました。

もちろん童貞が女子に対して思う気持ちだとか、親から金出してもらってるくせに美術家や芸術家気取りの奴らのダサい自意識だとか、そんなのも上手く表現されているので嬉しいです。
目まぐるしい環境に支配された市ノ瀬の心情描写が痛々しく、前半で感情移入した登場人物達のレイプを含む性描写が衝撃的な名作、「さくらの唄」でした!


こいつはどうして こう声がでかいんだろう
オレたちぐらいの年になって やたら声がでかいやつを オレは信用しない
人間の深みも生い立ちの哀しみもない ガサツなヤツ



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  1. 2008/11/10(月) 23:54:47|
  2. 劇画
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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