大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

トキワ荘(38) 石森章太郎 29 「変身忍者 嵐」

今夜の石森章太郎作品は、「変身忍者 嵐」(朝日ソノラマ刊)です。
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1972年に週刊少年マガジン(講談社刊)で連載された作品で、サンコミックスで全3巻。
石森章太郎先生が残した数多過ぎる作品の中でも、有数の救いのなさを持つヤバイ作品です。

このサンワイドコミックス版だと全2巻。
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「変身忍者 嵐」も、あの「仮面ライダー」の大ヒットに続けとばかりに、原作者はもちろん監督やメインライター、、ナレーターも同じ人を使って特撮TV放映もされたのですが…
現在では知名度がライダーとは比べ物にならないくらい低い事でも分かる通り、不発だったようです。

それでは原作漫画(萬画)版の「変身忍者 嵐」はどうかというと、これが私好みの傑作なのです。
変身ヒーロー+時代劇、そして怪奇モノの要素が合わさり、随所に石森先生らしい実験的な要素も見えるし…何でもっと評価されないのでしょう。単純に暗いからかな…


舞台は江戸時代で、オープニングからいきなり激しい忍者同士の決闘が描かれます。
そしてすぐに瀕死の重傷を負うのが、本作の主人公ハヤテ

敵は忍者集団の"血車党"
彼らはハヤテの父・嵐鬼十が編み出した化身忍法の秘が書かれた巻物を盗んだあげくに殺し、量産した化身忍者を率いて狡猾に権力者(殿様)を操り、日本征服を企んでいるのです。

物語の鍵ともなるその化身忍法とは、簡単にいうと動物や怪物に変身する忍法(能力)で、実は生前の嵐鬼十はハヤテも知らぬ間に息子の身体に細工をしていて、ハヤテもその授かった化身の術で鷹のような顔になる…その変身姿が、タイトルの示す
変身忍者 嵐

そしてハヤテ(=変身忍者 嵐)による、血車党への復讐が始まる…
という話ですが、まず変身忍者 嵐の造形はあまりカッコよくなくて、素顔のハヤテの方がハンサムでいい、という所がヒーロー物としては珍しい(完全に失敗でしょうが)。
実際に、後半はあまり変身せずにハヤテ姿のままで終わる話が多いのです。

とにかくハヤテの目的は個人的な復讐のみ。全然正義の味方ではありません。
それが敵の首を飛ばし、斬りまくり…だけの話ならまだ普通なのですが、必要以上に血車党側の刺客、つまり敵の哀しい心情表現もされていて、読者は単純にハヤテの応援が出来ないんですよ。

加えて血車党にはくノ一(女忍者)が多すぎです!
何度も女がらみのエピソードが描かれ、女ならではの情でハヤテを生かしておく刺客…そのスキをついて相手の首を刎ねるハヤテ。
ぐぅ…全然ヒーローじゃなくて見ていて辛いような嬉しいような悲しいような。
感情を表に出さない主人公に対して、感情を出しすぎる刺客って、こんな作品は珍しすぎます。

この血車党、必ずしも悪にあらずという設定も、恐らくは正義とは何なのかとか問いかける作者の声なのだと思いますが。
考えてみたら現実世界では当然ながらどちらかが100%正義側、悪側なんて図式は無いのだから、少年達にこれを読ませることはかなり教育的な意味もある作品である、そう無理矢理思う事にしましょう。

父・嵐鬼十を愛していたためにハヤテにとどめをさせなかった猫魔の首を刎ね、今は何も知らない人間との間に子供も作って幸せに暮らしている葛の葉も殺し(これは直接的な描写はありませんが)、続いて山彦海彦の兄弟、牛神さま

極め付けに殺す相手の母親に化身するくノ一・まいを殺すのですが、これが相手も最後まで
『お・・・・おまえは・・・・おまえはこの母を
・・・・じぶんのかあさんを・・・・殺すつもりなのですか・・・・!?
ハヤテ ハヤテ おお・・・・ぼうや!!』

