大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

手塚治虫(8) 「アラバスター」

今夜は手塚治虫先生の「アラバスター」(秋田書店刊)です。
TEZUKA-alabaster-1-2.jpg
週刊少年チャンピオンで1970年から1971年の間に連載された作品で、単行本は全3巻。

単行本を開くといきなり目に入る袖部分に、手塚治虫先生自らの言葉で
『「アラバスター」は江戸川乱歩の「一寸法師」とか、「陰獣」のようなグロテスクで淫靡なロマンを描こうと思って始めました。
しかしぼくの仕事の調子のよくないときにぶつかってしまい、ロックやゲンなど、およそぼくがいちばんにがてで書きたくない人物を出した、どうも徹底的に救われないニヒルな暗い作品になってしまいました。』

とあります。
それも1巻から3巻まで全部同じ事が書いてますが、こんな事を言っちゃってこれから読むか考えてる読者は止めてしまわないのでしょうか…
他でもこの「アラバスター」について同じような事を書いているし、生前手塚先生は数多い自作の中で嫌いな1つに挙げていたわけです。

しかし私はこれが好きで、少年時代に何度も読んでました…
そのまんま江戸川乱歩っぽい部分も、乱歩好きの私には逆にそこがいい、となります。
手塚治虫先生が失敗だったと語る暗くてシリアスな部分も、少年向け手塚タッチの絵柄にはユーモアもあって救われます。
ずっと前に紹介している「きりひと讃歌」等のように、大人向けに描かれた作品ほどダークではないのです。

TEZUKA-alabaster3.jpg

アラバスターという美しい物質で出来たさかずきを持ち歩いている男…
彼はその通り名もアラバスターと呼ばれる、かつてオリンピックで6つも金メダルを取ったジェームズ・ブロック
体力とスポーツでは何万人かに一人と言われた肉体の持ち主にして…黒人です。

かつて英雄だったこの男、女優のスーザン・ロスに入れあげて、結局黒人であることを理由に捨てられた上、その際に暴れて自動車事故を起こし、その裁判ではスーザンの嘘の証言で囚人となり…
しかし、その刑務所内で知り合った自称科学者のF博士によって運命を変えられました。
出所して、もう生きて刑務所を出る事がないであろう化学者から譲り受けた物を取りに行きましたが、そこで入手したのはある光線銃。
これはH・G・ウェルズの小説「透明人間」をヒントに四十年間かけて研究され、ついに完成した銃で、一種の屈折率の問題で『組織を変質させるとなんでも光をとおす つまり透明になる』というワケのだそうです。

その光線銃で自分の黒い皮膚もろとも透明になるべく、その光線を浴びた男は…
あまりの痛みのため光線から逃げてしまい、半透明で不気味な体の怪人・アラバスターとなったのです。
ちなみに完全に姿を消すまで光線を浴び続けると命を失う事が後に判明したため、半透明までで逃げたのは幸いだったといえるでしょう。
男は生きて復讐を果たさなければならないのですから…

アラバスターはスーザン・ロスに復讐を果たし、光線銃を作ったF博士の孫娘・小沢亜美を仲間にします。
亜美はF博士の娘が妊娠中に生体実験の実験台となって半透明になった状態で産んだため、産まれた時点で皮膚が透明、現在では両目以外透明の女の子。全身に白粉を塗っていれば可愛い子であり、不幸な作品のヒロインです。

F博士は裁判で
『工場の廃液やガスで何百人も死んでいく あれも殺人だと思うが………
あっちはどうという殺人罪にもならず 神聖な実験のミスが殺人罪とは
チとなっとくできんね』

と発言して刑務所送りになり、有名な猟奇事件となったその裁判の検事をしていた女が、犯人の娘である亜美を引き取って育てていました。
あと亜美の義兄に小沢カニ平。この作品においては正義、良心といえる存在でしょう。