なんて言ってるんだから、辛すぎる!これも相手にトラウマを植え付けるためなのか。
このくノ一は、自分とつながっている赤ちゃん(目がヤバイ)を道具にして投げるし、乳から蜜を放射してハヤテに浴びせて蜜蜂の大群に襲わせる…戦法もユニークでした。

この後もまた別のくノ一が絡んだりして魅力的なエピソードが続くのですが、幼なじみで兄弟同様の存在だった李徴子も虎に化身する刺客として現れたために殺します。
…とまぁこんな書き方だとハヤテが目的のためなら冷静に誰でも殺せる奴かというとそうでもなく、時に大泣きの涙を見せたりはします。

が、ずっと出ていた血車党の憎きヤツ!大幹部の骨餓身丸という、顔半分が白骨と言うイカレすぎた風貌の奴まで誰かの墓で泣いています。
これはすぐに、何度でも甦る死ねない体を持った骨餓身丸が、先に死んだ愛する照手姫に対する想いを持ち続けているためと分かるのですが…
こんな風に石森章太郎先生あくまで、最後まで敵側にまで感情移入させようとするから、主人公がボスキャラを倒しても全然喜べないですよ!

そして迎えた最終話。
虚しくなっているハヤテは、誰かに呼び寄せられるように来てしまった"犬神の里"で、今まで化身忍者達を数えきれないほど殺してきた事に何の意味があったかと自問します。
『・・・・世間のれんじゅうは だれに支配されようと かわることはないのじゃないか・・・・!?
・・・・殿さまや大名とよばれるれんじゅうと 化身したばけものと どこがちがうというんだ!?』

と、そうなんですね。
少年漫画でそれを言ったらおしまいといった感もありますが、正にその通りであり、つまりハヤテは身分制度を作って年貢を搾り取り、ふんぞり返っている"権力者側"に加担しただけだったのかもしれないのです…
重ねて言いますが、こんな作品だからこそ少年達に読ませるべきだと思いませんか。アメリカ合衆国を正義の国か何かと勘違いしている若者達を、これ以上作らないためにも!

おっと話を戻して、偶然来たかに思えたここで何と!
正体不明だった血車党の首領、大ボスである魔神斎をついに発見しました!
悩むハヤテの目の前に現れた、ハッキリした標的。
魔神斎を守る犬共を次々と斬りふせ、ついに魔神斎も斬ると…かぶっていた仮面が割れ、そこから出てきた顔とは!?

これが全ての元凶とも言える化身忍法を生んだ父、嵐鬼十だったわけですね。
化身の秘法を奪われた嵐鬼十は血車党の首領だった魔神斎を殺してなり代わり、そしたら本当に身も心も魔神斎になって記憶も失われていたという事ですが…
父親を殺してしまったハヤテ。
さらに追い討ちをかけるのが犬神の里に住む女達の声で、
『親殺し! 兄弟殺し・・・・!!』
ですよ。

そう。魔神斎を守っていた犬達は魔神斎の子供が化身した姿であり、つまりはハヤテの弟や妹達だったのですね。
ハヤテ…今まで必死でやってきた事に後悔の念を持った矢先に、そもそも持った目的意識の全てが否定され、しかも人間の犯す罪の中でも一番の大罪かもしれない肉親殺しをしてしまった!

クールすぎる劇画で甘さを排したストーリー、そして主人公は、今まで充分にハードボイルドな男の生き様を見せ付けてくれていましたが…
ここまでの苦しみを背負った時、男はどうすればいいんですか!!
それはついにハヤテ(=変身忍者 嵐)、そして石森章太郎先生は教えてくれませんでした。