アラバスターは成長した亜美に美しいものや正直なものを憎むように教育してアジトである"奇顔城"の女主人として君臨させ、ゲン(山形絃哉)とその鑑別所仲間三人も一味に加えて犯罪を繰り返し、世界中の美に対して徹底的な復讐をする…そんな話です。

『おれはある理由があって こんなご面相をしている……
だがふつうの人間だ 怪物ではない しかし心は怪物かもしれん
おれは世の中のあらゆる美しいものを ぶちこわしてるんだ……
ほんとうに美しいというものがこの世にあるものだろうか?
もちろん絵や花は美しいという
だがそのために みにくいあらそいを起こすなら それすら美しいとはいえん!
美しい姿か そんなものが何になる? 心がねじくれてるかもしれない
美しい心か わらわせらァ…おざなりのヒューマニズムのどこが美しい?』


サム・ライミ監督のダーク・ヒーロー映画「ダークマン」の元ネタとも思える「アラバスター」、主人公のアラバスターが極悪人であるのですが、それでも読者の共感は心の傷を持つ彼の方にあると思います。
アラバスター一味の行動を邪魔するライバル的存在として登場したのが警視庁がアメリカから呼び寄せたFBIの腕利き捜査官のロック・ホームですが、こいつがまた人種差別主義者でナルシストですから…。
しかも亜美を捕まえて『透明人間のキスってのもおもしろいな』などと言い放ち、さらに犯して楽しむ変態。
こいつが亜美の全裸の身体にラッカーを塗りたくって追い回し、この屈辱が元でアラバスターの悪事に本気で手を貸す決意をする事になるのですが。

正しい心を持っていた亜美も、アラバスターに
『われわれは世界じゅうに支部をつくる
そしてあらゆる美を破壊してやろうじゃないか?
地上をグロテスクな地獄の世界につくりかえ……
おまえは彼らの女王として君臨するのだ
亜美とアラバスターのために乾杯!!』

なんて言われてその気になり、奇顔城を突き止めて一人で来た義兄のカニ平に対しては、
『これはあくまの武器!
そしてあたしは人間じゃないの 妖怪よ 魔女なのよ
これで世界じゅうと戦うんだわホホホホホホホホ』

と言い放ってカニ平の気持ちには答えられなくなりました。

それからアラバスター一味とロック・ホームとの最後の対決が、改心したゲンや最後まで亜美を思うカニ平も交えて始まるのですが…
今回は結果まで細かく書くのは止めておきましょう。ただ、熱い人間の心が見られます。

ところで物語が終結するちょっと前に、アラバスターが亜美に対して『新しい世紀の都アラバストピア』の模型を見せるシーンがありました。
『歴史上 いちばん異常で いちばん奇怪で いちばんはなもちならない都だ
ここが宮殿だ きみが住むんだ クソバエの頭をかたどったんだ
こんなにうすぎたなくて 恐ろしい城は世の中にないだろう
だが百年ー 千年ー 一万年たつうちに人々は……
ここがいちばんすてきな 美しい場所だと信じるようになる
なぜなら そのころ「美しい」というモノの感じ方がまるで変わっているからな
われわれが変えるのだ………』

という演説するその模型を見ると、アラバストピアの完成を応援したくなる私でした。

犯罪サスペンスや人間ドラマの形態で描いた娯楽作ながら、美しさや清らかさ等の絶対的に正しいとされるモノを人間がでたらめに決めた値打ちにすぎないのではないか…と疑問符を投げかける「アラバスター」。決して手塚治虫先生本人が仰るような、単なる失敗作ではないと信じてます。

最終巻である3巻の巻末には、黒人差別とマフィアを描いた「双頭の蛇」、古代遺跡と野人の街を幻想的に描いた「さらばアーリイ」も併録されていますよ。


おれはね ほんとの美しさというものを
死ぬまでにさがしてみたいと思ってね
きみの意見はどうだい
そんなもの ありゃしないと思うかい?



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  1. 2009/01/24(土) 23:29:00|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

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