なにしろラストは
『おれは なにも知らずに・・・・みんな殺してしまった!!』
のセリフに続いて、叫びがこだまする1ページで全てが終了するのです。

あれ、商業漫画に必要なはずのカタルシスは?救いは?
はい、ありません。肉親を殺したという事実に加えて、自分が全てをかけてやってきた事が無駄だったという現実は厳しいなんてもんじゃない!
この前代未聞のオンパレードのような読者に優しくはない作品では、自分で石森先生によるメッセージも深読みする必要がありそうです。
『現実はかくも厳しいものである。自分の人生を決めるのは自分だ。後は自分で考えるんだ。』
…等々、それぞれの読者のとらえ方が重要といった所でしょう。

ちなみにこの「変身忍者 嵐」、ほぼ毎回違う土地を舞台にしていて、ハヤテが日本全国を旅している設定にもなっていますが、それぞれの土地の特性なんかはあまり生かされていないかな…

最後にこの作品は、今回紹介した少年マガジン版の他に、同タイトルの別作品で月刊希望の友(潮出版社刊)版のバージョンもあり、こちらは単行本化の際に「新・変身忍者嵐」と改められています。
さらに石川賢版も存在し、こちらは「変身忍者嵐外伝」となっています。


・・・・この世になんの苦労もないといった あの無邪気な寝顔をごらんなさいまし
・・・・わたしはあの寝顔を見ておりますと・・・・
・・・・神さまが人を大きくするのは・・・・
・・・・なにかのまちがいじゃないかと思うことがあるんです
だって・・・・大きくなればなるほど・・・・
なやみやくるしみが ふえていくんですもの!



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  1. 2009/01/08(木) 23:57:55|
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変身忍者嵐と同様、救いようのないED「仮面ライダーBlack」

1987年~88年に連載された、石ノ森章太郎より執筆されたSFアクションヒーローコミック「仮面ライダーBlack」。テレビ版「仮面ライダーBLACK」のコミック版と言える作品だが…、内容は石ノ森自身が結構アレンジ。テレビ版ではアレ程カッコいいデザインだった仮面ライダーBLACKが仮面ライダーシンと思わせるバット人間的なデザインとなっていたり、秋月信彦の変身後の姿もバッタ人間であったり、テレビ版から結構かけ離れている。クライマックスは1999年、ゴルゴムによって荒廃化とした東京で秋月信彦と南光太郎との名勝負が繰り広げられ、勝負の末、瀕死の秋月信彦は「オマエが死ねばオレが新世界の王になる!オレが死ねばオマエが世界の…」と言い残して死す…、荒廃化とした東京に南光太郎は「これで……本当に未来はかわるのだろうか? それとも……あの未来世界を支配していた魔王とは? あの魔王とはいったい……」と言いそして暗い空に向かい、絶望になった南光太郎は「教えてくれ~!! 俺はいったい誰だ!?」と叫んだ所で物語は終了…。まさに「変身忍者嵐(週刊少年マガジン版)」以上に救いようのない結末…。テレビ版仮面ライダーBLACKの結末も暗いが、原作版仮面ライダーBLACKの結末はそれ以上に救いようのない結末だったとは…。
  1. 2013/06/25(火) 21:18:33 |
  2. URL |
  3. マイケル村田 #kE/1rfJ.
  4. [ 編集]

「仮面ライダーBlack」

>マイケル村田さま

「仮面ライダーBlack」も、80年代の石ノ森作品にしては暗い絶望系の名作でしたね。
テレビ版もリアルタイムに間に合っていて思い出深い作品だし、そのうちこのブログでも紹介させて頂きます。
  1. 2013/07/01(月) 19:09:27 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

>変身忍者嵐
>仮面ライダーBlack

私としてはどちらのラストも好きではあるのですがね……ただ、そこから先をどうすりゃ良いのか? にまでは到ってないのが
不満と言えば不満なんでして。まぁ、それは我々一人一人がそれから何とかしてゆかなきゃならないんでしょうが
(石ノ森作品で言ったら、SFヒーロー以外のジャンルの作品たちが果たすべき役割の……ってのは間違いでしょうか?)。
  1. 2017/07/22(土) 23:55:23 |
  2. URL |
  3. #-
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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